KAAT神奈川芸術劇場 新芸術監督・長塚圭史インタビュー|とどまらない劇作家・演出家が起こす新たなアクション

新たなKAAT像を形作る、3つの柱とは?

──会見では、大きく3つの柱を提示されました。“シーズン制の導入”“ひらかれた劇場”“「カイハツ」プロジェクトの実施”と、言葉も方針も、非常にわかりやすいなと感じました。

長塚圭史

それなら良かったです。「なんだかよくわからないことを言ってるな。演劇が遠く感じるな」って思われてしまわないよう、わかる言葉で伝えたいと思っていました。

──会見ではシーズン制の導入について「劇場に季節感、リズム感を作り、メリハリをつけたい」とおっしゃっていました。春から夏は舞台芸術の間口を広げるような演目が並ぶプレシーズン、秋から冬は舞台ファンの興味をグッと集めるメインシーズンというように、スケジュールに演目をはめこむのではなく、作り手と観客の心身、また周囲の環境に呼応した形で、プログラムを通じて大きな物語を描こうとされているのではないかなと。

春から夏のプレシーズンでは実験性とかトライアルを大切にしたいと思っています。「ポルノグラフィ」「未練の幽霊と怪物─『坐波(ザハ)』『敦賀(つるが)』─」は昨年上演予定だった作品の延期公演なので、少し意味合いが異なりますが、アトリウムの空間で立ち上げる新ロイヤル大衆舎×KAATの「王将」、タニノクロウさんの市民劇「虹む街」などはどれも実験的要素が多分に含まれていますし、今年は北村明子さんにお願いした「ククノチテクテクマナツノボウケン」の1本のみですが、KAATキッズ・プログラムもとても大事なシリーズだと思っています。

──そして秋からは“冒”をテーマにしたメインシーズンが始まります。「湊横濱荒狗挽歌(みなとよこはまあらぶるいぬのさけび)」(野木萌葱作・シライケイタ演出)、「近松心中物語」(秋元松代作・長塚演出)、KAAT EXHIBITION 2021「志村信裕 展 | 游動」、KAAT DANCE SERIES 2021 × Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021「エリア 50代」、「Noism Company Niigata × 小林十市」、「アルトゥロ・ウイの興隆」再演(白井晃演出)、KAAT DANCE SERIES 2021「Le Tambour de soie 綾の鼓」(伊藤郁女&笈田ヨシ演出・振付・出演)、KAAT カナガワ・ツアー・プロジェクト 第1弾「冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~」(長塚上演台本・演出、大澤遊共同演出)、「ラビット・ホール」(デヴィッド・リンゼイ=アベアー作、篠﨑絵里子上演台本、小山ゆうな演出)、そして「YPAM 2021- 横浜国際舞台芸術ミーティング」がラインナップされました。

メインシーズンは、今はまだバラバラに作品を並べているように感じるかもしれませんが、“冒”というテーマのもと、一連の作品がギューッと1つの流れに見えてくるように、今、いろいろと考えているところです。なかなか面白いものになっているなって我ながら思っているので、それを伝えていきたいですね。

その一方で、昨年からずっと劇場のスタッフが、コロナと闘いながらランニングし続けてきたことは僕も目の当たりにしていて、それがとても大変だったことも痛感しています。そういった現状を見つめ、現状に即して変化していくことも大事だと思っていて。例えばチラシなど広報のあり方が、今後は変わってくると思いますし、既存の演劇のお客さんではない方をどう結びつけていけるのかも考えていきたい。それもあって今、演劇とは全然関わりのない方たちと対話するようにしていきたいと強く思っていて。演劇をまったく知らない人との対話は非常に面白いし、わかりやすく演劇の魅力を伝える言葉が見つかると、僕も自信になる。そういった体験や、これまで培ってきた演劇の財産も活用しながら、新たな道を切り拓いていきたいなと思います。

──長塚さんは、演劇のことを考えながら、演劇以外のことや人へも思いを馳せていらっしゃって、すでに柱の1つである“ひらかれた劇場”に向けて第一歩を踏み出されていますね。

いやいや、走り出してみないとわからないことも多いので、心配事は山積みです(笑)。

可能性を秘めた新企画“カイハツ”プロジェクト

──カイハツについては、会見で詳細に言及されませんでした。どんな人にどんなふうに開いていくイメージですか?

