橋本ロマンスとサエボーグが生み出す、ダンスと着ぐるみによる新作パフォーマンス「パワーチキン」 (2/2)

劇場という場を生かしつつ、劇場に収まらないものを

──今回、お二人は構成と演出を共同で担当されます。普段とはだいぶ作品との関わり方が違うのではないでしょうか?

サエボーグ そうですね。普段はお客さんとパフォーマーが同じ地平にいて、直接コミュニケーションを取る形でパフォーマンスするのですが、観客とパフォーマーの間にあるものを探っていくというものなので、動きの型が決まっていません。でも今回は客席と舞台を分け、お客さんをある意味客席に拘束して、ロマンスさんがきっちりと動きの魅せ方を考えているので、そこは全然違います。また今回は、劇場の特性を生かしつつ劇場の中で収まるものではないゴールを目指したいのですが、それはロマンスさんも同じ思いだと思います。

橋本 そうですね。今回はあえて劇場という場所でパフォーマンスとして見せることで、普段のサエさんのパフォーマンスとは違うものをお見せできたらと思っています。

──ちなみに今回新たに製作されるキャラクターは、パワーチキンのみでしょうか?

サエボーグ そうです。そのほか、これまで製作したキャラクターが出演しますが、私のキャラクターたちがこの規模で動いているところを観られるのは、東京では実は初めてなので、「動画やSNSで見たことはあるけれど、本物を見るのは初めて」という方も多いのではないかと思います。

「パワーチキン」チラシ表

「パワーチキン」チラシ表

橋本 そうそう、私が今回サエさんにオファーした理由の1つに、それもあります。私自身、サエさんの作品を東京で観たことがあまりなかったんですよね。この機会に、ぜひサエさんの作品をいろいろな方に観てほしいし、自分も観たいという思いがありました。

サエボーグ 私の作品には同じキャラクターが何度も登場しますが、実はその作品ごとに遊び方のルールを変えているので、同じキャラクターが出ているように見えても実は毎回、全然違う内容だったりします。今回も、キャラクターは同じでも見え方が全然変わると思います。

──またクリエーションが深まっていく中で、お互いに対して発見したことや意外に感じたことがあれば教えてください。

サエボーグ ロマンスさんとはけっこう年齢差があるのですが、私よりしっかりしてるなあと思いますね。

橋本 あははは! でも私たち、めっちゃ真面目で心配性なところが似ていると思います。約束の時間には基本的に15分前に着いているし、約束は守りたいし守ってほしいし……。ただサエさんって、ものすごく自分の作品への愛が強いんです。私は全体のバランサーになりがちなところがあり、自分の意見があっても提案する前にアイデアを取り下げちゃうところがよくあるんですけど、サエさんも、今回楽曲制作をしてくれているDJ TKDくんも「ここは譲りません」ということがすごくはっきりしていて、いいなって。そういうところを見て、私ももう少し自分の欲望に忠実になりたい、「すべき」よりも「したい」を優先したいと思ったんですよね。

サエボーグ 私は逆に、ロマンスさんがパフォーマーさんに細やかに気遣っている様子を見て、感じることが多いです。年齢を重ねるにつれてどうしても効率を重視しがちだけど、一見すると無駄に感じることであっても細やかさや繊細さは大事だし、アートなんてある意味、無駄の極地なわけですから、ロマンスさんの姿を見て自分の襟をちょっと正しています(笑)。

サエボーグ

サエボーグ

本作では“オープンさ”が重要

──今回、オーディションでメンバーを選出されました。過去のインタビューで橋本さんは、「踊りが上手い人ではなく、作品を必要としてる人をキャスティングしたい」とお話をされていましたが、今回はどういったことを基準にメンバーを選ばれたのでしょうか?

橋本 オーディションでは、まずお一人ずつ面談したのち、複数名で動いてもらいました。1曲目はビートが強い感じの曲に合わせて、「歩いてください」「テンポを上げてください」「隅に寄ってください」というように私がその場でディレクションして、それをどのくらい理解し、どのくらい周囲を意識して対応できるかを見ました。2曲目はご機嫌な感じの曲で、「動物になりきって、オーディション会場にいるスタッフや周囲の人に愛を与えに行ってください」というもの。2つのオーダーをしましたが、私たち2人が重視したのはどちらかというと2曲目のほうで、人にどのように近づいていけるのか、オープンさがあるかどうかという点でした。実際、着ぐるみも着ていない状態で動物になりきるのはけっこう難しい状況で、もしかしたらお互いに少し気まずさがあったかもしれないんですけれども……(笑)。

