お三輪と鱶七は、バトンを渡し合う関係

──金殿は、嫉妬心から“疑着の相”に至ったお三輪を、入鹿討伐のために鱶七が刺し殺すクライマックスが見どころの1つです。

米吉　今回は「妹背山婦女庭訓」出演のコンビということで、対談はこの2人になったと思うんですけど、お三輪と鱶七は、息をぴったり合わせるような役じゃないんですよね。じゃあ何かと言うと、僕らは「三笠山御殿」という芝居をつないでいく、バトンを渡し合う関係だと思っています。僕が出てくるまでは、彼に舞台を任せるしかないし、そこでバトンをもらったら、次に鱶七が出てくるまで、お三輪の心情で芝居をつないでいかないといけない。そして最後にバトンタッチをして、福之助くんに派手にお芝居を終わらせてもらうわけです。……お三輪は消し幕によって消えるんですからね。

一同　（笑）。

福之助　僕、小さい頃に初めて金殿を観たとき「え!? この人主役なのに、こう消えるの!?」って衝撃でした（笑）。

米吉　でも、消し幕で消えるからこそ、僕はお三輪が良い役だと思うの。……話を戻すと、バトンを渡し合って、どんどん物語を盛り上げていく関係だからこそ、息を合わせる相手役よりも、本当にお互いを信頼し合わないといけないんです。息を合わせるお芝居なら、お互いに助け合ったり、補い合ったりできるけど、この芝居だとそれができないから。

福之助　そうですね。「次に渡すためにも、絶対に自分の場で失敗できない」という緊張感があります。

米吉　福之助くんの鱶七の入りに対して、「この芝居を受けて、自分はお三輪で出てくるんだ……」と良い意味でのプレッシャーがほしいですし、僕もそのプレッシャーを与えたい。バトンを渡し合うごとに、お芝居が盛り上がっていって、クライマックスを迎える……という金殿にしたいですよね。

「伊勢音頭」のお紺は“大人”、喜助は気の良い役

──「伊勢音頭」でも、お二人はそれぞれ、ヒロインのお紺と、貢の味方である料理人・喜助を初役で勤めます。

米吉　今回は仁左衛門のおじさまの監修ということで、本当にありがたいことです。お紺は立女形の役ですから、昼夜でそういった大きなお役をやらせていただけるのはありがたいですし、お三輪とお紺はまったく違うタイプの役なので、演じるのも楽しみです。お紺は、貢にとっての重石にならないといけないような役で、“大人のお芝居”が必要。貢役の虎之介くんより年上だからといって、“大人”になれるかどうかは別ですからね。福之助くんが演じる喜助は……気の良い役だよねえ。

福之助　すごく気の良い役です。喜助は、“この役が良くないと芝居が締まらない”ような役。喜助も父に習おうと思っています。今回の「三月花形歌舞伎」では、父親から役を教えてもらえるのがうれしいですね。父は常に「教えてあげるよ」とは言ってくれるんですけど、僕が役をもらえないと教えてはもらえないので。

──虎之介さんも、貢を初役で勤めます。

米吉　今回の「三月花形歌舞伎」のメンバーが発表されたとき、僕は正直、虎之介くんは立役と女方のどっちだろう、って思っていたんです。虎之介くんは、どっちもできる人だから。「伊勢音頭」の貢ということで、びっくりはしましたが、虎之介くんが目指している役の方向性の中でも、一番良い演目だと思います。「伊勢音頭」は、バトンを渡し合う金殿とは違って、みんなで作り上げていくお芝居。チームワーク良く、呼吸を合わせながら作っていきたいですね。

福之助　虎ちゃんは、ずっと「伊勢音頭」をやりたいと言ってたので、その念願がかなったことや、そんな記念すべきタイミングで喜助役でご一緒できるのもうれしいですね。

──そして、松プログラム・桜プログラム共に壱太郎さんの「お染の五役」が上演されます。

福之助　壱太郎さんの、「お染の五役」での5役×5役は、本当に迫力がありますよね。

米吉　昼夜で10役ですからね。壱太郎さんは「お染の五役」だけじゃなくって、「妹背山婦女庭訓」「伊勢音頭」と、すべての演目に出ていますから。本当に大変なことですよ。

