STRANGE Lab.で得た意識の変化
──ストリートシアターが定着し始めてきたこのタイミングでSTRANGE Lab.が始動したことにより、新たな可能性が広がりそうです。STRANGE Lab.は、ストリートシアターで世界へ踊り出る長期的なアーティスト育成プロジェクトで、「ストリートシアターの伴走支援」「国際共同製作」「海外フェスティバル視察」を掲げるほか、育成アーティストやスタッフのストリートシアターの知見を高めるための「ストリートシアターってなんだ?ゼミ」の実施などが3年かけて行われます。ウォーリーさんはメンターを務めていらっしゃいますが、始動から1年、どんな実感がありますか?
ウォーリー 最初にお話しした通り、もともと「シビウ国際演劇祭」や「エジンバラ国際演劇祭」など、「ストレンジシード静岡」は海外の演劇祭をある種の雛形にしつつ、「日本の静岡で世界とつながることがしたい」という気持ちを持ってやってきました。この10年は、ストリートシアターがどういうものなのかを考え続け、アーティストを発掘したり──育成の手前ですね──予算があるときは海外からアーティストを招聘したりと、正直なところその程度しかできていなかったのですが、STRANGE Lab.を通じて国際的なネットワークを作ることで日本のアーティストの作品を売ったり、海外のアーティストの作品を買ったり、国際共同制作をしたり、ということがよりしやすくなるんじゃないかと期待しています。さらに「ストレンジシード静岡」では、日本の中だけでのドメスティックな文脈で作品を作るのではなく、いろいろな歴史的文化的背景を持っている人たちと交流しながら演劇やダンス、パフォーミングアーツの豊かさや広がりを知るフェスティバルにしていきたいと思っていて、それを20年目に向けた目標にしています。その第一歩が、このSTRANGE Lab.です。
──STRANGE Lab.の育成対象者には鈴木ユキオさん、ゼロコさん、そして安本さんと大熊さんが選出されました。この4名のアーティストを選出されたのはなぜでしょうか。
ウォーリー まずこの場にいらっしゃらない方からお話しすると……鈴木ユキオさんはもともとオープンコール枠に応募してくださいました。2024年は一般の方50人ぐらいをレクチャーして移動型のダンスパフォーマンス「風景とともに」をやってくださったんですけれども、ちょっと大げさな言い方になるかもしれませんが、僕がこの10年、静岡で観た作品のうち3本の指に入るくらい素晴らしい作品で。本当に風景の中で人々が踊っていて、音楽が流れている自由さがあって「わあ、こんなことができるんだ!」と感動したんです。彼なら新しいストリートシアターが作れるんじゃないかと思って、STRANGE Lab.にお声がけしました。鈴木さんとお話しする中で、Stopgap Dance Companyの話が出てきたんです。Stopgap Dance Companyは僕も以前海外のストリートシアターで観たことがあったのですが、障がい者と健常者が交ざったダンスカンパニーで素晴らしいパフォーマンスだったんですね。で、鈴木さんとStopgap Dance Companyが実は数年前からプロジェクトを組んでいるという話を聞いて、「じゃあストリートシアターで一緒に何かやりませんか」ということになりました。「風景とともに」にも障がい者の方が数人出ていたのですが、ストリートシアターってフラットな環境で何かを一緒に考えたり作ったりできるのが良さだと思っていて、鈴木ユキオさんはそれを実践するアーティストなのではないかと思っています。
ウォーリー ゼロコさんは、大道芸とストリートシアターの中間にいる人だと思っていて、僕が言うのもなんですが、大道芸の中ではけっこう浮いていて、ストリートシアターに出ると「ちょっと大道芸っぽいね」と言われる存在(笑)。でも彼らがやっているマイム技術、サーカス技術、パペットを扱う技術はかなり高くて、日本でここまでの高い身体性を持っている2人組ってなかなかいないなと思うんです。かつ、彼らは既存のシステムで作品を作ろうとはしないんです。ちょっと境界を越えようとするというか……だから浮いてるんですけど(笑)、その姿勢も素晴らしいなと思っていて。彼らにはストリートシアターの門戸を広げたり、もしかしたら日本のストリートシアターアーティストとして世界の最前線で走っていける可能性もあると思ったので、参加していただくことになりました。
ウォーリー で、僕が最初に安本さんを知ったのは……あれ、名前なんでしたっけ? モサモサした……。
安本 ギリーズですね(笑)。
