中島かずきインタビュー「阿弖流為」から「プロメア」まで|自分がワクワクできないものは、人もワクワクさせられない

ファンが楽しみ方を見つけてくれた映画「プロメア」

──映画「プロメア」は、映画公開から8カ月が経った今なお人気が衰えず、1月18日にはイベント「プロメア LIVE INFERNO」(参照:「プロメア」佐倉綾音が絶叫演技!クレイになり切り「そーこーまーでーだー」)が開かれました。応援上映やトークショーを実施したこのイベントには中島さんも登壇されましたが、実際にファンの熱量を感じていかがでしたか?

映画「プロメア」より。ガロ。©TRIGGER・中島かずき/XFLAG

「プロメア」は本当にお客さんが見つけてくれた、育ててくれた作品だと思っています。昨年5月に公開された映画が、今年1月のイベントでも4000席満員にするって、ちょっとないと思いますよ!

──そうですね。中島さんは以前、ファンがいて空間が完成する応援上映は、舞台に似ているとおっしゃっていました。

ええ。以前、「アニメのライブってなんだろう」という話をアニメ雑誌の編集の方とお話したんですけど、それって応援上映なんじゃないかなと思っていて。で、先日「LIVE INFERNO」を見ていて、まさにそうだなと実感しました。例えばロックコンサートでアーティストとファンのコール&レスポンスとか、みんなでサビを歌うとか、そういう楽しみ方がアニメで成立するんだなと。もちろん「キンプリ」のように応援上映前提で作られる作品もありますが、映画「プロメア」に関しては一切そういうことを想定していませんでしたし、お客さんのほうが作品への参加の仕方を見付けてくれたと言う感じでしたね。

──このようなヒットは想定していましたか?

いや、想定外でした。途中から「どこまでいけるんだろう」とは思いましたし、仲間内で「Blu-ray / DVDの発売までは映画館でかかっていてほしいね」と言ってはいましたが、それは叶いそう。今は5月まで、1年間かかってくれればいいなって(笑)。

──先ほども話題に上がりましたが、映画「プロメア」のキャストについて改めて伺わせてください。〈バーニングレスキュー〉のガロ・ティモス役を松山ケンイチさん、〈マッドバーニッシュ〉のリオ・フォーティア役を早乙女太一さん、〈フォーサイト財団〉のクレイ・フォーサイト役を堺雅人さんと、メインキャストを新感線の出演経験者が演じられたことでも話題となりました。このお三方は、中島さんの第一希望が通ったものだそうですね(参照:映画「プロメア」特集 今石洋之(監督)×中島かずき(脚本)インタビュー&TRIGGER潜入レポート)。

映画「プロメア」より。手前からガロ、リオ。©TRIGGER・中島かずき/XFLAG映画「プロメア」より。クレイ(中央)。©TRIGGER・中島かずき/XFLAG

ガロとリオに関しては、「プロメア」の脚本を書きながら「ふたがしら」(編集注:オノ・ナツメのマンガを原作に、2016年にテレビドラマ化された作品。脚本を中島が手がけた)の弁蔵と宗次を思い出して、「ああ、ガロとリオを松山くんと太一くんが演じてくれたら面白いだろうな」と思って。加えて、クレイは堺くんがやってくれたらすごく面白そうだと思ったので、キャスティングの際に提案させてもらったんです。で、実際に声をあててもらったら、松山くんにしろ太一くんにしろ、「あのキャラクターからこの声が!」って、最初はちょっと意外に感じたんですけど、見事にハマっていましたね。堺くんに至っては規格外(笑)。中盤であそこまでテンションを上げてしまって、このあとどうするんだろうって僕でも思いましたから(笑)。

──(笑)。確かに声の張り方、熱の入り方に驚きました。

ですよね。でも3人共、ふっと力を抜いたときに芝居のうまさを感じましたし、舞台の稽古のような感じで収録できたので、それぞれ相手のドライブを受けてキャッチボールしながらテンションが上がっていく感じが見えて楽しかったです。それと「LIVE INFERNO」で面白かったのは、舞台で流れている本編映像の音を控え室で聞いていたとき、声だけ聞いていると堺くんの声であり太一くんの声だなって思うんですけど、映像として観るとちゃんとそのキャラクターの声として聞こえたんですね。つまり声を通して彼らは、ちゃんとお芝居をしてるんだなと。その感覚は少し不思議でした。

──Blu-ray / DVD化されることで改めてファンの方に観てほしいところはありますか?

監督の今石(洋之)さんたちが丁寧にひと場面ずつ凝って、色彩にもこだわって作った作品ですので、ご自宅でぜひよく観ていただきたいです。

──中島さんは以前インタビューで、舞台でもアニメでも、脚本の書き方を変えないとおっしゃっていました。書き手として、それぞれの媒体の面白さはどんなところに感じていますか?

映画「プロメア」より。リオ。©TRIGGER・中島かずき/XFLAG映画「プロメア」より。クレイ。©TRIGGER・中島かずき/XFLAG

舞台は基本的に自分が書いたままの台本を俳優さんがダイレクトに言ってくれるので、脚本と俳優さんの距離が近いですね。アニメの場合は制作工程がいろいろあって、例えば絵コンテになる段階で脚本が変更になることもある。ただアニメは、舞台のように制限がないので、タガを外して自由に書けるよさがあります。例えば炎をちぎって剣にする、っていうようなSF的な大きな嘘を描こうと思ったらアニメのほうが表現できるだろうし、逆に舞台は面白いセリフや表情のニュアンスがそのまま出せるという面白さがあります。

──映画「プロメア」のファンに「阿弖流為」の魅力を伝えるとしたらどんなところでしょうか?

