クセ強すぎな冒険家が次々に登場
──劇中では皆さん全員、“冒険家”の役を演じられます。タイプが異なる冒険家だということですが、それぞれの役柄について教えてください。
金丸 無頼の冒険家・ハタノという役で、冒険にうるさいヤツですね。たとえば「お前のそれは冒険じゃない」「これは冒険だね」とか、冒険への審美眼みたいなものを持っていると自分で信じ込んでいて、自分が信じる冒険だけが冒険だと思っているような人物です。そういうややこしさというか鬱陶しさみたいなものがある人なんですが、自分でもうっすら、異様に何かに執着していたり、ウザ気味な瞬間があったりする自覚はあって……たとえば先輩から圧倒的に真っ当なことを教わったときに「だからこそ逆をやりたい」と思いがちだったりして。上田さんは当て書きされる人でもあるから、「僕はそんな風に思われてるのかな」と思っているのですが……。
上田 あ、そうです! 金丸さん、逆張りしたいところありますよね?
金丸 あははは! なので、自分と重なる部分が大いにある役柄かなと思っています。
呉城 私は金丸さん演じるハタノの元妻で、冒険家で海洋考古学者です。ハタノのようにアクティブに自分で出かけて行って冒険するというより、まずは文献から研究を進めて冒険に旅立つタイプの人で、ハタノと結婚していたときは多分家にいる人だったんだろうなと。
上田 冒険論の本を何冊か読んで、史実としてもそうだったのかもしれないんですけど、冒険家の人が家族を捨てて冒険に出る、というエピソードが定型文のように描かれているんですね。今回はそういった冒険譚の王道を行きつつも、それをひっくり返すようなものにしたいなと思っていて、呉城さん演じるハタノの元妻もそういった役割を担う人物になります。家に残されるわけではなくて、自分も冒険に出ちゃうというような。
金子 僕は金丸さん演じるハタノのライバル冒険家で、スポンサーもついていて、フォロワーもめちゃくちゃ多いような、英才教育を受けたエリート冒険家(笑)。とにかくまっすぐで運が良い人なんですけど、それがハタノからするとちょっと鼻につくらしく、ハタノは「ライバルだ」って言ってるんだけど、僕のほうはハタノをちょっと下に見てるっていうか、ライバルとも思ってないみたいな感じの関係性です。ただ、それまでの人生がうまく行き過ぎていたから……。
上田 インターネ島で、けっこう挫折を経験するんですよね。
諏訪 僕はようやく役の設定が見えてきたところですが、上田くんから今日送られてきた資料には、“世界を股にかける冒険家”とありました(笑)。
上田 超越的な存在なんです。
諏訪 冒険のレベルが高くて、インターネ島を訪れるくらいのことはもはや、冒険とも思っていないかもしれないというような冒険家なんじゃないかなと思っています。
藤谷 私もこれから稽古で深めていくところですが、“祖父から聞いた伝承を頼りにインターネ島にやって来た冒険家”と聞いています。
上田 物語らしい感じの冒険家ですね。
藤谷 はい、ある意味王道チックな冒険家なのかなと。稽古の初期段階では、フィールドワークをしている考古学者とか研究者という感じの役だったのですが、どちらかというとハタノ寄りというか、勉強やアカデミックな理由じゃなく、好奇心でピュアに冒険をしてインターネ島にたどり着いた人になるんじゃないかなと思っています。
──ちなみにインターネ島については場所の具体性を感じるのですが、時代設定はどのようになりますか?
上田 現代ですね。インターネ島はポリネシアのイースター島と中南米の間ぐらいにあって、ネットワーク上に現れない場所はもはやないとされている現代において、未踏の島だと噂されています。大部分の人は、「いや、そんな島があったら衛星で見つかるよ」と思うんだけれども、冒険家たちが伝承を信じて実際に行ってみたら、その島があった、というわけです。
冒険の積み重ねが導く、未踏の未来
──ヨーロッパ企画は2023年に25周年を迎え、昨年は岸田國士戯曲賞受賞作「来てけつかるべき新世界」の再演や、今年は代表作「サマータイムマシン・ブルース」を劇団ではなく、諏訪さんの演出で外部で上演したりと、ある意味、集大成というような出来事が続きました。それらを経て、“冒険”を掲げた新作に挑もうと思われたのは、劇団にとっても“冒険”というワードに惹かれる部分があったからでしょうか?