ウォーリー そうそう、白い毛だらけの、顔がどこにあるのかもわからない着ぐるみが4人……というか4体、セリフは一切使わず、街中を歩いて最終的にはビルの壁を登っていく、という安本さんのパフォーマンス(「まちなかサバイバル!」)があるんですけど、それを観たときに、僕の思考に近いと感じました。ノンバーバルでの作品の作り方、人が何を思い、何に興味を持つのか……そういった演出的なセンスが安本さんはすごく高いと思います。また「ストレンジシード静岡」がバーティカルアクトやサーカスにそもそもあまり取り組んでこなかったところもあり、安本さんにはサーカスとストリートシアターを融合した作品の先鋒者としてがんばっていただきたいと思い、参加をお願いしました。
ウォーリー 大熊くんは、僕は劇場でやるより外でやったほうが面白いと思っているんですが、本人がどう思っているのかはわかりませんけれどたぶん「なるべく楽しいことをしたい」という発想が第一にある人だと思います。どんな舞台でもそうですが、ストリートシアターにとって“楽しさ”って特に重要で、既成観念が壊れていく感覚、見えている風景が変容するような感覚、目の前にいる俳優やパフォーマーと自分たちが何かつながれるんじゃないかというワクワク感を作り出すことは重要だと思うんですね。大熊くんはそこに対するアンテナがすごく張り巡らされていて、ご自身も言っていた通り、トライアンドエラーを繰り返しながらやっていける人でもあるので、一緒に伴走するにはとてもいい方だと思って参加をお願いしました。
──STRANGE Lab.の育成対象者になって、お二人は何か変化したことはありますか?
大熊 ストリートシアターに出させてもらうときに、応募書類の項目の中に一応ジャンルを書く場所があるんですけど、これまで「演劇ではないけどダンスでもないし、別にパントマイムでもないけど……とりあえずパフォーマンス」と書いていたんです。どういうふうに自分のことを言い表せばいいのかわからなかったのですが、STRANGE Lab.に参加させてもらって勉強するうちに「ああそうか、『ストリートシアターをやってます』って言えばいいのか」と思うようになりました。また、先ほどウォーリーさんに楽しさを評価していただいたのにアレですが(笑)、自分はただ楽しいだけではないものがやりたいんだと、自覚的になっていったところがあります。
安本 STRANGE Lab.に参加して、事務局の方たちが伴走してバックアップしてくれることで、1人では作れない規模の作品にチャレンジできるのが本当にうれしいです。自分の表現の幅を広げていただいているなと感じますし、後続の方たちにつながるようにがんばりたいと思います。
──2026年の「ストレンジシード静岡」は5月3日から5日に開催されます。今回上演される作品についても伺えますか。
大熊 僕は2025年に上演した「末待奉祭(まつまつたてまつりまつり)」を再演します。新作を作るか迷ったのですが、STRANGE Lab.で1年勉強して、上演を重ねて進化させることも大事だなと思い、昨年の作品のコアの部分をもう少しブラッシュアップして、テーマの部分を前に押し出すような作り方にして上演したいなと思っています。
また海外のストリートフェスに研修に行って4日間、本当にいろいろな作品を観たんですね。あれだけ観ると「この作品はめっちゃいいな、この作品は正直イマイチだな」というのがわかってきて、さらに安本さんやスタッフの人たちとフィードバックできたのもすごく良かったです。それによって自分の中での「ここはおもろい、これはおもんない」みたいなラインが見えてきたので、自分の作品でもそこを尖らせてパワーアップさせた作品を上演する予定です。
安本 私は今回、バーティカルダンスではなくよりサーカスに近い、「誘影灯」というエアリアルパフォーマンスを上演します。映像作家の長良将史さんと共同製作をしていまして、屋外にプラスチックで3面の壁を吊り、そこに映像を投影した作品になるのですが、モチーフになっているのは誘蛾灯で、夜に灯りに吸い寄せられた虫がバチっと弾けちゃう、その様子を今の世界情勢や人の弱さに重ねたうえで、どうにか希望を見出そうとするパフォーマンスになる予定です。先ほど、いろいろな表現があるのがストリートシアターの良さだというお話をしましたが、日本国内で行われている作品は、たとえば街の風景を変えるもの、楽しいものは割とたくさんあって、それはそれですごく好きなのですが、政治的な表現を持った作品はあまりないかもしれないなと思っていて。一つの要素として取り込んでいる作品はあっても、ストレートに表現したものはあまりない。そこに今回は挑戦してみたいし、自分としてはやったことがないことにもチャレンジします。
“ストリートシアターの創造拠点”としてのSPAC
──STRANGE Lab.では「ストリートシアターを入り口に世界のマーケットに参入すること」を使命の1つにしています。安本さんからもお話があったように、アーティスト個人や一団体で海外公演を目指すことは費用や手続きの面で、以前にも増して困難だという話をよく聞きますが、お二人の実感としてはいかがですか?
