豊橋から発信!山田佳奈&井上ほたてひも&益山寛司が語る、市民と創造する演劇「悲劇なんてまともじゃない」 (2/2)

山田佳奈×井上ほたてひも×益山寛司 座談会

ここでは演出の山田佳奈、演出補・出演の井上ほたてひも、益山寛司にインタビュー。「ロミオとジュリエット」をベースに、今の豊橋にいる人たちの声を取り込んだ本作には、演劇と生きてきた彼らならではの思いも織り込まれている。

左から井上ほたてひも、山田佳奈、益山寛司。

左から井上ほたてひも、山田佳奈、益山寛司。

悲劇を面白がれる、自分を肯定する作品にしたい

──今回は、穂の国とよはし芸術劇場PLATから山田さんに、「『ロミオとジュリエット』で市民劇を」と依頼があったそうですね。

山田佳奈 はい。PLATではこれまで、近藤芳正さんが演出され、私が脚本・構成・演出助手で参加した、市民と創造する演劇「話しグルマ」(2015年)や高校生と創る演劇「女子にしか言えない」(2016年)を創作してきました。3度目となる今回、私個人にお話をいただいたのですが、PLATの矢作(勝義)プロデューサーは、毎回オファーの際にお題を出してくださって、それが今回は、シェイクスピアでした。でも私自身、そんなにシェイクスピアに慣れ親しんできた劇作家というわけではないし、演劇にそれほど親しまれていない方でもわかる題材にしたほうが良いのではないかと考えて「ロミオとジュリエット」を選びました。

──制作された台本は、「ロミオとジュリエット」をベースにしつつも山田さんのオリジナルです。

山田 豊橋で初めて滞在制作をしたとき、市民の方の声を初めて脚本化しました。それがすごく手応えのあるものだったので、その手応えのままに高校生との演劇に臨んだところ、手応えは確信に変わりました。一般市民の方と演劇をやるということは、彼ら自身の生活を認めてあげる作業でもあるんじゃないかな、と感じたんです。私に限らず演劇のプロの人たちは、文化を通して“自分が肯定された”経験がありプロになった人が多いのではないかと思いますが、今、われわれが演劇のプロとして、演劇を通して社会に何を還元していくかを考えたとき、市民の方の生活やアイデンティティ、人間性を肯定していく作業が必要なのかなと思うんです。

また、今回のお話をいただいた時点では予想もしなかったことですが、コロナ禍や戦争により社会的な状況が大きく変わりました。それは悲劇と言えば悲劇なんですけど、その中でも私たちは生活を送っていかなきゃならないし、自分自身を否定してしまってはつまらない人生になってしまうと思うので、悲劇を楽しむことはできないかと思ったんです。その思いから、悲劇と言われるロミジュリをなんとかして面白がれないか、悲劇の中でも自分自身を肯定することはできないか、と考え、今回こちらのお二人に(笑)、お声がけさせていただきました。

──井上ほたてひもさん、益山寛司さんは出演としてだけでなく演出補として、今回のクリエーションに参加されています。どのような思いで参加されたのでしょうか?

井上ほたてひも オイラと山田さんは普段からよく一緒に遊ぶプライベートの友達なんです。ただ、山田さんが監督した映画にはちょっと携わらせてもらったものの、舞台では今回が初めてで、ご一緒できるのがうれしくて。オイラ、本当に社会不適合者なんですけど……。

山田 そんなこと!(笑)

益山寛司 それは僕も……(笑)。

井上 そのオイラが、愛知で市民の方と劇を作れる、オイラが社会に関われるってすごくうれしいなと思って参加しました! それに年齢を重ねていくと、自分のテリトリーの人たちは深くなるけどまったく関係ない人と交われる機会ってどんどん少なくなっていくと思うんですよね。なのオイラにとってもいい機会だし、ウチらにない感性を持っていらっしゃる方もいるので、刺激になるんじゃないかと思っています。

益山 僕は単純に、役者として呼んでもらえたことがうれしかったです。2017年にロ字ックに出演させていただいたことがあって(参照:□字ック、ライブハウス公演にクロム青木秀樹&水素74%田川啓介)、その縁がつながったのもうれしかったですし、所属していた子供鉅人で100人芝居のシェイクスピア(参照:劇団子供鉅人「夏の夜の夢」、100人がパル多摩で水飛沫上げて奮闘)も経験しているので(笑)、僕が力になれるところもあるかな、と。

