OSK日本歌劇団×サクラ大戦 座談会|歌劇版「海神別荘」とナイトレビューの真相に迫る!

2018年11月の新開場以来、次々と新たな試みに挑んでいる京都・南座が、7月は、大阪を拠点に活動するOSK日本歌劇団と、歌劇団をモチーフにした人気ゲーム「サクラ大戦」のコラボレート作品「OSK SAKURA REVUE」「OSK SAKURA NIGHT」を上演する。昼間に上演される「OSK SAKURA REVUE」では、「サクラ大戦歌謡ショウ 五周年記念公演」で上演された「海神別荘」の“歌劇版”と、19年3月から4月にかけて上演された「レビュー春のおどり」より「STORM of APPLAUSE」を披露。毎夜19:30開演の新作ナイトショー「OSK SAKURA NIGHT」では、OSKのメンバーと「サクラ大戦」のキャストが歌と踊りを繰り広げる。

本特集では、5月に行われた記者会見で「初めてレビューを観た2歳くらいから、ずっとレビューが好きだった」と明かした広井王子をはじめ(参照:OSK日本歌劇団とサクラ大戦が共演!横山智佐「大変興奮しております」)、OSKより桐生麻耶、楊琳、舞美りら、「サクラ大戦」で真宮寺さくら役を演じる横山智佐が、この異色の共演について思いを語っている。

取材・文 / 熊井玲 撮影 / 堀川高志

「サクラ大戦」とは?

1996年にセガからセガサターン用ソフトとして発売された、広井王子が総合プロデュースを務める人気ゲーム。のちにアニメや舞台などメディアミックス作品として発展した。“太正時代”を舞台に、帝都・東京を守るため特殊部隊の帝国華撃団・花組が奮闘する様を描く。なお97年に始まった「歌謡ショウ」シリーズでは、花組隊員を演じる声優たちが実際に舞台に出演し、歌や芝居、ダンスを披露。2006年まで定期的に公演を行っていた。ヒロインの真宮寺さくら役を、横山智佐が演じている。

「海神別荘」を“本物”とやれることがうれしい

──まずは「OSK SAKURA REVUE」より「歌劇 海神別荘」について、作・演出を手がけられた広井王子さん、ご出演の桐生麻耶さん、楊琳さんにお話を伺います。「海神別荘」は2001年に「サクラ大戦歌謡ショウ」の5周年記念公演として上演された作品ですが、今回広井さんは新たに“歌劇版”として書き直されたそうですね。どのように“歌劇版”にしていかれたのでしょう?

広井王子

広井王子 泉鏡花の原作にもう一度当たり直して、「サクラ大戦」でやったものをどうブラッシュアップしていくか、行ったり来たりしながら作り直しました。「サクラ大戦」で足りないと思った部分に手入れしていく感じですね。

──具体的にはどういった部分でしょうか?

広井 主に歌と踊りですね。そこがOSKだと頼れるんですよ。「サクラ」では、どうしても声優さんのスケジュールの都合で、そんなに長く稽古時間が取れないし、だから歌と踊りを増やすことができなかった。バックダンサーもそんなにたくさんは使えませんからね。となると、「本当の歌劇団だったらもっとこうなんじゃないか」と思うところが、僕としてはずっとあったんです。それが今回、“本物”とやれることがとてもうれしい(笑)。それと、最後の「すべては海へ」というナンバーにはとても思い入れがありまして、実は鏡花の原作にはあのセリフはなくて、僕が(作品を)解釈して作った歌なんですね。あの歌で締められたらいいなと思っていて、振付の(麻吹)梨乃さんともそのシーンをどう見せようか、今相談しているところです。

──ご出演のお二人は、「海神別荘」という作品にどんな印象をお持ちですか? 会見では「難解だ」とおっしゃっていましたが……。

桐生麻耶

桐生麻耶 確かに難解です。でも人間が作っている作品ですから、どこかに通じるところがあると思いますし、何よりとても美しい世界だと思いますね。その世界観は、稽古の中で練り上げていきたいなと。