安本 海外のストリートフェスには、おかげさまでいろいろなツテがあり行かせていただいていますが、日本に帰国してから(ストリートシアター以外の)自分の作品を海外で上演したいと思ったとき、どうやって作品を持っていくのかの方法論がわからなかったんです。でもSTRANGE Lab.を通じて、いろいろなディレクターさんのお話を聞き、海外のネットワークや売り込みの仕方を学ぶことができて現実味が湧き、海外公演が視野に入ってきたことは自分の中で大きな意味がありました。
大熊 僕は本当にお恥ずかしい話、二十代の頃は海外展開を夢見ていた部分があるのですが、三十代になってちょっと自分がやっていることの面白さがよくわからなくなった時期がありまして、その間も作品は作り続けていたのですが、自分が何かを目指してやっているというよりはその時々面白いと思うものを作ってはやるを繰り返している感じでしかなかったんです。なので、海外に行きたい気持ちはありつつも、ほとんど何も実行していなかったしアンテナも張っていなかったのですが、STRANGE Lab.でいろいろお話を聞くうちに、「自分は刹那的にものを作りすぎていたな、作品を育てるという気持ちも薄かったな」と感じたんですね。また昨年の夏に安本さんと海外のフェスへ研修に行って、やっぱりめちゃくちゃ面白かったんですよ。日本ではちょっと味わえない体験だったし、ただ観るだけじゃなくて自分もここでやりたいなという気持ちが湧いてきた……のが昨年のことです。
──STRANGE Lab.がSPACを拠点に展開している点については、どのようにお感じになっていますか?
ウォーリー 僕らが作品を作るうえで場所はどうしても必要ですが、今の日本で「ストリートシアターを作っていいよ」と言ってくれている劇場はSPACだけ。ストリートシアターって入場料が取れないので、収支が合わないんですよね。でも場所がないとアーティストも作品も、いつまで経っても出来上がらない。その点でSPACが受け皿となってストリートシアターの育成が始められたことや、「SHIZUOKAせかい演劇祭」とSTRANGE Lab.がリンクできていることは大事だと思っています。
またストリートシアターって年に1回だけ上演しても効果が薄く、365日活動したほうが良いと思うんです。その点でもSPACに集まってくる市民の方対象に年間を通じてワークショップなどをやったり、劇場の取り組みとしてアウトリーチに携わったりできるのはいいこと。劇場にストリートシアターを応援してもらえるのは本当にありがたいし、日本ではまだあまりない試みだと思うので、SPACにその先陣を切っていただけるのはありがたいです。
大熊 僕は2020~2022年の3回、「ストレンジシード静岡」でSPACの俳優さんたちと「Team Walk」というパントマイムの作品を作ったことがあります。それがすごくいい作品だったんですね。SPACとのつながりによって、またあの作品ができたらいいなと思っています。
安本 ウォーリーさんもおっしゃったように、ストリートパフォーマーたちにとって場所は本当に大事です。SPACと「ストレンジシード静岡」を起点に、今後日本全国、いろいろなところにストリートパフォーマーたちが活動できる場所ができて、国内ツアーが実現し、ゆくゆくはストリートパフォーマーたちが生計を立てていくことができたらいいなと、いちパフォーマーとして思っています。
──「ストレンジシード静岡」そしてSTRANGE Lab.の今後の展開について、ウォーリーさんはどのような未来を展望していますか?
