各々の方法論で戯曲を読み解いて、舞台上で再会する
──少年社中に客演したキャストの方々にお話を聞くと、矢崎さんと同じように「少年社中の作品に救われた」「家族の一員として迎え入れてもらってうれしかった」とおっしゃる方が多い印象があります。毛利さんや大竹さんは、矢崎さんのどのようなところに惹かれてオファーをしたのでしょうか?
毛利 「贋作・好色一代男」の世之介にしても、「モマの火星探検記」のモマにしても、ダメダメだけど、だからこそ愛おしいキャラクターを描きたいなと思っていて。少年社中の作品に出てもらう前、別の現場で一緒に仕事をしたときからずっと、矢崎の“飢え”というか、自分のことを嫌だと思いながらも必死に立とうとしているところを美しいと思っていたから、世之介やモマのようなキャラクターを演じてもらいたいなと考えていたんです。あとは、役者という職業はお客さんの前でダメなところをさらけ出すことだと思っているので、矢崎はそれができる役者だから、今でもずっと少年社中と良い信頼関係が築けているのかな。
大竹 そうですね。俳優という仕事は、ステージの上で傷付いて、その傷を観客の皆さんと一緒に癒やす役割があると思っているんです。矢崎さんは舞台の上で血を流せる俳優さんだから、少年社中がやりたいことと合致したんじゃないかなって。
矢崎 ありがとうございます。そう言っていただけてうれしいですね。僕は毛利さんが書く脚本に、というか、毛利さん自身との共鳴度が高いと思っていて。毛利さんの中にも世之介やモマと同じ部分があるから、僕を通して役と共感してくださっている。言ってしまえば、僕は毛利さんが書きたいものがわかってしまう俳優だと思うんです。その自負だけはあります!
大竹 なるほど!
矢崎 「みんな、なに恥ずかしがってんだよ! 一緒に夢見ていこうぜ!」という勢いで少年社中の作品に挑んでいるし、人間臭い部分をバンバン見せていくことが、自分が少年社中作品に出るうえでやるべきことだと思っているので。
大竹 逆に、私は毛利が書くセリフとの共鳴度が低い俳優だと思うんです。
矢崎 えっ! そうなんですか!?
毛利 大竹はずっとそうだよね。
大竹 そうなの。25年間、ずっとそうなんです(笑)。「毛利はこういうつもりで書いてないでしょ。でも、私はこうするんだ!」みたいなアプローチの仕方をしてきたような気がします。
毛利 劇団ってそういうところが面白いよね。各々やりたいことや信念があって、ぶつかり合いながら、それぞれのポジションや居場所を見つけていく。“自分は自分のままで良い”というスタンスが少年社中らしいカンパニーの作り方なんだろうな。
矢崎 世の中の劇団員の方って、みんなどこか似ている部分があると思うんです。でも少年社中さんは芝居の仕方も考え方も十人十色なんですよね。それがすごく面白い。
毛利 例えば、劇団☆新感線でいうところの古田新太さんみたいに、主演俳優のようなポジションの人が1人いたとしたら、みんなその方向に向かっていくと思うんだけど、うちの場合は井俣太良だったから、みんなあえてそうじゃない方向を目指したというか(笑)。
大竹 私が井俣のすぐ下の代に当たるんですが、性別が違うこともあるし、井俣のようなパワープレイはできないなと思って違う方向を目指すようにしたんです。そうしたら、私のあとに入ってきた子たちもそれぞれの道を行くようになって(笑)。「各々の方法論で毛利の戯曲を読み解いて、舞台上で再会しましょう!」みたいな。
矢崎 ははは! 劇団としては珍しい形ではあるかもしれないけど、目指しているゴールは全員一緒ですよね。「“毛利ファンタジー”を作り上げるぞ!」という強い気持ちは共通していると思います。
毛利 各々のやり方で好きなようにやってきたから、25年もやってこられたんだろうなと思うんだよね。みんなが同じ方向を向いていたら、それはそれで強いけど、どこかの段階で折れてしまっていたかもしれない。だけど、誰かが折れても誰かは元気だから、共倒れになることがなかったんでしょうね。
矢崎 1人ひとりそれぞれのスタイルがあるから、ゲストとして出演したときに劇団員の誰かしらと共鳴できるのも大きいですよね。僕は毛利さんだったけど、太良さんに共鳴する人もいるだろうし、えりさんに共鳴する人もいると思う。そこが、客演として座組に入っていきやすい理由なのかなと思います。
少年社中が好きすぎるが故に…
──少年社中として歩んで来た25年は、毛利さんにとって“あっという間”でしたか?