走り続ける壱太郎、個性的な虎之介

──今回は新チームになりますが、ここにはいない壱太郎さんと虎之介さんの印象をお聞かせください。

米吉　壱太郎さんは、僕にとって一番身近な先輩。僕が子供の頃、初めて子役同士で一緒に舞台に出た先輩が壱太郎さんでした。近しい間柄ではありますが、我々世代のトップランナーで、誰よりも早く大きな役をやり、誰よりも早く上の世代の先輩方の相手役を勤めていることに、すごみを感じ続けています。そんな兄さんがリーダーとして引っ張ってくれたからこそ、「三月花形歌舞伎」は今回で5回目を迎えられたと思っています。あとは、ゆっくり休むことだけを覚えていただきたいですね（笑）。いつもマグロのように泳ぎ続けているので……。

一同　（笑）。

福之助　壱太郎さんの印象は……。

米吉　声が高い？

福之助　声は高いです（笑）。「（高音で）おはよう！」ってお部屋に入ってこられますよね。あと、米吉さんもさっきおっしゃってましたが、常にお忙しそう。この間「電話できる？」って連絡が来て折り返したら、「ハンズフリーなんだけど、ごめんね！」って。

米吉　1日が24時間じゃ足りない人なの。でもそんな忙しい中で、僕たちに思いを届けようとしてくれて、本当に良い人だよね。

福之助　めちゃくちゃ良い人です。本当に、何事も手を抜いちゃいけないんだぞ、ということを教えてくれる先輩ですね。

──虎之介さんは、米吉さんの印象について、真っ直ぐな瞳で「可愛い、好きだ」とおっしゃっていました。

米吉　そうですか（笑）。虎之介くんは、本当に個性的な子ですよね。お芝居を観るたびに、演技の雰囲気が変わっていて。（「対面」の小林）朝比奈をやっていると思ったら、（「天守物語」の姫川）図書之助をやっていて、そうかと思ったら、女方として出てくるし。できる役の幅が広いし、どの役を観ていても、虎之介くんの個性が埋没していない。あと、演目の解説での輝きがすさまじい（笑）。あれも、彼ならではの才能だと思うし、これからの時代にすごく必要とされる人だと思う。

福之助　虎ちゃんは、同級生ではありますが、ずっと僕の1歩前を歩いているイメージがあります。ただ育ってきた場所が違うし、芸風も違うから、役を取り合うような存在ではなくて。「三月花形歌舞伎」は、若手がWキャストで大役に挑戦することが多かったですが、今回はその形式じゃないのって、僕と虎ちゃんのできる役柄が違いすぎるというのもあるんじゃないかな。そういう関係だからこそ、お互いに高め合っていきたい存在ですね。

──今回の新チームでは、どのようなチームワークを発揮しそうですか。

米吉　この座組の場合は、壱太郎さんがリーダーシップを取ってくれていることが大きいよね。

福之助　僕と虎ちゃんからすると、やっぱり壱太郎さんと米吉さんがお二人でいてくださることが、本当にありがたいですね。壱さんは、たまに勢いが良すぎて、何を言ってるのかわからないんですけど、その意図を米吉さんが説明してくださる……。

米吉　僕は通訳ですか。

一同　（笑）。

福之助　僕はとにかく、「三月花形歌舞伎」を楽しい思い出にしたいので、虎ちゃんと「そのためにもしっかり準備をして挑みたいね」と話しています。

米吉　そうだね。虎ちゃんとムネちゃんには、そのきらめく若さをいかようにも発揮してほしいですし、僕と壱太郎さんは、この2人の熱い若さに負けないようにがんばる……というチームにできたら良いですよね。どうぞお楽しみに！