中島諒人が語る「BeSeTo演劇祭29+鳥の演劇祭18」日中韓の“今”を感じ、演劇の間口を広げるラインナップ (2/2)

「BeSeTo演劇祭29+鳥の演劇祭18」ラインナップ

ここでは、「BeSeTo演劇祭 29+鳥の演劇祭18」にて上演される演目より、柳州市芸術劇院・柳州市演芸集団「シャイニング・フレンズ」、イエロー・ボム × リビング・シアター × 劇工作所魔方陣「ロゼッタ」、鳥の劇場「梨っこ」、マイケル・ミアーズ「ザ・ミステイクーあやまち」の各カンパニーから届いたメッセージと、ラインナップ全体を紹介する。

柳州市芸術劇院・柳州市演芸集団「シャイニング・フレンズ」

柳州市芸術劇院・柳州市演芸集団「シャイニング・フレンズ」より。

柳州市芸術劇院・柳州市演芸集団「シャイニング・フレンズ」より。

2025年9月20日(土)・21日(日)
米子市公会堂

作・演出:黄彦卓
出演:趙奇、陳莹、周傑、張睿文、呉郭磊、王師

作品紹介

中国・柳州の文化が盛り込まれた、柳州市芸術劇院制作のミュージカルコメディ。とんがりバンドは公演中に事故に見舞われ、自分たちが巻貝の殻の中に閉じ込められていることに気づき……。

カンパニーからメッセージ

──今回上演される作品の、創作のきっかけを教えてください。

創作の最初のインスピレーションは、柳州市の魚峰山で行われる民謡の掛け合いにあります。老若男女が集い、交互に歌い合うその光景は壮観で、何よりも心を動かされたのは、この活気ある伝統と、何世紀にもわたり歌い継がれてきた魂を揺さぶる旋律でした。もう一つのきっかけは、柳州職業技術学院での出会いです。そこでは、情熱を持った教員たちが最新技術を駆使し、螺蛳粉(タニシ入り米粉麺)の製造について研究と革新を行っていました。学生たちの個性豊かで生き生きとした姿にも強く心を打たれました。

柳州の近代的な革新と息づく民族的伝統。この融合と衝突が、私をこの戯曲の執筆へと駆り立てたのです。

──本演劇祭での上演を楽しみにされているお客様に、作品をより楽しむためのヒントになるキーワードを教えてください。

キーワードを選ぶとしたら、「覚醒」です。劇中では、登場人物たちが懐かしい民謡を歌い、梅峰(メイフォン)の記憶を呼び起こそうと奮闘します。最終的に、彼女の心を再び灯すのは、真摯な友情です。

同じように、私たちの物語と音楽が観客の皆さんの心の奥に眠っている何かを呼び覚まし、忘れかけていた温もりや愛をよみがえらせ、劇場を後にする時にはそれぞれの光を胸に抱いて帰っていただけたらと願っています。

イエロー・ボム × リビング・シアター × 劇工作所魔方陣「ロゼッタ」

イエロー・ボム × リビング・シアター × 劇工作所魔方陣「ロゼッタ」より。

イエロー・ボム × リビング・シアター × 劇工作所魔方陣「ロゼッタ」より。

2025年9月27日(土)・28日(日)
とりぎん文化会館[梨花ホール]

作・演出:ヨセフ・K
出演:キム・ソンリョン、コ・インベ、キョン・ミンソン、ウォン・ギョンシク、キム・ハリ、イ・ギョング、ブラッド・テイラー・バージェス、エマ・スー・ハリス
演奏:イム・イファン

ヨセフ・K

ヨセフ・K

作品紹介

アメリカのリビング・シアターと韓国の劇工作所魔法陣の俳優たちが共同制作した作品
で、アメリカから朝鮮に渡り、朝鮮の女性たちの教育と医療のために貢献した女性医師ロゼッタ・シャーウッド・ホールの日記をもとに彼女の人生の瞬間に焦点を当てる。

