野田秀樹×東京演劇道場「赤鬼」座談会&稽古場レポ|4つのアプローチ、4つの顔合わせで斬り込む

A・B・C・D、観るならどのチーム?

──それではご自身が出演されるチームの、セールスポイントを教えてください。

河内 Aチームは……ビリビリした緊張感でしょうか。近付くとやられるぞ! みたいな……?

加治 Aは熱いんですよ。人間の土台となるものを大事にしているミズカネが作品を引っ張っていってるところがあって、ミズカネにつられて周りも熱くなっていて。みんなのセリフと魂のぶつけ合いで、高め合って、そこから崩れ去るから衝撃も大きくて! 泥臭さとか人間臭さとかが魅力的だなって。

河内 ……と加治くんが言ってくれてますので、こちらでいかがでしょう?(笑)

加治 僕が出演するBチームはほかと圧倒的な違いがあって、それは先ほど話に挙がった、赤鬼の見せ方の違いなんですよね。で……あとはよくわからないや(笑)。

河内 Bは大きいっていう印象ですね。“陽陰”で言うと陽というか、常に明るく開かれている感じがして、それはすごくうらやましい。発してる光が違うと言うのかな?(笑)

末冨 Bは赤鬼が抽象的な存在として描かれるぶん、逆に化け物とか獣ではなく“人間”という感じがして、それが全体のライトさにつながっているのかもしれませんね。

森田 僕はAとDに出演していますが、Aチームは人間臭さが漂って来る感じ。Dチームはお互いにお互いの穴を埋め合うって言うか、いい意味で綺麗な球体ができあがっている感じがします。

河内 それで言うと、Aはトゲが出た鉄球でガツーンガツーンってやってる感じですね。

森田 攻撃力が強いんです。

上村 Cチームはそれぞれの個性が強いですね。一見するとシリアスなことが起こらなそうな雰囲気で軽く軽く進んでいくんだけど、裏ではいろいろなことが起こっている。そのコントラストが面白いと思います。Dはそれらがブレンドされていると言うか、1人ひとりの良さがバランスよく混ざっている感じ。どちらも味わいが違って、全然違う良さがあります。

川原田 Cはほかのチームに比べてキャラクターが異色な感じだと思います。赤鬼もミズカネもとんびもちょっと中性的と言うか、ミズカネも全然男らしくないし、赤鬼も獣っていうよりも化け物っていう感じに近い気がするし。その異色な感じが、お客さんに面白く伝わればいいなと思っています。

北浦 Dは、ミズカネ役の吉田(朋弘)さんがもともとミュージカル、私が映像というように、それぞれ違う畑から来たメンバーが集まっているので、ちょっと違うものが生まれている気がします。またほかのチームのあの女は、皆さんお芝居もすごいし、見た目からして綺麗で“浜一番の美人”ってセリフにも納得できるんですけど、自分で言うのもなんですが私は地味なので(笑)。でもだからこそ、あの女の明るさと影を出すことができるんじゃないかと思い、がんばっています。

左から河内大和、上村聡、森田真和、北浦愛、野田秀樹、末冨真由、川原田樹、加治将樹。

「赤鬼」を、次への第一歩に

──「赤鬼」は新型コロナウイルスの影響で休館を余儀なくされていた東京芸術劇場にとって、演劇の主催事業としては再開後1作目の作品となります。改めて、舞台への思いを教えてください。

川原田 自分にとっても劇場にとっても1発目の作品なので、「『赤鬼』を上演したい」という思いはもちろん、この舞台を皮切りに「生で感じることは大事だ、やっぱり舞台をやっていこう」と思う気持ちが広がっていけば良いなと思います。

上村 こういう状況でお芝居するのは初めてのことで、でも今後もこういう状況の中で続けることになっていくでしょうから、この公演が1つの成功例になれば良いなと思います。

加治 僕は自粛期間中、なるべく心を止めないようにと思っていろいろな作品に触れていました。で、久しぶりに「赤鬼」の稽古でみんなの声を聞いたら、自粛期間中では味わうことができなかった感情、心の動き方をしたんです。演劇の、生の素晴らしさってこれだなって。だから今、この作品をやれること、この瞬間に立ち会えていることが最高に幸せだなと思います。

河内 ライブ配信や過去の舞台作品を配信することが増えてきましたが、どうしても観る気になれなくて。やっぱり劇場の役割とか、肌で感じることってすごく大きな体験なんだなと感じました。人と人が生身でぶつかり合って、架空のものに一生懸命向かっていく……演劇のそういう力は、人の心を救える力にもなるんじゃないかと思いますし、この作品を通して「やっぱり演劇って良いな」って思ってもらえると良いなと思います。

末冨 確かに舞台は架空だけど、現実とは切り離せなくて、私たちは架空の世界でエネルギーを出し、お客様はそのエネルギーを持ち帰っているんだと思うんですね。でも今回は、観に来てくださるお客様も、勇気を出して劇場に観に来てくださる。私たちもそんなお客様たちのエネルギーを感じたいと思って、舞台に臨みます。

北浦 「今度舞台に出るんだ」と話したら、普段まったく舞台を観ない友達から、「舞台って芸術でしょ? それ今いる?」って聞かれて、そういう意見もあるんだなと思ったんです。でもこの作品は、「やっぱり舞台は必要だ」と思ってもらえる作品だと思いますし、そうなるようにしたいと思います。

森田 こういう状況になる前は、オファーをいただいて、稽古して、その先に本番があるというのは当たり前のことだったんですけど、今回改めて、「それは当たり前のことじゃなかったんだ。ずっと特別なことをさせてもらってたんだ」と感じられて。それをもう一度当たり前にしていけるように、「赤鬼」がその第一歩になればいいなと思います。

野田 2011年の東日本大震災のとき、NODA・MAPは「南へ」の上演中で、3日くらい休演して、すぐに再開したんですね。でも普段は満席の客席に、6割くらいしかお客さんが入ってなかった。そのとき空席を見て、劇場に来られなかった人のことを考えたりしたんです。ただ、当時は前を向いてやっていけば良かったのが、今はそれともちょっと違って、常に不安を抱えながら続けている。大学の演劇部に入ったときに、先輩が「俺たちは運命共同体だ」って言っているのを聞いて「めんどくせーな」って思ってたけど(笑)、こういう状況では家族がそうであるように、演劇をやってる現場も、まさにそういう気持ちがないと舞台に立てないんじゃないかな。今は普通に生活をしていてもどんなところにも必ずリスクはありますが、最大限リスクを防ぎ、舞台に向き合いたいと思います。