新国立劇場[演劇] 2019 / 2020 シーズン 小川絵梨子×長塚圭史×小山ゆうな 座談会|演出家たちの多様性を見つめながら、小川芸術監督セカンドシーズンへ

2018年9月に始動し、オープニングプログラムの「誤解」「誰もいない国」「スカイライト」3作品を好評のうちに終えた小川絵梨子芸術監督のファーストシーズン。今後の作品にも注目が高まる中、1月17日には2019 / 2020 シーズンのラインナップが早くも発表された(参照:新国立劇場の各部門が連携、小川絵梨子演出「子供オペラ」2020年に上演)。本特集では、小川芸術監督セカンドシーズンに関わる長塚圭史、小山ゆうなに参加してもらい、NY(小川)、ロンドン(長塚)、ドイツ(小山)で体得した海外のクリエーションに関する話や同世代の演出家ならではの思いを語ってもらった。

取材・文 / 兵藤あおみ 撮影 / 金井尭子

小川芸術監督の誕生、うれしかった

──2018年9月に、小川芸術監督によるシーズンが始まりました。ここまでの3作品(「誤解」「誰もいない国」「スカイライト」)を含め、翻訳劇が多くラインナップされている印象を受けますが。

小川絵梨子

小川絵梨子 自分では「どなたに演出をお願いしようか」を重視しており、基本的に作品はその方と相談して決めた感じです。たとえ脚本ありきでも、「あの方にお願いできるだろうか」と真っ先に演出家のことが頭に浮かびましたし。なので、意図的に翻訳モノを選んだというわけではないんです。でもやっぱり、今後の枠組みと芝居の方向性については、最初の3作品で打ち出したいなとは思いました。なんだかんだ言って4年間ってほんとに短くて。この期間に「作品を作る」「劇場にかける」ってどういうことなのかを自分なりに一生懸命考えつつ、ラインナップを組んでいきたいと思っています。

──長塚さん、小山さんは同世代の小川さんが新国立劇場の芸術監督になられたことをどう見ていらっしゃいますか。

小山ゆうな 小川さんに決まったとき、周りのみんなと共に「やったあ!」とお祝いムードになりました。これを機に、演劇界にさらにいい流れができればいいなと思います。実際、「こつこつプロジェクト」など、「どういうもの?」と聞きたくなるような新たなチャレンジをいろいろ始めてくださっている。

小川 わあ、うれしいです。

長塚圭史 僕も小川さんが新国の芸術監督になって素直にうれしい。確かに最初のシーズン、翻訳モノが多いっていう印象もあって、それについて賛否両論いろいろあると思うんだけど。それでも「全役オーディションで『かもめ』をやろう」とか「こつこつプロジェクト」とか、すごく興味深いし、何より天野天街さんをラインナップに入れたところがね。「これはもう信用できる!」と。僕、大ファンだから。

小山 私もです!

小川 (笑)。面白いもんねー。

長塚 あと野木(萌葱)さんの新作があるっていうのもね。重厚な筆致で魅せてくれそうで楽しみじゃないですか。野木さんや天野さんのような人たちが“国立印”を身に付け登場し、新たな客層に認知される。そう考えただけでワクワクしますよ。

小川 私もワクワクしています。

ドラマトゥルクの存在が頼もしいドイツ

──お三方は翻訳劇も多く手掛けていらっしゃいますが、時代考証や舞台となる場所の文化や風土などと、どう向き合って創作活動に臨んでいらっしゃいますか。

小川 どの方向で芝居を作るかによるかもしれません。知っておいたほうがいいときもあるし、そんなに知らなくていいときもある。

長塚 そうだね。この前演出した「セールスマンの死」では、アメリカの広大さ、そのサイズについて実感がないとマズいのでカンパニーのみんなでずいぶん話をしました。あと入り口程度だけど歴史的なことにも触れました。そういったものを含まないとただの病的な人たちになっちゃうから。

小山 ちなみにドイツの現場では議論がすごいです。プロデューサーが「稽古しろよ」ってブツブツ言うくらい。

一同 (笑)。

小山ゆうな

小山 ドラマトゥルクを中心に、みんなで解釈などについて話すんです。

小川 日本でもドラマトゥルクを擁する作品が増えてきたけど、実際のところ、どういう役割を担っているのかイマイチで。

長塚 そうそう。詳しく知りたい!

