コミックナタリー Power Push - 「ライチ☆光クラブ」

“成長を否定した少年たち”の証言

戸塚純貴(デンタク)

「ごめん、ライチ」は悲しかった

──原作はカルト的な人気を誇る作品ですが、どのような印象を持たれましたか。

僕はスプラッター映画やゾンビ映画だったり、いわゆるグロテスクな描写が好きだったんですよ。だから「こんなマンガがあったんだ!なんで出会ってなかったんだろう?」って思うくらい面白かったです。

──デンタクについてはどのような役作りをしましたか? 役に入る前に、内藤瑛亮監督から映画のDVDを渡されたそうですね。

戸塚純貴

はい。「ブラジルから来た少年」と「フランケンシュタインの花嫁」を観させていただきました。2つの作品を観て思い浮かべたのは、ヨーゼフ・メンゲレっていうナチスの外科医のことで、特殊な人体を作り出そうとしていた異常者なんですけど、「デンタクはメンゲレの子孫なんじゃないか?」という考え方になりましたね。

──例えばどのような点が?

メンゲレはヒトラーに忠誠を誓ってるわけではなくて、そういう人間を作りたい、いろんな人間を見てみたいっていう自分の意思で動いているところがデンタクに通じるなと思って。みんながゼラに支配されている中で、ロボットを作れるという欲で光クラブの中にいるところとか。カノンが来たときにみんなが「女の子!女の子!」って浮かれているすぐ隣で、デンタクはロボットをいじっているとか、ニコが目玉をくり抜くシーンでみんな気分が悪くなっているのに1人だけ興味津々に見ているところとか。そういうのが面白いなと思ってデンタクのキャラクターを作っていきましたね。

──戸塚さん自身も、デンタクのようにライチに愛着を感じましたか?

感じましたね! 僕はもともと機械や車が好きで、車のエンジニアになりたかったんですよ。高校のときに整備士の資格を取って、本格的にこれで飯食ってこうと思っていたくらいで。だから機械に関しては、どういうふうに動いてるかとか、構造はどうなってるのかとかすごく興味が湧くんです。機械は人の手によって可能性が無限大に広がるものなんですよ。だからそういう感情をライチに対して抱くことができましたし、ライチが感情を持つというシーンに関しては心が痛くなるときもありました。人間と一緒の場面よりもライチと向き合ってお芝居しているときのほうが感情がすごく出てるんですよね。

──確かに、ライチと一緒にいるときのデンタクは、ほかの場面よりも表情が豊かでしたね。特にどのシーンで感情があらわになりましたか?

映画「ライチ☆光クラブ」より。

まずひとつはライチが起動したとき。もうひとつはライチがなかなか思うように(少女の捕獲を)できない、美の定義を教えてもわからない。それでデンタクが夜な夜な1人でプログラミングして、「ライチどうだ?どうだ調子は?」って聞くんですけど、返答がないことに悲しくなってしまう。だからライチがカノンを連れてきたときは、ほかの人とは比べ物にならないくらいうれしいわけですよ。声には出さないけど、「ついに成し遂げた!」という思いがデンタクにはあったんです。あと、終盤にゼラの指示によって、ライチを強制的に操作するためにヘッドギアをかぶせるシーンがあって……。

──デンタクが「ごめん、ライチ」と言うところですよね。それまで感情をあまり出さずにいたデンタクが、悲しそうな顔をしていたのが印象的でした。

そう。その「ごめん、ライチ」はすごく悲しかったですね。ロボットにしか見せていない感情だと思います。

死への恐怖より、ライチが感情を抱いた喜び

──共演者の方とのエピソードを聞かせていただけますか。

戸塚純貴

みんな昼夜逆転していて、けっこう精神的に落ちてたんですよね。真っ暗な中ガンガン(焚き火用具)が1個だけあって、そこに円になって背中を丸めて何を話すわけでもなく座っていたときは、「何かの儀式なんじゃないか?」って思うくらい不思議な感じがしました。あと現場でスチールさんが撮ってくださった写真がパソコンのスライドショーで流れていたんですよ。それを(岡山)天音と2人で見ていたんですが、流れる写真すべてが凄惨なもので。そこで僕が「うわーすごいね」と言いながら「あなたにー会えてー本当によかったー」って小田和正さんの曲を歌ってみたんです。そうしたらそのグロテスクな描写がすごく感動的に見えて。「小田和正さんすげえ!なんでもいけんだ!」みたいな(笑)。全然関係ないんですけどね(笑)。よく見るCMみたいな感じでスライドショーが流れていたから、ちょっと口ずさんでみたらすごく悲しくなってきちゃった。

