この声に怒られてみたい
──ケンゾウたちは「イケボイ」でユーザー1人ひとりに思いを込めたボイスデータを届けます。このドラマでは“声”が重要なテーマとなっていて、毎回豪華な声優さんがゲスト出演するのも見どころの1つとなっています。
野沢雅子さん、白石涼子さん、田中真弓さん、豪華ですね。
──六角さんは好きな声優さんっていらっしゃいますか?
昔から「あしたのジョー」が好きで、丹下段平を演じられていた藤岡重慶さんの声が好きでした。「ジョー! 立つんだジョー!」って子供の頃モノマネしてましたよ。アニメの予告は必ず段平の声で、「ジョーは一体どうなってしまうのか……また来週!」とかいうのを聞いて「これは素敵だ!」と思っていたんです。藤岡さんは劇団青年座の俳優さんでもありました。
──六角さんもナレーションのお仕事などをされていますが、声のみで表現することについてのこだわりはありますか?
ナレーションはすでに出来上がったVTRに何か言葉を当てはめるわけですが、物事の説明だったりすることが多いので、自分の思い入れや感情をなるべく省くようにしています。そのほうが視聴者の想像力が働くと思うんです。ただ、映像の中で誰かが動いている場合には、その画に対して感情を込めることもあります。そのときは、間合いの取り方を気にします。声だけが持つ想像力がどのように効果的に働くかということを、そのときどきで考えていますね。
──ヒロインのさくらは見た目を知らないでケンゾウの声に癒され、恋心を抱きます。また恋愛のスタートの仕方として“インターネットを通じて出会う”ことについても描かれていますね。
今の時代、人間と接するのが怖かったり面倒くさかったりする人が多くなってきて、声だけで恋愛するというのも、しかるべきことなんじゃないかと思います。声って想像力がとても働くものだから、そういう恋愛の仕方も十分成立すると思うし、悪いことだとは思わないです。でも本当に人間と付き合ってみないとわからないこともあるだろうから、そこに飛び込む妨げにはなってほしくないとは思います。2.5次元演劇だって、もともとはアニメの世界だったりするわけでしょう。キャラクターに声が当てられていて、最初はその声に惚れて、その声から自分の理想の人を想像する。それで出てきた人が実際にイケメンや可愛い人だったりすると、そのまんまその人に投影できちゃいますよね。
──六角さんもいい声の女性に惹かれたりしますか?
やっぱり声が可愛い人のほうが好きですよね。「この声に怒られてみたい」とか思うし(笑)。声がいいっていうのは魅力の1つです。
僕の場合「インチキだけ天使」
──理想の実体化と言えば「#声だけ天使」の第2話では、ケンゾウの元恋人として、白石茉莉奈さん演じるきよ美が登場しました。
それこそ、この女性は“男の理想”ですよね。あんな人は現実にはいないですよ、多分(笑)。
──グラマーだし、ご飯を作ってくれるし、黙ってお金を渡してくれたりしますからね(笑)。きよ美はケンゾウの夢を全面的に肯定し、応援してくれる女性ですが、六角さんが現在に至るまで、夢を応援してくれた方はいましたか?
どうにもならない役者時代を経済的に支えてくれた女性はいました。劇団のお芝居が年3回あって、アルバイトしながらでもなかなか生活できなかったときに助けてくれたんですね。現実はそんなに甘いもんじゃなくて「ちゃんと働いて返せ!」という感じでしたが、その人がいなかったらこうやって芝居を続けていられなかったと思います。なんの借りも返せていないので、今振り返ると心苦しいですが。
──そうやって周りの助けを借りながら、第3話ではケンゾウがいよいよ声優になるために闘志を燃やし始めます。視聴者の中にも今現在、声優や俳優を目指してがんばる若者がいると思いますが、何かアドバイスをいただけますか?
