「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」の主題歌として、西川貴教が小室哲哉と初めてタッグを組んで作り上げた楽曲「FREEDOM」。この曲に多大な影響を受けた1年だったと語る西川の新作アルバム「SINGularity Ⅲ -VOYAGE-」が2月26日にリリースされた。
西川貴教名義で3枚目となるこのアルバムには「FREEDOM」をはじめとするタイアップ曲や、今井了介、原一博といった西川と同世代の音楽プロデューサーによる新曲、さらにTM NETWORK「BEYOND THE TIME-メビウスの宇宙を越えて-」、See-Saw「あんなに一緒だったのに」という、ライブで披露されファンの間で音源化が待望されていたカバー曲も収録されている。
「キャリアや世代にとらわれず、常に挑戦し続けたい」というマインドを持ち、これまでの作品でも若い世代のクリエイターと積極的に交わってきた西川。しかし自分よりも上の世代である小室が与えてくれた画期的なアプローチが、今作で自身と同世代のクリエイターを迎えるきっかけになったと、このインタビューで明かしている。
「FREEDOM」という楽曲が西川に与えた変化と、その一方にある変わらない部分。それらをうまく融合させて作り上げたという「SINGularity Ⅲ -VOYAGE-」について話を聞いた。
取材・文 / もりひでゆき撮影 / YURIE PEPE
画期的だった「FREEDOM」
──前作から約2年半ぶりに、西川貴教名義のアルバムが届きました。
コロナ禍を経て、時間軸が歪んで感じられるというか。「もうそんなに時間が経ったのか」と思ったりもするし、「まだそんなもんか」とも思うし。不思議な感じですけどね。今回のアルバムの内容に関して言えば、やっぱり昨年の動きが大きく影響しているなと思います。全体としての強いフックになっているなと。
──昨年の動きで言うと、「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」の主題歌として西川貴教 with t.komuro名義でリリースされた「FREEDOM」は外せないですよね。
そうですね。作品の劇場公開に合わせて昨年1月にお届けした楽曲ではあったんですけど、結果的に「FREEDOM」という楽曲と駆け抜けた1年でした。だからこそ今回のアルバム全体のシルエットを構築していく中で、すごく大きな影響を与えてくれたと思います。
──その影響というのは具体的に言うと、どんな部分になりますか?
自分よりも上の世代である小室哲哉さんと一緒にやらせていただいたことと、「FREEDOM」という楽曲が持っているテイストです。これまでの西川貴教名義での活動は、僕の活動を見たり聴いたりしてくれていた若い世代のクリエイターと一緒にやることが多かったんですよ。彼らが僕にどんな楽曲を歌わせたいのか、それを僕自身が楽しみたかったので、こちらからテーマを投げたりすることも少なくて。で、そういったやり方で出てくるものは、やっぱりテンポが速めでワーディ、声に関してもハイノートを使うものが多かった。
──いわゆる西川節といいますか、西川さんが持っているボーカリストとしての強み、武器を求めるのは必然で。それを浴びて育ってきた世代ならなおさらですよね。
そうそう。でもね、小室さんは違ったわけですよ。世代が上の先輩として僕を客観視していただいた結果、そこで出てきたのはミドルテンポであり、かつどちらかと言うと中域のキーをたっぷり使ったダイナミズムを持つ「FREEDOM」という曲だった。若い世代が提示してくれた楽曲とはまったく逆ベクトルのアプローチで、それが僕にとってすごく画期的なことだったんです。
──なるほど。その経験が、本作でタッグを組むクリエイターの人選につながっていくわけですね。
まさに今回、今井了介さんと原一博さんに参加していただいたのは、そういうことです。時代の中でさまざまな楽曲をシーンに刻まれてきた方々であり、これまで交わりそうでなかなか交わらなかった方たちと一緒に組んでみたらどんなことができるのか。小室さんとの作品作りをきっかけに、そういうモードになった。今井さんも原さんもほぼ同年代だし、キャリアスタートの時期も近かったりはするので、そんな方々と音楽を通して会話ができたらいいなという思いでお願いしました。すごく楽しかったですよ。
──楽曲についてはのちほど伺いますが、アルバム全体の印象としては過去2作とはまた違った雰囲気になっていますよね。楽曲が持つテイストの振れ幅が大きいというか。
そうですね。これまでのアルバムはやっぱりテンポが速くてパンチのある曲が軸になっていたところがありました。今回もテンポ感のある楽曲が幕開けに配置されているので、そういった印象ももちろんあるのですが、それよりは「FREEDOM」や「VOYAGE」のようなじっくりと聴かせていく部分が際立っていると思う。テンポ感がそこまでなくても、しっかり押しの強い楽曲ばかりではあるんですけど。
──決して落ち着いたわけじゃないですよね。テンポを落とした楽曲であっても、しっかり暴れている感じがあるので。
そうそう(笑)。昨今はギターの歪みは緩めで、プレゼンスも小さめ、あんまりゲインも上がってないようなサウンドメイクをされるアーティストの方もすごく多いんです。でも、そこはもう逆行していこうと。
──とりあえずツマミは全開に(笑)。
うん。ベースもトレブルも全部一旦、マックスまで上げる感じでお送りしてるんで(笑)。そこはあまり時代背景を見ずに、僕のルーツであるハードロックや、これまでさまざまなプロジェクトを通じて経験し、積み上げてきたサウンドメイクをうまく融合させながら、今の僕として表現していこうと。前2作もね、これから何かをつかみにいこうとしている人たちの後押しになればという思いで作ってきましたけど、今回はそこによりフォーカスした形になった気がしています。
常にチャレンジャーでいたい
──そんなアルバムに「VOYAGE」という副題を付けたのはどうしてだったんですか?
タイトルに関しては、アルバム制作の流れが始まる少し前に決めたんですよ。というのも、僕がもうかれこれ8年くらいお付き合いさせていただいている「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」という作品がいよいよ完結することになったんです。で、その劇場版の主題歌として、本作に収録されている「VOYAGE」という曲を澤野弘之さん、藤林聖子さんと一緒に作ったんですけど、そのときに非常に大きなうねりのようなものを感じて。西川貴教として「SINGularity」「SINGularity Ⅱ -過形成のprotoCOL-」と歩んできた一連の物語が、ある意味、今回の「SINGularity Ⅲ -VOYAGE-」で1つの大きな節目を迎える。そしてまたそこから新たな航海が続いていく、そんな意味合いになったので、アルバムのタイトルも「VOYAGE」というワードを掲げたいなと思いました。
──収録曲はどれも今の時代を憂いつつ、それでもなお前に進もうとする意志を感じさせてくれるものばかりですからね。そういった意味でも“VOYAGE”という言葉は相応しいと思いました。
ありがたいことに長くキャリアを積み上げさせていただいていますが、僕はそのキャリアや世代にとらわれず、常に挑戦し続けたいんですよ。イベントにしても、声をかけてくれれば会場の大きさにもこだわることなく、「どんどんやろうぜ!」という気持ちですから。常にフレキシブルな姿勢でいたいし、常にチャレンジャーでいたいというマインドなので、どうしても自分が歌う曲のリリックもそういうものが多くなってくる。50代も半ばにして「いつまで青臭いこと言ってんだ?」と思われるかもしれないですけど、そういう生き方があってもいいのかなって思うんですよね。
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僕くらいはがんばれと言わせて