「ガンニバル」シーズン2特集|かまいたち・山内健司がドラマならではの終わり方に100点超えの満足度

ドラマ「ガンニバル」シーズン2が、ディズニープラス スターで独占配信されている。原作は二宮正明が禁断のテーマに挑んだ“ヴィレッジ・サイコスリラー”。2022年にシーズン1が配信され、そこから約2年の月日を経て、シーズン2が配信開始となった。

シーズン1では、山間にある供花村くげむらに駐在として赴任してきた警察官・阿川大悟が、閉鎖的な村に渦巻く“人が喰われている”という不可解な噂の真相を探るうちに、村人たちを支配する後藤家と激しく対立していくさまが描かれた。完結編となるシーズン2では、供花村に隠された真実が、後藤家の過去を交えながら解き明かされる。

コミックナタリーでは、「ガンニバル」ファンで二宮とも親交が深いかまいたち・山内健司にインタビュー。シーズン1を振り返ってもらいながら、シーズン2の見どころをじっくりと聞いた。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 武田真和

シーズン1は“勝負の終わり方”だった

──まずは「ガンニバル」シーズン1を振り返って、改めてどんなドラマだったと感じていますか?

僕は普段、マンガ原作のドラマやアニメ、映画などを観て「やっぱりマンガのほうがいいな」と感じることが多いんですけど、この「ガンニバル」に関してはそういう気持ちを一切持たなかったです。原作マンガの持つ迫力やエグさを損なうことなく映像化されていたので、すごい衝撃を受けました。

──連載当時はいろんな意味で「映像化は不可能だろう」と言われていた作品ですしね。

あの原作を実写でどう表現するんだろうと思ってましたけど、マンガの世界観をものすごく忠実に再現していて。特に、一番印象に残っているのがシーズン1の1話冒頭のシーンですね。前任の駐在員だった狩野さんのシーンから始まるじゃないですか。供花村の不穏な空気やヤバい雰囲気をいきなり見せつけてきてくれたんで、あそこで一気に引き込まれましたね。

矢柴俊博演じる狩野治。主人公・阿川大悟の前任の供花村駐在員。シーズン1第1話は、狩野がただならぬ様子で後藤家に押しかけ、「全部知ってるぞ、あんたら人間を食ってる、認めろ!」と詰め寄るシーンから始まる。

矢柴俊博演じる狩野治。主人公・阿川大悟の前任の供花村駐在員。シーズン1第1話は、狩野がただならぬ様子で後藤家に押しかけ、「全部知ってるぞ、あんたら人間を食ってる、認めろ!」と詰め寄るシーンから始まる。

──シーズン1全体の中でも、その冒頭のシーンがとくに印象的だった?

そうですね。始めはゆっくり入って少しずつ緊張感を出していくような見せ方もあり得たと思うんですけど、ああやっていきなり衝撃的なシーンから入ることで「え、何が起こんの?」というふうに観る者の感情を一気に刺激するっていう。たぶん原作マンガを読んでいない人でも「なんだこれ?」って興味を引かれたでしょうし、読んでた人には「ここから観せるんや!」という驚きを与えたと思いますね。

──職業柄、“ツカミ”の大事さと難しさをよく知る山内さんとしても、感服するほどのオープニングだったわけですね。

はい。今の時代は特にだと思うんですけど、ゆっくりした入りだと観てもらえないんですよ。最初でいかに興味を持ってもらうか、そのまま駆け抜けられるかが大事なんで、すごくいい入りやったなと思います。

山内健司

山内健司

──シーズン1でほかに印象に残っているポイントや見どころは?

やっぱり柳楽優弥さんの演技は印象的でしたね。ちゃんとした警察官かと思いきや、実はものすごい暴力性と狂気を秘めている阿川大悟という人物をものの見事に体現していて。基本的には供花村や後藤家が狂気の存在として描かれるお話ですけど、「実は阿川のほうがヤバいやつなんちゃうか」と思わせてくれるぐらいの凄味がありました。

──おっしゃる通りだと思います。柳楽さんの力量なくしては説得力が生まれなかっただろうな、と感じるシーンがいくつもありました。

あとは、赤堀雅秋さんの演じられた特捜部の金丸が印象に残ってますね。ちょっと脱力系やけど締めるとこはしっかり締める、あのキャラの感じがめっちゃ好きでした。シーズン2でもかなりヤバいシーンを演じておられますけど、強烈な存在感があってよかったです。

