神戸文化ホール 開館50周年記念事業「人間讃歌」をプロデューサーが語る、鈴木秀美&小野寺修二からのメッセージ

1973年に開館した神戸文化ホールが、2023年に開館50周年を迎えた。それを記念して、2023年度から3年に渡って記念事業を展開中。最終年に当たる2025年度は“人間讃歌”をコンセプトに、多彩なプログラムを繰り広げる。ステージナタリーでは、神戸文化ホールを運営する(公財)神戸市民文化振興財団の文化ホール事業部長で、チーフプロデューサーの岡野亜紀子、同財団の音楽事業部長で、神戸市室内管弦楽団と神戸市混声合唱団のチーフプロデューサーである森岡めぐみに記念事業を振り返ってもらいつつ、2025年度の見どころを聞いた。

さらに後半は50年の歴史を感じさせる劇場の様子を収めた写真や、11月に行われる「ベートーヴェン・ダブルビル『ミサ・ソレムニス』『第九』」の指揮を務める神戸市室内管弦楽団音楽監督の鈴木秀美、2月に上演される「流々転々 KOBE1942-1946」を演出する小野寺修二からのメッセージ、2025年度の公演ラインナップを紹介している。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 塩崎智裕

プロデューサーが語る
神戸文化ホール 開館50周年記念事業「人間讃歌」

劇場の体制を整えながら、3カ年で記念事業を計画

──神戸文化ホール開館50周年記念事業が、2023年より3年にわたり展開中です。1年ごとに“讃歌”をテーマにプログラムされている記念事業シリーズについて、チーフプロデューサーのお二人に、まずは記念事業全体のコンセプトを伺います。

岡野亜紀子 開館50周年記念事業については、2021年頃から考え始めました。ただ、私が神戸文化ホールに着任したのが2017年、森岡さんが2021年で、実はそれまで神戸文化ホールにはプログラムをプロデュースする“専門人材”がいなかったんです。それが、2017年頃にホール建て替えの話が持ち上がり(編集注:神戸市は2028年に兵庫県神戸市の三宮駅前に新・神戸文化ホールを開館する予定)、神戸市内の舞台芸術に関わる環境が大きく変わっていく状況にあることを感じてきました。そうした中で、節目である開館50周年記念事業についても森岡さんと私を中心にプログラムを考えていくことになって。とはいえ、専門的にプログラムを考えていく体制がまだまだ弱かったので、1年でぎゅっと記念事業を行うのではなく、体制を整えながら3年かけてプログラムをつくっていくことで、こうした神戸の舞台芸術の変化に応えていくことができればと考えました。

──お二人はどのような経験を経て、プロデューサーに着任されたのでしょうか?

岡野 私はずっと神戸で舞台に関する仕事をしてきました。新神戸オリエンタル劇場(編集注:2018年に閉館。現・AiiA 2.5 Theater Kobe)を退職後、1994年に神戸アートビレッジセンター準備室で同センターの立ち上げに参加し、阪神淡路大震災を経て1996年から2009年まで同センターに勤務しました。その後はフリーランスで活動していたのですが、先にお話しした通り、神戸市内の舞台芸術に関わる状況が変化していく中で、財団の関係者から声がかかって、自分の仕事の集大成としてそういったプロジェクトに関わるのも良いのではないかと思い、神戸文化ホールに勤務することになりました。が、当時は予算もなく人手も足りず、想像した以上に大変だな……と感じていたところ、森岡さんが着任されることが決まって、そこから少しずつ状況が変化していきました。

森岡めぐみ 私と岡野さんは、実は二十代からの知り合いなんです。なので私としては「岡野さんがいるホールだ!」という感覚でした(笑)。私は現在、神戸市室内管弦楽団と神戸市混声合唱団の事務局の仕事をメインでやっていますが、以前はいずみホール(編集注:大阪にあるクラシック音楽専用ホール、住友生命いずみホール)で働いていました。2021年に、指揮者でチェロ奏者の鈴木秀美さんが神戸市室内管弦楽団の音楽監督に就任した際、「音楽業界に精通していて、経験値のある人に事務局へ来てほしい」と鈴木さんに声をかけていただき、「1人でなく若い方と一緒なら」ということで、若手のスタッフと2人体制でこちらにやって来ました。

左から岡野亜紀子、森岡めぐみ。

左から岡野亜紀子、森岡めぐみ。

初年は港町・神戸を強く意識した「港町讃歌」

──開館50周年記念事業は、“讃歌”を共通テーマに構成されています。

森岡 いずみホールでは広報を担当していたので、「こういったプロジェクトを始めるには、インパクトを与えることが大切だ」と考えました。神戸文化ホールから何かクリエイティブなものが発信されたり、つくられているというイメージを持たれていないところがあって。なので、プロジェクトを打ち出すにあたっては「ここで新しい作品をつくっていくんだ!」という思いと、50周年を寿ぐ意味を込めて、“讃歌”と冠することにしました。かつ、初年の2023年度は“ここでやっている!”ということをより認識してもらうために港町・神戸を意識した「港町讃歌」、2024年度はシェイクスピア生誕460年ということもあり、舞台芸術を象徴する「劇場讃歌」、2025年度はさらに視野を広げて「人間讃歌」という風に、年毎にコンセプトを変化させました。

──それぞれの“讃歌”について振り返っていただきます。幕開きの「港町讃歌」についてはどんな手応えを感じましたか?

