吉田羊が感じた「ザ・ウェルキン」の“希望”、人智を超えた先にある変化を目指して (2/2)

加藤さんの作品世界は“気持ち悪さがくせになる”

──演出の加藤拓也さんとはテレビドラマ「きれいのくに」でご一緒されています。今回は舞台での顔合わせとなりますが、加藤さんにどんな印象をお持ちですか?

前回ドラマでご一緒したときは、彼の演出回に登場していなかったので、彼の演出をまだ受けていないんです。ただ加藤さんの舞台を拝見させていただくと、加藤さんは、人間の業や欲、本心など他人に見せたくないものを、明言を避けつつもあぶり出すのがうまいなと。……これは最大の褒め言葉として、“気持ち悪さがくせになる”ような作品なんです。観終わったあとに決してスッキリしなくてむしろ気持ちが悪いんだけど、観ずにはいられないというか。まだ治っていないかさぶたをめくる感覚に似ているかもしれません。今回の「ザ・ウェルキン」でも、みんながお腹の中に一物を抱えながら対話する感じが加藤さんの作品世界にぴったりだなと思いますし、すでに加藤さんの作品世界になっているなと。また本読みを通してディスカッションを重ねていく方だと聞いていますので、1カ月じっくりと作品に向き合い、若い感性を持った加藤さんならではの視点に触れられることを楽しみにしています。

──加藤さんは先日のインタビューでも、ご自身のイメージで作品を立ち上げるのではなく、稽古場で俳優さんたちとのやりとりの中で作品を立ち上げたいとおっしゃっていました。

それはありがたいです。俳優が持ち込むものを現場ですくいとってくださり、そこから膨らませていただけるのは俳優としてやりがいがあるし、持ち込みがいがあります。でも逆を言えば、お眼鏡にかなわなければ広がらないという怖さもありますが(笑)。

吉田羊

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舞台は修行の場、でもあの幸福感は何ものにも変え難い

──吉田さんは近年、コンスタントに舞台に出演され、昨年の「ジュリアス・シーザー」では第56回 紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞されました(参照:紀伊國屋演劇賞の団体賞に劇団俳優座、個人賞にひびのこづえ・松尾貴史ら5名)。今年俳優25周年を迎えられましたが、改めて舞台に対する思いは?

小劇場時代は本当に楽しい一心で舞台をやっていましたが、ここ数年は、舞台は修行の場だなと感じていて。ありがたいことに年々、任せていただける役が少しずつ大きくなって、責任も大きくなり、やり直しが効かない一発本番の舞台で、緊張感の中、お客さんの前で結果を出す怖さや難しさも比例して大きくなっています。そうは言っても、やっぱりカーテンコールでお客様から拍手をいただく瞬間の幸福感は何ものにも変え難いと思いますし、舞台に出た瞬間に毎回「帰りたい!」とは思うんですけど、千秋楽になると「またやりたい!」と思うので、もうこれは、病気かなと思います(笑)。

──「ザ・ウェルキン」も、爽快感のある作品というわけではなさそうです。

そうですね……実は私、最初に台本を読んだとき、リジーの行動の意味が全部は理解できない部分があって。でもリジーのバックグラウンドを考えるうちに、彼女の行動が腑に落ちたんです。爽快感とは違うかもしれませんが、リジーをはじめ今作に出てくる女性たちの“本音と建前”を感じ取り、背景に思いを巡らし、それぞれの発言の真意を確かめながら演じることが、作品をひもとくヒントになるんじゃないかと感じています。

吉田羊

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──そんな、人間ドラマを描いた本作に、“天空”を意味する英語の古語である「ウェルキン」というタイトルがつけられているところがまた謎めいています。吉田さんは本作のタイトルを、どんなふうに捉えていますか?

私はこのタイトルを、“イコール希望”だと思いました。自分ではコントロールできない大きなことが起きようとしているとき、人は人智を超えた変化に希望を託すのではないかと。今作では75年に一度のハレー彗星が近付く中、人間の弱さをまつり上げようとする状況が展開しますが、そういった状況は変わっていくのだ、より良い場所に自分は行けるのだという希望を、彼女たちと一緒に空を仰ぎ、願いつつ演じられたらと思います。そしてお客様には、個性的なキャラクターたちがあぶり出すさまざまな真実に大いに振り回されて、二転三転する展開をぜひ楽しんでいただけたらと思います。

プロフィール

吉田羊(ヨシダヨウ)

福岡県生まれ。小劇場で活動を開始し、2007年以降はテレビ、映画、舞台で幅広く活動。近年の舞台出演作に三谷幸喜演出「エノケソ一代記」「子供の事情」、福田雄一演出「恋のヴェネチア狂騒曲」、寺十吾演出「風博士」、森新太郎演出「ジュリアス・シーザー」など。第24回読売演劇賞優秀女優賞、第56回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。

ヘアメイク / 赤松絵利(ESPER)スタイリング / 梅山弘子(KiKi inc.)衣装 / ラシュモン、プライマル、リューク、プルミエ、アロンディスモン