佐藤B作×青山勝×塚原大助が語る坂口安吾がモデルの「無頼の女房」、ゴツプロ!メンバーがつづる劇作家・中島淳彦の魅力 (2/3)

創立51年、27年、9年…の3劇団

──皆さんはそれぞれ、劇団での活動を継続しているという点でも共通点があります。お互いの劇団にどんな印象をお持ちですか? まずは2015年に旗揚げされた、ゴツプロ!さんの印象から教えてください。

佐藤 俺はね、実はまだよく知らないの。ゴツプロ!も塚原さんのことも名前は存じ上げているんだけれどまだ拝見したことがなくて。でもこれまでの上演演目からして、汗臭い男たちの集団なのかなという印象ですね(笑)。今回拝見するのがすごく楽しみです。

青山 僕は旗揚げからゴツプロ!さんを拝見していますが、瞬く間にお客さんが増えて、旗揚げ3本目で本多劇場で2週間も公演したりして、実は内心すごく苛立っていました(笑)。

一同 あははは!

佐藤 怖いね、それは(笑)。

青山 そうなんですよ、なんだこの劇団はと思っていて。実際一緒に創作したのは3年前にゴツプロ!の佐藤くんから「父と暮せば」の演出を依頼されたときで、あれはゴツプロ!の本公演ではなかったんだけど、出演していないメンバーも皆さん手伝いに来てくれて、皆さん好人物なんだなあということがわかって。今回、こうやって皆さんと付き合えるのが楽しみの1つではあります。

──道学先生は青山さんによって1997年に旗揚げされ、2019年に中島さんが死去した後は、中島作品以外の戯曲も取り上げ、定期的に公演を行っています。

塚原 道学先生の作品を初めて観たときは衝撃的で、滑稽でだらしなくて、どうしようもないのに愛情たっぷりの大人たちがいいなって思ったんですよね。以来、ずっと道学先生の作品を観続けていて、青山さんや当時出演されていた六角(精児)さん、井之上隆志さんたちといつか一緒に芝居がしたいなと、羨望の眼差しで見ていました。なので、今回青山さんの演出を受けられるというのは本当にうれしいですし、ゴツプロ!のメンバーもみんなそう思っていると思います。

塚原大助

塚原大助

佐藤 道学先生を最初に拝見したとき「すごい集団が出てきたな!」と思い、なんとかつながりたいという一心で、公演を観終わってすぐ、お寿司の差し入れをしようと思い、歌舞伎町の街のお寿司屋さんを何軒も訪ねたんですよ(笑)。ただなかなか出前してくれるお店がなくて、やっと見つけたときは本当にうれしかったなあ。

青山 THEATER / TOPSの楽屋に、「佐藤B作さんからです」って特上のお寿司が何十人前も届いたときは驚きましたね(笑)。誰か知り合いなのかって聞いてみても誰も知り合いじゃないっていうから、どういうことなんだろうと思いつつ、そのときは「とりあえず食べちゃお!」って(笑)。本当に美味しいお寿司でした。B作さんと当時は全く面識がなかったんですけど、「なんて粋な方なんだろう!」と驚きました。

一同 あははは!

佐藤 中島淳彦という人間は、面白いやつでね。酒好き、ギター好きでしょっちょう新しいギターを買うんだよ。10本以上持っていたんじゃないかな? で、作曲しては歌う。メンバーも面白くて、井之上はだらしない男だけど芝居が素敵だったし、青山くんは二枚目で、難しそうな顔をしてるけど魅力的なんだよね。あとかんのひとみさん! すごい女優さんだなと思って、本当に惚れたね。だから道学先生という劇団が本当に好きだった。

佐藤B作

佐藤B作

──東京ヴォードヴィルショーは1973年に佐藤さんによって結成され、昨年創立50周年を迎えました。

塚原 勉強不足で申し訳ないのですが、僕はまだヴォードヴィルショーさんを拝見したことがなくて……。ただ以前、山口良一さんと共演させていただいたことがあり、山口さんのあの肩の力が抜けた感じに魅了されました。あと、50周年に向けて先日、クラウドファンディングをされていましたよね? ものすごい金額が集まって、すごいなと。あれだけのサポートが受けられる劇団だということに歴史を感じましたし、お客さんとの関係性があって成り立っているんだなと感じました。

青山 学生時代、実際に舞台を観る前から、ヴォードヴィルショーさんがやられた戯曲を何本か読んでいました。当時はアンチストーリー全盛というか、アングラ全盛だったんですけど、B作さんがやられる芝居は「よくこんなくだらないのやるな」って思うような作品ばかりで……(笑)。こういう手段もあるんだなって思っていたんです。でも実際に舞台を拝見するようになって、コメディだけじゃなく割と真面目な作品も上演されていることがわかりました。またうちは中島がずっと座付き作家としていましたが、ヴォードヴィルさんのように自前の作家がいないと、かえって自由なことができるんだなということも感じていました。だから中島が亡くなった後も、そういう形で劇団はやっていけるんだというモデルとして、ヴォードヴィルさんのことはずっと頭の中にありましたし、B作さんのことは大先輩だと思っています。ちなみに40周年の時に、前後1年も含めて3年、“創立40周年記念興行”をやっていましたよね?(笑) 「そんなこと許されるんだ?」「うちもやろう!」と思いました。

一同 あははは!

