ミュージカル「VIOLET」 PR

ミュージカル「VIOLET」藤田俊太郎 / トム・サザーランド インタビュー&初日レポート|門出祝うバスがロンドンを出発!日英共同プロジェクトスタート

梅田芸術劇場とイギリス・ロンドンのチャリングクロス劇場による共同プロジェクトがスタート。同プロジェクトでは、日本とイギリスが共同で企画・制作した公演を、演出家と演出のコンセプトはそのままに、“英国キャスト版”と“日本キャスト版”として各国の劇場で上演する。その第1弾に選ばれたのが、藤田俊太郎演出によるミュージカル「VIOLET」だ。1月にチャリングクロス劇場で開幕した本作は、イギリスの演劇賞オフ・ウエストエンド・シアター・アワードで5部門にノミネートされ(参照:藤田俊太郎演出「VIOLET」イギリスの演劇賞で5部門にノミネート)、好調な滑り出しを見せた。

本特集には、単身渡英し滞在制作を行った藤田のインタビューや、ロンドン公演の初日レポート、プロデューサーからのコメントに加え、藤田が自ら撮影したロンドンの風景写真を掲載。演出家・藤田が見せた新たな一面をご覧あれ。

取材・文 / 田中伸子(P1) 文 / 興野汐里(P2)
撮影 / 藤田俊太郎(P2フォトギャラリー)

トム・サザーランド / 藤田俊太郎インタビュー&ロンドン公演初日レポート

ヴァイオレットの旅が僕の挑戦と重なった(藤田)

1月21日、「VIOLET」は幕を開けた。その初日を見届けたライターの田中伸子が、本プロジェクトのキーマンである、チャリングクロス劇場芸術監督のトム・サザーランドと、本作の演出を手がけた藤田俊太郎の言葉を交えながら、その気になる舞台の様子をレポートする。

チャリングクロス劇場への案内看板。

藤田俊太郎の英国デビュー作「VIOLET」のプレスナイト=初日が行われたのは、週の初めの月曜日。郊外とロンドン中心を結ぶ主要ターミナル駅であるチャリングクロス駅へ家路を急ぐ会社員、そして夜の外出に繰り出す観光客たち、多く人々が行き交う通りから一歩横に入った路地に、「VIOLET」を上演しているチャリングクロス劇場はある。ウエストエンド劇場街とは目と鼻の先の距離にありながら、隠れ家のようにひっそりと線路の高架下に作られたその劇場は、ある時間になると人々の活気できらめきを放ち始める。夜ごと、狭いホワイエに収まりきれない観客たちが劇場の外まであふれ、グラスを片手にこれから始まるショータイムについて談笑している姿を目にすることができるのだ。

 藤田俊太郎

1月21日、演出家・藤田と日本演劇界にとって特別な夜となったこの日も、19:30の開幕を待つ観客、英国の演劇批評家たち、さらには日本から駆けつけたプレス関係者たちの初日幕開け前の興奮と期待で、劇場の熱気は頂点に達していた。

「Caroline, or Change(キャロライン、またはチェンジ)」「ファン・ホーム」などの楽曲で知られるジニーン・テソーリが曲を手がけた「VIOLET」は、1997年にオフブロードウェイで産声を上げ、ニューヨーク演劇批評家協会賞を受賞したミュージカル。その後、2014年にブロードウェイで再演され、ベストリバイバル賞をはじめ複数部門でトニー賞にノミネートされている。英国での上演は今回が初めてとあって、現地のミュージカルファンたちも待ち望んだ上演となったようだ。

左からトム・サザーランド、藤田俊太郎。

梅田芸術劇場とチャリングクロス劇場の共同制作プロジェクト(編集注:5年間に3本の作品を共同で制作予定)の1作目にこの「VIOLET」を選んだ理由を、プロジェクトの英国側の仕掛け人の1人である、チャリングクロス劇場芸術監督のトム・サザーランドはこう話す。「数年前にこの作品をブロードウェイで観劇した際に、1960年代のアメリカの話でありながら、どこの国の誰にでも共鳴する普遍性を持った作品であると感じました。一見するとファンタジーにも思えるお話ですが、実際のところこれはとても“現実的な”おとぎ話なんです。そんな現代のおとぎ話はこの劇場がチャレンジしている姿勢、つまりウエストエンドに隣接しながら一線を画し、独自の路線でウエストエンドでは観ることのできない作品、また今回のような日英のコラボレート企画を実践していくことにも通じていると言えます。さらに言えば、藤田俊太郎が今まさに挑戦していることにもシンクロしているのです。『VIOLET』は我々のチャレンジそのものの結晶なのです」。

そんな現代のおとぎ話という劇のあらすじを述べておこう。幼い頃に父親による不慮の事故から顔に大きな傷を負った主人公ヴァイオレット(カイザ・ハマーランド)は、ノースカロライナ州の片田舎で父親(キーロン・クルック)と暮らしていた。数年後、父親が死去。彼女は25歳になったある日、精霊の力により病気や心を癒すと唱えるテレビ伝道師(ケネス・アヴェリー=クラーク / 編集注:実在のカリスマ伝道師オーラル・ロバーツをモデルにしている)に傷を治してもらうため、長距離バスに乗り込み、1500kmの旅に出る。旅の途中で出会った人々との交流を通して、彼女が見付け出した答えとは。