楊琳 一見すると、ちょっと言葉が難しくて、よくわからないところがあります。

広井 そうなんです。だから今回は、セリフを音楽のように歌いたいと思っています。歌舞伎では玉三郎さんが演じていらっしゃいますが、歌舞伎には歌舞伎の所作があり、その所作を通じて見えるものがたくさんありますし、OSKにはOSKの所作、スタイルがあって、僕はそれが踊りだと思うんです。踊りによって、セリフ以上に意味が伝わるということがあると思うので、違うアプローチができるのではないかなと。それに「海神別荘」って、OSKに向いてると思うんです。鏡花作品の中でも一番ファンタジックで、メインが男性の役なので。

──毎回、挑戦のハードルを高く掲げているOSKですが、今回はさらに大きなチャレンジとなりそうです。

桐生 本当にそうですね。「『海神別荘』をやる」と決まったとき、稽古場がざわつきましたから(笑)。

一同 あははは!

桐生 ただその高いハードルにみんなで挑戦できる喜びがありますし、城月れいをはじめ、うちの劇団員にも声優さんが大好きな子がいるので、今回のコラボレーションにとてもテンションが上がっていて(笑)、こんな機会はなかなかないことなのでうれしいです。

──「サクラ大戦」ファンにとっては、「サクラ大戦」版と今回のOSK版との相違点が気になるのではないかと思います。

左から広井王子、桐生麻耶。

広井 演劇史的な話になっちゃうけど、かつて少女歌劇団が40、50団体もいたような時代があり、それから戦後まで生き残ったのが、OSKほか数団体あって。戦前に歌劇団が流行ったのは、歌舞伎や新派、新国劇のような本流がある中でのカウンターカルチャーだったからだと思うんです。でも最近はそれが揺らいできていて、例えば本来カウンターであるはずの2.5次元ミュージカルが、NHKの紅白歌合戦に出るというような“逆転”が起こっているわけです。つまり僕がやってきたような世界が本流になり、本流がアニメ原作の舞台をやったりするようになっている。それはすごく怖い。だって本流がカウンターを本気でやったら、僕らはバラバラにされそうだから(笑)……というような状況の中で、OSKが泉鏡花の作品をやるのは、大きなカウンターになるのではないかなと思います。「なんだこれは」って思った新しいお客さんも、「今こんなことをやってるんだ」と思った往年のお客さんも、ぜひ観に来てくださったらと思います。また20年前、「サクラ大戦歌謡ショウ」を観ていたお客さんには、ようやく本物のレビューを見せることができると思っていて。「サクラ」のお客さんには、ぜひ「海神別荘」から「SAKURA NIGHT」まですべて観てほしいですね。

「海神別荘」を通じて、新たなOSKの魅力を

──OSKにとっては、3月に上演され好評だった踊り満載の「レビュー春のおどり」と、まったく違うカラーの作品になりますね。

桐生 「レビュー春のおどり」は本当にエネルギッシュで、「今からスタートだ!」というムードに包まれていた作品だったんですけど、今回、1部の「海神別荘」は完全にお笑いなしなので、私自身の(三枚目的な)キャラクターは封印されるわけです(笑)。

一同 あははは!

桐生 これまで王子とか貴公士といった類の役は、「遠慮被りたい」と思っていたんですけど(笑)、ここまでスパッと潔く封印されてしまうと、かえって吹っ切れると言いますか、それによってまた新たなOSKの魅力が引き出せるはずですし、だからこそ今、出会えた作品なんだろうなと思います。

楊琳

 時代は流れるんだなあと思っていて、南座さんが新開場して、久々に南座さんにOSKが出演させていただくときにこんな新しいことができて……OSKにとっても、100周年へ向けた大事なステップになると思います。なので、「やってよかったね」「またやろうね」と言えるように、成功しか考えないでがんばります!

──広井さんは前回の「レビュー春のおどり」をご覧になったそうですが、桐生さん、楊さんの舞台姿をどうご覧になりましたか?

