「文学座附属演劇研究所特集」横田栄司×亀田佳明×松岡依都美|劇薬じゃなくて漢方薬、じわじわ効く文学座附属演劇研究所

今年で創立60年を迎えた、文学座附属演劇研究所。ここを学び舎にした俳優たちの多くは舞台や映像など、各方面で活動しており、その個性も実にさまざまだ。多様な演出家・監督のもとで縦横無尽に演じる俳優たちを輩出してきた研究所の秘密は、どこにあるのだろうか。

夏の日差しが照りつける7月、ステージナタリーでは確かな演技力と引力を武器に劇団内外で活躍する文学座の俳優3人に話を聞いた。シェイクスピア劇で存在感を放ってきた横田栄司、どんな役柄も柔らかくこなしていく亀田佳明、体を張った演技で映像でも活躍の場を広げる松岡依都美が顔を合わせ、文学座の研究所を選んだ理由や、当時の厳しくも楽しく、充実した日々を振り返る。

また特集の後半では、コロナ禍でさまざまな制約が課される中、演劇を志す若者たちをサポートし、研究所の歩みを止めることなく前進させた主事・植田真介のインタビュー、さらには坂口芳貞に代わり新所長に就任した鵜澤秀行の寄稿を送る。

取材・文 / 大滝知里 撮影 / 平岩享(P1~3)

俳優を志したのは、好きと逃げと偶然の出会い

──そもそも、どうして俳優を目指そうと思われたのか、きっかけを教えていただけますか。

(一同 「はあー」と言いながら宙を見つめる)

横田栄司

横田栄司 僕は、時代劇などをテレビで観るのが好きな家庭で育って、物語というものが子供の頃から好きだったんです。よく観ていたのがテレビドラマ「刑事コロンボ」で。ピーター・フォーク演じるコロンボを、日本語のうまい外国人だと思っていました。

松岡依都美 あははは。

横田 それで俳優という仕事を初めて認識して。子供の頃ってそうでしょう?(笑) 職業だとわかったときの衝撃は大きかったですね。

亀田佳明 僕はもともと表に出て何かをやることがすごく苦手で。学校の先生になろうと大学に行ったんです。でも教育実習を受けるときに、このまま進路が決まっていくことに抵抗を感じて。家族の影響で演劇自体は身近だったんですが、少し拒否反応もあり……結局、逃げ場の1つだったんですかね、大学を辞めて、演劇をやり始めちゃった(笑)。

松岡 教育実習はやったんですか?

亀田 やらなかったんです。

横田 そこからすぐ、文学座の研究所を受けたの?

亀田 そうです。文学座の芝居も観ずに。

松岡 一緒、一緒(笑)。

横田 文学座あるあるだよね。依都美は?

松岡依都美

松岡 私は三重県出身なんですけど、大学受験のときに進路で迷っていたら、母親が県主宰のミュージカルの出演者募集を見つけてきて、「気分転換に受けてみたら?」と。私も人前で何かをするのは苦手だったんですけど、観るのは好きで。やってみたら「わー、楽しい!」となった(笑)。そのとき一緒だったのが、文学座の神保(共子)さんだったんですよ。

横田 ええ!? もしかして演出も文学座の人だったの?

松岡 それは違うんです。沢本忠雄さんっていう三重生まれの、テレビドラマ「あかんたれ」とかに出ていた俳優さんでした。

亀田 へえー。

松岡 その体験がすごく楽しかったので、舞台の勉強ができるところを探して、大阪芸術大学を受けました。

横田 神保さんとの出会いはつながってくるの?

松岡 それがですね、当時、文学座を知らなかったので神保さんにお話を聞いてみたら「絶対に文学座には来ないほうがいい」って言ったんです。

横田亀田 あははは!

松岡 「そうなんだ……」って、何かはわからないけど、逆に引っかかるものがあったんでしょうね。

文学座の研究所は“いい匂い”がする

──演劇を学ぼうと決意したときに、さまざまある選択肢からなぜ文学座の研究所を選んだのですか。

横田 僕はね、桐朋学園短期大学っていう劇団俳優座につながる大学に行っていたんですが、先生たちがおっかなくて。今思うと、演出家が偉いところだったんじゃないかなと。それよりは俳優が自由なイメージの文学座を選んだ。文学座のほうが柔らかそうというか、“いい匂い”がしたの。それと、受けたときに文学座アトリエが素敵だったので、建物への憧れもありました。

亀田佳明

亀田 僕は、文学座は割と自由だという話を聞いていたものだから。なんとなくの情報で受けて。受かったあとに内野聖陽さんの「モンテ・クリスト伯」(編集注:2001年に上演された作品。演出は髙瀬久男)を観に行ったんです。それで、「へえ、こんな劇団なんだ」って思った。

横田 あんなことやったのは、あのときだけだよ(笑)。内野さんが盆で出てきて、照明の中どどーんみたいなのは。「なんじゃこりゃ!」って僕らも衝撃を受けた。

松岡 私は大学卒業後、「東京に行ったら女優になれる」と漠然と思っていたんですが、オーディションはどれも受からなくって。やっぱり舞台というジャンルがやりたいんだと自覚したときに友達が「すごくいいらしいよ」と文学座のことを教えてくれたんです。

横田 歴史とかね。

松岡 「ここに入ればまた舞台ができる、勉強できるんだ」という気持ちでした。