上田誠×板尾創路×岡田義徳×藤谷理子が語るヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」 (2/2)

板尾演じる“変な父ちゃん”、岡田が目指す“可愛いおっさん”

──登場人物は皆、キャラが濃い人ばかりですが、それぞれ演じられるお役について教えてください。藤谷さんは初演に続き、新世界の串カツ屋・きて屋のマナツを演じます。

藤谷 マナツにとって一番大きな変化は、お父ちゃん役が板尾さんになるということで、初演とはまったく関係性が変わり、一からの積み上げになるんかなと。あと初演から8年の間に、私も劇団員になってヨーロッパメンバーとの関係性が初演の頃とは変わってきているので、マナっちゃんとおっちゃんたちの関係性がより対等になると思います。多分初演もそういうふうに演じたかったんですけどできなかったところだったので、そこが今の関係性とリンクして、もっとくっきり、マナっちゃんとお父ちゃん、マナっちゃんとおっちゃんたちという感じで演じられたら良いなと思います。

──板尾さん演じるお父ちゃんはどんな印象ですか?

藤谷 (話そうとすると、もう思い出し笑いが始まって)そろそろ怒られるんじゃないか、っていうくらい稽古中に笑ってしまって……(笑)。

板尾 よう笑ってるよなあ(笑)。

藤谷 素で笑ってしまうくらいおかしい、変な父ちゃんなんですよ。扇風機の首が回ってお父ちゃんに当たるだけでも面白くて……あははは。

岡田上田 面白いですよねー(笑)。

藤谷 板尾さんのチャーミングさというか、飄々としていて人間味が爆発してけつかってるので、いい親子関係になれたらなって。マナっちゃんは普段お父ちゃんのことをわあわあ言ってますけど、お母ちゃんが亡くなって二人家族だし、根っこではちゃんと関係性が築かれている、その絆みたいなものが透けて見えてきたら良いなと思います。

左から藤谷理子、板尾創路、岡田義徳、上田誠。

左から藤谷理子、板尾創路、岡田義徳、上田誠。

──岡田さんは、きて屋の隣にある美容室を営む“散髪屋のおっさん”役です。

岡田 可愛いおっさんをやりたいなって思ってます(笑)。外見とかではなく、中身が可愛いおっさんを、素直にやりたいなと。そこが僕にとって今回一番のテーマでありますし、役としてもそれがいちばんハマると思っています。

──岡田さんにはまったく“おっさん”のイメージがないのですが……。

岡田 いやいや、でももう年齢的にはおっさんですから。

板尾 ほんと全然変わらんからなあ。

岡田 童顔だから若く見られるっていうコンプレックスがあるくらいで。でも今回はおっさんやけど可愛らしいっていうか、ひどいことを言ってもあまりひどく聞こえないくらいの人間味が出たら良いなと思います。

──岡田さんは、諏訪雅さん演じる“トラックのおっさん”、土佐さん演じる“パチンコのおっさん”、石田さん演じる“将棋のおっさん”ら、“おっさん”チームの絡みも多いです。

岡田 知らない顔がいないくらいなので、話しやすいし、打ち解けやすいです。あとはみんなが呼び捨てで呼んでくれる関係になれたらいいなって(笑)。

板尾 ほかのおっさんたちはみんなちょっとキツめで喧嘩腰の“新世界のおっさん”だから、岡田くんの“ソフトな感じの新世界のおっさん”はとてもいいよね。散髪屋さんやし、ほかの人とちょっと違うと思うんですよ、もともと。髪の毛切る人として繊細さもなかったらダメだし……だからすごく合っていると思うな。

上田 そう思います。距離感としても、おっさん4人のシーンが多い中で、散髪屋は3人といい具合の距離があり、そこがハマっていると思います。

藤谷 みんな、(髪を)切ってもらってたんやろなって感じがしますよね。

板尾 そうそう。

岡田 うれしい(笑)、やりがいがあります。

──板尾さんはマナツのお父ちゃんで、妻のチナツが亡くなってからきて屋の2階に引きこもっているという、とても人間味あふれる人物です。

板尾 マナツのお父さんということで……本当にいい娘のお父さんになれたなあと(笑)。マナツというキャラクターもですし、理子ちゃん本人もこういう感じでええ子やし。実際に血はつながってないけれども本当の親子に見られたいなあとか、「娘さんですか」って聞かれたらちょっとうれしい義理の親父みたいな(笑)、そんな気持ちにさせてくれますね。彼女は声もいいし、華もあるし、芝居をぐいぐい引っ張ってくれる。で、ヨーロッパの面々にどんどんツッコんでいくしね! 彼女がおるからみんなが自由に演じられるっていうところもあって。もちろん台本上そう書かれてはいるんですけど、自然に彼女の周りにみんなが寄って来て、どこか甘えている感じもする。今、稽古場で彼女1人セリフが入っているということもあり(笑)、マナツとの関係性がそれぞれすでにでき始めているんですよ。

岡田 僕たちのケツを叩いてくれますしね!

