1997年に毛利亘宏、井俣太良らが中心となり旗揚げされた少年社中が、2023年に結成25周年を迎えた。それを記念し、6月に25周年記念公演第1弾「三人どころじゃない吉三」、9月に第2弾「光画楼喜譚」が上演され、2024年1月に第3弾「テンペスト」でフィナーレを迎える。
“復讐”をテーマに、演劇や劇団に対する愛を描いた新作「テンペスト」で、少年社中作品に約7年半ぶりの出演となる鈴木拡樹が帰って来る。本特集では、「もう一度、少年社中を始めよう」という言葉を胸に周年公演に挑んだ毛利、鈴木と交流の深い劇団員の田辺幸太郎、そして「テンペスト」でキーマンを演じる鈴木の、15年にわたって続く揺るぎない信頼関係に迫る。
取材・文 / 興野汐里撮影 / 玉井美世子
“少年社中に戻るべきとき”に戻って来られた
少年社中と縁の深い鈴木さんはこれまで、「ロミオとジュリエット」(2009年)、「贋作・好色一代男」(2014年)、「三人どころじゃない吉三」(2016年)に出演しました。少年社中作品に参加するのは「三人どころじゃない吉三」以来約7年半ぶりとなります。
毛利亘宏 舞台「死神遣いの事件帖 -幽明奇譚-」(2022年)でお久しぶりな感じでしたので、劇団公演に出てもらうのはさらに久しぶりなんだね。
鈴木拡樹 実はそうなんですよ。少年社中25周年記念公演が「三人どころじゃない吉三」でスタートしたこともあり、“少年社中に戻るべきとき”に戻って来られたような気がして、うれしく思っています。
田辺幸太郎 映画「死神遣いの事件帖」(2020年、2022年)を京都で撮影したとき、「拡樹くんにまた会えてうれしいな」と思っていたんだけど、江戸の雰囲気にのまれちゃってあまり話せず……(笑)。今回の「テンペスト」はホームグラウンドだから、拡樹くんとの再会をしっかりと楽しめたら良いな。
──田辺さんと鈴木さんが初共演したのは、鈴木さんが俳優デビューした翌年の「最遊記歌劇伝 -Go to the West-」(2008年)でした。
鈴木 「最遊記歌劇伝」の初演に出演したとき、台本に書かれていることだけでなく、自由な表現で作品の世界観を構築することの大切さを、田辺さんのお芝居から学びました。原作のマンガにはないんですけど、坊主たちにお仕置きをするシーンで、田辺さんが坊主たちに浣腸をしていったんですよ。「えっ! そんな演技プランがあるんだ!?」と衝撃を受けて、そこから目が離せなくなりました(笑)。
毛利 ははは! 田辺さん、そんなことしてたの!?(笑)
田辺 記憶が曖昧なんだけど、そんなことをやったかもしれない(笑)。
鈴木 共演を重ねていくとわかるんですが、田辺さんってずっと何かを考えている時間があるんです。「一体どんなアイデアが生まれてくるんだろう?」と楽しみにしていたら、自分がどう想像してもたどり着かない答えを、バーンと出してくれる。そのたびにすごくワクワクするんです。
毛利 演劇を始めて間もない頃に田辺さんみたいな人と出会うとカルチャーショックを受けるでしょ。
鈴木 ふふふ、そうですね(笑)。
田辺 拡樹くんは長い間第一線で活躍し続けているじゃない? 俳優としていろいろな現場を経験する中で、「あのとき、田辺がやっていたことはどうもおかしいぞ」と思うこともあったでしょ?(笑)
鈴木 いやいや、僕はずっと田辺さん肯定派ですよ(笑)。「最遊記歌劇伝」が始動したころは僕や(椎名)鯛造くんたちもまだキャリアが浅かったので、若さゆえに座組全体の雰囲気が少し固かったと思うんです。でも、田辺さんや先輩方から良い刺激を受けたことによってやりやすくなった部分が大きいですし、座組のためにも必要な要素だったと思います。
高みを目指し続ける俳優・鈴木拡樹
──少年社中と鈴木さんは15年来のお付き合いになりますが、改めて、田辺さんと毛利さんから見た、鈴木さんの俳優としての魅力を教えてください。
田辺 今、拡樹くんが自分について話してくれたことと真逆になるんだけど、拡樹くんは台本を真っすぐに読んで、ト書き通りに真っすぐ演じられる力がある。それってとても難しいことなんだよね。まだそんなにしっくり来てはいないけど、まずはト書きの通りに動いてみようとする俳優さんってけっこういると思うんだよ。でも、それだと周りの人にバレてしまう。拡樹くんは台本に書かれていることと、自分の生理を一致させる作業が本当に上手。心から「自分はこうしたい!」と思って動いているように見せるのは決して簡単なことではないから。
鈴木 こんなに褒めてもらえるとうれしいですね……ありがとうございます。
毛利 昔、先輩方から「演劇というのは赤ん坊から人生をやり直すことだ」とよく言われたんです。板の上に立って、言葉をしゃべることを覚え、そこから成長して1人の人間──役者になっていく。拡樹が俳優としてよちよち歩きの頃から見ていた人間からすると、演劇に対してポジティブな姿勢を保ちながら、真っすぐに向かっていくところは最初からずっと変わらない。努力という言葉が適切なのかわからないけど、地道に努力を重ねている人だなって。人間ってある程度のレベルまで行くと、成長が止まると思うんですが、拡樹は今でもずっと高みを目指し続けている。これは本当にすごいことですよ。
鈴木 初めて演劇を観たとき、「一体どうやったらこういう世界を作ることができるんだろう?」と感じたんです。それに対する好奇心が尽きないから、俳優という職業を続けていられるのかもしれません。あとはやっぱり、自分の周りにいる先輩たちや後輩たちの存在が大きいですね。個性的な方々とお仕事をすることで、「この人のお芝居、素敵だな。よし、自分も試してみよう!」という気持ちになるので。
毛利 演劇を始めたときの初期衝動を維持できるのって素晴らしいことだと思う。誰でもできることじゃないからね。
鈴木 一つ思い当たる要因としては、取材で話を聞いていただく機会が多いからかもしれません。「俳優としての原点は?」「演劇とは?」「演劇の可能性とは?」と問われるたびに自分自身と向き合うことができたから、その都度初心に返ることができているんだと思います。
田辺 なるほど……まさに今回のような場をチャンスに変えているんだね。
鈴木 自分と同じように、周りの俳優たちもインタビューを通して演劇に対する思いを整理しているところがあるんじゃないかと思っていて。というのも、俳優仲間とご飯に行ったり飲みに行ったりしても、あまりお芝居の話をすることがないんですよ。後日、彼らのインタビューを読んで、「ああ、この人はこんなことを考えながらお芝居をしているんだな」と知ることが多い気がします。
毛利 その点、劇団だとメンバー同士で飲みに行って芝居の話をすることが多いよね。コロナもあって今は飲みに行けていないけど、そのぶん稽古場でじっくり話し合う時間が増えたかもしれない。
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田辺幸太郎は“予想をさせない達人”