「阿武ノーマル」1巻

このマンガ、もう読んだ?

「阿武ノーマル」読めば読むほど“ヘン”になっていく、「普通とは何か?」を問う話題作

PR川上大和・タイジュン「阿武ノーマル」

「普通の人間になりたい」。阿武英子(あぶえいこ)の望みはたったひとつだ。阿武はぶっきらぼうで思ったことをすぐ口に出し、人のことをまったく考えない「空っぽ人間」。就活に大苦戦してやっと入社した会社をクビになった彼女は、28歳で世の中の「普通」に溶け込む訓練を始める。周囲を学習して手に入れた「偽物の自分」へ変化する阿武だが……。連載当初からSNSを中心に話題を集めている新感覚サイコサスペンスだ。マガジンポケットで連載されている。

/ 青柳美帆子

「えっ、そうなるの!?」の連続

この話、めちゃくちゃヘン。読み進めれば読み進めるほどヘンになっていく。「こういう話なんだろうな」の予想が阿武によってどんどん覆されていって、阿武の周りの人たちと読者が同じタイミングで「ええええー!?」と驚くハメになる。阿武に振り回されるのがクセになる作品なのだ。

最初のエピソードからしてヘン。「普通」を目指す阿武の会社に、派遣社員の河原京介が入ってくる。河原は初手から「僕は無能が嫌いです」「低脳な女は非効率的作業しかできないか」と他人見下し&男尊女卑が大爆発!

阿武が「普通」を学習している相手である同僚女子・榊原は、河原によって精神的に追い込まれ、辞職すら考える……。

「阿武ノーマル」1巻より。

「阿武ノーマル」1巻より。

ここまでの展開を追っていくと、「自分の『普通』を守るために、阿武が河原を排除するんだろうか?」となんとなく予想を立てる読者が多いだろう。

実際、阿武はそうする。

河原が榊原を責め立てていた「業務の非効率さ」を、阿武は自作プログラムで解決する。そして場を乱していた河原はクビになる。

めでたしめでたし、よい「ざまぁ」でしたね……とならないのが、「阿武ノーマル」の魅力だ。

阿武に恥をかかされた河原は、阿武を尾行して、夜道に襲いかかってくる。「絶対に殺す」。えっそうなるの……? まあそうなることもあるか……?

襲撃された阿武は反撃。まあわかる、そうなるな。

阿武に倒された河原は、頭を抱えてうめく。「疲れた…好きにしてくれ」。トドメをさすのか!?

「阿武ノーマル」1巻より。

「阿武ノーマル」1巻より。

「では結婚しましょう」
そうはならんだろ!

ここに来て、突如河原が「ヒロイン枠」になるのである!

ネットミームで「ここから入れる保険があるんですか?」(この状態から立ち直ることはできるのか、というような意味合い)という表現がある。河原はまさにそれ。

他人を見下す男尊女卑のイヤ~な男。ここから、仮にも主人公の結婚相手として読者が好感を持てるまで挽回できるのか……?と疑ってしまうくらいクズいのだが、なんと、河原、怒涛の好感度追い上げを見せてくる。阿武に振りまわされ、過去の知人に追い詰められ、読者が同情するほどヒドい目に合わされることで、だんだん好きになってきてしまうのだ。

なかなかこんなヒロイン(?)見たことがない。

あらゆるところで「こんな展開になるの!?」と驚くから、読者の心が惹きつけられるのだろう。マガポケでは初登場第1位、読者の応援数で決まるマガポケオリジナルランキング第1位を獲得。Xでもたびたびバズり、バラエティ番組「マンガ沼」でかまいたち・山内が「2024年の1冊」として紹介したりもしている。

普通とは何か?

そして「阿武ノーマル」からは、「普通とは何か?」という問いかけも感じる。

現代において「普通」はおおむね褒め言葉ではない。

阿武ほどヘンではない私たちも、「普通になれたらいいのにな」という思いを抱くときがあるはずだ。そのときの感情は、憧れや嫉妬だけではなく、ちょっぴり見下しやナメ、優越感が入っている。普通になりたいという思いのどこかには、「自分は特別だ」という気持ちが入っているものだから。

「阿武ノーマル」1巻より。

「阿武ノーマル」1巻より。

阿武は心から「普通になりたい」と思っているので上の話はまったく当てはまらないが、「阿武ノーマル」を読んでいる私たちは、「普通」に対するスタンスがどっちつかずだ。

「特別」な阿武に感情移入して、ときには自分を重ねてしまって、「普通」に憧れる。

河原のような「特別ではない」人間に感情移入して、「特別」な阿武に憧れる。

気持ちが揺れ動くからこそ、「阿武ノーマル」を読んでいるときの気持ちは、なんだかザワザワする。むずがゆさや気恥ずかしさ、後ろめたさすらある。

だからこそ、阿武が予想を裏切ってくると気持ちいい。「普通のやつ」も「ちょっと普通じゃないけど、そこまでヘンじゃないやつ」も、「まったく普通じゃないやつ」にまとめて薙ぎ倒されていくような、ヘンな快感がある。

「阿武ノーマル」の物語は、さらに「普通のやつ」として描かれたキャラのヘンさが明らかになってくる……というところまで進んでいくのだが、ネタバレになるのでぜひ自分の目で確かめてほしい。「え!?」と振り回されているうちに、いつの間にか一気読みしてしまっているはず。

川上大和・タイジュン「阿武ノーマル」1巻
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「阿武ノーマル」第1話を試し読み!
©川上大和・タイジュン/講談社

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