吉田羊インタビュー|俳優活動25周年に新たな挑戦、初の音楽コンサートで見せる“歌手としての吉田羊”

俳優デビュー25周年を迎えた吉田羊が9月22、23日の2日間にわたって、東京・Billboard Live TOKYOで音楽コンサート「吉田羊 Night Spectacles The Parallel~ウタウヒツジ~25th Anniversary Special」を開催する。

この公演は、WOWOWが企画する俳優によるコンサート「Night Spectacles」シリーズの第1弾として行われるもの。2018年にリリースされたJUJU「かわいそうだよね(with HITSUJI)」や、イドゥナ役で参加したディズニー映画「アナと雪の女王2」、「ポカリスエット」のCMシリーズなどでたびたび歌声を聴かせている吉田だが、音楽コンサートを開催するのは今回が初となる。音楽ナタリーは吉田にインタビューを行い、彼女のこれまでの音楽遍歴や、公演に向けた意気込みを聞いた。

取材・文 / 永堀アツオ撮影 / 星野耕作

「自分はまだ下手だな」という気持ちを持ち続けられる俳優でいたい

──まず初めに俳優デビュー25周年を迎えた心境を聞かせてください。

よくぞここまで続けてこられたなと感無量でございます。この25年間は本当に奇跡の連続でしたし、たくさんのご縁とご恩をくださった皆様のおかげで続けてこれたと思っております。私をここまで連れてきてくださった皆様に心から感謝したい気持ちでいっぱいですね。

──ひと言では言い難いかと思いますが、吉田羊さんにとって、どのような25年でしたか?

振り返ってみると、いいことばかりではなかったですし、苦しいときや、投げ出したくなるときもありました。しかしながら、いつも潰れる寸前で手を差し伸べてくださる方がいたり、大事な言葉をプレゼントしてくださる方がいたり。「自分を見失わずに歩んでいきなさい」と叱咤してくれる人もいて。節目節目で、必要な人と言葉に恵まれてきた25年間だったなと思います。

──そのターニングポイントで一番印象的な出来事はなんですか?

人間関係に悩んでいるときがあったんですけど……映像仕事をやり始めてすぐくらいですかね。

吉田羊

──それは、「愛の迷宮」(吉田がドラマデビューを飾った、2007年放送のドラマ)よりあとですか?

懐かしい! 「愛の迷宮」よりあとですね。ちょっと悩んでる時期があって、「なんで自分は苦しいことが回ってくる星まわりなのかな」と、ある人に相談したんです。そうしたら、その人に「それはお前の感謝が足りないからだ。感謝してるつもりだろうけど、それはきっと“してるつもり”なんだよ。お前が本気で感謝してないから、感謝できるようなことがやってこないんだ。今日からお前は“感謝帳”をつけろ」と言われて。それから、その日に起こったこと、「電車に間に合った」「朝ちゃんと起きられた」「ごはんがおいしかった」とか、普段であれば見過ごしてしまうような小さなことを1つひとつ書き出していくようにしたんです。そうすることで、「自分の毎日がこんなにも感謝すべきことにあふれていたんだ」ということに気付いて。今思えばですけど、それから自分の身の回りに対する見方が変わったなと思います。感謝の心を持って過ごしてしていると、自分からうれしいこと、感謝することを見つけにいくようになりますし、感謝すべきことが巡ってくるんです。なのであれは1つの大きなターニングポイントですね。

──そこでちゃんと言われた通りに始めていることがすごいですよね。

心のどこかで「私は感謝できていないんじゃないか」という自覚があったんだと思います。だからこそ、そう言われたときに、「やっぱりな」と思って、すんなり受け入れられたんですよね。

──「感謝帳」は今もつけているんですか?

最近はつけてないですけど、つけていたおかげで、ちょっと嫌なことがあっても、その直前には人の優しさを感じる出来事があったりしたなと思い直すことができるようになってますね。

──25年の間に、お芝居に対する気持ちはどのように変化していきましたか?

小劇場に立っていた頃は本当に生意気で、自分の都合でお芝居をしていましたが、映像の世界に入って、第一線の皆さんとご一緒させていただく中で、第一線の人ほど謙虚だなと感じて。私もそうならなければいけないと思ったんですね。事実、現場を踏むほどに自分は取るに足らない途上の俳優なんだなということを実感して。そこからは常に「自分はこの現場では新人なんだ」という気持ちで仕事に臨むようになりました。

──その気持ちは今でも変わらないですか?

今も変わらないです。お仕事をいただけるという時点で本当にありがたいことですから。たくさんの俳優がいる中で、「この役は吉田さんで」と言っていただけるのは奇跡以外の何ものでもないです。私自身、今もお芝居が下手だなと思うことがたくさんあるので、その気持ちを持ち続けられる俳優でいたいなと思います。「これでいい」って満足してしまうと、向上心もなくなって、成長もしなくなるだろうし、いつだって新人の気持ちで、これからもお芝居に向き合っていきたいです。

──25年やってきてもまだ途上という感覚なんですね。

はい。きっと死ぬまでそうだと思います。これまでたくさんの作品に出させていただきましたけど、「これはやり切った!」という作品はいまだになくて。もちろん、そのときのベストを尽くしてますけど、あとになって映像を見返してみると、もっとこうできたなという反省点が必ずある。それはきっと俳優を続ける限りずっと変わらないと思いますね。

経験がないからこそ、怖いもの知らずで飛び込めた

──俳優活動が25周年を迎えた節目で、初の音楽コンサートを開催することになったのはどうしてですか?