毛利 10年ごとくらいに違う感覚なんですけど、ゆっくりになったり、早くなったりしながら進んできたような気がします。旗揚げからの10年間はやっぱりあっという間に感じましたね。時効だと思うし、もう言っちゃっても良いかな。少年社中は“アンチ静かな演劇”を掲げて出発した劇団なんです。エンタメ作品を作るために少年社中を旗揚げしたはずなのに、世の中はまさに静かな演劇ブームで、結成10年目くらいまでは正面切ってセリフを言うだけで「ダサい」と言われましたから。
大竹 そうでしたね。でも、そんな中でも少年社中が作るエンタメ作品を求めてくれるお客さんがいたから、今回25周年を迎えられたんだと思う。
矢崎 もちろん、静かな演劇が好きな人もいると思うんですけど、僕は少年社中みたいな演劇がすごく好きだから、少年社中がこうして長い間皆さんから愛され続けていることが素直にうれしいです。劇団員の方々と同じくらいうれしいかもしれない。僕みたいに、少年社中の作る芝居がなくなったら困る人、世の中にたくさんいると思いますよ。
毛利 矢崎、ありがとう。最近よく考えるんですよ。劇団員もみんないい年になって、残りの人生に向けたカウントダウンが始まる中、あと何本全力で作品を作れるんだろうって。
矢崎 もうそんなこと考えてるんですか!? 早すぎますよ!
毛利 今年度は周年だから3本上演する予定だけど、通常であれば本公演は1年に1本しかないわけで、その1本1本を良い作品にしたいし、もう一瞬たりとも無駄にしたくないなと思って。
矢崎 今回は3本上演するんですね。自分自身が15周年記念公演(「贋作・好色一代男」)に出演したっていうのが大きいと思うんですけど、少年社中の周年公演は特に期待しているし、周年のお祭りは外部から見ていてもすごくワクワクします。でも正直なことを言うと、少年社中が好きすぎて、自分が出ていない作品を観られないんですよ!(笑)
毛利 ははは!
大竹 えっ!? 観てよー! 自分が出ていない作品を観ると、「俺だったらこうやって芝居するのにー!」みたいな感じになっちゃうの?(笑)
矢崎 そうですね(笑)。毛利さんとの共鳴度が高いが故に嫉妬してしまうというか、そのくらい少年社中が好きなんです。「贋作・好色一代男」に出演したとき、舞台上で「僕、周年男になります!」って宣言したのに、20周年記念公演には出なかったから、本当はすごく寂しかったんですよ(笑)。でも、「あっ、俺はもしかすると“◯0周年男”じゃなくて、“◯5周年男”なんじゃないか?」と思い直したんです。悔しいけど、“◯0周年”はほかの人に譲ります。松田凌とか生駒里奈とか。
毛利・大竹 ははは!
大竹 “◯5周年”じゃなくて、“◯0周年”のときも呼んだら出てくれるの?
矢崎 ぜひ!
「三人どころじゃない吉三」を皮切りに“リスタート”
──25周年記念公演の第1弾として上演されるのは、2016年初演作「三人どころじゃない吉三」です。二代目河竹新七の歌舞伎「三人吉三巴白浪」を原案にした「三人どころじゃない吉三」では、“三人どころじゃない”たくさんの吉三たちが奮闘する様が描かれますが、本作を第1弾に選んだ決め手は何だったのでしょう?
毛利 第1弾では再演ものをやりたかったのと、劇団員とゲストの年齢のバランスを考えたときに、今の少年社中らしさを表現できるのは「三人どころじゃない吉三」じゃないかと思ったんです。少年社中では、悲劇ではあるけれども、それを超えて前に進んでいくような作品を書いていきたい。「三人どころじゃない吉三」も、ダメダメで愛おしい人間たちがもがきながら必死に生きる姿をストレートに書けた作品だったので、自分でもけっこう気に入っていて。今回は台本をそこまで変えずに、演出を変えて再演してみようと思っています。
──2016年の初演時、お休み期間に入っていた大竹さんですが、「三人どころじゃない吉三」を客席から観てどのようなことを感じましたか?