ウォーリー 立ち上げ当初、「ストレンジシード静岡」がアジアの、ひいては世界のストリートシアターフェスのハブになるようなフェスティバルになったらいいなという思いがありました。日本だけで活動していると、日本のコンテクストの中でしか活動できなくなっていく感覚があって……つまり、劇場を借りて公演を打つといったルールや、師匠が誰かとか、演劇的なステップがどうとか、有名な戯曲賞を受賞できるか否かなど、僕らは知らないうちに決まった枠組みの中で活動するのが当たり前になっていて、その中で苦しむわけです。でもいざ海外へ行ってみると、そんなことはまったくどうでもよくて、「私の国ではこういう戦争があって、こういう中で活動していました」とか「私たちの国では今貧困が問題になっていて、作品ではそれを扱っています」とか、僕らと全然違う文脈の中で作品が存在しています。そういったことを知ることで、自国に帰ってきても「ああ、あの国はそうだったな」「あの子どうしてるかな」と想像できるようになるのはアーティストとしてだけじゃなく普通に生活する人間として大事だと思うし、それが国際的な人間になることの唯一のメリットだと僕は思います。
また、「海外で売れる日本のアーティストの作品を作りたい」という気持ちがあって。今回STRANGE Lab.の対象アーティスト4組にはストリートシアターに特化した作品を作ってもらうのですが、ヨーロッパの人に「こんな文脈のストリートシアターは観たことがない!」と思ってもらえるような、僕らでしか作れないものを、次の10年をかけてアーティストと作っていきたいと思います。
プロフィール
ウォーリー木下(ウォーリーキノシタ)
戯曲家・演出家。1993年、神戸大学在学中に劇団☆世界一団(現sunday)を結成。2002年に自身が中心となり、ノンバーバルパフォーマンス集団・The Original Tempoを設立。2001年に「神戸ショートプレイフェスティバル」、2011年に「PLAY PARK-日本短編舞台フェス-」、2013年に「多摩1キロフェス」、2017年に「ストレンジシード静岡」を立ち上げるなど、フェスティバルディレクターとしても活動。近年の仕事に東京2020パラリンピック開会式(演出)、ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」シリーズ(演出・脚本)など。ミュージカル「チャーリーとチョコレート工場」(日本版翻訳・演出)が上演中。5月に和田俊輔と結成したユニットStudio Wの第1回公演リーディングミュージカル「時計のこども Child of Time」(作・演出)、7月にミュージカル「町田くんの世界」再演(演出)、9月から10月にかけてミュージカル「タイムトラベラーズ・ワイフ」(演出)が控える。
ウォーリー木下 | 【公式】株式会社キューブ オフィシャルサイト
大熊隆太郎(オオクマリュウタロウ)
1986年、大阪府生まれ。演出家、俳優、パフォーマー。2008年に高校演劇全国大会出場メンバーで劇団壱劇屋を結成し、さまざまなアワードに輝く。2022年度大阪文化祭賞奨励賞を受賞した。個人では京都でロングラン公演中の「ギア-Gear-」マイムパートに出演している。
劇団壱劇屋 ichigekiya official site
大熊隆太郎 (@okuma_ryutaro) | Instagram
安本亜佐美(ヤスモトアサミ)
京都府生まれ。京都市立芸術大学院を卒業後、英国サーカス学校へ。帰国後、京都を拠点に現代サーカス・アーティストとして活動。現代サーカス団体Co.SCOoPP、及び関西エアリアル代表。2018年に産業ロープアクセス国際資格IRATA level.1取得(2022年に更新)。「国内ダンス留学@神戸8期」修了。
Asami Yasumoto Aerial & Physical theater performer
asami.yasumot (@asami_yasumot) | Instagram