実は1年目はとても悩みました。こちらから参加してほしい人に「興味ないですか」って声をかけることも考えてはいたのですが、あるとき、そこも慌てて決めなくてもいいかなと思い始めて。今後、例えば海外の演出家の来日に合わせて日本の俳優と何かやってもらったり、クリエイターから「僕はこんなことがしたいんです」という提案があれば劇場として一緒にクリエーションしたり、ということができればとは思っています。しかし、その点も含めてまだ議論が必要かなと。いずれにしてもまだ決め込まなくてもいいと思っています。

──では、かつて長塚さんと首藤さんが新国立劇場の門を叩いたように、誰かがKAATの門を叩いてくる可能性もある、というわけですね。

それはいいですよね。あのときの僕たちはカッコよかったなあ(笑)。でも耳を開いた劇場であるということは、大きいと思うんです。その点、KAATは新たなことにも柔軟に対応できるようにしたい、という考えがスタッフに浸透していますし、カイハツプロジェクトで生まれたものがやがてプログラムに入り込んでくるような、そういう企画ができればいいなと思います。

日本語の戯曲から、新たな地縁を広げていきたい

──留学前の長塚さんを“孤高の劇作家・演出家時代”、留学後から近年までを“フラットなクリエーションを模索する時代”と捉えると、今後は長塚さんが“日本の新たな芸術監督像を作っていく時代”になるのではないかと期待が高まります。長塚さんはリーダーや首領というより、親分とか頭領というような、場の中にいて全体を盛り上げていく芸術監督になるのではないかと……。

あははは! それはわからないですけれど……でも「王将」とか、ガッとふんどし締める、みたいな芝居をやっていますからね(笑)。日本語の戯曲に対する思いはやっぱり強くて。シェイクスピアの作品が新たなアプローチで発表されているように、これまでにあった日本語の素晴らしい戯曲、これから生まれてくる新しい作家の戯曲など、日本の多くの作品を見直して、新たなクリエーションをする機会がもっと増えてもいいんじゃないかと思います。またそういうやり方を通して自分たちの国の文化を知るのは、ある意味、非常に国際的なやり方なんじゃないかなって。

長塚圭史

例えば2月に新国立劇場演劇研修所の第14期生修了公演で秋元松代さんの「マニラ瑞穂記」が上演されましたが、そういった作品や言葉に出会うことは作る側にも観る側にもすごく力になると思うし、自分の体の中に流れているものが何かを鮮烈に感じて、どこかへつながっていくことがあると思うんです。それがやがて、戦後や明治維新がどういうものだったのかとか、古い時代に日本語がどう語られていたのかということへの興味を掘り下げていくことになるかもしれないですし、さらにシェイクスピアやチェーホフ戯曲など異国の劇に対しても、違う出会い方ができるんじゃないかと。なので、日本語の戯曲に重心を置きつつ、もちろん海外戯曲やアーティストも取り上げつつ、日本語の戯曲から新たな地縁が広がっていけばいいんじゃないかなと、僕はそう思っています。

KAAT神奈川芸術劇場 2021年度(2021年4月~2022年3月)主催公演、主なラインナップ

プレシーズン

  • リーディング公演「ポルノグラフィ」

    2021年4月16日(金)~18日(日) 中スタジオ

    作:サイモン・スティーヴンス

    翻訳:小田島創志

    演出:桐山知也

    出演(五十音順):上田桃子、内田淳子、小川ゲン、奥村佳恵、竪山隼太、那須凜、平原慎太郎、堀部圭亮

  • 新ロイヤル大衆舎×KAAT 長塚圭史芸術監督就任第一作「『王将』 -三部作-」

    2021年5月15日(土)~6月6日(日) アトリウム特設劇場

    作:北條秀司

    構成台本・演出:長塚圭史

    音楽:山内圭哉

    出演:福田転球、大堀こういち、長塚圭史、山内圭哉(以上新ロイヤル大衆舎) / 常盤貴子、江口のりこ、森田涼花、弘中麻紀 / 櫻井章喜、高木稟、福本雄樹、荒谷清水、塚本幸男、武谷公雄、森田真和、田中佑弥、忠津勇樹、原田志