開幕ベルに促され、劇場内へ入って驚いたのは客席の位置からして大幅にその形状を変えていたこと。いつもは階段式の265席の客席と額縁舞台という、ごく一般的な古くからの英国の劇場スタイルであるチャリングクロス劇場だが、藤田は今回の舞台のため、特別に回転する盆舞台を中央に配し、その両脇に対面式の客席を用意したのだ。ちなみにこの形式での上演は劇場が開場して以来初めてで、「VIOLET」用に作ったとのことだった。主人公ヴァイオレットが体験したバスの旅の臨場感を観客も一緒に味わえるように、ターンテーブルのように舞台が回転し、その動きに合わせてヴァイオレットの旅という現在と、子役が演じる彼女の幼い頃の過去のシーンがよどみなく入れ替わるという演出だ。ややもすると唐突に時間が飛んで話が中断してしまうこの劇構造を、回転舞台を使うことで役者の出入りをスムーズにし、スピーディな進行を保ったまま役者全員によるラストの歌唱まで走り抜けた。

また、回り舞台をバスの待合所をイメージした木の壁が囲み、その壁にはヴァイオレットが憧れるハリウッド女優たちの“完璧な美の顔”のパーツがコラージュされている。客席後方にはサザーランドのこだわりでもある9人編成のバンドが配され、またセットに組み込まれた照明が巧みに変化し、ドラマの展開に彩りを与えていた。このような大胆かつ繊細なスタッフワークもさることながら、やはりこの舞台の醍醐味は役者たちのパワフルな歌声だろう。初めは猫背で顔を隠しながらおどおどとバスに乗り込む田舎娘ヴァイオレットを演じていたハマーランドは、人との出会いや新しい世界に触れたことにより生じた彼女の心中の変化を見事に演じていた。そして、芯が強い女性ヴァイオレットの心の叫びを生き生きと歌い上げる。さらに彼女に好意を寄せる黒人兵士フリック役のジェイ・マーシュは、深い温かみのある歌声で愛情を表現した。また、ヴァイオレットがテレビ伝道師の運営する教会を訪れた際に信者たちが歌うゴスペルソングは、その振付含め必見だ。まるでトランプ大統領の共和党集会を彷彿とさせるその狂信的な信者たちのシーンは、サザーランドが言うところの“現代へと通じる普遍性”を感じさせる。

プレスナイトということで、終演後には初日乾杯が行われ、多くの人が観たばかりの英国プレミアの舞台について意見を語り合っていた。そこには身動きがとれないほどの人でにぎわった劇場のバーエリアで、うれしそうにスタッフやキャスト、日本から駆けつけた家族と言葉を交わす藤田の姿があった。

一夜が明けた翌日、藤田にインタビューを行った。インタビュー冒頭で「初日を迎えられて本当によかった。演出家として作品を送り出すことができて、清々しい気持ちです。バス停に立って、出発したばかりのバスを見送っている感覚でしょうか。この先、90回以上行われる公演の成功を祈っています」と、初日を終えて冗談交じりの安堵の感想を漏らした。

「プレスナイトのあと、カンパニーみんながそれぞれの家族を紹介してくれたことがうれしかったです。もちろん僕の家族も紹介しました。美術のモーガン・ラージさんのお母さんからは、『私の息子に素晴らしい機会をくれてありがとう』『これまでとまったく違う感性が、彼の中で目覚めたのではないかと思う』と言われました。このように日英の感性が出会い、融合した世界観が『VIOLET』の大きな見どころだと思います。英国公演の幕が開いたばかりですが、2020年春の日本版でもこの空気感を演出したいと思っています」と藤田は続ける。

本プロジェクトに参加してみて、英国で仕事をした今だから感じる手応えについて聞いてみると、「作品の中の『On My Way』という曲にある、黒人兵士フリックの言葉『やらなきゃいけないことをやる、でも最後にはそれを1人でやるしかない。道を選んだら、そこを歩いて行くんだ、1歩ずつ』というヴァイオレットに向けられたセリフが、この作品のテーマだと思うんです。僕も思い切って一歩踏み出してみたら、ロンドンには体験したことのない世界が広がっていました」と藤田。さらに、「今回のクリエーションを経て、演劇を作る現場で個人が具体的に何を考えているのか、が強く問われるんだなと感じました。カンパニーの皆さんは毎日、英国のEU離脱を当事者として話題に出している。台本にある言葉が自分たちの日常や現代の社会にどうつながるか、普遍性があるか。それぞれの立場から、それぞれの人生を背負った主張を通して、個人がどう生きていくのかという、この作品が持つ“現代性”について考えていました」と振り返る。