僕も人に助けられてここまできてるから、何かを言えるような人間じゃないというのが前提としてありますが、1つ言えるのは、何者かになりたいなら人生をかけてやってみるしかないということです。目標として掲げてるものにすぐに行こうとせず、なるべく遠回りをして、最終的にあきらめずにしがみつくことです。若者には人間としていろんな経験ができるところに行ってほしい。いい人間にも悪い人間にも会って、自分がどんな人間なのかということを客観的に見る力をつけてほしいです。その上で、クリエイティブな世界に入ったとき、初めて自分が通用するかしないかというスタートライン立つことになると思います。僕だっていまだに上手くいくことなんかめったにないんだから、ダメでもあきらめずに続けていただきたい。
──十代からずっと役者を続けられて、五十代になった今だからこそ見えてきたものはあるんでしょうか?
無駄というものが人生の中で、いかに大切かわかってきました。何かを追い求めるために、とてもたくさんの無駄をするのが人生だと思います。人に何かエネルギーを与えるような仕事をするなら特にそう。その無駄っていうのは“人間味”と言い換えられるかもしれません。
──このドラマのタイトルは「#声だけ天使」ですが、六角さんが、ご自身を「〇〇だけ天使」と言い表すとしたら何になりますでしょうか?
僕の場合「インチキだけ天使」だな。もちろん仕事は一生懸命やってますが、やっぱりどこかインチキでやってるところがあるんじゃないかと思うんですよ。自分で客観的に見ても、俳優中の俳優というわけでもないし、お笑い芸人さんはお笑いのことを命かけてやってるわけじゃないですか? 僕には、いろんなところに顔を出してなんとなく生きてる人間のインチキ臭さがあるわけです。でも、そういう人間になるって、なかなか面白いんじゃないかなって思うんですね(笑)。ちょっとずついろんなところを渡り歩いて、なんとなく人に知られている。本物じゃないけど彼には彼の位置があるなという見られ方をしたい。いや、パチモンだな……役者って演じてるわけだから本物じゃないでしょ? だから「パチモン中のパチモン天使」です(笑)。
- 「#声だけ天使」
- 毎週月曜22:00~
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脚本:横内謙介
音楽:平床政治
演出:尾形竜太
プロデューサー:稲葉尚人
エグゼクティブ・プロデューサー:藤田晋出演
岸田建造:亀田侑樹
長友信二:佐久本宝
小森茜:松本妃代
寺本武文:久ヶ沢徹
葛原しのぶ:山口景子
安西さくら:仁村紗和小此木理恵:清水葉月
ハル♡ビッグユニット:
柿本光太郎
三澤貴之:馬場良馬
江津子:立石晴香
メグミ:今田美桜
アングラ先生:岡森諦STORY
池袋の声優のための専門学校で出会った主人公・ケンゾウと4人の仲間たち。彼らは声優になるという夢を実現するため、ボイスサービスサイトを立ち上げる。ある日、1人の女性からケンゾウにリクエストが送られてきた。その依頼主であるさくらが気になって仕方ないケンゾウは、彼女に直接コンタクトを取ってしまうのだった……。登場人物達それぞれが抱える問題が明かされる中、ケンゾウとさくらの恋の行方は?
- 六角精児(ロッカクセイジ)
- 1962年兵庫県生まれ。劇団善人会議(現・扉座)の旗揚げに参加。劇団公演をはじめ、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、中島淳彦、大谷亮介、福原充則、倉持裕などさまざまな演出家の作品に出演する。また映画やドラマへの出演も多く、特に「相棒」で演じた米沢守役は、主演映画「鑑識・米沢守の事件簿」が制作されるほど人気を博す。鉄道マニアとしても知られ、「六角精児の呑み鉄本線・日本旅」などの番組にも出演。ギターと歌を得意とし、バンド活動も行なっている。5月15日から鈴木裕美演出「シラノ・ド・ベルジュラック」(東京・日生劇場 ほか)に出演。