音楽ナタリー PowerPush - 澤野弘之

多忙極める作曲家が届ける 2曲+55曲の“好きな楽曲たち”

「書いてくれ」と言われたから半分書いた

──シングルのもう1つのA面曲「scaPEGoat」は「終わりのセラフ」のエンディングテーマ。「X.U.」から一転、アシッドテイストというか、ダルな感じのギターロックです。

澤野弘之

「オープニングとエンディングの両方を担当する以上、違いをよりわかりやすく出せればいいな」っていうことでできあがったのがこの曲なんです。デジタル感が強くてアップテンポな「X.U.」がオープニングだから、エンディングはテンポを下げたバラードロック、でもちょっと激しめっていう感じ。そういうイメージで作ってます。

──こちらの詞は澤野さんとmpiさんの共作。しかも日本語と英語がチャンポンになっています。

レーベルの方に「日本語詞を書いてくれ」って言われたので「じゃあ半分だけ」ということで1コーラス目の日本語の部分だけ書いてみました(笑)。

──なぜ1コーラス目は日本語で、2コーラス目は英語という構成に?

まず日本語で始まるのは、オープニングとの対比を効かせたかったからですね。「オープニングが英語詞だからエンディングは日本語詞のほうがいいのかな」っていう感じというか。ただ、ボーカルのYoshさんはご自身のバンド・Survive Said The Prophetでは基本的に英語詞を歌う方、英語っぽいアプローチがすごくカッコよくできる方で、作曲の時点で「英語詞が乗ったほうがカッコいいだろうな」とも思っていたので、2コーラス目の歌詞をmpiさんに英語で書いてもらって。このメロディに日本語が乗ったときのグルーヴと、英語が乗ったときのグルーヴの違いを楽しんでもらえるとうれしいですね。

日本語から遠く離れた日本語を目指して

──しかも澤野さんの日本語詞もグルーヴィというか。以前「作詞するときは意味よりも言葉の音乗りのよさを意識する」と言っていましたけど(参照:Aimer「Midnight Sun」「UnChild」特集)、それをトコトン突き詰めた印象を受けました。

訳わかんないですもんね、この詞(笑)。

──「馴染めた白 鳥かご隅 鼓動獲たツボミも」ですからね(笑)。しかも「You read love 唱える」っていうフレーズをひと息で歌わせていたりするから、聴いていると意味がだんだん消失されていく感じがして。アレンジ同様、このアシッド感みたいなものがすごく気持ちよかったです。

ありがとうございます。さっきお話した通り「scaPEGoat」は吸血鬼になってしまったミカエラをイメージした曲だから、彼の存在を多少意識しながら言葉を選んではいるんですけど、一方でYoshさんが歌うことを想定して書いた詞でもありますから。「英語詞が得意な方の曲なんだから、日本語詞の部分も日本語っぽく聞こえないほうが面白いな」ってことで、こういう言葉の組み方をしてみたんです。

──そのYoshさんとの出会いは?

レーベルの方に「男性ボーカリストがほしい」っていうことで挙げてもらった候補の中にいた方ですね。僕、バンドをやっている男性ボーカリストに歌ってもらうのが初めてだったので、最初のボーカルチェックまでは「すげえあんちゃんが来たらどうしよう」って不安だったんですけど……。

──もはや絶滅危惧種ですよ、そんなバンドマン(笑)。

そうなんですよね(笑)。すごくマジメな方だし、普段バンドで歌っているときとはまたちょっと違う、熱いんだけどナイーブな感じのシャウトを聴かせてくれて。ご本人的にもいつもとは違う、しかも僕のこれまでの楽曲とも違うアプローチを探ってきてくれたんですよね。

埋もれさせたくなかった“まず書かないような曲”

──そしてシングルにはもう1曲「INSANITY LOVE」という楽曲も収録されています。

これ、「終わりのセラフ」とはまったく関係のない曲なんですよ。3、4年前にWOWOWのドラマの「マークスの山」で劇伴を担当したんですけど、そのサントラ盤に入っていたボーカル曲ですから。ただ、劇中では使われていなくて、しかもサントラ盤も入手困難になっていて。個人的にはすごく気に入った曲だったので皆さんにも聴いていただけたらな、っていうことで改めて収録してみました。

──数ある澤野弘之ディスコグラフィの中でもこの曲がお気に入りな理由って?

もう数年前の楽曲の上、サントラにはアマチュア時代にストックしていた曲を収録しているから、今とは少し雰囲気が違うんですよ。「INSANITY LOVE」のメロディラインなんかは特に今の僕だったらあまり書かないものだったりしますし。そこが面白かったから、今回[nZk]バージョンを録ってみたって感じですね。

SawanoHiroyuki[nZk] ニューシングル「X.U. | scaPEGoat」 / 2015年5月20日発売 / DefSTAR Records
期間生産限定盤 [CD+DVD] / 1620円 / DFCL-2133~4
通常盤 [CD] / 1350円 / DFCL-2132
澤野弘之(サワノヒロユキ)

澤野弘之

1980年生まれ、東京都出身の作曲家、編曲家。「医龍」シリーズや、「アルドノアゼロ」「進撃の巨人」「キルラキル」「機動戦士ガンダムUC」シリーズなど、ドラマ、アニメ、映画など映像作品のサウンドトラックを中心に、そのほか、アーティストへの楽曲提供、編曲を手がけるなど、精力的に音楽活動を展開している。2014年春からはボーカル楽曲に重点を置いた新プロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]を始動。その第1弾作品として、「機動戦士ガンダムUC」シリーズの楽曲も共作したAimerとの、SawanoHiroyuki[nZk]:Aimer名義のアルバム「UnChild」を発表し、オリコン週間アルバムランキングトップ10入りを果たす。また同年夏にはイツエの瑞葵(Vo)がmizuki名義で歌うSawanoHiroyuki[nZk]名義のシングルにして「アルドノア・ゼロ」第1期のエンディングテーマ「A/Z | aLIEz」を、2015年2月には同じくmizukiを迎えたSawanoHiroyuki[nZk]の新作「&Z」と、自身の手がけたアニメーションのサウンドトラックの中からボーカル曲のみをセレクトしたベストアルバム「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」をリリースしている。さらに春には、NHK連続テレビ小説「まれ」やWiiU用ゲーム「XenobladeX」のサウンドトラック、テレビアニメ「終わりのセラフ」の音楽プロデュースも担当。「終わりのセラフ」のオープニングテーマとエンディングテーマをパッケージしたシングル「X.U. | scaPEGoat」と「XenobladeX」を5月にリリースした。