世田谷パブリックシアター「The Silver Tassie 銀杯」|生き続ける人間の逞しさに惹かれる

森演出と劇場への信頼が、作品への期待に 矢田悠祐×横田栄司×土屋佑壱 座談会

本番1カ月前の10月中旬、濃密な稽古を終えた直後の矢田悠祐、横田栄司、土屋佑壱に集まってもらい、作品の魅力や森演出についてざっくばらんに語ってもらった。

森さんの演出は“急がば回れ”

稽古場の様子。矢田悠祐。(撮影:細野晋司)

矢田悠祐 今までこういった作品には出なかったので、最初に台本を読んだときは難解な作品かなと思いました。でも稽古が進んでいくうちに、「伝えたいことはそこまで難しいことじゃないのかもしれない。自分が思っていたよりもわかりにくい作品ではないのかも」と感じるようになって。

横田栄司 僕も当初思っていたより何倍も面白い作品だなと感じています。だから本当に、期待していただいていい(笑)。

土屋佑壱 初日まであと1カ月近くあるとは思えないくらい、稽古が詰まってて、すでにダッシュで作っている印象ですね(笑)。

横田 オファーをいただいた時点では、作品の内容や共演者のことをほとんど聞いていなかったのですが、森さんの魅力は大きかったし、あと世田谷パブリックシアターは大好きな劇場なので二つ返事で出演を決めました。

土屋 僕はオーディションでした。世田谷パブリックシアターで上演される森さんの作品ということでぜひやりたい、と思ったんです。

矢田 森さんの作品を僕は実際に拝見したことがなかったんですが、森さんのことは存知あげていて。このところミュージカル作品への出演が多かったので、じっくりとお芝居を勉強させていただくすごくいい機会なんじゃないかと思っています。

土屋 森さんはご自分が緻密に作った演出プランに向かって役者を引っ張り上げていくタイプなのかなって思ってたんですが、その瞬間、稽古場で直感したことを足したり引いたりしながら作る方。熱のこもったダメ出しをいっぱいもらって、「なにクソ!」となりながらこちらも必死です(笑)。

稽古場の様子。横田栄司。(撮影:細野晋司)

横田 あははは!(笑) でも言われるとみんなすごくよくなっているからいいなって思いましたよ。森さんは急がば回れって言うのかな。目的地を目指してそんなに急がず、いろいろ試している感じがします。例えば舞台装置のドアの位置を突然変えたり、常に試行錯誤を続けていて、僕たちと一緒に作品の可能性を模索してくれる豊かな時間がある。意外だったのはとてもチャーミングな人だったこと。少年みたいに目がキラキラしてるのがかわいい(笑)。稽古で矢田くんが言われてたことだけど、「これは夕方のシーンだから夕日を背負って入ってきて」って、なんてロマンチックな、いいダメ出しなんだろう!と。心の手帳にすぐ書き記しました(笑)。

土屋 そのダメ出し、よくわかりますよね。

横田 実際に演技が変わったし。

矢田 なるほどなって思いました。

横田 知性と少年のような愛らしさがあって、魅力的な色気のある大人だなと思います。

矢田 森さんの演出は確かにすごくわかりやすいですね。やってみて違ってたらすぐに言ってくださるし、「もっとこうして」ということも具体的に提示してくださるので早く切り替えられる。あと僕たちにすごくちゃんと向き合ってぶつかってくれるのがありがたいなって思います。

一筋縄ではいかない登場人物たち

矢田 僕が演じるバーニーは、中山くん演じるハリーと横田さん演じるテディの戦友で、戦中にハリーが怪我したところを助けて彼を生かすことになります。役柄としては、僕が当初思っていたより軍人らしいプライドを持った、男らしい人なのかなと。ハリーとの関係で言うと、もともとハリーのほうがリーダーシップを握る存在だったけど、戦争を境に2人の関係性が変わっていき……でも演じながら、ハリーに対してどうしてあげればよかったんだろうということは、常に考えているところです。死にそうになっている仲間が近くにいたら、当然本気で助けるわけですが、ハリーは生き延びたことで壊れていく。であれば、もしかしてそのまま戦場に置いてきたほうがよかったのかも、と思ったり……。