柳楽優弥演じる阿川大悟。ある事件をきっかけに、供花村に左遷された元刑事。村のタブーへと切り込むうちに自らも狂気に飲み込まれていく。

柳楽優弥演じる阿川大悟。ある事件をきっかけに、供花村に左遷された元刑事。村のタブーへと切り込むうちに自らも狂気に飲み込まれていく。

──ちなみに、シーズン1の終わり方についてはいかがでしたか? 子供たちの監禁場所を知って単身乗り込んだ大悟が、背後から“あの人”に襲われるところで終わっていましたが……。

「え、ここからどうなんの?」「まだ終わんないよね?」っていう、ストーリー的には何も解決していないとこで終わってたんで、勝負の終わり方をしたなという印象でした。ドラマの評判次第では、ヘタしたら続きが作られないまま終了ということになる可能性だってたぶんあったと思うんで。ホント、無事にシーズン2が実現してよかったなと思ってますね。

“あの人”特有の化け物っぷりがめちゃくちゃ表現されていた

──そんなシーズン1から約2年の時を経て、3月19日よりついに「ガンニバル」シーズン2の配信がスタートしました。

やっぱりシーズン1がすごく気になるところで終わっていて、しかも映像作品としての評価もすごく高かったので、めちゃくちゃハードル上がってたと思うんですよ。その期待を裏切らない出来になっているな、というのは観て思いましたね。

──山内さんには事前にシーズン2全8話をご覧いただきましたが、率直にいかがでしたか?

「ガンニバル」という作品は「あの村では人が食べられているかもしれない」という疑惑を取っかかりに進んでいくお話なんで、「グロい系のドラマなのかな」と思われやすいんですが、それはあくまで導入でしかないんですよね。そこからの話の広がりこそが「ガンニバル」の一番すごいところだと思うんですけど、その部分をしっかり楽しませてくれる作品になっていたなと感じました。

──おっしゃる通り、風呂敷の広げ方が加速していくのがちょうどシーズン2に入るあたりからですもんね。

そうそう。どんどん“後藤家VS国”みたいな構図になっていくところとか、当初のカニバリズム疑惑から大きく話が飛躍していく展開がシーズン2ではメインになってくる。僕は原作マンガを読んでいて先の展開まで知ってはいたので、そのあたりがどう表現されるのか楽しみにしてたんですけど、さすがだなというか。マンガとは違う要素も加えながら、より面白い感じに映像化されているなと思いました。

山内健司

山内健司

──原作ファンとして「このシーンを早く映像で観たい」と思っていた、具体的なポイントを挙げるとすると?

それで言うと、シーズン2では“あの人”の出番が増えますよね。シーズン1では謎の存在としてちょいちょい出てくる程度で、「あいつ、なんなんだろう?」と思わせるぐらいの感じだったのが、今回はけっこうしっかり活躍するんで。異様な身体能力の高さとか不気味な動き方とか、“あの人”特有の化け物っぷりがめちゃくちゃ表現されていた。そこがホラー映像として、“あの人”単体の恐怖としてすごくよかったです。

──現実離れした存在のはずなのに映像としての説得力がちゃんとあって、“あの人”の表現は僕もすごいなと感じました。

話の展開的に、シーズン1よりも大規模なアクションシーンやバトルシーンが増えてくるんで、そのあたりの映像としての迫力も増していましたよね。例えば、あの峠のお店みたいなところで繰り広げられる銃撃戦とか。大悟たちが乗り込んでいって警察有利の形勢になったかと思いきや、後から(後藤)さだむが現れてまた後藤家側に形勢が傾いたり……。あのスピード感のあるハラハラドキドキの攻防は、映像ならではの感じがすごくありました。

澤井一希演じる“あの人”。森に生息する凶暴な大男で、後藤家から崇められている。

澤井一希演じる“あの人”。森に生息する凶暴な大男で、後藤家から崇められている。

──今お話に出た理は新しいキャラクターですが、彼についてはどんな印象を持ちましたか?