実は最初、25周年とは関係なくお話をいただいたんです。昨年WOWOWさんから「“俳優が歌う”というコンセプトの番組をシリーズでやりたいので、その第1弾に出てほしい」と言われて。「私なんぞがトップバッターなんてとんでもない」と思ったんですけど、よくよく考えてみたら、来年25周年だなと思って。このタイミングでお話をいただいたことも1つ意味があるなと思いましたし、25周年を何か特別な形でお祝いしたいなという気持ちもあったんですね。これまでやってこなかった新しいことなので、それならファンの皆さんに喜んでいただけるんじゃないかしら、ということで出演を決めました。また、映像のように一方通行ではない、ライブという形で皆さんと同じ時空間を共有できるのが特別だなと思ってます。

吉田羊

──このタイミングで新しいことに挑戦しようと思った理由もお聞きしたいです。吉田さんはこれまで本格的なミュージカルに出演されてきたわけではないので、ライブを開催するというのはとても意外でした。

今までやったことない、経験がないからこそ、怖いもの知らずで飛び込めたというか。あと私が楽しめるものであれば、ファンの方も喜んでくれるはずだという確信があった。ファンの方の存在は、今回の私の背中を押す大きなきっかけになっていますね。

──吉田さんにとって、歌うことは楽しいことですか?

そうですね。歌うことは楽しいし気持ちいいです。音楽活動って、“演じない”という意味では限りなく私自身に近いものなんです。自己肯定感が恐ろしく低い私にとって、それを表現ツールとして使うことは正直怖いことでもあるんですけど、素の自分に近い分、ファンの方によりダイレクトに届くんじゃないかなと期待しています。

──これまでの音楽遍歴や好みなどもお伺いしたいです。小さい頃から音楽は好きでしたか?

大好きでしたね。実は讃美歌に親しみがありまして。常に家は音楽にあふれていました。7人家族なんですけど、父が讃美歌を歌い始めると、全員がそれぞれのパートを歌ってハモリ始めるという。

──海外のホームドラマのようですね。

あははは。毎日、チャペルクワイアみたいな状態だったので、音楽は常に身近なものだったんです。私自身は小さい頃からジャパニーズポップスを聴いて育ってきて。小学生のときは聖子ちゃん(松田聖子)や明菜ちゃん(中森明菜)を聴いて、中学ではご多分に漏れず光GENJIなどのアイドルにハマり。その後、高校でドリカム(DREAMS COME TRUE)にハマって、椎名林檎さんや矢井田瞳さんに傾倒して。あとは、その時々でお付き合いした方の趣味や好みに影響された部分もありました。THE BOOM、THE YELLOW MONKEY、ユニコーン、アンジー……大学時代はカラオケに行って、イエモン縛りで3時間歌うみたいなこともやってましたね。

──1人カラオケにも行くそうですね。

行ってましたね。そういうときは、ドリカムや椎名林檎さんをメドレーで歌ったりして。あとは、練習で1時間同じ曲を歌い続けたりもしてますね。

──ちなみに練習した曲というのは?

「アナ雪2」(「アナと雪の女王2」)の「Into the Unknown」です。英語で原曲キーで歌いたいと思って、千本ノックのようにひたすら歌い続けてました。どこかで披露する予定はないんですけど、ただただ自己満足のために練習して。

──「アナ雪2」というとわりと最近の話なんですね(笑)。吉田さんはピアノも習ってらしたんですよね。

5歳から中学3年生まで10年間くらいやってました。不真面目だったので、ピアノをやっていたと言うのが恥ずかしいくらいしか弾けないんですけど。声楽をやっていた母がピアノの先生でもあったので、私の音感は生まれ育った環境に育まれたものだろうなと思います。

吉田羊

──小さい頃から馴染みがあった音楽を、お芝居に取り入れようと思ったことはありますか?

中島みゆきさんの「夜会」のような、芝居仕立てのライブはやったことがありますね。小劇場で俳優をやっていた頃に、せっかくだったら俳優ならではの構成にしたいなと思って。

──ミュージカルはあえて避けてきたところがあるんでしょうか?

ミュージカルをやってる方のことは心からリスペクトしております。しかし、かつての私は、ミュージカルの楽しみ方がわからなかったんですね。なぜならストレートプレイで育ってきたので、どうしても「なぜ急に歌うんだ?」「普通にセリフでいいじゃないか」と思ってしまって。なので、自分でやるという選択肢がなかったんですよね。でも、今はまたちょっと変わってきていて。人生で1回くらいはミュージカルに挑戦したいなという思いがあります。もちろんそんな簡単に挑戦できるものではないということもわかっていますけど。