撮り下ろし写真とメッセージで留める「これまでの、これからのシアターコクーン」 (2/3)

ゆかりのアーティスト&クリエイターが語るシアターコクーン

ここでは、シアターコクーンとこれまで深い関係性を築いてきたアーティストのメッセージを紹介。それぞれの中にある劇場への思いが、新しいシアターコクーンに引き継がれていく。

芸術監督・松尾スズキが語るシアターコクーン

松尾スズキ

松尾スズキ

──初めてシアターコクーンで作・演出されたときの思いは?

生意気にも、コクーン的なものをぶち壊してやろうと思っていました。
だから、ミュージカルだというのに、バンドマンの伊藤ヨタロウさんに音楽をお願いしたり、漫画家の逆柱いみりさんに美術をお願いしたり、
何も知らぬまま、飛び込んでいきました。
今思えば、無謀すぎるの一言です。

──現シアターコクーンでの忘れられないエピソードは?

初演の「キレイ」(2000年)の初日前、舞台袖でぼんやりしていると、ある俳優さんに「松尾さん、だまっているけど、あなたの演出に無理してる俳優もいるんだよ、それだけは知っておいて」と後ろから言われたこと。
ずっと自分の劇団でやってきたので、気遣えてなかったんだと、猛省しました。

──芸術監督になって、改めて感じるシアターコクーンの魅力は?

ひとつの色に染まりきらないところ。チラシがださくないところ。やはり、魅力的な俳優さんが集まるな、と、いう印象です。
これからに関しては5年後の話なので、自分のモチベーションがはかりしれませんが、新しい舞台の俳優、新しい演出家がコクーンに現れることを望んでやみません。

プロフィール

松尾スズキ(マツオスズキ)

1962年、福岡県生まれ。1988年に大人計画を旗揚げし、1997年「ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~」で第41回岸田國士戯曲賞、2008年には映画「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」で第31回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、2020年「命、ギガ長ス」で第71回読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞。2020年、Bunkamura シアターコクーンの芸術監督に就任した。総合演出・構成台本・出演を手がけるCOCOON PRODUCTION 2023「シブヤデマタアイマショウ」が4月9日までBunkamuraシアターコクーンで上演。

ゆかりのアーティスト、クリエイターが語るシアターコクーン

秋山菜津子

秋山菜津子

秋山菜津子

劇場が俳優を創るということがあると思う。

2000年の「キレイ」からこの度の「シブヤデマタアイマショウ」までシアターコクーンの舞台には18本立たせていただいている。23年間で18本。これはもう、今の私という俳優をシアターコクーンが創り上げてくれたといっても過言ではない。
松尾さんを始め、蜷川さん、串田さん…さまざまな演出家、スタッフ、俳優の方々とお仕事をさせていただいた劇場。思い出は尽きない。
そんな劇場が5年間休館となってしまう。
寂しいに決まってる。
楽屋口を開けて楽屋に行き、舞台袖から舞台に…。
勝手知ったる家のような大切な場所。
5年後のことはわからないけれど、
またあの楽屋口を開けてシアターコクーン制作陣の皆さんにあいさつがしたいものです。
周りの景色は変わっていても。いつものように。

プロフィール

秋山菜津子(アキヤマナツコ)

中学・高校時代に演劇活動を始める。高校の先輩であるケラリーノ・サンドロヴィッチに誘われ、劇団健康の活動に参加。「ブルールーム」(演出:デヴィッド・ルヴォー)、「プルーフ / 証明」(演出:鵜山仁)で読売演劇大賞杉村春子賞および紀伊國屋演劇賞個人賞、こまつ座「きらめく星座」(演出:栗山民也)で読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞した。これまでに出演したシアターコクーン上演作品に、「キレイ―神様と待ち合わせした女―」「フリムンシスターズ」(作・演出:松尾スズキ)、「マシーン日記」(演出:大根仁)などがある。2023年3・4月に、COCOON PRODUCTION 2023「シブヤデマタアイマショウ」、6月から8月にかけてNODA・MAP「兎、波を走る」に出演予定。


大東駿介

大東駿介

大東駿介

大東京渋谷のど真ん中。喧騒を掻き分けて、劇場の入り口をくぐるとまるで空気が変わる。
時間に支配されない夢と現実の狭間に落ちたような異空間。初めてコクーンで演劇体験をしたときから僕にとって劇的で神秘的で神聖なとても大切な場所です。圧倒的な場所です。
初めて立たせて頂いた串田和美氏演出「もっと泣いてよフラッパー」から始まり、赤堀雅秋氏演出「美しく青く」、松尾スズキ氏演出「パ・ラパパンパン」、リンゼイ・ポズナー氏演出「みんな我が子」と、この場所で俳優として人としてのたくさんの学びを頂きました。
芝居でお客さんを夢に引きずりこむ覚悟をくれた場所。
夢を現実に体験させてくれる嘘みたいな本当の場所。シアターコクーン大好きっす。

プロフィール

大東駿介(ダイトウシュンスケ)

1986年、大阪府生まれ。2005年にテレビドラマ「野ブタ。をプロデュース」でデビューし、2009年から2010年にかけて放送されたNHK連続テレビ小説「ウェルかめ」で注目を浴びた。これまでに出演したシアターコクーン上演作品に、「美しく青く」(演出:赤堀雅秋)、「プルートゥ PLUTO」(演出:シディ・ラルビ・シェルカウイ)、「パ・ラパパンパン」(演出:松尾スズキ)、「『みんな我が子』 -All My Sons-」(演出:リンゼイ・ポズナー)などがある。