──(笑)。共演者の中では岡山さんと特に親しかったのでしょうか?

そうですね。「ライチ☆光クラブ」で、天音が演じたヤコブが一番難しい役だなと思っていて。個性的なキャラクターぞろいの中で、ヤコブは目立たないキャラクターじゃないですか。それを天音と話していたら「そうっすよねえ……いやマジで……」って。存在意義が出るのかどうかが役者の技量にかかっているキャラクターって、一番難しいんですよね。天音もそこをすごく悩んでたらしくて、相談してくれたんですよ。だから撮影後はいつも天音の部屋で2人で話してから寝ていました。「天音、今日どうだった?」「いや、マジ難しいっすね」とか。

戸塚純貴

──デンタクはライチのプログラマーとして頭脳を発揮するキャラクターですが、終盤にコントローラーを叩きつけるシーンがありますよね。あの場面は、どのような気持ちで演じていたのでしょうか?

デンタクは初めて感情的に叫んで、ゼラに対して物を申すわけですよ。あの瞬間、僕の中では吹っ切れた感覚がありました。光クラブができたときには、すでにこういう結末が待っているってことが決まっていたような気がするんですよね。そして、そういう終わり方でまったく未練がないという思いがデンタクにはあって。死への恐怖というよりも、ライチが感情を抱いてくれたことへの喜びがデンタクにはあったのかなと思います。だから死ぬときの顔が1人だけ笑顔なんです。そこを観てほしいなと思いますね。

「ライチ☆光クラブ」2月13日新宿バルト9にてロードショー、2月27日より全国拡大公開

「ライチ☆光クラブ」

工場から黒い煙が立ちのぼり、油にまみれた町、螢光町。この貧しい地の廃墟へ、深夜に集まる9人の中学生がいた。この秘密基地の名は「光クラブ」。光クラブのメンバーは醜い大人を否定し自分たちだけの世界をつくるため、兵器として機械(ロボット)を開発していた。巨大な鉄の塊で作られた機械が動く燃料は、永遠の美を象徴するライチの実。その機械は「ライチ」と名付けられ、悪魔の数列666でいよいよ起動する。ライチに与えられた目的は、光クラブに美しい希望をもたらす「少女の捕獲」。光クラブのリーダーであるタミヤ、実質的支配者のゼラ、ゼラを偏愛するジャイボと絶対的な忠誠を誓うニコ……光クラブ内でそれぞれの愛憎が入り乱れ、裏切り者探しがはじまる中、ライチはとうとう美少女・カノンの捕獲に成功する──。
果たして、少年が願う大人のいない永遠の美の王国は実現するのか……。

スタッフ / キャスト

監督:内藤瑛亮

脚本:冨永圭祐、内藤瑛亮

原作:古屋兎丸「ライチ☆光クラブ」(太田出版)

配給・宣伝:日活

制作:マーブルフィルム

出演:野村周平、古川雄輝、中条あやみ、間宮祥太朗、池田純矢、松田凌、戸塚純貴、柾木玲弥、藤原季節、岡山天音 、杉田智和(声)

戸塚純貴(トヅカジュンキ)

1992年7月22日生まれ、岩手県出身。三級自動車シャシ整備士を筆頭に多くの技能資格を保有している。特撮テレビドラマ「仮面ライダーウィザード」で注目を浴び、映画「先輩と彼女」「アウターマン」、ドラマ「新・牡丹と薔薇」などに出演。公開待機作は「けんじ君の春」。