サエボーグ あははは! あれは、やっぱり勇気が必要ですよね。でもそこでさらけ出せる人に可能性を感じました。

橋本 他人への信頼度みたいなことがわかりますよね。警戒心みたいなものがあると、ただ“そのような動き”をしているようにしか見えないけれど、オープンな人だと交流が生まれる。でもそれを無理にやってもらう必要はなくて、もともとのキャラクターとしてオープンである人が、今作には向いてるなと思いました。

橋本ロマンス

橋本ロマンス

サエボーグ 特に私は自分のスーツを人に貸して、着せもするので、その人の身体に触れたりもしますし、どこか身体がつながるような感覚もあります。そういう意味でこちらも勇気が必要だし、パフォーマーの方にも勇気が必要だから、相性が良さそうな人がいいなと考えました。

橋本 また作品に登場するキャラクターは決まっているので、たとえば「牛っぽいな」と思う人が3人いたとしても、牛は1体しかいないから1人に絞らなければいけなかったり、6体で一緒に動くシーンがあるキャラクターは一緒に動いたときの見え方が大事だったり……。

サエボーグ さらに「この人は、性格的にこのキャラクターに向いている」っていう場合もあって。

──なるほど、サイズの問題だけでなく、キャラクターによって性格や内面がある程度決まっているんですね。

サエボーグ そうなんです。

橋本 一方で、「このキャラクターは身体でいろいろなことができる可能性があるな」と感じたら、身体の動きを見せてもらったりもしました。なので“なんとなくフィットしそうな15人を選ぶ”ということができず、悩みました。

左からサエボーグ、橋本ロマンス。

左からサエボーグ、橋本ロマンス。

モンスターという言葉が自分に返ってくるような作品に

──本作上演決定の際、橋本さんは「まさに実験室のようなこのプロジェクトから新たな『怪獣 / モンスター』が誕生する瞬間に、是非お立ち会い下さい」、サエボーグさんは「私たちの社会に偏在する情動的モンスターと立ち合い、オルタナティブな現実のあり方を探るための『怪獣劇』を目指します」と、お二人のコメントにそれぞれ、「モンスター」や「怪獣」というワードが入っていました。お二人は“モンスター”に対して、どんなイメージを持っていらっしゃいますか?

サエボーグ 私は恐怖心、ですね。恐怖って何かと言うと、「わからないこと」、「予測できないこと」だと思っていて、自分の中の恐怖をどう飼い慣らすか、どう克服できるかということを、この数年ずっと考えていました。自分の中にある不安はどんどん増幅され肥大化していくけれども、立場が変われば物の見方が変わることがある。なので、今をどう捉えればいいか、自分が今できるのはどんなことかを、ちょっとパワチキに聞いてみよう……今回はそんな気持ちです。

橋本 私にとってモンスターや怪獣は、目的やことわりが不明だったり、もしくはそれが脅威につながっている生き物と言えるかもしれません。パワチキも意味不明な生物に見えるかもしれないけれど、パワチキはあくまで家畜であり食用であるというふうに目的がはっきりしていて、計画的に作られたものです。一方で、道理が不明で脅威である生き物は、やっぱり人間だと思うんです。人間はなぜか人間を生き物に含めず考えてしまうけども、すべての生き物という目線で見たときに明らかに異質なのは、人間だと思います。

今回、私とサエさんが演出の部分でこだわっているのは、人間という存在を客席に座っているお客さんだけにしようということです。「舞台上のさまざまな生き物たちをただ座って見ている自分たちは、一体何なんだろう?」という問いが出てくるような作品にしたいなと。そしてモンスターや怪獣という言葉が、観ている自分たちに返ってくるような、そんな作品にできたらいいなと思っています。

左からサエボーグ、橋本ロマンス。

左からサエボーグ、橋本ロマンス。

プロフィール

橋本ロマンス(ハシモトロマンス)

1995年、東京都生まれ。they/them。演出家、振付家、キュレーター。自身の演出作品のほか、白井晃演出「2020」など演劇作品の振付も担う。受賞歴に「SICF20 PLAY」グランプリ(2019年)、「横浜 ダンスコレクション 2020」コンペティション II(新人振付家部門)・最優秀新人賞(2020年)、日本ダンスフォーラム賞(2022年)など。

サエボーグ

1981年、富山県生まれ。サエボーグは不完全なサイボーグ。⾃らの⽪膚の延⻑としてラテックス製のボディスーツを⾃作し、装着するパフォーマンスを展開。これまでに第17回岡本太郎現代芸術賞 岡本敏子賞(2014年)、TCAA 2022-24(Tokyo Contemporary Art Award)を受賞。