上田 “冒険する劇団”をキャッチコピーにしようかなって思うぐらい、冒険ってやっぱり大事だと思うんですよね。これだけ劇団を続けていると、ある程度正解パターンが見えるところもあるのですが、今、けっこういいところまで劇団がきていると思っていますし、これからも劇団を続けていきたいと思っているので、新たなルートを見つけてさらに充実させていきたいなと思っていて。今回は特にそういう公演かなと思っています。
諏訪 学生の頃って本当に無茶な、冒険のような公演ばかりやっていて、たとえば野外でテントみたいなものを張ってやってみたり、ライブハウスだけでツアーしてみたり、学生劇団で誰もやっていないことをやろうと思って続けてきたのですが、そこからどんどん規模が大きくなり、安全に安定した形で公演できるようになってきまして、気づいたんですけど、ある意味みんなで未踏の地を目指すような冒険を、最近はちょっとしてなかったな、と。劇団としてみんなで目線を合わせて、次なる高みにチャレンジするには何がいいかなという話をしていたときに、今回の公演が冒険劇に決まって、「そうか! 冒険が足りてないんだ!」と感じて。
ヨーロッパ企画を続けていくにはやっぱり冒険を繰り返していかなきゃいけないわけだけど、今回はこの先どうしていくかを考えるうえで、けっこう節目の公演になるんじゃないかなと思います。ツアー中もそういう話をめっちゃするだろうし、劇以外の、劇団としての未来の話というか、「こうなっていきたい」という目標をみんなで定めて、目線を合わせて進んでいきたいなと僕は思っています。
──ヨーロッパ企画のそういった冒険を続ける姿勢、挑戦的な作風に観客は惹かれるのではないかと思います。冒険という意味では、今日お集まりいただいた皆さんも、それぞれに勇気のある一歩を踏み出し、挑戦し続けている“冒険家”だと思いますが、最近、ご自身にとって“冒険”と感じた経験、体験があれば教えてください。
金子 僕は惚てってるズ(編集注:2024年に金子、前原瑞樹、三村和敬が結成。参照:金子大地・前原瑞樹・三村和敬がユニット結成、旗揚げ公演に多彩な3作家)というユニットを始めたことと、長くいた事務所を辞めたことかなと思います。ただ、この仕事自体がもう、本当に冒険です。明日どうなるかもわからないし、常に勉強していないといけない、攻めていかなきゃいけない仕事だなとも思っています。
上田 惚てってるズ、僕も観ました。今後も継続していくんですか?
金子 自分たちで作品を書いてやる、というのはまだちょっとハードルが高いんですけれど、ゆくゆくはそれもやっていきたいと思っています。俳優でユニットを組んでいる人って、僕の世代にはあまりいないのですが、俳優同士仲良くなって「楽しかったな」って一緒に飲んで話すだけじゃなく、せっかく仲良い3人なんだから何か生み出そうぜとなったのは、けっこういいことだなって思っています。ただ、お客さんを集めるのって本当に大変なんだなって実感して、ヨーロッパ企画がこれだけ各地をツアーするのはすごいことだなと改めて感じています。
金丸 僕にとっての冒険は、さっきの話と重なりますが、劇団に入ったことかもしれないです。多くの人からすると天下のヨーロッパ企画に入ったんだから安泰じゃないか、と思うかもしれませんが、だからこそゆたっと過ごしているとダメというか。自分にできることはなんだろうと常に考え続けなければいけないなと。どこにも所属していなかったときは自分がやりたいようにやり、生きたいように生きてきましたが、今感じている緊張感や負荷は恐ろしくもあり、心地よくもあり……本当にちゃんとやり続けなきゃいけないなと思っています。
藤谷 私は全然お二人ほどの冒険ではない、しょうもない冒険なんですけど……実は先日キスシーンがある役をいただいて、台本を読んでみたら作品にとって大事なシーンだったので、「これはがんばらないと!」と思って意気込んで撮影に臨んだんです。が……結局ほっぺたで!
一同 あははは!
藤谷 というのが最近の私の冒険でした(笑)。
呉城 キスつながりで言うと、私も同じようにキスシーンがある作品に出演して、私の場合は、キスの場所を選べたんです。で、私はほっぺを選んでしまった……冒険できませんでした(笑)。
諏訪 僕は冒険かどうかもわからないんですけど(笑)、先日「サマータイムマシン・ブルース」の通し稽古で、僕は演出だから稽古を観ていなければならなかったんだけど、どうしてもおしっこに行きたくなってしまって、「通し稽古中にトイレに行っていいのかな」と悩んで……。
一同 あははは!