上田 僕としても助かってます。

──藤谷さん、座長としての役割をすでにまっとうされていますね。

板尾 そうですね、まさに座長ですよ! 僕もすごくやりがいがあります。

藤谷 (恐縮して)いやいや……。

──またマナツのお父ちゃんは2階に引きこもっているという役どころなので、構造的にも関係性的にも、ほかの人たちを俯瞰するような部分があり、板尾さんがほかの登場人物にどう絡んでいくか楽しみです。

板尾 みんながあれこれやっているのを上から見ているのは、すごく楽しいですよ。それに物語が下で進んでいる間、僕はちょっと心理状態が違うというか、妻の死という“別のこと”と闘っている感じで。でも下に出て行くと、「うるさい!」ってみんなを怒鳴ったりするんです。

岡田 板尾さんが出てくると、リズムが全然変わりますね。

一同 あははは!

──頼もしい顔ぶれがそろいましたが、上田さんがお三方それぞれに期待することは?

上田 この芝居全体に言えることなんですが、自分のことをおっさんって言ってると、振る舞いもおっさんになるところがあるんです(笑)。ただこの劇は、おっさんたちが張り切ることが功を奏するわけでもなくて……。例えば実業家たちの劇だったら「こういう感じでがんばってください」って言えるんですけど、そうではない劇なので(笑)、そこは特殊かなと思います。

ということを前提にお話しすると……僕はもともと芸人さんが好きで敬愛しているので、芸人さんに舞台やドラマに出ていただくとき、普段見ているときの面白さとその作品の中での良さ、両方の面白さを生かせないかなと思っているんです。その点で、板尾さんは何をしでかすかわからないスリリングな感じ、危うさ、佇まいの色気があって、マナツのお父ちゃんってまさにそういう役だし、稽古の中でも板尾さんはセリフ通りじゃないこともおっしゃったりするので(笑)、板尾さんがこの場に与えているであろう存在感、緊張感とお父ちゃん役のイメージが重なってめちゃくちゃ面白いです。

板尾 (笑)。

上田 “散髪屋のおっさん”は、さっき距離感という話をしましたが、同時に関係性や場への馴染み感ということが役として最低限必要で、稽古を積み重ねていくことでそれがどんどん深まってきています。その“馴染み感”が、4場で散髪屋のおっさんが大暴れするシーンに生かされてくるのではないかと(笑)。3場までの稽古で今、“徳”を積んでいるような感じですね。

岡田 4場の稽古になかなか行かへんなって思ってたんですけど、それは僕が馴染むまでの時間をくださっていたんですね?

上田 そういうところはあるかもしれないです(笑)。連ドラでも1話を書いてからその先が見えてくることはあって、今回も台本はあってお芝居は見えているけれど、1場をやることで見えてくるところがあるので、寄り道しながら進んでいる感じですね。稽古が進んできて岡田さんもいい具合に周りからイジられるようになってきたので(笑)、馴染んだ果てのぶっ飛びが楽しみです。

岡田 はい(笑)。

上田 マナっちゃんの存在は、板尾さんもおっしゃいましたが、僕もいてくれてめちゃ楽だなって発見でした。これまで、物語を進行するためにいろいろな登場人物にその役割を振っていたのですが、マナっちゃんが語り部役も担うことでその苦労がなくなり、あとはふざけていても大丈夫、という形がいいなって。でも後半はそれじゃいかんと思って、マナツも動き始めるんですけど……。そして藤谷さんも言っていましたが、初演のときより彼女もメンバーに対して厚かましくなってきていると思うので(笑)、踏み込んだ関係性ができたら良いなと思っています。しかも打診してもなかなか「うん」と言ってくれなかった座長役について、会見で自分から切り出してくれたので、お父ちゃんもう何の心配もないわ!

岡田 お父ちゃん、2人もおるやん!

一同 あははは!

左から上田誠、岡田義徳、板尾創路、藤谷理子。

左から上田誠、岡田義徳、板尾創路、藤谷理子。

人を引き寄せる引力がある場所、新世界

──本作は、ヨーロッパ企画には珍しく関西弁で書かれた芝居というところも特徴的かなと思います。

上田 今回の座組みで、河内弁のネイティブっていうと板尾さんと土佐さん、角田(貴志)さんかな。

岡田 僕は岐阜出身の名古屋弁育ちで16歳から東京なので、関西弁のルーツはないんですが、妻が京都の人なので耳なじみはあって。稽古が始まって京都に来てから触れることが大事やと思って、関西弁にチャレンジしてます。

藤谷 私は京都出身で、初演のときは大学生で真面目ちゃんやったのでアクセント辞典や京阪神のイントネーションの本を読んで調べたりもしましたがキリないわと思い、「マナツのお母ちゃんが京都から嫁いできたんだ!」と考えて、あとは自分が吉本新喜劇で見た感じのしゃべり方でいこうと決めて演じました。今回もあまりにわからないときはネイティブの方に伺いつつ、基本的にはそのマインドでいこうと思っています。