カンパニーからメッセージ

──今回上演される作品の、創作のきっかけを教えてください。

雨の日に友人を待っている途中、偶然、楊花津にある宣教師たちのお墓を訪れることになりました。ソウルの真ん中にありながら、これまで全く知らなかった場所でした。そこにはロゼッタ・シャーウッド・ホールの日記が展示された小さな空間があり、その文章を読んでいるうちに思わず涙がこぼれてしまったのです。韓国で病により夫と娘を失った彼女が残した一言。その瞬間、いつか必ず彼女の物語を作品にしようと心に決めました。作家として私が題材に出会うとき、最も大切にしているのは、自分の身体がその物語にどう反応するか、ということです。この物語はまさに、人生を懸けてでも伝えたいと思ったものでした。

──本演劇祭での上演を楽しみにされているお客様に、作品をより楽しむためのヒントになるキーワードを教えてください。

ロゼッタ・シャーウッド・ホールという人物について事前に知っていても、全く知らずに来ていただいても構いません。偉人が偉大なことを成し遂げたという事実を伝えるための作品というよりも、一人の人間が生きた美しい人生を観客とともに体験することが、私たちの演劇の目的だからです。そういう意味で、舞台に登場する8人全員がロゼッタを演じます。作者である私自身も、舞台上で演奏者として参加しています。演奏といえば、この作品は最初から最後まで音楽とともに進みます。たとえ言葉が通じなくても、きっと一緒に感じられる瞬間がたくさんあると期待しています。

マイケル・ミアーズ「ザ・ミステイクーあやまち」

マイケル・ミアーズ「ザ・ミステイクーあやまち」より。(Photo: Simon Richardson)

マイケル・ミアーズ「ザ・ミステイクーあやまち」より。(Photo: Simon Richardson)

2025年9月27日(土)・28日(日)
鳥の劇場[劇場]

作:マイケル・ミアーズ
演出:ロザムンド・ハット
出演:中園理子、マイケル・ミアーズ

左からマイケル・ミアーズ(Photo: Catherine Shakespeare Lane)、中園理子(Photo: Alan Howard)。

左からマイケル・ミアーズ(Photo: Catherine Shakespeare Lane)、中園理子(Photo: Alan Howard)。

作品紹介

ハンガリーの科学者レオ・シラードと原爆を投下したアメリカ人パイロット ポール・ティベッツ大佐、両親を救い出すため奮闘した広島の女性ノムラシゲコを軸に、“過ち”を巡って繰り広げられる本作。イギリスやアメリカでも上演されてきた作品だ。

カンパニーからメッセージ

──今回上演される作品の、創作のきっかけを教えてください。

私はずっと核兵器に強く反対してきました。2002年のヒロシマの日、ふたつのインタビューが掲載されたイギリスの新聞記事を目にしました。ひとつはヒロシマに原爆を落としたB-29の操縦士ポール・ティベット、もうひとつは10代の時に長崎で被爆した詩人のミウラフミコのものでした。この記事に触発され、私は被爆者の子孫が高齢となった爆撃機のパイロットを訪ね、答えを求める、という内容の戯曲を書き始めました。戯曲はそこからさらに発展し、原爆の開発に関わった主要な欧米の科学者たちも登場人物に加わりました。

しかし、日本の体験に一切触れなかった映画「オッペンハイマー」とは異なり、私の戯曲では1945年の原爆投下を生き延び、必死に家族を探す若い女性を主人公とし、日本が体験したことを物語の中心に据えています。

──本演劇祭での上演を楽しみにされているお客様に、作品をより楽しむためのヒントになるキーワードを教えてください。

“癒し”です。

私たちはこの作品を、日本の観客の皆様に癒しと和解の行為としてお届けしたいと思っています。この出来事をめぐるさまざまな視点を取り入れ、人々の動機の複雑さを描くことを努めましたが、明らかなのは、戦争や紛争は決して答えにはなり得ないということです。

この重いテーマを、演劇的にインスピレーションに溢れ、独創的で想像力豊かな方法で表現することを試みました。わずかな舞台セットで、私たちがどのように表現しているのか、ぜひ観にいらしてください!

