劇団☆新感線の座付き作家で、アニメの脚本家としても引っ張りだこの劇作家・脚本家の中島かずき。確かな構造の上に描かれる骨太な人間ドラマ、胸を打つ珠玉のセリフの数々は多くのファンを魅了してやまない。
数ある中島作品の中でも、2015年に上演された歌舞伎NEXT「阿弖流為」と、2019年5月に公開されたアニメ映画「プロメア」は、驚異的な人気を誇る作品だ。ステージナタリーでは、2月5日の「プロメア」Blu-ray / DVD発売、2月7日から13日のシネマ歌舞伎「阿弖流為〈アテルイ〉」リバイバル上映に向けて、中島のインタビューを実施。2作品に懸ける思いと、ファンの心を掴む極意について聞いた。
取材 / 熊井玲、鈴木俊介 文 / 熊井玲 撮影 / 金井尭子
「阿弖流為」と映画「プロメア」は想定を超えた作品
──2月5日にアニメ映画「プロメア」のBlu-ray / DVDが発売、2月7日から13日にはシネマ歌舞伎ファンのリクエスト投票1位を記念して「阿弖流為〈アテルイ〉」がリバイバル上映されるなど、中島かずきファンにとって朗報が続きます。2作品に対する中島さんの思いを、改めて伺えますか?
ホン書き冥利に尽きる、と言うんでしょうか。どちらも、自分が書いた脚本を演出家、監督、そして演者の皆さんがはるかに大きなものにしてくれた作品だなと思います。「阿弖流為」は、やっぱり歌舞伎俳優の底力を思い知らされたと言うか。中心にどっしりと(市川)染五郎さん、今の(松本)幸四郎さんがいて、隣には情に厚い(中村)勘九郎くん演じる坂上田村麻呂。そこに(中村)七之助くん演じる鈴鹿もいて……今になってみると、こんな豪華なキャストはもうそろわないんじゃないかなっていうくらいのキャストでしたよね。それと女方の力と言えばいいんでしょうか。七之助くんにしろ、御霊御前を演じた(市村)萬次郎さんにしろ、女方が演じることで“人外のもの”が舞台上に立ち現れるんだということを、実感しました。
──キャストで言えば、映画「プロメア」のキャストも非常に豪華でした。
そうですね。新感線の舞台に立っていただいたことがある松山ケンイチくん、早乙女太一くん、堺雅人くん、そして力のある声優さんたちが脇を固めてくれました。真ん中に役者さんが入ることによって、アニメとしてもちょっと異化効果があったと言うか、僕のセリフを発した経験があり、それを取り込んで演じてくれる人がアニメをやると、こちらが思っていた以上のものが画面に出たなと思います。そういう意味では「阿弖流為」も映画「プロメア」も、想定よりはるかに上の形になって、ホン書きとしては幸せです。
「阿弖流為」には歌舞伎俳優の底力を感じた
──「阿弖流為」は2002年に劇団☆新感線で「アテルイ」として市川染五郎(現・松本幸四郎)さんと堤真一さんのW主演で上演され、中島さんは同作で秋元松代賞、岸田國士戯曲賞を受賞されました。その後、2015年に歌舞伎版として上演されたわけですが、ご自身の代表作に改めて手を入れることについて、当時はどのようなお気持ちだったのでしょうか。
初演とは役者が変わるのでそれに合わせた直しが多く、そのことによって新たな発見があったという感じでしたね。新感線版では堤さんが田村麻呂を演じていたので、田村麻呂がある意味完成された人間像だった。でも歌舞伎版では、田村麻呂が阿弖流為より若い設定になったので、その違いをドラマで足していくような感じで。例えば鈴鹿と田村麻呂のシーンには世話物の気分を取り入れられたりしたので、物語がいいバランスになったなと思いますし、藤原稀継役の(坂東)彌十郎さんにしても、蛮甲役の(片岡)亀蔵さんにしても、本物の歌舞伎俳優さんの芸達者ぶりはよくわかっていますから、どうやって作品が立ち上がるのかなと。そういう意味では、歌舞伎にすることへの気負いというより、ワクワクのほうが多かったと思います。
──歌舞伎版では、新感線版以上に、群像劇としての色が強まったように感じました。
そうですね。脇のキャラクターをある意味わかりやすくしたという部分はあります。
──上演をご覧になって、印象的だったことはありますか。
初日は興奮して、「今までにないものが舞台で生まれているぞ!」という感覚になりました。蝦夷の神・荒覇吐が覚醒するシーンなんて、“この世にあらざるものが板の上にいる”という感じが顕現できていましたね。
──確かにあのシーンの七之助さんは、身体から妖気が立ち上がるような迫力に満ちていました。
台本上、確かに「神様になる」とは書いたけれど、振り返って顔を上げたときには神様でしたから! シネマ歌舞伎版ではあの美しさがアップで見られますし、この世のものではない存在だからこその魔性さ、神々しさを感じられると思います。もちろん萬次郎さん演じる御霊御前の美しさも(笑)。
──(笑)。作品としてはいのうえ歌舞伎版と歌舞伎版で登場人物の描かれ方や切り口はかなり異なるのに、観劇後に心に残る印象は不思議と近いものがありました。
書いていることは普遍的なことと言うか、その時々の世情を描いているわけではありませんし、根本にあるのはテーマよりドラマなんですよね。面白いのは、2002年の「アテルイ」では同時多発テロのあとだったということもあり、“復讐の連鎖”が戯曲のテーマにあったんですけど、2015年ではそれが人種差別、民族間抗争の問題へと展開していて。そのように時代は流れているのだ、と思いました。
──またタイトルロールを演じる幸四郎さんの年齢の変化が、そのまま役の奥行きにつながったように感じました。蝦夷の民を守ろうと戦う、若くて熱い頭領というイメージから、どっしりと腰を据えて状況を見据える、思慮深い蝦夷の族長というイメージに変化したことで、阿弖流為の内面の複雑さがストーリーにもそのまま反映されたのではないかなと。
それはありますね。新感線版ではアテルイが登場人物の中で一番若かったけれど、歌舞伎版では年上の設定になったので、田村麻呂と阿弖流為のポジションが変わったと思います。
──幸四郎さんと言えば、昨年はシネマ歌舞伎「女殺油地獄」が東京国際映画祭に出品されるなど注目を集めましたが(参照:シネマ歌舞伎「女殺油地獄」松本幸四郎インタビュー)、通常はタイミングを逃すと決して観られない舞台作品を、シネマ歌舞伎として観ることができるのは非常にうれしいです。
そうですね。例えば「プロメア」など、アニメで興味を持ってくれた人にも「阿弖流為」を観てもらうことができるし、そもそも「プロメア」は〈バーニッシュ〉のリオと〈バーニングレスキュー〉のガロという立場が異なる2人の男の関係が主軸にあって、新感線のファンが「プロメア」のファンに、「それなら『阿弖流為』を観てよ」って言ってたそうなんですね。ここにもう1つの「プロメア」がある、じゃないけど、リオとガロが響いた人なら阿弖流為と田村麻呂の関係性にも惹かれるんじゃないかと。だから今回、「プロメア」のBlu-ray / DVDと「阿弖流為」のリバイバル上映が同時期に展開されるのは、すごくいいタイミングだと思いますね。特にシネマ歌舞伎「阿弖流為」は、ゲキ×シネのチームが撮影に関わっていますから、よりゲキ×シネに近いテイストというか、芝居の迫力をよりスクリーンに置き換えることができる内容になっていると思います。
次のページ »
ファンが楽しみ方を見つけてくれた映画「プロメア」
2020年2月5日更新