板尾 そもそもリアルさを求める芝居ではないから、関西弁に関しても基本的にあまり気にすることはないんじゃないかと思います。ただリアルに考えると、新世界って土地柄、けっこういろいろなところから人が流れてきているんです。永野さん演じるトラやんなんか、関西弁としてはめちゃくちゃ下手くそなんですけど(笑)、でも日雇いの人という設定ですから、無理に関西弁をしゃべろうとしてるんやろうなと思うと、逆にリアリティがある。実際、そういう人が新世界にはいっぱいいます。

上田 そうですね。僕らもある意味“ごっこ”というか、ヤクザや貴族の芝居も、やったことがない自分に化けるような感覚で演じてきて、この作品でも大阪のおっさんに化けるという楽しみ方なんです。でも同時に、言葉遣いってやっぱり行動や考え方も支配するので、この芝居をやっていると例えばみんなのモチベーションを上げるために「エイエイオー!」とは言いづらいっていうか(笑)、「暑いししゃあないけど、今日もやりまひょか」というような感じの空気になるんですよね。

一同 あははは!

──今、大阪は大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)に向けて道路が整備されたり、顔認証の自動改札が導入されたりと、まさに変化しつつあります。その中で、新世界はどうなっていくでしょうか。

板尾 集まってくる人の根本は、でも……変わらないんじゃないですかね。

上田 土地の引力みたいなものがありますよね。

板尾 結局、必要な空間だから無くならないのだと思うし、変わりはするけど心情的なものは変わらないんじゃないかな。

岡田 もしかすると、京都の祇園とかのほうが、新しいものを入れ難い感じがあるかもしれないですね。

一同 ああー。

岡田 「ええけど……な」って。

藤谷 「よろしな。でも……」って。

上田 確かに(笑)。劇中でもマナっちゃんは、お母ちゃんの時代からずっとメーカーが売ってる1種類のソースを頑なに使い続けるんですよね。ソースを混ぜない、京都気質なんです(笑)。

藤谷 お母ちゃんの味だから!って(笑)。

上田 なのでこの劇でもそうですが、変わるものと変わらないものが、はっきりあるんじゃないかと思います。

板尾 新世界のおっさんも、実は新しいものが好きな人は多いですよ。別にレトロを守ろうってことはなくて、便利なものは便利やし、興味もある。だから昔、携帯電話を持ち始めたときに新世界のおっさんに「にいちゃん、ええの持ってるな、ちょっと貸して」って言われたことあります。かけるところもないだろうに……と思いながら、一瞬貸したんですけど(笑)。

一同 あははは!

板尾 この劇中でも、おっさんたちがあるとき、ドドドって“新しいモノ”を装備していく感じは、あながち間違っていないと思います。敬遠するだけじゃなくて便利じゃんってことも受け入れていく、新世界はそういう街じゃないかと思います。

左から藤谷理子、板尾創路、岡田義徳、上田誠。

左から藤谷理子、板尾創路、岡田義徳、上田誠。

プロフィール

上田誠(ウエダマコト)

1979年、京都府生まれ。劇作家、演出家、脚本家。ヨーロッパ企画代表。「来てけつかるべき新世界」で第61回岸田國士戯曲賞を受賞。「リバー、流れないでよ」で第33回日本映画批評家大賞脚本賞受賞。近年の仕事に「夜は短し歩けよ乙女」(脚本・演出)、「たぶんこれ銀河鉄道の夜」(脚本・演出)、テレビドラマ「時をかけるな、恋人たち」(脚本)、「リフォーマーズの杖」(脚本)、「魔法のリノベ」(脚本)、映画「ペンギン・ハイウェイ」(脚本)、「前田建設ファンタジー営業部」(脚本)、「四畳半タイムマシンブルース」(原作・脚本)、「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」(日本語版脚本)、「鴨川ホルモー、ワンスモア」(脚本・演出)など。

板尾創路(イタオイツジ)

1963年、大阪府生まれ。1987年、ほんこんと蔵野・板尾(現130R)を結成。お笑い芸人としてテレビ番組などで活動する傍ら、俳優として映画やドラマ、舞台にも多数出演。映画監督としてはこれまでに「板尾創路の脱獄王」「月光ノ仮面」「火花」を手がけている。

岡田義徳(オカダヨシノリ)

1977年、岐阜県生まれ。1994年に俳優デビュー。テレビドラマ、映画、舞台で幅広く活動。近年の出演作にドラマ「横道ドラゴン」「映画 THE3名様Ω~これってフツーに事件じゃね?!~」、舞台「歌うシャイロック」「私の一ヶ月」「SHELL」「A BETTER TOMORROW -男たちの挽歌-」など。また子供服ブランド“KOU”でディレクションを手がけている。

藤谷理子(フジタニリコ)

1995年、京都府生まれ。2014年、ヨーロッパ企画・諏訪雅によるミュージカル「夢! 鴨川歌合戦」にオーディションを経て出演。以降、第35回公演「来てけつかるべき新世界」(2016年)では主演を務めたほか、本公演や舞台・映像作品への出演を経て、2021年、ヨーロッパ企画に入団。外部の舞台やミュージカル、映像作品への出演や、ナレーションも数多い。12月から来年2月にかけてハイバイ「て」に出演予定。