少年社中25周年記念ファイナル「テンペスト」あの男が帰って来た!鈴木拡樹と少年社中の揺るぎない信頼関係 (2/2)

田辺幸太郎は“予想をさせない達人”

──2018年、少年社中が旗揚げ20周年を迎えた際、鈴木さんは「僕はどの現場に参加している時でも少年社中さんのようなあたたかいカンパニーを理想にして参加し勤めています」とおっしゃっていました(参照:少年社中 ゆかりの48人からの“祝電”で振り返る20周年)。鈴木さんから見た少年社中のイメージは、今も変わらず“あたたかい場所”であり続けていますか?

鈴木 そうですね。いつも“準劇団員”のような形で迎えてくださるので、とてもうれしいです。僕は劇団出身ではないので、「自分にとってのホームはどこだろう?」と考えたときに、先日シリーズ最終公演を迎えた「最遊記歌劇伝」のカンパニーや、少年社中のことを思い浮かべるんですよ。近年、シリーズ作品への出演が続いていたので、シリーズ作品を成立させるにはどうしたら良いのかということを考えて過ごした時期が長かったんですが、純粋に目の前のお芝居のことだけを考える時間が欲しいと思っていて。今回の「テンペスト」では、それを思いきり追求することができる。そういう場所を提供してくれる少年社中さんがやっぱり大好きです。

鈴木拡樹

鈴木拡樹

「テンペスト」で楽しみにしているのは、出演者の方々の“個性の殴り合い”が見られること!(笑) 少年社中の皆さんって、全員がそれぞれの道のスペシャリストなんです。例えば、(井俣)太良さんには圧倒的な存在感があるし、(長谷川)太郎さんはあるシーンでフッと気配を消したと思ったら、別のシーンではバーンと存在感を増す職人技を持っている。本当にカッコいい人ばかりなんですよ!

──以前、劇団員の大竹えりさんも、メンバーそれぞれの方法論で毛利さんの戯曲を読み解き、舞台上で再会するようなイメージで稽古をしている、と分析していました(参照:少年社中 祝25周年!野望を持って歩み出す毛利亘宏&大竹えり、矢崎広の止まらぬ“少年社中愛”)。ちなみに、田辺さんは何のスペシャリストだと思いますか?

鈴木 田辺さんは“予想をさせない達人”ですね。「ファンタスマゴリア」(2009年)を観劇したとき、チェイス(編集注:キャストたちが一斉にポーズを決め、走り、セリフを叫ぶ演出)のあと、一度舞台袖にハケて戻って来た田辺さんの髪が短くなっていてびっくりしました。たぶん僕が一番客席で大きな声を出して笑っていたと思います。「田辺さん、芸が細かすぎるよ!」って。でも、田辺さんの行動を追っていると、そこにはしっかりとしたプロセスがあるから、あれにも何か理由があったはず(笑)。

毛利 ははは! 懐かしいね。

田辺 ウィッグを替えて出て行ったときだ。まずそれを思い出す拡樹くんからも、ある種の変態性を感じるよ(笑)。

左から田辺幸太郎、鈴木拡樹、毛利亘宏。

左から田辺幸太郎、鈴木拡樹、毛利亘宏。

今やっておかなければならないテーマ

──先ほど鈴木さんが「純粋にお芝居のことだけを考える時間が欲しい」とおっしゃっていましたが、今作「テンペスト」のテーマはまさに“演劇”“劇団”。演出家の死を乗り越え、劇団25周年記念公演で「テンペスト」を上演すべく奮闘する劇団・虎煌ここう 遊戯ゆうぎ と、主宰の座を追われ劇団に復讐を誓う俳優のギン(井俣)、ギンが送りこんだ天才俳優・ラン(鈴木)を軸にした物語が描かれます。鈴木さんが過去に出演した「ロミオとジュリエット」もシェイクスピア作品を下敷きにした作品でしたが、今回「テンペスト」をベースにしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

