17年ぶりに“歌舞伎NEXT”としてよみがえる!「朧の森に棲む鬼」松本幸四郎・尾上松也・中島かずき・いのうえひでのり座談会 (2/2)

新たに加わる“宙乗り”演出、飛んでいく登場人物は……

──そして今回、新たに加わる演出が宙乗りです。

中島 これもまた、新しい解釈の宙乗りになりそうですよね?

中島かずき

中島かずき

──どういった場面で誰が飛ぶのでしょう?

いのうえ それは内緒ですよ! 大きな見せ場として楽しみにしてください。

松也 ……もしかして、彌十郎さんですか?

一同 (笑)。

いのうえ 彌十郎さんではありません! そこだけはネタバレしておきます!

いのうえひでのり

いのうえひでのり

新感線ならではの“ドラマのある立廻り”

──そして、いのうえ作品の醍醐味はやはりスピード感あふれるアクションや殺陣です。

幸四郎 4時間の芝居も後半になると「僕、そろそろ倒れてもいいよ。そんなに強くなくていいよ」って思ってしまうぐらい、体力的にキツいものがありますからね。

一同 (笑)。

松也 わかります、わかります。だからこそ終わった瞬間の達成感には、ほかでは味わえないものがあるんですよ。

いのうえ 「朧」は三つ巴の激しい戦いの後に本水の立廻りがやってくるから、覚悟しておいてください(笑)。

前列左から中島かずき、いのうえひでのり、後列左から尾上松也、松本幸四郎。

前列左から中島かずき、いのうえひでのり、後列左から尾上松也、松本幸四郎。

──激しいアクションだけではなく、新感線で培われた“ドラマのある立廻り”もご注目いただきたいですね。

いのうえ そう、アクション / 立廻りといえど、やはり芝居ですから。段取りが入るまでは大変だけど、そこが決まると俳優さんたちもグッと気持ちの体重が乗っていくんですよ。

中島 感情と感情のぶつかり合いが斬り合う場面なわけで、そのピークが立廻りの場面に来るように本自体も書いていますし……。

幸四郎 そうなんですよね。例えば刀を交える2人が、本当にやり合う気でいるのか、それとも片方は戦いたくないのか。それだけの違いでも太刀筋が変化するじゃないですか。つくづく殺陣は会話だと感じます。戦っている間も、しっかり物語は進行しているというか。

松本幸四郎

松本幸四郎

──新感線の殺陣は刀が重く見えますが、実際は軽いそうですね。

いのうえ そうです。技術としてはマイムに近いみたいですね。刀同士を当てないというのも特徴ですし。

──歌舞伎の立廻り同様、刀を当てないんですね。それでいてあのスピード感。華麗さと実際に斬り合っているようなリアリティがあります。

松也 新感線の殺陣で僕が好きなのは、「なんとなくこうしている」という箇所がないところなんです。こちらと相手の太刀筋の関わり合い、その原理がきちんと考えられている。アクション監督の川原(正嗣)さんが細かく教えてくださるのも勉強になります。

──殺陣とアクション両方のスタッフの創意工夫が詰まってますからね。

松也 そうなんです。あとはやはり、刀がぶつかり合うときの「カーンッ」という効果音がたまらないじゃないですか。歌舞伎には同じような手法で、附けがありますけど。

いのうえ 歌舞伎NEXTでは、効果音と歌舞伎の附け打ちがダブルで入りますし。欲張った結果「阿弖流為〈アテルイ〉」では附け打ちの方が腱鞘炎になっちゃったんだけど……あれはすごかったし、今回も効果的な表現を探りたいです。音楽に関しても、バンドと鳴物のミックスなど、より歌舞伎のファクターを加えようと構想しています。まあ、ご期待ください。

幸四郎 どれだけ自分の中の歌舞伎の引き出しを開けられるか、これは瞬発力の勝負でしょうね。

松也 絶対、歌舞伎の神様が大好物な世界観のはずですよ。「役者さえうまくやれば大成功間違いなしだ」と言われているようなものですから、座組み全員でいいアイデアを出したいです。歌舞伎NEXTの第三弾があるかはまだわかりませんが、「この後にやるのは大変だな」とプレッシャーを与えるような、思い切りハードルを上げる作品を目指したいです。

尾上松也

尾上松也

中島 まあ、ネタもの(笑いを前面に押し出した新感線の人気シリーズ)という手もあるから。

一同 (笑)。

松也 ハードルを上げ続けるのも大変ですから、次は一旦、笑いでブレイクを挟みましょうか(笑)。

中島 そうなると轟天(天才格闘家にして変態という橋本じゅんの当たり役)を歌舞伎チームなら誰がやるんだ!?みたいなね(笑)。

いのうえ いや、ネタものはネタものでものすごく大変なんだよ!