小山 時代考証から脚本内に生じた疑問まで、全部に答えられる人。あと、シェイクスピアを現代にアダプトするといったときには上演台本を作成したり、ワークショップで俳優がしゃべった生の声を脚本に起こしたりとか、作家でもあるんですよ。

長塚 へえー、面白いね。「こつこつプロジェクト」みたいなものでも、ドラマトゥルクがいたらいいんじゃない?

小川 確かに、そうだね!

長塚 僕の周りでは、スタッフさんとか客観的に作品を観て、的確な意見を言ってくれる人はいるけど、時代考証まではしてくれないからなー。自分で調べるにしても、その時間が惜しいときもあるし。

小山 ドイツではドラマトゥルクになるための教育がちゃんとあるんです。「こうあるべき」という形に育てられているから強いですし、現場ではとても頼もしい存在。日本でもそういう方々がもっと活躍できるようになればいいなと思います。

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長塚圭史(ナガツカケイシ)
1975年生まれ。劇作家、演出家、俳優、阿佐ヶ谷スパイダース主宰。96年、演劇プロデュースユニット・阿佐ヶ谷スパイダースを旗揚げし、作・演出・出演の3役を担う。2008年、文化庁新進芸術家海外研修制度にて1年間ロンドンに留学。帰国後の11年にソロプロジェクト・葛河思潮社を始動。「浮標(ぶい)」「冒した者」「背信」を上演。また17年に福田転球、山内圭哉、大堀こういちらと新ユニット・新ロイヤル大衆舎を結成し、4月に北条秀司の「王将」三部作を東京・小劇場楽園で上演した。近年の舞台に「かがみのかなたはたなかのなかに」、シアターコクーン・オンレパートリー2013+阿佐ヶ谷スパイダース「あかいくらやみ ~天狗党幻譚~」、「音のいない世界で」(いずれも作・演出・出演を担当)、こまつ座「十一ぴきのネコ」、CREATIO ATELIER THEATRICAL act.01「蛙昇天」、シス・カンパニー公演「鼬(いたち)」、「マクベス Macbeth」(いずれも演出を担当)など。読売演劇大賞優秀演出家賞など受賞歴多数。2月にこまつ座「イーハトーボの劇列車」の演出を手がけるほか、2020年8月に新国立劇場にて新作を上演する。
小山ゆうな(コヤマユウナ)
1976年生まれ。ドイツ・ハンブルク出身。早稲田大学第一文学部演劇専修卒業。ドイツにて演出を学び、劇団NLT演出部を経て、現在は雷ストレンジャーズを主宰。2018年に「チック」にて小田島雄志・翻訳戯曲賞、読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。2月から3月にかけてunratoプロデュース「LULU」(上演台本・演出)、夏に「チック」(翻訳・演出)の再演を手がける。さらに2020年7月には新国立劇場での演出が控える。
小川絵梨子(オガワエリコ)
1978年東京生まれ。2004年にアメリカ・アクターズスタジオ大学院演出部を卒業。06年から07年に文化庁新進芸術家海外研修制度研修生となる。10年にサム・シェパード作「今は亡きヘンリー・モス」の翻訳で第3回小田島雄志・翻訳戯曲賞を受賞。12年に「12人~奇跡の物語~」「夜の来訪者」「プライド」の演出で第19回読売演劇大賞優秀演出家賞、杉村春子賞を受賞。また「ピローマン」「帰郷 / The Homecoming」「OPUS / 作品」の演出で第48回紀伊國屋演劇賞個人賞、第16回千田是也賞、第21回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。18年9月に新国立劇場 演劇芸術監督に就任。2月から3月にかけて「熱帯樹」の上演、3月から4月にかけて翻訳を手がけた「BLUE / ORANGE」の再演が控えるほか、4月には翻訳を担当した「かもめ」が新国立劇場にて上演される。