諏訪 稽古を止めるわけにはいかないし、でも思考はもう「おしっこ行っていいんかな? でも行かないともらしちゃうし、行かなあかんな」とそればっかりになってきて。ただ「サマータイムマシーン・ブルース」ってシーンの1つひとつがデカいんですよ。だから転換中に行くこともできなくて、結局、「ちゃんと観てますよー」という素ぶりをしながらちょっとずつちょっとずつ出入り口まで移動してトイレに行ったんだけど、戻ってきたときに稽古が止まってたらどうしようって思っていたら、通しは無事続いていました(笑)。
──上田さんは最近何か、冒険を感じること、ありましたか?
上田 僕の個人的な冒険ではないのですが、「インターネ島エクスプローラー」のチラシにも使っているメインビジュアルの話をしておきたいです。宣伝美術を担当してくださったのは山下浩介さんで、ヨーロッパ企画でお願いするのは3回目なんですけど、山下さんが劇団公演のチラシ制作にやりがいを感じてくださって、今回、山下さんのご提案で2つ、冒険しました。1つは、山下さんも言うのに勇気がいったと思うのですが(笑)、「石田(剛太)さんの顔を石像にしていいですか?」と。これは石田さんの快諾が得られたので、石田さんの顔は茂みから覗く石像になりました(笑)。もう1つは、皆さんの顔に影を落とすということで、チラシビジュアルの場合、出演者の顔をちゃんと見せたいから、あまり顔に影を入れたりしないそうなんです。でも山下さんは「表現としてやってみたいんだけどどうでしょう」とおっしゃって、キャストに確認したところ皆さん大丈夫ということだったので、今回、このようなビジュアルになりました。
一同 おおー!
──チラシにも冒険が込められているんですね。
上田 そうです。やっぱりそういう“冒険”の積み重ねから新しいものが生まれるんじゃないかと思っています。
プロフィール
上田誠(ウエダマコト)
1979年、京都府生まれ。劇作・演出家、脚本家、ヨーロッパ企画代表。外部への書き下ろし、映画やテレビドラマへの脚本提供など幅広く活動。第14回文化庁メディイア芸術祭アニメーション部門大賞、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、第61回岸田國士戯曲賞など受賞歴も多い。
上田誠(ヨーロッパ企画/脚本家) (@uedamakoto_ek) | X
金丸慎太郎(カナマルシンタロウ)
1988年、愛媛県生まれ。2014年にヨーロッパ企画「ビルのゲーツ」に客演。その後、ヨーロッパ企画公演にほぼ毎公演出演し、2024年に劇団員となる。日本テレビ「所さんの目がテン!」で実験プレゼンターを務めるほか、KBS「ヨーロッパ企画の暗い旅」にも出演している。
金丸慎太郎 (@shintaro_kanamaru) | Instagram
呉城久美(クレシロクミ)
大阪府生まれ。大学在学時に演技を始め、現在多くの映画、テレビドラマに出演。近年の主な舞台出演作にパルコプロデュース「裏切りの街」、ヨーロッパ企画イエティ「スーパードンキーヤングDX」「逆張りケ丘に夕陽が落ちる」など。
呉城久美 (@kureshiro_kumi) | Instagram
金子大地(カネコダイチ)
1996年、北海道生まれ。2014年に活動をスタート。近年の主な出演作にNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、「パンドラの鐘」など。2024年に前原瑞樹、三村和敬とユニット・惚れってるズを旗揚げした。出演した映画「万事快調 オール・グリーンズ」が来年1月16日、「教場 Requiem」が2月20日に公開される。
金子 大地 / Daichi Kaneko (@daichikaneko_official) | Instagram
藤谷理子(フジタニリコ)
1995年、京都府生まれ。2014年、諏訪雅によるミュージカル「夢!鴨川歌合戦」にオーディションを経て出演。2016年、ヨーロッパ企画「来てけつかるべき新世界」に主演し、2021年に劇団に入団。近年の主な外部出演作に「先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~」、劇団アンパサンド「デンジャラス・ドア」など。
藤谷理子 (@fujirico86) | Instagram
諏訪雅(スワマサシ)
1976年、奈良県生まれ。1998年にヨーロッパ企画旗揚げに参加し、以降全公演に出演。俳優として活動する一方で脚本・演出・映像監督も担当。劇団以外の最近の活動に「チコちゃんに叱られる!on STAGE」の脚本・演出、チョコレートプラネット単独ライブ(構成・演出)、「サマータイムマシン・ブルース」の演出などを手がけている。