左から中島かずき、尾上松也、松本幸四郎、いのうえひでのり。

左から中島かずき、尾上松也、松本幸四郎、いのうえひでのり。

新橋演舞場&博多座の魅力は

──今後の動きにも注目デス。では最後に、新橋演舞場と博多座、両空間の魅力を教えてください。

いのうえ 新橋演舞場は、豪華なスペクタクルも見せられるけれどかしこまっていない、庶民性もある劇場じゃないですか。僕はそこが大好きですね。

幸四郎 スーパー歌舞伎が生まれたのも演舞場ですし、新しい表現を受け入れてくれる懐の深さみたいなものも感じますし。

松也 昨年は「新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』」で初めて演出もさせていただき、僕にとっても思い出が多い劇場ですね。

尾上松也

尾上松也

──では、博多座の魅力はいかがでしょう。

いのうえ 博多座はわざわざここを目指してくるお客さんもすごく多くて、演劇人も好きな劇場じゃない?

松也 劇場の周辺はおいしいお店だらけですしね。公演に合わせて、幸四郎さんとバレンタインイベントをしたこともあるんですよ。今回も2月ですから、何か企画したいですね。ぜひ皆さま、博多座にも旅行がてらいらしてください。

幸四郎 ……コロナ禍後、売店の試食がなくなったのはどうにかしてほしいですね。

松本幸四郎

松本幸四郎

松也 幸四郎さん、試食しないでしょう!?

幸四郎 花道からロビー通過する合間に……。

松也 え、するんですか?

幸四郎 します。

松也 (博多座の担当者に)来年2月、幸四郎さんのためにどうかご調整ください!

左から中島かずき、尾上松也、松本幸四郎、いのうえひでのり。「歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』」製作発表記者会見にて、招待されたオーディエンスとのやり取りから生まれた“鬼ポーズ”を披露している。

左から中島かずき、尾上松也、松本幸四郎、いのうえひでのり。「歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』」製作発表記者会見にて、招待されたオーディエンスとのやり取りから生まれた“鬼ポーズ”を披露している。

プロフィール

松本幸四郎(マツモトコウシロウ)

1973年生まれ。高麗屋。1979年に「侠客春雨傘」にて三代目松本金太郎を名乗り初舞台。1981年に「仮名手本忠臣蔵」七段目の大星力弥ほかで七代目市川染五郎を襲名。2018年に高麗屋三代襲名披露公演「壽 初春大歌舞伎」にて十代目松本幸四郎を襲名した。

尾上松也(オノエマツヤ)

1985年生まれ。音羽屋。六世尾上松助の長男。1990年に二代目尾上松也を名乗り初舞台。舞台作品・映像作品への出演のほか、2023年には「新作歌舞伎『刀剣乱舞』月刀剣縁桐」で演出にも挑戦した。

中島かずき(ナカシマカズキ)

劇作家・脚本家。1985年より座付き作家として劇団☆新感線に参加。以降、「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」などの作品を生み出す。2003年に「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞を受賞。

いのうえひでのり

1960年福岡県出身。1980年に劇団☆新感線を旗揚げ。以降、ドラマ性に富んだケレン味たっぷりの時代劇“いのうえ歌舞伎”、生バンドが舞台上で演奏する音楽を前面に出した“Rシリーズ”、いのうえ自身が作・演出を手がける笑いをふんだんに盛り込んだ“ネタもの”など、エンタテインメント性に富んだ多彩な作品群で人気を博す。第14回日本演劇協会賞、第9回千田是也賞、第57回芸術選奨文部科学大臣新人賞、第50回紀伊國屋演劇賞個人賞など受賞歴多数。