可愛い後輩・福之助は“繊細”?
──米吉さんと福之助さんは、昨年は「ヤマトタケル」でご一緒されていました。米吉さんがステージナタリーで連載している「中村米吉の#カワイイは世界を救う?」に、福之助さんは2回にわたり登場していますね。
中村米吉 福之助くんは、もちろんカワイイ後輩の1人ですけど、ご一緒するようになったのは、ここ最近だよね。子役時代も、福之助くんは中村座や「納涼歌舞伎」とか、父や僕が出演しない公演に出ていたイメージがある。
中村福之助 そうですね。僕がしっかり舞台に出るようになったのは、2016年に襲名してからなので。子供の頃は、小川家の方々とはあまり関わりがなかったですね。
──成駒屋三兄弟は、パッと華のある長男・橋之助さん、線が太く豪快な役が似合う次男・福之助さん、可憐な雰囲気で女方もされる三男・歌之助さんと、兄弟それぞれ個性的ですよね。米吉さんは、橋之助さんとはよくご共演されていらっしゃいますね。
米吉 橋之助くんは“長男ぶってる末っ子”のイメージ。もちろん、長男らしい責任感はあるんだけど、中村座メンバーの中に彼が入った頃は一番年下だから、根っこは末っ子なんだよね。歌之助くんは、どの座組に参加しても最年少になる“本当の末っ子”で(笑)、全体を俯瞰で見ている。そして一番つかみどころがないのが、こちらのお方。こう見えて実はきっと、すごく繊細な子なんじゃないかな?
福之助 (瞳を輝かせて)まさにそうです!
米吉 繊細さや不安を隠すために、こういう態度を取る人だと思っている。だから、誤解されることもあるんじゃないのかな。
福之助 元々、すごく変に気を遣ってしまう性格で、こういう場でも「変なことを言わないでおこう」って黙り込んじゃうタイプでした。襲名公演のときも、プレッシャーから途中で突発性難聴になって休演してしまったし、2018年にはもう歌舞伎を辞めようと思って、父親にも相談していたんです。
米吉 そうだったんだ!
福之助 でも、歌舞伎俳優として最後の仕事のつもりで挑んだ、スーパー歌舞伎Ⅱ「新版オグリ」で人生が変わって。僕は「オグリ」の前とあとでは、人格が変わったと周りからも言われます(笑)。お芝居自体もすごく楽しかったですし、先輩からも自分の道筋をつけていただく助言をいただけたのが、僕の中ですごく大きくて。そこから、もし歌舞伎俳優を続けるのであれば、親の脛をかじってるだけの坊っちゃんじゃ駄目だな、と心を入れ替えたんです。(チラシを見ながら)僕が不安定だった時期を、家族はみんな知っているので、このチラシが出たときも、家族は母親含め、みんな喜んでくれていました。
──福之助さんにとって、米吉さんの印象はいかがでしょうか。
福之助 “橋之助の彼女”ですかね。
米吉 ねえ。ちょっと。おかしいから。
福之助 橋之助は、本当に米吉さんのことが大好きなんですよ。家でもずっと、兄さんのことを「可愛い、可愛い」って。
米吉 (ツンと)僕は国生(橋之助の本名)のこと、そんなに好きじゃない。
福之助 こういうところもいいんでしょうね。米吉さんと共演していると、家で兄から「米吉さんどう? 可愛いだろ?」ってマウントを取られます。
どんどん大きくなってきた「三月花形歌舞伎」
──平成メンバーでの「三月花形歌舞伎」は、今回で5回目。米吉さんにとっては3回目、福之助さんにとっては2回目の出演です。
米吉 「三月花形歌舞伎」という名前の公演自体は、南座でたまに行われていて、僕は2015年公演にも出ていたんですけど、今のようにあいさつ付きで、少人数の若手が古典の大役に挑戦するというスタイルに切り替わったのは2021年からですね。東京には「新春浅草歌舞伎」がありますが、東京以外で、そういった若手の登竜門的な存在の公演はなかったから、「三月花形歌舞伎」が恒例になっているのはうれしいですし、「新春浅草歌舞伎」のような立ち位置の公演にしていけたらいいですよね。
福之助 僕は、2021年の初回公演ぶりの出演です。そのときは壱太郎さん、右近さん、米吉さん、橋之助が中心の公演で、橋之助からは「(自分が中心の中に入れなくて)悔しい、嫌だ、っていう気持ちを持ってやれよ」と言われていたし、だからというわけではないですけど、「いつか自分も」という気持ちでやっていましたね。あれから4年経って、「三月花形歌舞伎」という公演が、どんどん大きくなっているように感じています。僕、競馬が好きなんですけど、「三月花形歌舞伎」が、G1に昇格したような感じというか……。
米吉 ちょっと待って、わからない(笑)。
福之助 すみません(笑)。ええと、若手たちは「新春浅草歌舞伎」だけを目標にしてきたと思うんですけど、先輩方たちのお力で「三月花形歌舞伎」の知名度が上がってきたことで、若手にとって「三月花形歌舞伎」が新たな目標として増えた……というイメージです。大きな公演になってきたからこそ、これからもバトンをつないでいけるように、しっかりと良いものをお見せしたいですね。
初役でお三輪&鱶七に挑む、米吉&福之助
──米吉さんと福之助さんは、「妹背山婦女庭訓」より「三笠山御殿」(通称金殿)で、それぞれ杉酒屋娘お三輪と漁師鱶七実は金輪五郎今国を初役で勤めます。それぞれ、役が決まったときはどのような気持ちでしたか。
米吉 お三輪は娘役の最高峰のお役で、私自身も「いつかは」と思っていて憧れていました。実は、今回のメンバーは女方2人が年上だったので、僕と壱太郎さんがWキャストで、女方がメインとなるお芝居をやるのではと予想していたんです。「思い切って3月の歌舞伎座では上演されない(『仮名手本忠臣蔵』の)八・九段目? 歌舞伎座の半券を持ってきたら割引してみるとか……? そうしたら福之助くんと虎之介くん、どっちが本蔵をやるんだろう……」なんて考えて。まあ本蔵をやるとしたら君だね。
福之助 そうですね(笑)。
米吉 そうして妄想をふくらませる中で、まさか僕だけお三輪をやるとは思わなかったですね。お客様にとっても、昨年6月にご襲名でなさった中村時蔵の兄、2023年に国立劇場さよなら公演で(尾上)菊之助兄さんがなさったお三輪が、まだ記憶にあると思うので、そこをプレッシャーに感じつつ、しっかりとお客様に良いものをお見せできるようにしたいですね。
福之助 演目を聞いたときは、(鱶七がクライマックスのみ登場する)姫戻りからだと思っていました。今回初役で、鱶七の入りからさせていただけるということは、純粋にうれしかったですね。初役で入りからやれると、後ろの心持ちがやっぱり違うんじゃないかって。
米吉 次にやるとき、姫戻りからっていうことはあり得るからね。
福之助 鱶七は、今回きりじゃなくて、僕は今後もやっていかないといけない役だと思っています。今回は父から教えてもらいますが、父も「鱶七のような(胴が太い)役をできる若手はあまりいないから、もし鱶七ができたら、その枠に入っていけるんじゃないか」と。だから、僕自身の今後を占う意味もありますし、また鱶七は、これまで僕がやってきた役の延長線上にある役だとも感じていて。だから、自分がこれまでやってきたことの答え合わせにもなると思っています。“徳俵に足がかかっている”じゃないですけど、ここが運命の分かれ道だなと思って、覚悟をもって勤めます。
次のページ »
お三輪と鱶七は、バトンを渡し合う関係