山田 2人は、市民の方がちょっと変化したところを一番最初に気付いて一緒に喜んでくれるんですね。そういう方たちなんじゃないかなって前から思っていたんですけど、やっぱりそうだなと(笑)。でも「一緒になって喜ぶ」のって、お芝居を作る前提として本当に大事なことだと思うんです。今回、このお2人に参加していただくことにしたのは、市民の方への接し方がどうかということはもちろん大切だけど、1カ月豊橋に住むわけですから、自分も楽しくないとダメだし、気を遣ったりはしたくないと思ったんです。そういう意味で、本当に気心知れた人じゃないとダメだと思いました。

市民と創造する演劇「悲劇なんてまともじゃない」稽古の様子。(撮影:伊藤華織)

市民と創造する演劇「悲劇なんてまともじゃない」稽古の様子。(撮影:伊藤華織)

出演者の“変化”の瞬間がうれしい

──本作は2022年11月にワークショップ、1月上旬からお稽古が始まったそうですね。市民の方とのクリエーションの中で、新鮮に感じたこと、あるいは難しいなと感じたところはありますか?

井上 難しいなって感じるのは、例えば一緒にお芝居をしていて相手の方ができないことがあったとき、それがどうしてできないかを、どう伝えるかというところですね。伝えることはできる。でもそれをオイラが言ってしまうと、その人の個性を無くしてしまうんじゃないかと思って。それで、いつどうやって伝えるかはすごく難しいなと感じます。

──例えばそれは、セリフの言い方、といったことですか?

井上 そうですね。例えば相手のセリフでオイラが怒るというシーンだったとして、本当は怒らせるような言い方で言って来てほしい。でもそうじゃなかったときに、どうすればオイラが“怒れるか”を本人の中で発見してほしいなと。反対に、稽古のスタート時は恐怖心を持っていた市民の方が、日が経つにつれて緊張が解けていく姿を見るのはうれしいし、きっと面白いものが出てくるはずだと期待が湧きますね。

益山 ちゃんと考えててすごいね!(笑) 僕は、芝居の相方がピーター役の村上(肇規)さんなんですけど、最初は特に仲良くなかったのが、今となってはタメ口でしゃべってくれるようになって(笑)。

山田井上 タメ口!(笑)

益山 それがうれしいです。あとは参加者の中にはおっちゃんとかおばちゃんも多いんですけど、年配の方がキャッキャっとはしゃいでいる姿を見ると「ええやん」って思います。難しいと感じるのは……声が小さいこととかかなあ。

市民と創造する演劇「悲劇なんてまともじゃない」稽古の様子。(撮影:伊藤華織)

市民と創造する演劇「悲劇なんてまともじゃない」稽古の様子。(撮影:伊藤華織)

山田井上 ああー。

益山 稽古が始まったばかりの頃は「みんなもっと前を向いて、大きな声で芝居をしたらええのに」って思っていたんですけど、だんだんと「あ、この人たちはそもそも役者じゃないんだ!」ということに気付いてきて、そうしたら技術的なことよりも、みんながやる気になって変化してきたことをうれしく感じるようになりましたね。

山田 私は……これまで3作品やってきた中で、今回が一番おとなしい人が多いなと思っています。市民劇は、怯えているうさぎを穴から連れ出すような作業だと感じているんですけど、今回はまだ慎重に慎重に寄って来てくれている状態なので、ここからどう市民の方たちに寄り添っていくかが私の課題だし、市民の方たちの“社会性に縛られた身体”をどう解いていくかを考えていきたいです。うれしいのは、やっぱりその社会性が解けた身体で、市民の方が自由に動けるようになった瞬間ですね。その瞬間はいつも楽しいし、プロの現場だとそういう感動はないから新鮮に感じます。それと、プロ同士なら伝わる言い方が、やっぱり通じないことはあるんですね。例えば「そこはもうちょっと感情の角度を上げて」とか、私たちが“慣れちゃっていること”を、言葉を尽くして説明しなければいけないことがあるのは新鮮です。

──本作の上演台本は小田島雄志訳を用いて描かれており、現代口語ではない部分も多いですが、市民の方がセリフに対してハードルを感じている様子はありましたか?

山田井上益山 なさそうですね。

山田 セリフに対しての向き合い方が、我々よりも市民の方はフラットなのかもしれません。あと少し難しいセリフだったとしても「この登場人物が置かれている状況は、あなたの日常とこういう点で結びつくよね」と話していくと、回路がつながって理解してもらえることが多いと思います。

井上益山 へえ。

山田 それに、そもそも市民の方たちがオーディションのときに話したエピソードを脚本に落とし込んでいるので「自分たちの人生を語る台本になっているんだ」という意識があるのかもしれません。

市民と創造する演劇「悲劇なんてまともじゃない」稽古の様子。(撮影:伊藤華織)

市民と創造する演劇「悲劇なんてまともじゃない」稽古の様子。(撮影:伊藤華織)

──井上さんはマキューシオ、益山さんは乳母役で出演されます。ご自身の役についてはどんなふうにアプローチしていますか?