森岡 記念事業の第1弾は、神戸市室内管弦楽団・神戸市混声合唱団によるガラ・コンサート「神戸から未来へ」でした。神戸出身の作曲家・大澤壽人さんは戦前に海外でも非常に高く評価されていて、第二次世界大戦がなければ大スターになったに違いないという方です。そんな大澤さんが戦時下で書いた「ベネディクトゥス幻想曲」をコンサートとしては世界初演したいという思いがあって、それを中心に構成していきました。指揮は、大澤作品に非常に興味を持って取り組んでいらっしゃる人気指揮者の山田和樹さんが務められました。楽団と合唱団を持っている神戸文化ホールだからこそ実現できたガラ・コンサートだと思います。もう1つ、神戸市室内管弦楽団と神戸市混声合唱団の合同定期演奏会では「ハイドン:オラトリオ<<天地創造>>」を披露しました。音楽監督の鈴木さんが作曲当時の楽器、作曲当時の演奏法を用いる古楽の第一人者であり、鈴木さん自身が神戸から世界に活躍の場を広げていった方なので「港町讃歌」にふさわしい演目だと考えました。

岡野 「港町讃歌」ということで、私はやっぱり神戸の人材とやりたかったのと、これまで神戸文化ホールであまりやられていなかった演目に目を向けることで、プログラムの多様性を担保したいと思いました。そこで2023年は、「緑のテーブル2017」をやることにしました。神戸にはダンスカンパニーのアンサンブル・ゾネを主宰する岡登志子さんという舞踊家がいて、岡さんはドイツで学び、長らく神戸という場所にこだわって活動されています。その岡さんがとても大切にされている作品が「緑のテーブル2017」(参照:“反戦”をテーマにした、岡登志子振付「緑のテーブル」開幕)で、これは1932年のパリ国際舞踊コンクールで1位を取った舞踊史上の傑作「緑のテーブル」をもとに、岡さんが新たに創作されたものです。この作品を開館50周年記念事業にアレンジして、ぜひ上演したいと思いました。

──「緑のテーブル」はドイツの振付家クルト・ヨースの反戦をテーマにした作品で、平和会議をモチーフにしたテーブルを囲み、ダンサーたちが踊りを繰り広げます。

岡野 「緑のテーブル2017」では、歴史ある地元バレエ団の貞松・浜田バレエ団から創設者の貞松融先生にもご出演いただき、神戸の文化振興に携わる方々や一般公募ダンサーにも出演していただきました。もう1つ、「ジャズ大名」は神奈川のKAAT神奈川芸術劇場が制作した作品ですが、原作者の筒井康隆さんは神戸在住ですし、2023年は神戸ジャズ100周年という年でもありましたので記念事業の1つとして実施しました。

森岡 「緑のテーブル」の振付家であるクルト・ヨースと大澤壽人さんは、同時期にパリにいたんですよね。年齢的にも4つくらいしか離れていなくて、どちらも同じような時代に戦争によって活動に影響を受けた人たち、という点で共通点があるのかなと思います。

岡野 そうですね。そして、2022年にロシアのウクライナ侵攻が始まるなど世の中がきな臭くなっている中、戦禍の時代に生まれ、平和のメッセージを発信した人たちの作品を、開館50周年記念事業の最初に、音楽とダンス両方で展開できたことに運命的なものを感じました。

岡野亜紀子

岡野亜紀子

2年目は劇場文化に焦点を当てた「劇場讃歌」

──2024年度のコンセプトは「劇場讃歌」でした。

岡野 2024年はなんと言っても、森岡さん渾身の「ファルスタッフ」が大きかったですよね!

森岡 (笑)。私は神戸に来て以来、神戸文化ホールが楽団と合唱団を持っていることが強みになると思っていたので、その強みを前面に打ち出す企画としてオペラがやりたいと思っていました。そこで、アンサンブル主体のオペラ作品であり、シェイクピア生誕460周年にもちなんだ「ファルスタッフ」の上演を決めました。が、「ファルスタッフ」はお客が入らないオペラとしても有名なので(笑)、どうしたらお客様に来ていただけるかをスタッフが粉骨砕身、がんばって考えてくれて、その結果、満席となりました。また「ファルスタッフ」には貞松・浜田バレエ団をはじめ、神戸文化ホールと関わりのある方に多数出演していただき、地域の文化資源を全部使ったような公演でした(笑)。

岡野 私のほうでは、劇場の可能性を考えてバレエや舞踏、歌舞伎、コンテンポラリーな演劇作品を企画しました。貞松・浜田バレエ団さんとは、「コッペリア~お人形の恋の物語~」をファミリーバレエとして、アクセシビリティを高めて上演するという新しい取り組みを行い、以前から個人的につながりがあった大駱駝艦さんには祝祭性の高い「クレイジーキャメル」を上演していただきました。市川團十郎さんの襲名披露巡業は、かなり前から決まってはいたのですが、50周年という節目に歌舞伎という伝統的な演目を入れることができてうれしかったですね。2月にはチェルフィッチュ×藤倉大「リビングルームのメタモルフォーシス」を上演しました。この作品は、実は2023年初頭にチェルフィッチュの岡田利規さんが神戸の喫茶店で作品を上演した際(参照:岡田利規×片桐はいり「あなたが彼女にしてあげられることは何もない」神戸の喫茶店で開幕)、たまたま森岡さんと一緒に観に行っていてその時に岡田さんが「今、こういった作品をつくっていて……」と私に話してくださって、森岡さんが隣で「うちには楽団があるから、神戸でもできますね」と言ってくれて、そこから実現した企画でもあるんです(笑)。「リビングルームのメタモルフォーシス」は2023年にウィーン芸術週間で初演されて以来、国内外で上演されていますが、神戸公演のみ神戸市室内管弦楽団アンサンブルが出演しました。だからこそ大変だった部分もありますが、劇場にとって経験の幅が増える上演になったと思います。正直なところ集客には苦戦はしたのですが、これまで神戸文化ホールに来られたことがない方々が、公演をきっかけに来てくださったので、この作品を神戸文化ホールでやったインパクトはあったと思っています。