また「VIOLET」を作り上げるうえで、言語や文化の違いは大きな支障とはならなかったという点について、「海外で創作する場合に“壁”という言葉がよく出てきます。言葉の壁とか人種の壁とか。しかし、このカンパニー、この仕事において“壁”はありませんでした」と藤田は答える。「稽古場に入って感じたのは、僕が格好つけても仕方がない、ということ。僕はネイティブではないので、通訳の方が間に入り、僕の思いを役者に伝えます。通常より時間がかかる仕事だということを、英国側の皆様が理解されたうえで、『時間がかかっても一緒にやろう』と腹をくくってくれていました。もちろん、ここは“言葉の演劇の国”英国ですから、何度も稽古が中断したり、前に進まないことがたくさんありました。ですが、カンパニーにおいて足を引っ張る“傷”のような存在になりかねない日本から来た演出家を、主演のカイザ・ハマーランドさん、芸術監督のトム・サザーランドさんが中心となって守ってくれました」と述懐した。

最後に藤田は、「1カ月半の稽古は大変な戦いの連続だったなと、プレスナイトが開けて改めて思いを馳せています。梅田芸術劇場プロデューサーの村田裕子さんと、トム・サザーランドさんの出会いから始まった日英のコラボレーションは、この『VIOLET』だからこそできたのかもしれないなと思います」と感慨深げに語ると共に、「1964年、ヴァイオレットは長距離バスに乗り、1500kmの旅に出ます。生まれた町を初めて出て、旅の途中で出会った人々との交流を通して、彼女は人生の答えを見付け出していく。この旅そのものが、今回の僕の挑戦と重なったと思います。人は誰でも傷やコンプレックスを持っているかもしれない。しかし見方を変えれば、ないものにも思えるし、もしかしたらそこから大きな価値を見出せるかもしれない。観客の皆様にはそれぞれの今とヴァイオレットを重ねて、一緒に旅をしていただけたらうれしいです」と、今回の英国デビューの経験を締めくくった。

一歩踏み出すことで、また新たな境地を切り開いた藤田俊太郎。これからの彼の活動にさらに期待が膨らむ。

梅田芸術劇場×チャリングクロス劇場
日英共同プロジェクト ミュージカル「VIOLET」
プレビュー公演
2019年1月14日(月・祝)~19日(土)※公演終了
本公演
2019年1月21日(月)~4月6日(土)
イギリス ロンドン チャリングクロス劇場
梅田芸術劇場×チャリングクロス劇場 日英共同プロジェクト ミュージカル「VIOLET」

原作:ドリス・ベッツ「The ugliest pilgrim」

脚本・歌詞:ブライアン・クロウリー

演出:藤田俊太郎

音楽:ジニーン・テソーリ

プロダクション・スーパーバイザー:トム・サザーランド

ヴァイオレット:カイザ・ハマーランド

フリック:ジェイ・マーシュ

モンティ:マシュー・ハーヴェイ

父親:キーロン・クルック

ほか

※ロンドン公演のチケットはチケットぴあで販売中。
対面式舞台片側最前列のUAシート9000円→6000円の特別販売実施中。

関連リンク

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NHK BS1「BS1スペシャル『“ミュージカルの聖地に挑む”~演出家・藤田俊太郎ロンドン進出』」

2019年3月12日(火)21:00~21:50

藤田俊太郎(フジタシュンタロウ)
1980年生まれ、秋田県出身。2005年、東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業。在学中の04年、ニナガワ・スタジオに入り、16年まで蜷川幸雄作品に演出助手として関わる。絵本ロックバンド・虹艶(にじいろ)Bunnyとしてライブ活動展開中。主な作・演出作に、「喜劇一幕・虹艶聖夜」(11年)、主な演出作に、さいたまネクスト・シアター「ザ・ファクトリー2 話してくれ、雨のように……」(12年)、美女音楽劇「人魚姫」(15年)、「sound theaterⅥ」「Take Me Out」(16年)、「手紙」(16・17年)、「ダニーと紺碧の海」「sound theaterⅦ」(17年)、「ピーターパン」「ラヴ・レターズ」(17年~)、「Take Me Out 2018」「ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート」(18年)などがある。ミュージカル「ビューティフル・ゲーム」(14年)の演出にて第22回読売演劇大賞優秀演出家賞・杉村春子賞、「ジャージー・ボーイズ」(16年)の演出にて第24回読売演劇大賞最優秀作品賞・優秀演出家賞、「ジャージー・ボーイズ」「手紙」の演出の成果に対して第42回菊田一夫演劇賞を受賞。19年7・8月にはミュージカル「ピーターパン」、20年には「天保十二年のシェイクスピア」の公演が控える。
トム・サザーランド
1984年生まれ。イギリス・ロンドンで注目されている若手演出家の1人。ミュージカル「タイタニック」で数多くの賞を獲得したほか、ミュージカル「グランドホテル」ではオフ・ウエストエンド・シアター・アワード最優秀ミュージカル作品賞を受賞。2016年にロンドン・チャリングクロス劇場の芸術監督に就任。日本では、ミュージカル「タイタニック」(15、18年)、ミュージカル「グランドホテル」(17年)、ミュージカル・コメディ「パジャマゲーム」(17年)の演出を手がけた。