野田秀樹×東京演劇道場「赤鬼」座談会&稽古場レポ|4つのアプローチ、4つの顔合わせで斬り込む

4つの「赤鬼」稽古場レポート

今回の「赤鬼」は、4チームでの連続上演となる。全チームとも、基本的な演出や舞台美術は同じで、出演者は17名。その中で、あの女、とんび、ミズカネ、赤鬼のメインキャスト4名はチームごとに顔合わせが異なり、村人を演じる13名のキャストは、A・BとC・Dがそれぞれ共通となる。なお水天宮ピットの稽古場では、換気、室内の消毒、演者・スタッフのマスク着用や手指消毒等の感染防止対策が取られており、出入りが可能な関係者が制限されているが、この取材は、感染症防止対策を十分に行ったうえで、特別な許可を得て行われた。

Aチームでは、あの女を夏子、とんびを木山廉彬、ミズカネを河内大和、赤鬼を森田真和が演じる。夏子は、周囲に染まらないあの女の芯の強さ、凛とした佇まいを小柄な身体いっぱいに表現。そんな彼女を、河内演じるミズカネはとんびを手下のように従えつつ、あの手この手で手懐けようとする。互いに激しく言葉をぶつけ合い、緊張感あるシーンが続くが、あの女と赤鬼が心を通わせるシーンでは、あの女の優しさと赤鬼の温かさが垣間見え、ふと心を奪われる。

浦彩恵子があの女、秋山遊楽がとんび、加治将樹がミズカネ、森準人が赤鬼を演じるBチームは、ガキ大将のようなミズカネと、彼を兄のように慕うとんびのコミカルなやり取りが印象的。またBチームでは、赤鬼が明らかに“異形の存在”として姿を現すが、無骨な姿とは裏腹な繊細さ、凶暴さの裏にある赤鬼の優しさを森は丁寧に表現。そんな赤鬼を前に、あの女がクールな口調を徐々に和らげていく様を、浦は自然な変化として見せている。

モーガン茉愛羅があの女、的場祐太がとんび、川原田樹がミズカネ、六川裕史が赤鬼を演じるCチームでは、ミズカネが舞台を所狭しと駆け回り、耳あたりの良い語り口で稽古場の空気をかき回していく。そんなミズカネをまともにとり合わない大人っぽい雰囲気のあの女、2人の間で右往左往しつつも、時折急に焦点があったような言動を見せるとんびの、チグハグな関係性が見どころだ。また4チーム中、Cの赤鬼が最も躍動感があり動物的で、それゆえに互いを“理解”し合うことの難しさが際立つ。

Dチームは北浦愛があの女、松本誠がとんび、吉田朋弘がミズカネ、そしてAチームに続きDチームでも森田が赤鬼を演じる。北浦は強さの中にも脆さを秘めたあの女の微妙な心理を丁寧に立ち上げ、そんな彼女の複雑な心中を察することができないとんびとミズカネを、松本と吉田が好演する。さらに森田は、女の心の揺れに敏感に反応し、変化していく赤鬼の様子を、細やかに表現している。

また稽古では、メインの4役同様に、野田が村人1人ひとりの動きや声のトーン、発声のタイミングなどを細かくチェック。村の老人たちが不本意ながらミズカネに頭を下げるシーンでは、「腰をかがめる動きを、今の3倍かけてやってみて!」と言う野田の声で、村人役たちはそもそもゆっくりの動きを、さらにスローモーションで表現。身体的につらい角度のため、自然にプルプルと身体が震えてくる姿は滑稽で、稽古場には大きな笑い声が起こった。

道場のワークショップでもそうだったが、稽古中、野田はほとんどイスに座ることなく、アクティングエリアの近くでずっと、俳優たちの様子を見つめている。そして時折すっと稽古の輪に入り、道場生たちのアイデアを聞いたり、自ら動きをやって見せたり、時には冗談を言って場を沸かせたりしながら稽古を重ねていく。長く道場の活動に就いている東京芸術劇場の制作スタッフは、「普段のワークショップの延長線上に、この『赤鬼』があるんです」と話す。「野田さんは講師で演出家だけれど、道場生と一緒になりながら、稽古場で『ああでもない、こうでもない』と言って作品を作り上げている。4チームの演出は大変なはずなのに、野田さん、いい顔してるんですよね」。そう言われて野田を見ると、道場生たちの間で、マスク越しだが、野田は思い切り相好を崩していたのがわかった。