左から塚原大助、佐藤B作、青山勝。

左から塚原大助、佐藤B作、青山勝。

身を削るように作品を生み出し続けた作家・中島淳彦

──中島淳彦さんが亡くなって5年。改めてどんな方だったのか、お伺いしたいです。

青山 一番初めの印象はつかみどころがない人。でもとにかく優しい男でしたね。最初に出会ったのは、当時彼が主宰していた劇団ホンキートンクシアターの花見の席で、知り合いに誘われて恵比寿の小さな公園に行ったんです。そこで「戦争を知らない子供たち」を車座になって合唱している人たちがいて、真ん中でギターを弾いているのが中島でした。当時、そんなふうにみんなでフォークソングを歌って花見している人なんていなかったものですから(笑)、「こいつらどういうことなんだ!?」と思いました。芝居を観てもその印象は変わらなくて、ホンキートンクシアターの芝居は吉本新喜劇と松竹新喜劇を足して二で割ったような芝居で、小劇場がブームになっていた時代ではありましたが、その流れとは全く違う印象(笑)。それで、すぐに一緒にやりたいなと思って入りました。

一同 あははは!

青山 彼は演劇的に理屈っぽいことよりも、人が見て単純に笑って泣いて、みたいなことを二十代の前半から言っていたんですけど、当時は「なんだそれ」という反応が多かったです。が、それでもずっとそのスタイルでやり続けていたところ、いつの間にか演劇界的にも中島の名前が知られるようになっていきました。人としては、優しくて頑固で気難しくて、人の好き嫌いが非常に激しくて、作家だなあという感じがする人でしたね。「無頼の女房」に、作家が自分の身体を切り刻むようにして作品を書いているというセリフがありますが、おそらく自身が投影されていたんじゃないかと思います。

青山勝

青山勝

塚原 中島さんが作・演出をされた「フツーの生活」に出演したとき、僕は二十代後半で、結核を患っている特攻の役で、周囲に心を開かない青年という役だったんですね。また当時、自分自身も尖っていて、共演者もはじめましての方ばかりだったので、稽古場であまり打ち解けることもなかったんです。そうしたら打ち上げのときに中島さんから「一番良かったよ」と言っていただき、すごくうれしくて。その5・6年後、道学先生に出させていただいたときには、中島さんから「君は丸くなっちゃったねえ」と言われて(笑)。「あのとき、触ったらキレちゃうような青年が大好きだったんだけどな」って言われて、それはめちゃくちゃショックでした!

一同 あははは!

佐藤 うちの劇団に中島くんが書き下ろしてくださったとき、俺の役に対して彼が描いた言葉は「臆病な小型犬」(笑)。本番でもそのセリフになると大笑いが起きて、俺はすごいショックだったよ(笑)。まさしくその通りなんだけどね、うん、すごいなと思って。でも本当に気のいい男だったな。よくあいつと酒を飲んだし、飲むとギターを持ってきて歌を歌い出して。また、昔の歌をよく知ってるんだよね、お前いくつなんだって感じで(笑)。「誰でもおいで」というような心の広いところがあったし、家族からも愛されていたし、一度中島くんが中村勘三郎さん主演の「わらしべ夫婦双六旅」を書いたときは、田舎のお父さんが東京まで観に来て、終演後、玄関口でお客さんに「これは俺の息子が書いた作品なんです」って言ってたりして(笑)。……本当に素敵な男でしたね。早すぎるよね。まだまだ作品を書いてほしかったし、今生きていたらどんな本を書いていたんだろうと思うと悔しいです。僕は大好きだったな。

──最後に、ゴツプロ!版「無頼の女房」への期待をお伺いできますか?

佐藤 今回初めてゴツプロ!の舞台を拝見するのも楽しみですし、客席で「無頼の女房」を観てワクワクできるのは楽しみですね。お客さんにも、改めて中島淳彦の作品は素敵だなって思ってもらえるんじゃないかな。

青山 比較的上演されることが多い「無頼の女房」ではありますが、二十代の若いお客さんには「無頼の女房」を観たことがない人もたくさんいると思うので、この作品を上演されたものとして届けられるのは大きなチャンスだなと思います。中島淳彦という作家を改めて知ってもらういい機会になればと思いますので、僕なりに力になりたいと思っています。

塚原 中島さんにはいろいろとご縁をいただきましたので、今回「無頼の女房」ができることを本当に心から嬉しく思っています。また道学先生の青山さんに演出していただき、かんのさんにも出演していただけるということがありがたいですね。作品のファンも多いので、観に来てくださるお客様には「やっぱり素敵な作品だな」と思っていただきたいし……とお話ししていたらプレッシャーがかかってきました!(笑) とにかく素晴らしい役者がそろってくれたので稽古をがんばります!

左から青山勝、佐藤B作、塚原大助。

左から青山勝、佐藤B作、塚原大助。

プロフィール

佐藤B作(サトウビーサク)

1949年、福島県生まれ。俳優。1973年に劇団東京ヴォードヴィルショーを結成し座長を務める。第21回紀伊國屋演劇個人賞、第29回読売演劇大賞優秀男優賞、第45回松尾芸能賞優秀賞を受賞した。7月に「逃奔政走」に出演する。

青山勝(アオヤママサル)

1961年、東京都生まれ。俳優、演出家。中島淳彦が立ち上げた劇団ホンキートンクシアターに参加。1997年に劇団道学先生を旗揚げし、ほとんどの劇団公演の演出を手がけ出演もする。最近の主な作品に劇団道学先生「東京の恋~さほどロマンチックでもなく~」(演出・出演)など。

塚原大助(ツカハラダイスケ)

1976年、東京都生まれ。ゴツプロ!主宰。2015年にゴツプロ!を旗揚げ。舞台や映画で幅広く活動。こまつ座「人間合格」(作:井上ひさし、演出:鵜山仁)、小松台東“east”公演「東京」(作・演出:松本哲也)、映画「ソワレ」(外山文治監督)等。2023年に新企画・ブロッケンを始動し、ver.1「ブロッケン」(深井邦彦作、西沢栄治演出)、ver.2「ソラニテ」(髙橋広大作・演出)に出演した。