鳥の劇場「梨っこ」

鳥の劇場「梨っこ」より。

鳥の劇場「梨っこ」より。

2025年10月4日(土)・5日(日)
鳥取県立美術館[ひろま]

台本・演出:中島諒人
出演:齊藤頼陽、安田茉耶、後藤詩織、大田信之介、中川玲奈

作品紹介

鳥の劇場の中島諒人が台本・演出を手がける本作。王様に届ける梨の代わりに、梨の箱に入ってお城に入った梨っこは、サッと逃げ出すつもりが、なぜか魔女の宝物探しに旅立つことになり……。

カンパニーからメッセージ

──今回上演される作品の、創作のきっかけを教えてください。

女の子が感情移入して見られる作品を作りたいと思って題材を探す中、この民話に出会いました。王子さまに女の子が救われる「シンデレラ」的なものではなくて、女の子が積極的に動いて状況を変えていくところが現代的で面白いと思いました。梨っこのエネルギーと行動力が、父親である王のもと受け身の存在であったちょっとダメな王子にも力を与えます。女の子だけでなく男の子にも、そして大人にも楽しんでもらえるお芝居になりました。

──本演劇祭での上演を楽しみにされているお客様に、作品をより楽しむためのヒントになるキーワードを教えてください。

「箱」と「お城」がこの芝居のキーワード。四つの木箱が基本の舞台セット。「箱」がいろいろに使われながら芝居が進みます。俳優との関わりを通じて、同じモノが多彩な役割を果たすのを楽しんでください。それから、今回の上演会場はこの春にオープンした鳥取県立美術館の目玉空間の一つ“ひろま”です。高い天井や美しい階段が印象的な空間はまるで「お城」です。お城の中での梨っこの活躍、王子の成長を楽しんでください。

その他、毎週末に行われる作品や企画

第1週(9月20・21日)は、[BeSeTo演劇祭]より、志賀亮史演出による日中韓共同制作「ガラスの動物園」、1980年の光州にタイムスリップした清掃員の女性を描く韓国の劇団ハタンセ「時を塗る人」、[鳥の演劇祭]より、大阪の木偶舎のセリフのない音楽人形演劇「風土祈」、鹿野タイムスリップツアー「チドリの夢 デラックス」が上演される。

第2週(9月27・28日)は、[BeSeTo演劇祭]より、青年団の代表作の1つ「S高原から」、[鳥の演劇祭]より、障がいをめぐる短編戯曲コンテストの作品を鳥の劇場の俳優が朗読する「日米 短編戯曲リーディング」などが登場。

第3週(10月4・5日)は、[BeSeTo演劇祭]より、人形フレッドを巡るイギリスのハイジンクス × ブラインド・サミット「ミート・フレッド」、BeSeToシンポジウム「演劇におけるポストヒューマン的展開」、[鳥の演劇祭]より、たきいみきと山田裕幸が谷崎潤一郎の世界を一人語りにするたきいとやまだの会「刺青」、芥川龍之介「藪の中」を原作にした中国の江蘇省蘇州昆劇院による昆劇「竹林三昧」が披露される。

第4週(10月11・12日)には、[BeSeTo演劇祭]より、演劇を通じた中国・韓国・日本の学生交流プログラムがラインナップ。中国の中央戯劇学院によるオリジナル実験演劇「荘周夢蝶」、韓国の韓国芸術総合学校(K-Arts)は海の真ん中で遭難した3人の生き残りをかけた「海の真ん中で」、芸術文化観光専門職大学は平田オリザが作・演出を手がける「ちっちゃい姫とユレルン博士」が披露されるほか、日中韓学生ミーティングが繰り広げられる。さらに[鳥の演劇祭]より、鳥の劇場が三島由紀夫作品に挑む「熊野」でフィナーレを飾る。

なおガイドの解説を聞きながら城下町の鹿野を散策する「鹿野ぶらぶらまち歩き」、鳥取出身の写真家・水本俊也による家族写真企画「小鳥の家族」、出演者も参加するオープニングパーティー(21日)、ウェルカムパーティー(27日、4日)、クロージングパーティー(12日)は第1週から4週まで実施される。さらに同時開催される山陰三ッ星マーケットと、鳥のゆうき農場の収穫祭は20日、鹿野の空き家や空き店舗が開く「週末だけのまちのみせ」は27・28日、尺八愛好家が虚無僧に扮して街を練り歩く第12回 鹿野城下 虚無僧行脚が28日に行われる。