フラットに話し合える場所、それが文学座|奥田一平 松本祐子 川合耀祐が語る文学座附属演劇研究所&「ジャンガリアン」

昨年、創設60周年を迎えた文学座附属演劇研究所では、原石の中から新たな才能を発掘し、世に送り出し続けてきた。研究所に入所した生徒たちは、本科で1年基礎を学んだのち、一部のメンバーが研修科に進み、2年間修業。その後、さらに選抜されたメンバーが準劇団員として2年研鑽を積み、劇団の承認を得てようやく座員になることができる。

このたびステージナタリーでは、2022年度第62期本科生の募集に向けて、“未来の本科生”の先輩にあたる、座員の松本祐子、奥田一平、準座員の川合耀祐にインタビュー。松本は研究所で講師を務め、発表会や卒業公演の演出を手がけることもあり、一方の53期生・奥田と57期生・川合は、文学座のホープとして劇団内外で活躍の場を広げている。そんな彼らに研究所卒業後の活動や、3人が携わっている11月公演「ジャンガリアン」の見どころについて話を聞いた。

取材・文 / 興野汐里撮影 / 宮川舞子

座員・準座員になってみて……

──奥田さんは2013年入所の53期生、川合さんは2017年入所の57期生で、奥田さんは2018年に座員となり、川合さんは昨年準座員に昇格しました。お二人が演劇と出会い、文学座附属演劇研究所を知ったきっかけを教えていただけますか?

左から松本祐子、川合耀祐、奥田一平。

奥田一平 もともと声優志望で、日本工学院専門学校に通っていたんです。在学中、友達に舞台に誘われて観に行ったらすごく面白くて。卒業したあと、声優になるか舞台俳優になるか迷っていったら、先生が「昔は声優と俳優を両立している人が多かった。俳優ができれば声優もできるし、とりあえず俳優としての基礎を学んでみたら?」とアドバイスしてくださったんです。そんなとき、藤原新平さんが卒業公演の演出をやってくださることになり、神野崇さん、藤﨑あかねさんと一緒にお芝居をすることになって……。

松本祐子 へー! そうだったんだ!

奥田 そうなんですよ。そのとき、初めて文学座のことを知りました。

川合耀祐 研究生時代の取材でもお話ししたように(参照:文学座附属演劇研究所 / 文学座9月アトリエの会)、僕は岐阜県可児市出身で、地元にある可児市文化創造センター(通称ala)で市民参加プロジェクトに出演したのが演劇を始めたきっかけでした。高橋正徳さんが演出した「MY TOWN 可児の物語」に参加したことで、文学座という劇団があることを知ったんです。

奥田 よっちゃん(川合)、あの伝説のエピソードについて教えてよ(笑)。

松本 なにそれ! 気になる。

川合 「MY TOWN 可児の物語」のゲネプロ中に舞台袖で寝ちゃって、出とちってしまって……その話を高橋さんがよくするんですよ(笑)。

松本 めっちゃやらかしてるじゃん!(笑)

川合耀祐

奥田 むしろ、その出来事があったから高橋さんに覚えてもらえたのかもしれないね(笑)。

松本 準座員になってどう? 変わったことはある?

川合 ……もう寝ません!

松本奥田 そこー!?(笑)

川合 というのは冗談で、研究所は学ぶところだったけど、準座員になったらお金をいただいて、プロとしてお芝居をするというのがやっぱり大きな違いだと思います。ワークショップに行ったりオーディションを受けたり、お芝居ができる状況を今は自分で作り出さないといけないですから。研究所時代よりもっともっと馬力のいる状況で、大変ではありますが、お芝居への情熱がメラメラ燃え上がっているところです。

奥田 おー! 燃えてるね、よっちゃん。研究所のときは気楽なものでしたけど、準座員になってからは、文学座の看板を背負っている責任の重さを感じるようになりましたね。座員になって、最近ようやくそのプレッシャーを楽しめるようになってきた気がします。

文学座はフラットに話し合える場

──松本さんはお二人が研究所に所属していたときに、発表会や卒業公演の演出を手がけられ、その後もたびたびお二人とご一緒されています。

松本 奥田くんとは、研修科の最初の発表会で「天保十二年のシェイクスピア」を一緒にやったんですけど、いきなりド主役の佐渡の三世次を演じてもらったんです。奥田くんは当時からへこたれないタイプでしたね。それと、ものすごく芯が強い。ダメ出しをすると、どんどん落ち込んでいっちゃう人もいるけど、奥田くんは合理的な考え方ができる人なので、「それなら、こうすれば良くなりますか?」とチャレンジし続けてくれるんです。なので、一緒に作品を作っていてすごく楽ですね。作品を良くするために、時にきつい言い方になってしまうこともあるけど、こちらの提案を受け入れて実行してくれる。今回の「ジャンガリアン」でもモンゴル人留学生という難しい役を演じてもらいますが、お互いにまた新たな挑戦ができたら良いなと思っています。

よっちゃんには、本科の授業で「かもめ」のソーリンをやってもらったんですけど、彼は良くも悪くもヘラヘラーっと、飄々としてるじゃないですか(笑)。それがお芝居にも反映されているなと。最初にご一緒したときから、すごく優しい子なんだろうな、全部を受け止める子なんだなと思っていました。あと、よっちゃんといえばピンチを救ってくれる人!(笑)

奥田川合 ははは!

松本祐子

松本 昨年、「五十四の瞳」(参照:“亡き父に感謝をこめて”鄭義信×松本祐子がタッグ、文学座「五十四の瞳」開幕)で出演者変更があって、急遽出演してもらうことになったんです。よっちゃんは決して器用な人ではないので本人も大変だったと思うんですけど、どんなことでも吸収してくれるから、たかお(鷹)さんや松岡依都美たちとみんなで寄ってたかって集中稽古して(笑)。内心、「もう帰りたいよう、ゲームしたいよう」って気持ちだったと思うんですが、一生懸命みんなの言葉を受け止めてくれました。あの現場ですごく愛されてましたね、よっちゃん。ここまで愛される人ってあまりいないから得よ?(笑)

川合 やったあ(笑)。

松本 彼は文学座にあまりいないタイプの俳優なんですよね。黙っているだけで喜劇性があるというか……。

奥田 確かに(笑)。

──奥田さんと川合さんは今回が初共演ですが、すでに打ち解けていらっしゃるように感じます。

奥田 2・3年前に自分が公演をやったとき、当時研究所に所属していたよっちゃんがバラシに来てくれたんですよ。打ち上げで初めて話をして、すぐに意気投合したんです。なんだかすごく波長が合うんですよね。

松本 まさにこういう感じで、文学座の役者ってお互いをリスペクトしつつ対等な関係が築けているんですよね。昔は怖い先輩もいらっしゃったけど、今は優しくて面倒見の良い先輩ばかりだから、「こういうふうに演じてみたい」ということをフラットに話し合える。そこが文学座および研究所の良いところかなと思います。