横田 切ないよね。4幕の稽古を見てて、終わったあとに矢田くんをつかまえて「つらいよな、元気で帰ってきた人たちも」と思わず声をかけたんだけど。現実でも、大きな災害が続く中で、生き残った人が罪悪感を感じるという報道を見ましたが、それと通じるものがあるなって。

矢田 そうですね。五体満足で生き残った責任感と言うか……。でも時代が今と全然違ってもっと生きることに必死な時代だから、情をかけているだけではなく、どうしても前に進まないといけない部分もあって、そこがつらいです。

稽古場の様子。土屋佑壱。(撮影:細野晋司)

土屋 僕は2役あって、しゃがんだ男と外科医フォービィ・マクスウェルを演じます。しゃがんだ男は、どういう人物か明確に書かれておらず、おそらくもともとハリーやバーニーたちの戦友だったんだろうけど、戦争の中で狂っていき正気を失っていった人なのかなと。僕も今は「こういう男だ」と決め付けずに演じています。外科医マクスウェルのほうはそれと対照的で、明るい性格の男。人の命を救う傍らで看護師のスージーに入れ込んでいたりと少し突飛な描写もある人物です。読み合わせのときに森さんが、「先生(マクスウェル)の役に、この物語の残酷さを表現できるところがあるような気がする」とおっしゃっていたので、そういう部分も表現できたらと思っています。

横田 僕が演じるテディは暴力的な男で、でもそんな男が戦争で健康な身体を失って帰ってきて、内面もですが夫婦間の力関係が変化していくんですね。また表層的な部分だけじゃなく、後半にいくにつれてテディは哲学的になったり詩的になったり、神様との対話のようなことを始めたりします。その変化が大事だし、そここそ役者の醍醐味と言うか、お芝居をしててすごく楽しいところ。土屋さんも、緒形拳と植木等を一緒に演じられるくらいの楽しさがあると思うけど(笑)、僕も前半と後半のギャップを楽しんでやりたいです。

「The Silver Tassie 銀杯」
2018年11月9日(金)~25日(日)
東京都 世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター「The Silver Tassie 銀杯」
スタッフ / キャスト

:ショーン・オケイシー

翻訳・訳詞:フジノサツコ

演出:森新太郎

出演:中山優馬、矢田悠祐、横田栄司、浦浜アリサ、安田聖愛、土屋佑壱 / 麻田キョウヤ、岩渕敏司、今村洋一、チョウ ヨンホ、駒井健介、天野勝仁、鈴木崇乃、吉田久美、野田久美子、石毛美帆、永石千尋、秋山みり / 山本亨、青山勝、長野里美、三田和代

矢田悠祐(ヤタユウスケ)
1990年大阪府生まれ。雑誌の読者モデルを経て2012年に舞台「合唱ブラボー」にて俳優デビュー。同年、ミュージカル「テニスの王子様」に7代目青学・不二周助役で出演する。そののち、16・17年に出演したミュージカル「王家の紋章」ルカ役や、ミュージカル「アルジャーノンに花束を」で演じた主人公チャーリィ・ゴードン役が好評を博す。19年1月に「Nostalgic Wonderland♪2019」に出演。
横田栄司(ヨコタエイジ)
1971年東京都生まれ。94年に文学座附属研究所に入所、99年に座員となる。劇団外での活動や映像での活躍も多く、特に「ロミオとジュリエット」「ハムレット」「リチャード三世」「リア王」「ジュリアスシーザー」など多くの蜷川幸雄演出作品に出演。18年には串田和美演出「白い病気」、鵜山仁演出「ヘンリー五世」、松井周演出「レインマン」に出演した。
土屋佑壱(ツチヤユウイチ)
1979年山梨県生まれ。*pnish*所属。2002年にミュージカル「HUNTER×HUNTER」に出演し、以降03年にミュージカル「テニスの王子様」、05年に「ROCK MUSICAL BLEACH」に出演。また蓬莱竜太、山田和也、青木豪、宮本亜門などの演出作品にも出演する。近年の主な舞台に、栗山民也演出のこまつ座「國語元年」、シルヴィウ・プルカレーテ演出「リチャード三世」、渡辺えり脚本・演出のオフィス3○○「肉の海」、栗山民也演出「シャンハイムーン」など。