毛利 自分のルーツの1つでもある東京オレンジという劇団が、昔、堺雅人さんの主演で「テンペスト」を上演したことがあったんです。少年社中を旗揚げした当初、その「テンペスト」を観て衝撃を受けた気持ちと、2021年に亡くなった東京オレンジ主宰の横山仁一さんから学んだこと、それらを1つの演劇として組み立ててみたいと思って、「テンペスト」を題材にしました。

──虎煌遊戯の演出家・サコンが亡くなる構成は、身近なエピソードがもとになっているんですね。

毛利 そうですね。自分の演劇の原点と向き合うという意味でも、今、このタイミングでやっておかなければならないテーマだと思いました。2019年に、少年社中20周年記念公演のフィナーレを飾る作品として「演劇で世界を変える」をテーマにした「トゥーランドット~廃墟に眠る少年の夢~」を上演したのですが、コロナの影響もあり、この5年間で多くの挫折や苦労を経験したなと思って。20周年の頃は、自分たちがまだまだどこまででも行けると信じていた部分があったんですね。5年の時を経て、現在の自分の演劇に対する思いを確かめるために、今回はあえて“復讐”という要素を入れました。演劇に対するネガティブな感情がどのように昇華されて、演劇への愛に変わっていくのか。それを描きたいなと思っています。

少年社中 25周年記念ファイナル 第42回公演「テンペスト」キービジュアル

少年社中 25周年記念ファイナル 第42回公演「テンペスト」キービジュアル

──今回鈴木さんは、ギンに見いだされ彼の復讐の道具になるランと、「テンペスト」に登場する妖精のエアリアルを演じます。

鈴木 僕が演じるランは背負うものが多く、劇団内を引っかき回す役どころなので、精神的にも肉体的にも疲れると思うんです。でも、力の配分なんて考えている余裕はない。毎公演全力投球したいですし、舞台が終わって立っていられたらラッキー、くらいの気概で臨みたいですね。自分としても、少年社中さんが掲げている“人を幸せにする演劇”に魅力を感じているので、その世界を体現して、お客様にしっかりと届けられたらと思います。

──田辺さんは、虎煌遊戯の旗揚げメンバーで現主宰者のドラゴンと、「テンペスト」の登場人物であるアロンゾーを演じます。今作のプロットを読んで、田辺さんはどのようなことを感じましたか?

田辺 まずシェイクスピアの作品は、あらゆる演劇の原点であり、どこか難易度が高いというパブリックイメージがあるんじゃないかと思うんです。シェイクスピアを題材にした少年社中作品の面白さは、難解な内容や難しいセリフ回しから逃げず、新たな解釈を通して向き合うところ。僕たちの取り組み方は真正面からではないかもしれないんですけど、それをも許容してくれるのがシェイクスピアの懐の深さだと考えているので、さまざまなアプローチにチャレンジしてみたいなと思っています。

最後の芝居になっても悔いはない

──「演劇とは何か?」「劇団とは何か?」、演劇人にとっての命題に挑むような、25周年記念公演の締めくくりにふさわしい作品になりそうです。25歳になった少年社中、そして力強い助っ人たちが総力戦で臨む「テンペスト」への思いを、最後にお聞かせいただけますか?

鈴木 毛利さんをはじめ、少年社中の皆さんって、どれだけキャリアを重ねてもずっと少年の心を持ち続けているんですよね。改めて、これって本当に素晴らしいことだと思うんです。

毛利 中年社中どころか、老年社中に片足を突っ込んでるよ!(笑)

鈴木 ははは! そんな素敵な皆さんの25周年を祝う、幸せな空間にしたいと思うと同時に、キャスト・スタッフが全力でぶつかり合って、観客の皆さんの魂を揺さぶることができれば良いなと思っています。