  • 「未練の幽霊と怪物―『挫波(ザハ)』『敦賀(つるが)』―」

    2021年6月5日(土)〜26日(土) 大スタジオ

    作・演出:岡田利規

    音楽監督・演奏:内橋和久

    出演:森山未來、片桐はいり、栗原類、石橋静河、太田信吾 / 七尾旅人(謡手)

  • 「虹む街」

    2021年6月上旬~下旬 中スタジオ

    作・演出:タニノクロウ

    出演:安藤玉恵、金子清文、緒方晋、タニノクロウ、蘭妖子 / 県民参加のキャスト

  • KAAT DANCE SERIES 2021 イスラエル・ガルバン「春の祭典」

    2021年6月18日(金)~20日(予定) ホール

    振付・ダンス:イスラエル・ガルバン

    作曲・音楽監督:シルヴィー・クルボアジェ

    ピアノ:シルヴィー・クルボアジェ、コリー・スマイス

  • KAAT キッズ・プログラム 2021「ククノチテクテクマナツノボウケン」

    2021年7月 大スタジオ

    振付:北村明子

    舞台美術:大小島真木

    出演:柴一平、清家悠圭、岡村樹、黒須育海、井田亜彩実、永井直也

メインシーズン「冒」

  • 「湊横濱荒狗挽歌(みなとよこはまあらぶるいぬのさけび)

    2021年8月末~9月中旬 大スタジオ

    作:野木萌葱

    演出:シライケイタ

  • 「近松心中物語」

    2021年9月上旬~下旬 ホール

    作:秋元松代

    演出:長塚圭史

    出演:田中哲司 / 松田龍平、笹本玲奈 / 石橋静河 ほか

  • KAAT EXHIBITION 2021「志村信裕 展 | 游動」

    2021年9月9日(木)~10月8日(金) 中スタジオ

  • KAAT DANCE SERIES 2021 × Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021「エリア 50代」

    2021年9月23日(木・祝)~26日(日) 大スタジオ

    出演:小林十市、近藤良平 ほか

  • KAAT DANCE SERIES 2021 × Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021「Noism Company Niigata × 小林十市」

    2021年10月16日(土)・17日(日) ホール

    演出・振付:金森穣

    出演:Noism0 / Noism1 / Noism2 / 小林十市

  • 「アルトゥロ・ウイの興隆」

    2021年11月 ホール

    作:ベルトルト・ブレヒト

    翻訳:酒寄進一

    演出:白井晃

    音楽・演奏:オーサカ=モノレール

    振付:Ruu

    出演:草彅剛 ほか

  • KAAT DANCE SERIES 2021 ダンス・シアター「Le Tambour de soie 綾の鼓」

    2021年12月下旬 大スタジオ

    演出・振付・出演:伊藤郁女、笈田ヨシ

    テキスト:ジャン・クラウド・カリエール

    原作:三島由紀夫

    音楽・出演:矢吹誠

  • KAAT カナガワ・ツアー・プロジェクト 第1弾「冒険者たち ~JOURNEY TO THE WEST~」

    2022年2月 中スタジオ

    原作:呉承恩「西遊記」

    上演台本・演出:長塚圭史

    共同演出:大澤遊

    音楽:角銅真実

  • 「ラビット・ホール」

    2022年2・3月 大スタジオ

    作:デヴィッド・リンゼイ=アベアー

    上演台本:篠﨑絵里子

    演出:小山ゆうな

  • 「YPAM 2021- 横浜国際舞台芸術ミーティング」

    2021年12月中旬 ホール、大スタジオ、中スタジオ(予定)

2021年度 提携公演ラインナップ

  • 仕立て屋のサーカス 2021年4月 大スタジオ
  • 錬肉工房 2021年6月 中スタジオ
  • とりふね舞踏舎 2021年7・8月 大スタジオ
  • 劇団た組 2021年10・11月 大スタジオ
  • OrganWorks 2021年12月 大スタジオ
  • 地点 2022年1月 大スタジオ
  • Baobab 2022年1月 大スタジオ
  • Co.山田うん 2022年1月 大スタジオ
  • BATIK 2022年3月 大スタジオ