堤真一

堤真一

堤真一

ベニサン・ピットという小劇場でずっと芝居をやっていたので、初めてシアターコクーンに立ったとき(1993年上演の「ある日どこかで」)は、すごく大きな劇場だなという印象を受けました。初めてのときは、公演が進むにつれて身体に疲れが溜まっていき、どんどん劇場が大きくなっていくように感じました(笑)。
それまでデヴィッド・ルヴォー作品への出演が多かったのですが、シアターコクーンで、蜷川幸雄さんや野田秀樹さん、岩松了さん、栗山民也さん、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんなど、いろいろな演出家さんの作品に出演する機会をいただきました。僕にとってシアターコクーンは、ホームグラウンドのような劇場です。

プロフィール

堤真一(ツツミシンイチ)

1964年、兵庫県生まれ。1987年にNHKドラマ「橋の上においでよ」で主演デビュー。近年出演したシアターコクーン上演作品に、「民衆の敵」(演出:ジョナサン・マンビィ)、「十二人の怒れる男」(演出:リンゼイ・ポズナー)、「みんな我が子」(演出:リンゼイ・ポズナー)などがある。


長塚圭史

長塚圭史

長塚圭史

私の観劇体験の中で最も重要なもののひとつが「コクーン歌舞伎」です。「夏祭浪花鑑」「三人吉三」「佐倉義民傳」などどれも何故だか涙が出ました。全く新しい形で歌舞伎と現代劇(というと勘三郎さんに怒られそうですが)をエモーショナルに繋いだその底なしのポテンシャルは、渋谷に燦然と輝きました。作り手としては、最大限チャレンジさせてもらいました。奇抜で実験的な試みでもとにかく共にやってみてくれた。ゆえに毎回、常に新しい地点を求めることができました。苦労も多かったですが、コクーンでの全ての時間は現在の創作の大きな糧です。多くのクリエーターの思い出が一杯に詰まったシアターコクーンの第2章を心待ちにしております。

プロフィール

長塚圭史(ナガツカケイシ)

1975年、東京都生まれ。劇作家・演出家・俳優。1996年に阿佐ヶ谷スパイダースを旗揚げし、2011年にソロプロジェクト・葛河思潮社、2017年に演劇ユニット・新ロイヤル大衆舎を結成。これまでに朝日舞台芸術賞、読売演劇大賞優秀作品賞・演出家賞などを受賞した。2021年、KAAT神奈川芸術劇場芸術監督に就任。近年手がけたシアターコクーン上演作品に、「ガラスの動物園」(演出)、「あかいくらやみ ~天狗党幻譚」(作・演出・出演)、「マクベス Macbeth」(演出)、「プレイヤー」(演出)などがある。


古田新太

古田新太

古田新太

シアターコクーンに初めて出たのは、たぶん30歳の時だ。NODA・MAPの「キル」だと思う(定かではない)。まだ若かったおいらは、今よりすっごく飲んでいた。酔っ払いは絶対遅刻してはいけないと思っているので、朝まで飲んで楽屋口で寝ていた。堤の真ちゃんが「古田、しっかりしろ~」と起こしてくれた。またある日の本番中、舞台上でお腹が痛くなったおいらは、深津に「うんこいってくらぁ」っつってトイレに行った、コクーンの思い出……。長い間、ありがとうございました、そして楽しかったです。最後に出たのは蜷川さんと唐十郎さんの「盲導犬」。宮沢りえちゃんとのやつだ。本物の犬がいて袖は犬の匂いがしたな、それが最後か。劇場が再開してもし出演できたら、また奥渋の串カツ屋さんに通えちゃうなぁ。

プロフィール

古田新太(フルタアラタ)

1965年、兵庫県生まれ。大阪芸術大学在学中に劇団☆新感線の公演「宇宙防衛軍ヒデマロ」に出演し、同劇団の看板役者となる。これまでに出演したシアターコクーン上演作品に、NODA・MAP「キル」(演出:野田秀樹)、「盲導犬 ―澁澤龍彦『犬狼都市』より」(演出:蜷川幸雄)などがある。2023年6月から7月にかけて、COCOON PRODUCTION 2023「パラサイト」に出演。


森山未來

森山未來

森山未來

シアターコクーンとは10年以上の長いお付き合いをさせていただいているが、今一番印象に残っているものは、2020年に製作した「プレイタイム」だろうか。
Covid-19の影響によって全面的に活動を停止せざるを得なくなったコクーンが、再始動に向けて、新たなる「胎動」のようなものを表現できないかといったオファーを受け、ゼロベースから製作に関わらせていただいた。現代アーティスト・梅田哲也さんと演出家・杉原邦生さんの邂逅により、「プレイタイム」はただの映像配信や舞台演劇といった枠を超えた、あの時期にしか生まれ得ない表現になったと思っている。
外殻が変わっても、その皮膜の中で蠢くパフォーミング・アーツの脈動は変わらずにあってほしいと切に願う。

プロフィール

森山未來(モリヤマミライ)

1984年生まれ、兵庫県出身。5歳からさまざまなジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。“関係値から立ち上がる身体的表現”を求めて、領域横断的に国内外で活動を展開している。主な出演作品に映画「モテキ」「アンダードッグ」、舞台「テ ヅカ TeZukA」(振付:シディ・ラルビ・シェルカウイ)、「100万回生きたねこ」(演出・振付・美術:インバル・ピント、アブシャロム・ポラック)、劇団☆新感線「髑髏城の七人 Season鳥」(演出:いのうえひでのり)、「プルートゥ PLUTO」(演出:シディ・ラルビ・シェルカウイ)など。東京2020オリンピック開会式では鎮魂の舞を踊った。2022年、神戸市にArtist in Residence KOBE(AiRK)を設立し運営に携わっている。ポスト舞踏派。