「ジャポニスム2018:響きあう魂」| 「プラータナー」レポート / タニノクロウ インタビュー / 「マハーバーラタ」「書を捨てよ町へ出よう」| レポートフランスで立ち上がる日本の現代演劇

日本文化の多様性に富んだ魅力を発信するためのプロジェクト「ジャポニスム2018:響きあう魂」。日仏友好160年を迎えた2018年7月から19年2月までの8カ月にわたり、展覧会や舞台公演、映像や生活文化などさまざまな企画が実施されている。現代演劇作品に注目する本特集第2弾では、18年秋に上演された「プラータナー:憑依のポートレート」「マハーバーラタ~ナラ王の冒険~」「書を捨てよ町へ出よう」3作品のレポートと、「地獄谷温泉 無明ノ宿」「ダークマスター」2作品連続上演に挑んだ庭劇団ペニノ・タニノクロウのインタビュー、さらにジャポニスム事務局 事務局長・増田是人のインタビューを届ける。

[概要]/ [「プラータナー:憑依のポートレート」レポート]取材・文 / 島貫泰介
[タニノクロウ インタビュー・増田事務局長インタビュー]取材・文 / 熊井玲
[「マハーバーラタ~ナラ王の冒険~」「書を捨てよ町へ出よう」レポート]取材・文 / 徳永京子
[タニノクロウ インタビュー]撮影 / 京角真裕(空耳カメラ)

「プラータナー:憑依のポートレート」公演レポート

「プラータナー:憑依のポートレート」より。©KOS-CREA / 写真提供:国際交流基金

2018年8月にタイ・バンコクのチュラロンコーン大学文学部演劇学科 ソッサイパントゥムコーモン劇場にて世界初演された、「プラータナー:憑依のポートレート」は、タイの小説家ウティット・へーマムーンの新作長編小説を、チェルフィッチュの岡田利規が舞台化した作品だ。ここでは、18年12月13日から16日にフランスのポンピドゥ・センターにて上演されたフランス公演の模様を、タイでの世界初演も目撃したライターの島貫泰介がレポートする。

約9500km離れたフランスに
タイの物語がどう届くか

「プラータナー:憑依のポートレート」より。©KOS-CREA / 写真提供:国際交流基金

2018年7月から約8カ月にわたってフランスで開催中の「ジャポニスム2018:響きあう魂」も後半戦を迎えた12月。10月に「『三月の5日間』リクリエーション」を上演した岡田利規が、12月にはタイのアーティストたちとコラボレーションした最新作「プラータナー:憑依のポートレート」を上演した。

同作は、タイ現代文学の注目作家、ウティット・ヘーマムーンの自伝的小説を舞台に翻案したもので、主人公の男の半生を軸に、タイの近現代の歴史・政治・ポップカルチャーの変遷を追うという内容だ。王室を中心とする複雑な政治体制で知られる同国の、かなり詳細な社会情勢を背景とする本作は、約9500km離れた花の都でどのように受け取られただろうか?

“2018年12月のパリ”を織り込んだ「プラータナー」フランス公演

「プラータナー:憑依のポートレート」より。©KOS-CREA / 写真提供:国際交流基金

会場は、フランス近現代美術の殿堂ポンピドゥ・センターの地下ホール。開場前には長蛇の列ができ、これまでに「フリータイム」「三月の5日間 リクリエーション」をパリで発表してきた岡田作品への期待の高さがわかる。あらかじめ4時間(休憩20分含む)という上演時間が告知されていたにもかかわらず、これだけ大勢の観客が足を運ぶことに少し驚かされるが、オペラやバレエなど3~4時間規模の作品に慣れたフランスのオーディエンスにとっては、むしろなじみやすさがあるのかもしれない。

筆者はバンコクでのワールドプレミアを観る機会に恵まれたが、パリ版では細かい部分に変化が見られた。最初に気付くのは空間の広さ。舞台美術、キャスト(11人+α)の多さもあり、アジア的な猥雑さを想起させる「プラータナー」だが、今回は少しフラットな印象だ。contact Gonzoの塚原悠也を中心として生み出されたカオスな舞台美術に囲まれながら、タイの俳優たちは悠々と自分たちの演技の時間を楽しんでいるように見えた。もともと身体性や瞬発力に秀でた俳優たちにとって、この“遊び場”的な舞台空間は、ポジティブに働いていた。

加えて「2018年12月のパリ」らしい要素としては、マクロン政権が進める増税への抗議として始まった「黄色いベスト運動(ジレ・ジョーヌ)」を撮影した写真が舞台美術に採用されているところ。筆者は直接デモに出くわすことはなかったが、ブランドショップや銀行が並ぶ大通りや、レピュブリック広場には激しい運動の痕跡がいたるところで見られた。公演を観た観客からも「劇中に登場する黄色い衣装から、まさに今回のデモを連想した」との声を聞いたが、タイで起こった軍事クーデターと、パリの労働者デモが思わぬ共鳴を見せるのも、あらゆるものが一瞬でつながり、遠い国の出来事が身近な生活に思わぬ影響を及ぼす現在の世界の反映と言えるかもしれない。

「プラータナー」に感じる、“よりラジカルな前進”

「プラータナー:憑依のポートレート」より。©KOS-CREA / 写真提供:国際交流基金
「プラータナー:憑依のポートレート」より。©KOS-CREA / 写真提供:国際交流基金

約4時間の上演を終えたあと、何組かの観客に感想を聞いたところ、皆、好意的な印象を抱いたようだ。上演時間の長さはあるものの、後半で展開するフィジカルな要素(キャスト全員がcontact Gonzoの格闘技ふうダンスを展開)が、前半のストーリーを補完する構造に、優れた演出力を感じることができたと言う。また、若い観客が多くいたことも印象的。演劇を学んでいるという二十代のカップルは、これまでにいくつかの岡田作品を観たことがあるとのことだが、「プラータナー」で展開される肉体的な要素には新鮮な驚きを感じたと語ってくれた。実質20名弱のキャストが登場し、セックスや暴力を題材の一部とする本作は、確かにこれまでのチェルフィッチュには観られなかったものだ。

東日本大震災以降の岡田利規は、いくつかの作品において自身のキャリアを拡張・更新するような試みを行なってきたが、「プラータナー」からはよりラジカルな前進が感じられる。今年19年の6月から7月にかけて東京・東京芸術劇場で日本公演も予定されており、制作関係者のコメントではバンコク版、パリ版とも少し異なる空間での上演が予定されているそうだ。タイの歴史や社会に強く結びついた本作と日本人との距離感は、パリ同様にけっして近いものではない。“微笑みの国”“人気の観光地”としてのタイを期待して本作を観る観客は、おそらく大きな驚きと発見をすることになるが、それぐらい「プラータナー」には、あなたの知らないタイが満載されている。日本公演への期待がさらに高まる、パリ公演だった。

※初出時、「プラータナー」の上演時間に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。


2019年2月27日更新