実写化困難と言われていたドラマ「ガンニバル」、原作の大ファンであるかまいたち・山内健司はどう観た?

この村では人が喰われているらしい……。二宮正明が描く「ガンニバル」はそんな衝撃的な噂が流れる供花村に、1人の警察官・阿川大悟が越してくることからスタートする“ヴィレッジ・サイコスリラー”。週刊漫画ゴラク(日本文芸社)で2018年から2021年まで連載され、現在ドラマ版がディズニープラス「スター」で配信されている。

コミックナタリーでは、「ガンニバル」の大ファンだと公言するかまいたち・山内健司にインタビューを実施。同作を“パンチの効きまくった”作品だと話す山内は、実写化困難と言われていたドラマ「ガンニバル」をどう観たのか?

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / ヨシダヤスシ

「ガンニバル」は吉本新喜劇に似ている

──山内さんはもともと「ガンニバル」を好きで読んでいたとのことですが。

そうですね。僕は普段からマンガをよく読むんですが、日常系やありふれた設定のものよりも、パンチの効いた「攻めてるな」っていうマンガが好きで。電子書籍でそういうマンガをよく読んでいたら、「あなたの趣味に合うと思われる作品」みたいな欄に「ガンニバル」が上がってきたんですよ。パンチの効きまくった表紙だったんで、「なんだこのマンガは?」と思って読み始めたのが最初ですね。

──知り合いに薦められたとかではなく。

ではないですね。AIにオススメされて(笑)。それで1巻を買って読んでみたら、とにかく強烈な内容だったので、一気に引き込まれて全部読みました。

かまいたち・山内健司

かまいたち・山内健司

──具体的には、どういうところが気に入ったんでしょうか。

最初に表紙を見た感じでは、ひと言で言うとすごくグロい、「え、何この描写?」みたいなインパクトだけで勝負するタイプのマンガなのかなと思ったんですよ。でも、読み進めていくと人間関係とか家族愛とかがきちんと描かれていて、さらにちょっと宗教の要素も入ってきたりとか、設定やストーリーでしっかり読ませるタイプの作品なんだということがわかってきて。最後まで読んだときは「こんなに壮大で感動的なストーリーになるんだ?」って、ちょっとびっくりしましたね。最初はパンチの効いた描写だけを求めて読み始めたフシもあったんですけど、途中からどんどん設定やストーリーの面白さに引き込まれていって、そっちのほうが面白くなっていった。「実はそういうマンガだったんだ」っていう。

──逆に言うと、仮に最後までインパクトだけの作品だったとしても、それはそれでよかったわけですか?

それだけのマンガが多いんですよ。それはそれで「ああ、まあそうね」ってある程度納得して読み終わるんですけど、だいたいそういうマンガって、持ったとしてもせいぜい4巻くらいで終わるんです。「ガンニバル」はそれにプラスして設定やストーリーがしっかり入ってくるからこそ13巻まで続いたんだと思いますし、ずっと読めるマンガになっていたなと思います。

──グロいだけのマンガであっても十分楽しめるけども、それだけだと特別な作品にはなり得ないと。

そうですね。たぶん「カニバリズム的な、グロいものを描きたかっただけなんだろうな」で終わっていたと思います。

かまいたち・山内健司

かまいたち・山内健司

──山内さんは漫才やコントの作り手でもあるわけですが、物語を生み出す側としての目線で「ガンニバル」に嫉妬した部分や感服したポイントなどはありますか?

すごいなと思ったのは、やっぱりさっきもお話しした第一印象からのギャップですよね。ただのバイオレンスマンガかと思って入ったら実は家族愛の物語やったり……しかも、主人公の阿川大悟に家族愛があるのは全然わかるんですけど、「いや、後藤銀のほうにもあんのかい!」というのがあったりして。だからなんか……これは吉本新喜劇に似てるなって。

──新喜劇……?

新喜劇って笑いあり涙ありで、めっちゃ笑えて面白いのに終盤には感動する展開もあって、また笑いで終わる感じなんですよ。その“笑い”の部分を“グロ”に変えたら、そのまま「ガンニバル」になる(笑)。まずグロさで惹きつけておいて、人間ドラマとしての感動があって、またグロで終わるっていう。

──なるほど、それはユニークな分析ですね。構造的に「ガンニバル」と吉本新喜劇は同じであると。

似ているなと僕は思いましたね。

ディズニープラスで実写化? 何かの間違いでは?

──そんな「ガンニバル」がディズニープラスで実写ドラマ化されました。最初にこのニュースを聞いたとき、どう思われました?

「ディズニープラスで? 何かの間違いでは?」と思いましたね(笑)。ちょっとパンチの効きすぎている原作ですし、実写でやるのは難しいだろうなと思いながら読んでいたので、まずドラマ化されるということ自体に驚きました。しかもそれがディズニープラスで配信される、ということに一番びっくりしました。

──実写ではこの原作を描き切れないんじゃないかと?

そうです。だいぶ薄めないと無理なんじゃないかな、というくらい強烈なマンガなんで。

──実際にドラマ版をご覧になって、いかがでした?

「全然薄めてないやん」と(笑)。めちゃくちゃ原作に忠実に映像化されていますし、マンガと比べても遜色ないくらいにパンチの効いたドラマになっていました。

ドラマ「ガンニバル」第3話より。

ドラマ「ガンニバル」第3話より。

ドラマ「ガンニバル」第2話より。

ドラマ「ガンニバル」第2話より。

──特に感心したポイントがあれば教えてください。

やっぱりキャスティングですかね。めちゃくちゃ豪華なキャストで、ディズニープラスさんがこの作品にマジで賭けてるんだなということがひしひしと伝わってきました。原作の面白さにきちんと沿った脚本になっているから、キャストの皆さんも「面白い」と思って演じることができているんだろうなと。主演の柳楽優弥さんにしても、ふとしたときの狂気性とか……柳楽さんの演じる阿川って、本来は家族を愛する普通の男ではあるんですけど、たまに狂気がパッと出てくるところがあるんですよね。その狂気のお芝居なんかを観るともう、ぴったりなキャスティングだと思いました。

──山内さんもネタの中で狂気をはらんだ人物を演じることが多いですけど、やはり演者として狂気の芝居は気になりますか?

僕の場合は、狂気に特化しすぎてるんで(笑)。人間的な優しい側面も説得力をもって見せながら、そういう人が不意に見せる鋭い眼光みたいなものは、もう柳楽さんにしかできない表現だろうなと思いましたね。だから僕に阿川役の話が来なかったんだろうなと。

かまいたち・山内健司

かまいたち・山内健司

──なるほど(笑)。

後藤家の誰かとかだったら、もしかしたら潜り込めたチャンスはあったかもしれないなと思ってるんですけど。

──役者として「ガンニバル」に出演したかった?

出てみたかったですね。後藤家の誰か……例えば“あの人”役で出られてたら一番面白かったんちゃうかな。予告編にも一瞬出てきますし、あれが僕だったら絶対面白い。……まあ、でも「面白い」とかじゃないですもんね。

──“あの人”役が山内さんだったら、それはもうドラマというよりコントになっちゃいますね。

ははは。