大竹 「三人どころじゃない吉三」では、最初からずっと雪が降っているんです。決してお客さんの見方を制限するわけではないんですけど、それを意識の片隅に置いて観ていただけると、最後にすごくカタルシスを感じるかもしれません。
──矢崎さん、今回の「三人どころじゃない吉三」はご覧になりますか?(笑)
矢崎 観ますよ! 決して観たくないということではなく、僕が出ていない作品だと嫉妬しちゃうっていうだけなので(笑)。オリジナル作品はもちろん、毛利さんが潤色を手がける古典や原作ものの作品もすごく好きなんですよね。「少年社中バージョンだと一体どうなるんだろう?」「どんな終わり方になるんだろう?」というのを、お客さんとして毎回楽しみにしています。
──2023年6月の「三人どころじゃない吉三」を皮切りに、25周年記念公演がスタートします。改めて、このメモリアルイヤーをどのような年にしていきたいと考えていますか?
毛利 25周年記念公演の大きなテーマは“再始動”“リスタート”かな。自分自身を見つめ直したコロナ禍の3年間、そこからのリスタートという意味を込めて、もう一度野望を持って歩き出せる年にしたいですね。
大竹 私も、頭の中がクリアになってきたなと感じていて。劇団が大きくなるにつれて、「これは言っちゃいけないかもしれないな」「この場合はこう動くほうが良いのかな」みたいに考えてしまっていたんですけど、「私たちはただ面白いものが作りたいだけなんだ!」「私が面白いと思うことをやるだけだ!」と思えるようなりました。25周年を迎えた今、毛利と近い気持ちなのかもしれません。
矢崎 周りなんて関係ないですよ! えりさんはえりさんらしく、少年社中は少年社中らしく、これからも心から楽しいと思えることを続けていってほしいです。
プロフィール
毛利亘宏(モウリノブヒロ)
1975年生まれ。脚本・演出家。少年社中主宰。「宇宙戦隊キュウレンジャー」の脚本・メインライター、「REAL⇔FAKE」の監督・脚本、「アルゴナビス from BanG Dream!」のシリーズ構成・脚本などで知られる。現在、東映ムビ×ステ 舞台「仁義なき幕末 -令和激闘篇-」(脚本・演出)が上演中。6月に舞台「HELI-X~スパイラル・ラビリンス~」(脚本)の公演を控える。
毛利亘宏 ≡メンバー≡劇団 少年社中 The Entertainment Prison 公式サイト≡
毛利亘宏 (@mouri_shachu) | Twitter
大竹えり(オオタケエリ)
1976年生まれ。俳優。少年社中の旗揚げメンバーおよび看板女優として劇団を牽引。繊細さと力強さを兼ね備えた演技力で、さまざまなキャラクターを演じている。
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矢崎広(ヤザキヒロシ)
1987年、山形県生まれ。俳優。少年社中作品には、「贋作・好色一代男」(2014年)、「モマの火星探検記」(2017年、2020年)に出演。現在上演中の東映ムビ×ステ 舞台「仁義なき幕末 -令和激闘篇-」でナレーションを務めている。6・7月にミュージカル「ダーウィン・ヤング 悪の起源」に出演予定。
矢崎広 (@hiroshi_yazaki) | Twitter
少年社中(ショウネンシャチュウ)
1997年に早稲田大学演劇研究会(以下早大劇研)出身の毛利亘宏、井俣太良らが中心となり結成された劇団。1998年に旗揚げ試演会「侍核ーサムライ・コアー」を行い、2002年に早大劇研から独立した。架空世界、冒険、夢などをキーワードにしたファンタジックな世界観と、そこに渦巻くリアルな人間ドラマ、スピーディーかつスタイリッシュな演出で多くの観客の心をつかんでいる。
結成15周年を迎えた2013年には、記念公演として「贋作・好色一代男」を上演。2018年から2019年にかけて20周年記念公演を行い、「ピカレスク◆セブン」「MAPS」「機械城奇譚」「トゥーランドット~廃墟に眠る少年の夢~」を上演した。
現在は主宰・脚本・演出を担う毛利を中心に、俳優の井俣、大竹えり、田辺幸太郎、加藤良子、廿浦裕介、長谷川太郎、杉山未央、山川ありそ、内山智絵、竹内尚文、川本裕之の12名で活動している。
≡劇団 少年社中 The Entertainment Prison 公式サイト≡