田辺 できないことをいかにやるか、言えないセリフをいかに言うか。25周年を迎えた僕たちの、新しい試みを観に来てもらえたらうれしいです。

毛利 「三人どころじゃない吉三」上演前のインタビューでお話ししたことと重なるのですが、25周年を機に0から少年社中を始めたいと思って、25周年記念公演に臨んできました。旗揚げのときに味わったドキドキ感、夢も希望も不安もあった、あの頃の気持ちをもう一度思い出したい。これから先、どの公演が最後の芝居になっても悔いはないという気持ちで作品を作っていくので、その思いを込めた最高のお芝居をお届けします。今回、日替わり出演もあるので、劇場でしか観られない、感じられない演劇の熱さのようなものを、いつも以上に劇場で感じてもらえますと大変うれしく思います。

左から田辺幸太郎、鈴木拡樹、毛利亘宏。

左から田辺幸太郎、鈴木拡樹、毛利亘宏。

プロフィール

毛利亘宏(モウリノブヒロ)

1975年生まれ。脚本・演出家。少年社中主宰。「宇宙戦隊キュウレンジャー」の脚本・メインライター、「REAL⇔FAKE」の監督・脚本、「アルゴナビス from BanG Dream!」のシリーズ構成・脚本などで知られる。脚本・演出を手がける「ミュージカル『薄桜鬼 真改』土方歳三 篇」が2024年4月に上演予定。

田辺幸太郎(タナベコウタロウ)

1976年生まれ。俳優。1998年に少年社中へ入団。架空の世界が舞台になることが多い少年社中の作品において、独自の演技論とトリッキーな演技で、作品に異世界要素を加えている。

鈴木拡樹(スズキヒロキ)

1985年、大阪府生まれ。2007年に放送されたテレビドラマ「風魔の小次郎」で俳優デビュー。「ロミオとジュリエット」(2009年)で少年社中作品に初出演。その後、「贋作・好色一代男」(2014年)、「三人どころじゃない吉三」(2016年)に出演した。主な出演作に、東映ムビ×ステ「死神遣いの事件帖」、ミュージカル「SPY×FAMILY」、舞台「アルキメデスの大戦」、「『バクマン。』THE STAGE」、ミュージカル「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」、「No.9 ー不滅の旋律ー」、劇団☆新感線「『髑髏城の七人』Season月 下弦の月」、舞台「どろろ」、「舞台『刀剣乱舞』」シリーズ、「最遊記歌劇伝」シリーズ、舞台「幽☆遊☆白書」シリーズなどがある。

少年社中(ショウネンシャチュウ)

1997年に早稲田大学演劇研究会(以下早大劇研)出身の毛利亘宏、井俣太良らが中心となり結成された劇団。1998年に旗揚げ試演会「侍核ーサムライ・コアー」を行い、2002年に早大劇研から独立した。架空世界、冒険、夢などをキーワードにしたファンタジックな世界観と、そこに渦巻くリアルな人間ドラマ、スピーディーかつスタイリッシュな演出で多くの観客の心をつかんでいる。

結成15周年を迎えた2013年には、記念公演として「贋作・好色一代男」を上演。2018年から2019年にかけて20周年記念公演を行い、「ピカレスク◆セブン」「MAPS」「機械城奇譚」「トゥーランドット~廃墟に眠る少年の夢~」を上演した。

現在は主宰・脚本・演出を担う毛利を中心に、俳優の井俣、大竹えり、田辺幸太郎、加藤良子、廿浦裕介、長谷川太郎、杉山未央、山川ありそ、内山智絵、竹内尚文、川本裕之の12名で活動している。


ヘアメイク / [鈴木拡樹]AKI、[毛利亘宏、田辺幸太郎]城本麻紀
スタイリスト / 小田優士
衣装協力 / [鈴木拡樹]ジャケット、パンツ / AM3、LANCE PR(TEL:080-3705-4272)
[毛利亘宏]シャツ / Connecter Tokyo(MAIL:connecter.tokyo.infor@gmail.com