広井 お二人は男役のスタイルが違いますね。桐生さんには圧倒的な男らしさがあり、楊さんは歌舞伎で言うところの色悪というか、優男っぽい感じがする。義侠心を持ったまっすぐな男を桐生さんがやるとカッコいいだろうな、だから今回の海の公子役は“任”だと思いますよ。

南座新開場記念「OSK SAKURA REVUE」
2019年7月13日(土)~25日(木)
京都府 南座
第1部「歌劇 海神別荘」

原作:泉鏡花

作・構成:広井王子

演出・振付:麻咲梨乃

楽曲協力:サクラ大戦より

スタッフ / キャスト

海の公子:桐生麻耶

僧都:楊琳

博士:虹架路万

黒潮騎士団・団長:愛瀬光

女房:白藤麗華

陸の美女:城月れい

ほか

第2部「STORM of APPLAUSE」

作・演出・振付:平澤智

出演:桐生麻耶、楊琳、虹架路万、舞美りら、愛瀬光、華月奏、翼和希、千咲えみ、白藤麗華、遥花ここ、城月れい ほか

「OSK SAKURA NIGHT」
2019年7月13日(土)~24日(水)
京都府 南座

作・構成:広井王子

演出・振付:麻咲梨乃

出演

OSK日本歌劇団:舞美りら、翼和希、千咲えみ / 楊琳(特別出演)

「サクラ大戦」より:横山智佐、園岡新太郎、西村陽一、Velo武田、内田直哉、螢雪次朗

日替わりゲスト:高乃麗(13~16日)、井上喜久子(17・20日)、日髙のり子(18日)、田中真弓(19日)

広井王子(ヒロイオウジ)
1954年生まれ。コミック、アニメ、テレビゲーム、舞台などを手がけるクリエイター。金沢工業大学客員教授。レッドカンパニー(現レッド・エンタテインメント)を立ち上げ、「天外魔境シリーズ」などヒットを生み出す。近年ではネクスト・メディア・アニメーションCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)に就任するなど海外でも活動。2017年に自身初の原作テレビドラマ「コード・ネーム・ミラージュ」が放映された。同年秋より原作企画プロデュースを務めたSNG「ソラとウミのアイダ」が配信されている。主な作品に「サクラ大戦シリーズ」「魔神英雄伝ワタルシリーズ」など。
桐生麻耶(キリュウアサヤ)
5月11日生まれ、栃木県出身。175cmの長身と繊細な演技、ダイナミックな歌とダンスが目を引く男役スター。1995年に日本歌劇学校に入学、97年にOSK日本歌劇団に入団する。2003年に劇団解散の危機に見舞われた際は、OSK存続の会メンバーとして自らも街頭で署名活動を行った。近年の主な主演作に「カンタレラ2016~愛と裏切りの毒薬~」(16年)、「巴里のアメリカ人」(18年)など。19年3・4月に「レビュー春のおどり」にてトップスター披露公演を行なった。
楊琳(ヤンリン)
8月7日生まれ、神奈川県出身。2007年にNewOSK日本歌劇団(当時)に入団。ダンス力に定評があり、華やかさと爽やかさを併せ持つ男役として人気を博す。近年の主演作に「Sparking OSK」(13年)、「SOL FANTASTICA」(14年)、「ROMEO&JULIET」(16年)、「新撰組」(19年)など。
舞美りら(マイミリラ)
7月28日生まれ、京都府出身。2010年にOSK日本歌劇団に入団。愛くるしさと強さを持った可憐な娘役としてさまざまな大役を演じている。近年の主な出演作に「開演ベルは殺しの後に~刑事X 華麗なる事件簿~」「プリメール王国物語~愛の奇蹟~」(14年)、「ROMEO&JULIET」(16年)など。
横山智佐(ヨコヤマチサ)
12月20日生まれ。1987年に声優デビューし、96年に「サクラ大戦」のヒロイン・真宮寺さくらを演じて一躍注目を集める。また声優が実際に舞台で演じる「サクラ大戦歌謡ショウ」シリーズで女優としても人気を博した。そのほかの主な声優での出演作に「ノンタンといっしょ」うさぎさん、「新機動戦記ガンダムW」ルクレツィア・ノイン、「HUNTER×HUNTER」ビスケット=クルーガーなど。