理は、“外の世界の常識がまったく通用しない”という後藤家の危険さを誰よりも体現しているキャラクターですよね。(後藤)恵介は後藤家当主として育てられながらも、一般常識との間で揺れ動くじゃないですか。でも理は揺れ動かない。後藤家を盲信していて迷いがないから、裏切る者は誰であろうと容赦しないっていう。場を引き締める役割として素晴らしかったですね。彼の存在によって、より恵介の“身動き取れなくなってる感”が増していたと思いますし、原作の魅力を損なわずにパワーアップさせている部分だなと感じました。

中島歩演じる後藤理。後藤家の中でも過激な一派を取り仕切る。また一派のリーダーとして、後藤家から裏切り者が生まれないかを常に見張っている。

中島歩演じる後藤理。後藤家の中でも過激な一派を取り仕切る。また一派のリーダーとして、後藤家から裏切り者が生まれないかを常に見張っている。

──例えば(後藤)岩男なども後藤家への忠誠心は異常に強いんですけど、彼は恵介との個人的な絆も大事にしているんですよね。それに対して理は、そんなことお構いなしに動けてしまうという。

岩男はあくまでも恵介の味方でいようとする意思が強いんで、たとえ恵介が後藤家に背いたとしても問答無用でいきなり殺すようなことはしそうにない。でも理は躊躇なくやるだろうなって感じを出してたんで、そこがよかったです。

山内健司

山内健司

めっちゃちゃんとしてるやん

──シーズン2の注目ポイントとしては、(後藤)銀の若かりし頃を描く過去編の存在も大きいですよね。

いや、ホントそうですね。あの過去編がしっかり描かれることで、「ガンニバル」という作品をただの残虐エンタメではない、深みのある物語にしていると思うんで。現代編を観ているだけだと、銀ばあさんは“ただの嫌なやつ”でしかない。でも、その銀がどうしてそうなっていったのかという背景が描かれることによって、銀なりの正当性……は全然ないんですけど(笑)、ああなった必然性みたいなものが見えてくるんですよね。

──納得はできないにしても、理解はできるというか。

そう。僕が最初にマンガで「ガンニバル」を読んだときに、一番感心したポイントがそこだったんです。最初は単に「人が食べられたりするグロい系のマンガなんやろうな」と軽い気持ちで読み始めたんですけど、無茶な設定をゴリ押しするマンガじゃなくて、この異常なことがいかにして行われるようになったのかという歴史がしっかり語られるんで、「めっちゃちゃんとしてるやん!」と思って。

──「ちゃんとしてる」(笑)。

その感じがドラマでもちゃんと描かれていて。しかも、若い頃の銀がとんでもなくキレイな女性だったっていう、それまでの銀のイメージとは大きく異なるギャップを見せることによって、今度は銀への感情移入もできるようになるんですよね。「仕方ないよね」までは行かないにしても(笑)、「銀には銀の事情があってのことなんだな」と思えるようになる。

恒松祐里演じる、後藤銀の若き頃。後藤家の人間でありながら、供花村の村人から虐げられている美しい女性。ある出来事をきっかけに、後藤家と供花村へ復讐を誓う。

恒松祐里演じる、後藤銀の若き頃。後藤家の人間でありながら、供花村の村人から虐げられている美しい女性。ある出来事をきっかけに、後藤家と供花村へ復讐を誓う。

──銀の悪魔的なまでの絶世の美女っぷりをビジュアル化することで、「周りの男たちが狂ってしまうのも無理はないのかもしれない」という画的な説得力も生んでいるように感じました。

そう、そのへんもありますよね。ずっと激しさとかグロさ、エグさが描かれていく物語の中で、和の美しさや妖艶さが差し込まれるのも過去編の特徴というか。海外の人とか、ここらへん好きなんちゃうかなって思いますね。シーズン1もけっこう海外で観られたというふうに聞いていますし、映像として日本文化のテイストをちょっと入れてるのもこの作品のいいところだなと思いました。現代のお祭りのシーンとかもそうですけど。

──この過去編が、しっかり力を入れて作られているのが素晴らしいですよね。

いや本当にそうです。これが銀の過去に軽く触れるだけだったり、もしくは省略しちゃったりすると「ガンニバル」にはならないと思うんで。もちろんそういうヒューマンドラマ要素を抜いて、ただのインパクト重視のアクション映画として成立させることもやろうと思えばできたとは思うんですけど、やっぱり監督をはじめ制作陣の皆さんが「『ガンニバル』は“人間”を描く作品だ」と信じて作っているんだろうな、ということが伝わってきますよね。その意味でも、あの過去のシーンはめっちゃ必要なものだったと思います。