井上 まず、生まれて初めて発する言葉がめちゃくちゃ多いんです。しかも普通に言えばすぐ伝わることを、全部何かにたとえて言ったりしているので「もっとストレートに言ってくれよ!」と思ってしまうところもあるんですけど(笑)、今必死に! 必死に!! 役と向き合っています!

山田益山 あははは!

益山 僕はシェイクスピアのセリフ、実は好きなんです。小難しいけど、覚えて言えると楽しいなと思っていて。今回僕は乳母役ですが、乳母はある意味、お笑い担当な部分もあるし、あまりほかの誰かと被らないキャラクターなので、山田さん、自分に合った役を当ててくれてありがとうございます、という感じです。

山田 役者さんの中には、自分の役に向き合いつつ市民の方のサポートをすることにストレスやプレッシャーを感じてしまう人もいると聞きますし、演出家としても30人以上の出演者と向き合うのは大変です。でもだからこそ、皆さんには楽しくやってもらえれば良いなと思いますし、お二人には特に比重が高いことをやっていただいているので、私も「ありがとうございます!」と思っています。

市民と創造する演劇「悲劇なんてまともじゃない」稽古の様子。(撮影:伊藤華織)

市民と創造する演劇「悲劇なんてまともじゃない」稽古の様子。(撮影:伊藤華織)

出演者も観客も、自分を肯定できる作品に

──さまざまな切り口がある本作ですが、改めてこれから作品をご覧になる方に、どのような点を意識して作品を観てほしいか、教えてください。

益山 普通は、舞台を観に行くと当然役者の人がやっているじゃないですか。でも今回は、役者ではない市民の方が大きな舞台に出ているので、その姿を見るだけでも新鮮だと思います。

井上 オイラは、森口博子さんみたいな舞台にしたいですね!

──と言いますと?

井上 昔から大好きなんですけど、森口博子さんって「森口さんが大丈夫なら私もなれるかもしれない」って思わせるような、絶妙なバランスを持った人だと思うんです。なので今回舞台を観に来てくれた方には「私にもできるかもしれないな、楽しそうだな」と思ってもらえたら、と思っています。

山田 豊橋では3作品目の創作となりますが、毎回思うのはこのメンバーじゃなかったらできない作品だということ。参加者の方の言葉で脚本を書いているので、その人がそのセリフを言わないと意味がないんです。そういう作品ってほかではなかなか観られないんじゃないかと思います。またロミジュリがそもそも時代や社会背景を存分に孕んだ作品なので、今作も、今の豊橋や出演者32人それぞれの人生が入った作品になっています。そんな作品を、ある意味生々しく、またある意味開き直って演じることで、観客の方々にも「このままの自分で良いんだ」と感じていただけたら、と思います。

左から井上ほたてひも、山田佳奈、益山寛司。

左から井上ほたてひも、山田佳奈、益山寛司。

プロフィール

山田佳奈(ヤマダカナ)

1985年4月6日生まれ、神奈川県出身。舞台演出・脚本家・映像監督・俳優。レコード会社のプロモーターを経て、2010年に□字ックを旗揚げ。2014年に「タイトル、拒絶」でサンモールスタジオ最優秀演出賞、2015年に「荒川、神キラーチューン」で同賞の最優秀団体賞、「CoRich舞台芸術まつり!2014春」でグランプリを受賞した。2019年に配信されたNetflixオリジナルシリーズ「全裸監督」に脚本家として参加。山田がメガホンを執った初の長編映画「タイトル、拒絶」が第32回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門に出品され、東京ジェムストーン賞を受賞、2020年には劇場公開もされた。マンガ原作を務める「都合のいい果て」が「モーニング・ツー」で連載中。脚本を手がけた「楽園」が、6月に眞鍋卓嗣演出で上演される。

井上ほたてひも(イノウエホタテヒモ)

1983年、山形県生まれ。俳優。2013年にポップンマッシュルームチキン野郎に所属。

益山寛司(マスヤマカンジ)

1985年、大阪府生まれ。俳優、ダンサー、画家。劇団子供鉅人に旗揚げから解散まで参加。これまでに野田秀樹、白井晃、益山貴司、末満健一などさまざまな演出家の作品に出演している。