「プロメア」でガロとリオ、クレイの関係性に刺さった人がいたら、ぜひ「阿弖流為」をご覧ください。「阿弖流為」では、阿弖流為と田村麻呂、鈴鹿の関係性が面白いですし、どちらも同じ人間が書いてますので(笑)、根っこにあるものはあまり変わらないと思います。とにかく歌舞伎俳優の底力を思い知ることができる、観て損はない作品なので! 舞台としても、新感線のスタッフが関わっていますし、言葉も衣装も現代的で、歌舞伎ではありますが、観やすいと思います。

舞台とアニメ、執筆のきっかけは異なる?

中島かずき

──今年も中島さんは、「偽義経冥界歌」「新・陽だまりの樹」「神州無頼街」と舞台が3本、アニメは「BNA ビー・エヌ・エー」「バック・アロウ」の2本と、多くの作品を発表されます。その途切れない創作意欲はどこから……。

いや、それはもう途切れない締め切りがあるからです!(笑)

──(笑)。作品は、同時進行で書かれるのですか?

並行して考えてはいますが、書くのは1本ずつ、順番に書いていますね。切り替えという意味では、僕はテーマではなくドラマを書いているので、このキャストでどういうお芝居を書くと面白いか、どれだけ生き生きとしたやり取りが作れるか、から発想していくんですね。もちろん描こうとしていることの主軸みたいなことはあって、そこからブレてはいけないと思っているし、自分が間違っていると思ったことだけは書きたくない、と思ってはいますが。

──例えば「阿弖流為」や「髑髏城の七人」のように、ある完成された作品から別バージョンを生み出すときは、新たな作品として書かれるのですか、それとも改編という意識で書かれますか?

そこもキャスティングによるんですよね。「このキャストだったらどうするか」を毎回考えるので、例えば若い座組であれば“若気の至りで間違いを犯して……”というようなドラマを思いつくし、天海祐希さんが主演となれば、極楽太夫を主人公にした「髑髏城」にしてみよう、とか。「阿弖流為」で言えば、勘九郎くんが演じるなら若くて完成されていない田村麻呂にしよう、七之助くんの鈴鹿なら神秘性が必要だなという感じで、毎回役者がいるからプランが出てくるんです。

──今のお話を伺うと、キャストがイメージの発端になる舞台と、キャスティングより脚本先行のアニメでは、脚本執筆の発端が異なりますね。

あ、そうですね。確かに舞台はキャストありきだけど、そういう意味でアニメは、テーマありきかもしれません。最初のとっかかりは確かに違いますね。

──また、いのうえひでのりさんはよく、演出のイメージがビジュアルから浮かぶとおっしゃっていますが、中島さんは執筆のアイデアがどういう形で浮かび上がりますか?

突破する瞬間は、シーンの会話の流れが浮かぶときです。登場人物がやり取りしてる画が、パーッと浮かぶんです。その会話が「見えた!」と思う瞬間があって。例えば「キルラキル」のときは、それが後半に出てくる“わけのわからないもの”という言葉だった。縫が「自分には友達がいるなんて、反吐が出るようなこといわないでね」と言ったのに対して、流子が「友達なんて言葉じゃおさまらねえ。もっと“わけのわかんねえもの”がいるんだよ」と答える、あそこです。このやり取りが思い浮かんだとき、それまでぼんやりと考えていた“多様性の肯定”というイメージがハマって、2話くらい先までのイメージがバーっとつながり、「早く書きたい!」と思いました。「阿弖流為」のときは「それは神の都合だ」というセリフですね。

中島かずき

──では映画「プロメア」は?

「プロメア」は、「度しがたいな、このバカは」……ではない!(笑) 「プロメア」の場合は、“燃えて消す”というアイデアが思いついていたので、クライマックスでも燃えて消そう、というイメージで書きました。ただ、書きながらどんどんアイデアが思いつくこともあって、「プロメア」後半のクレイのセリフなんかは、ほとんど手先で書いていました。

──近年、2.5次元ミュージカルなどアニメと舞台の距離はどんどん近づいています。中島さんはその状況をどのようにご覧になっていますか?

まあ、新感線は若い頃からアニメやマンガを舞台化してて、「犬夜叉」を一番最初に舞台化したのは新感線ですし、そういう意味では「活動初期からやってましたよね」という感じです。ただ、今の新感線はもっと違うところに来ていると思っていますが。

──中島さんのアニメ作品を今後舞台化する、というようなことは……?

それはどうだろうなあ。新感線ですでにそういうことをやっているから、アニメに向けて書いた脚本を舞台化することに僕自身はあまり興味がないし、逆に2.5次元舞台にするんだったら、僕はかなりうるさいと思うんですよ。舞台は自分の本丸ですからね。迂闊なものじゃ許せないだろうな、と(笑)。

──(笑)。最後に、これだけ多くの作品を生み出しつつ、そのすべてでファンの心を掴み続ける極意について、ぜひ伺いたいです。

多くのお客さんに楽しんでもらいたいとは思っていますけれど、でも自分が書くときに何を物差しにしているかって言うと、結局はお客としての自分なんですよね。お客としての自分はかなり好みが偏っていてうるさいと思うんですけど(笑)、その自分がワクワクできないものは、やっぱり人をワクワクさせられないだろうと。だから毎回、自分がワクワクするところまで到達しないと書けないし、「これは面白い」って思うものだけ書いています。それしかないかなと思いますね。

中島かずき

※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。


2020年2月5日更新