三谷伸太朗が脚本、大山晃一郎が演出を手がける舞台「銭湯来人」は、東京都足立区五反野に実在する銭湯・若松湯が舞台。劇中では、若松湯の名物店主・山田湯隆と、その息子で“超”風呂嫌いな青年・山田来人を中心にした物語が、コメディタッチで展開する。頑固で江戸っ子気質な湯隆と折り合いが悪く、家業を継ぐつもりのなかった来人だったが、湯隆が突然倒れたことで若松湯の切り盛りをすることに。廃業が頭によぎる来人だったが、ひょんなことから35年前の、若くてイケイケだった頃の湯隆が現代に現れ……。
主人公のクールな現代っ子・来人を演じるのは、本格的な舞台出演は今回が初めてとなるOWVの中川勝就。若かりし頃の湯隆を、柾木玲弥が演じる。ナタリーでは、初共演にして“親子”役を務める2人に、インタビューを実施。インタビュー同日が初対面だった2人に、作品に向けた期待や、互いの印象を聞いた。
取材・文 / 櫻井美穂撮影 / 藤記美帆
出演の決め手は、お風呂が好きだから
──今回、テレビドラマ作品も多く手がけている三谷伸太朗さんが脚本、大山晃一郎さんが演出を手がけ、舞台「銭湯来人」を立ち上げます。主人公は、歴史ある銭湯・若松湯で生まれ育つも、“超”風呂嫌いな青年・山田来人。来人は、若松湯を切り盛りしている父親・湯隆と折り合いが悪いのですが、ある日、現代の湯隆と35年前の若かりし頃の湯隆が入れ替わってしまい……というファンタジックなストーリーです。今回、初舞台となる中川勝就さんが来人、柾木玲弥さんが若い頃の湯隆を演じますが、それぞれ本作へのオファーを引き受けた決め手を教えていただけますか。
柾木玲弥 僕は、演出が大山さんである、ということが決め手でした。大山さんが監督されたテレビドラマ作品に、何度か出演したことがあるのですが、彼はすごく信頼のできる方。まだ稽古も始まっていないので、今回どのような演出になるかは未知数ですが、またご一緒できるのが楽しみですね。
中川勝就 僕は普段、OWVというグループで活動しているのですが、舞台作品への出演を通して、僕個人としての表現の幅を広げたいという思いで引き受けました。そのほかの決め手は、“お風呂が好きだから”です(笑)。学生時代は、スーパー銭湯に通っていて。温かいお湯が好きなんですよね。
──現段階での、脚本を読んだ感想はいかがでしょうか。
中川 脚本は、前半部分の初稿を読ませていただいたのですが、とにかく、テンポが良くて楽しい! 体感時間が一瞬に感じるタイプの作品になりそうだな、と思いました。
柾木 (うなずきながら)読んでいるだけで、登場人物同士の、セリフのかけ合いの小気味良さが感じられました。石橋保さん演じる現代の湯隆が、僕演じる35年前の湯隆と入れ替わってしまうわけですが、現代の湯隆がどうしているのか、そして2人の湯隆は、それぞれ自分が生きていた時代に戻ることができるのか。実はそこが一番気になっています。後半を読むのが楽しみです(笑)。
中川 確かに、戻ってこられるのかな(笑)。僕が気になるのは、来人がどう変化するのか。物語の前半での来人は、若松湯を継ぐ気もないし、人生に悩んでいる状態ですが、それが突然現れた、若かりし頃の湯隆との出会いにより、どう変化していくのか……。お客さんも、ワクワクするところなんじゃないのかなと思っています。
役と自分の性格は真逆!
──お役についても聞かせてください。来人はクールな現代っ子で、中川さんと真逆の“超風呂嫌い”な役どころです。対して、柾木さん演じる若かりし頃の湯隆は、ちょっとバブリーな風を感じさせるイケイケな青年。天真爛漫な立ち居振る舞いで来人を翻弄します。
中川 僕は、今回が初舞台なので、どのように役作りをしていけばいいのかまだ悩んでいるのですが、“お風呂嫌い”なところも含めて、来人と僕とで性格は全く違いますね。僕は、クールさに欠けていますし……(笑)。でもだからこそ、普段僕のことを応援してくれる人たちが「勝就ってクールなところもあるんや」と感じてくれるように、がんばりたいです。
柾木 若かりし頃の湯隆は、確かにバブリーな感じで、チャラチャラしていますが(笑)、でも根本は現代の湯隆とあまり変わっていないと思うんです。昭和の人情を感じさせるというか、一本気がありますよね。
──裏表がなく、褒めるときもズバッと褒めるので、湯隆は作中でもモテています。
柾木 そういう裏表のないコミュニケーションの感じも、まっすぐでカッコいい。思えば、35年前って携帯電話もなくて、SNSで「今日会おうよ」って簡単にメッセージを送ることもできない時代じゃないですか。簡単に会えないからこそ、人と人とのつながりは今より強かったんじゃないかなって想像します。僕は、ガッツリ平成・令和を生きる人間なので(笑)、湯隆とは全く違いますね。……稽古中は役作りのために、携帯電話を解約しようかな。
中川 (笑)。
──作中には、来人と湯隆のほか、あやかんぬさん演じる、アイドル志望の来人の妹・千や、水原匡也さんと吉川巧巳さんがWキャストで演じる、来人の幼なじみで、家業の漬物屋を継ぐことに前向きな翔音、野口かおるさん演じる、家出中なのに家族が気になってしょうがない母親・恵美など、魅力的なキャラクターがたくさん出てきます。気になるキャラクターや、共演者の方はいらっしゃいますか。
中川 僕は、妹の千ですね。来人は、妹とも性格が全然違うので、かけ合いが楽しみです。お母さんの恵美も、キャラが濃いですよね。湯隆に対してかなりストレートに気持ちを伝えるので(笑)、読んでいて笑ってしまいました。
柾木 僕はやっぱり、石橋さん演じる現在の湯隆ですね。自分の未来を演じられるわけですから、石橋さんがどういうお芝居をされるのか、楽しみです。脚本には、共通点として“ほくろの場所が一緒”と書かれていますが、それ以外にも、ちょっとした動きの癖みたいなものを未来と過去で一致できたら面白いんじゃないかな、ってこっそり思っています(笑)。
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中川、クールな柾木に憧れの眼差し