音楽ナタリー PowerPush - 澤野弘之

多忙極める作曲家が届ける 2曲+55曲の“好きな楽曲たち”

新鋭ボーカリストとの出会いはYouTube

──「X.U.」の作詞はmpiさんが手がけていますけど「こういう詞にしてほしい」というオーダーは?

mpiさんにはアニメのエンディング「scaPEGoat」の作詞もしてもらってるんですけど、どっちの曲についても具体的な指示やお願いはしていないですね。「終わりのセラフ」には主役級のキャラクターが2人……人間の主人公(百夜優一郎)と、吸血鬼になってしまう主人公の親友(百夜ミカエラ)っていう2人がいるので、オープニングは人間側の曲、エンディングは吸血鬼側の曲っていう感じで、それぞれ対になるように書いてくださいとは話しましたけど「この人はこういう人物で」みたいなことは伝えてないですし。その詞を歌うボーカリストを決めるときにもアニメのキャラクターを意識して人選してはいないですし。

──その「X.U.」のボーカルのGemieさんってどういう方なんですか? いただいた資料には「3カ国語を操る新人ボーカリスト」「弱冠20歳」っていうプロフィールしか載ってないんですけど……。

ホントにそのくらいしかデータのない方なんですよ(笑)。「X.U.」の曲ができあがったあと「誰に歌ってもらおうかな」っていうことでボーカリストを探していて。レーベルの方に何人か候補をリストアップしてもらったりもしたんですけど、ちょっと僕がイメージしていた声とは違ったりもして……。

──そのボーカリストのイメージって?

これまた言葉で説明するのが難しいんですけど「アヴリル・ラヴィーンとか洋楽をカバーしてそうなタイプがいいなあ」っていうイメージがあって(笑)。それでYouTubeで検索していたらヒットしたのがGemieさんなんです。

──へっ!? 「アヴリル・ラヴィーン」「歌ってみた」みたいな検索語で見つけたボーカリストなんですか?

まさにそうですね。だから見つけたときは「キター!」って感じでした(笑)。アヴリル・ラヴィーンの曲とか、「アナと雪の女王」の「Let It Go」を英語で歌っている動画の雰囲気がすごくよかったので、お会いしてボーカルチェックをさせてもらったんです。

ネイティブスピーカーならではのグルーヴを求めて

──正直、ネットの動画って画質も音質もそう高いわけではない。それを手がかりにAimerさんやイツエのmizukiさんに続くボーカリストを探すのってかなりの英断のような気がします。

確かに「万が一、違ったら」っていう部分もあったんですけど、幸いなことに生のGemieさんはネットで観る以上にカッコよかったので、まさに「キター!」って感じでした(笑)。

──Gemieさんのカッコよさってどういうところにあるんでしょう?

なんて言うんですかね? まず声質がよかったっていうのはあるんですけど、あと語学に堪能だから、彼女が英語詞を歌うとちゃんと洋楽っぽく聞こえるんですよね。「X.U.」はメロディができあがった段階で「英語ならではのグルーヴ感がほしい」「この曲は英語詞でいく」って決めていて。だからmpiさんに作詞をお願いしたし、ボーカリストにもちゃんとネイティブな発音で歌ってもらいたかったんです。Gemieさんはその僕が抱いていたネイティブな発音で歌えるボーカリスト像にピッタリだった。声質と英語の表現の仕方がバシっと僕のイメージ通り……というかイメージ以上なんですよね。ボーカルチェックのときはまだ詞が完成してなくて「♪ラララ」で歌ってもらっていて、その時点ですでにカッコよかったんですけど、mpiさんから詞が上がってきて以降、プリプロやレコーディングになったら「だいたいこういう感じになるかな」っていうこちらの予想を飛び越えてきた。さらにカッコよくなりましたから。

責任を取りたいから好きな曲を書く

──繰り返しになってしまうんですけど、やっぱり「X.U.」が「終わりのセラフ」のオープニングとして機能しているのが不思議というか。

そうですか?

──国内においては洋楽リスナーって邦楽リスナーより年齢感が高いイメージがあるじゃないですか。

はいはいはい。

──でも「終わりのセラフ」って、支配階級にあるバンパイアと戦いながらも、バンパイアと人間の複雑な関係に巻き込まれる主人公を描いた作品である一方で、学園青春モノ的な側面もありますよね。「ガンダムUC」や「アルドノア・ゼロ」に比べると登場人物の平均年齢も低めですし。視聴者も若い子が多いのかな?って。

実は「終わりのセラフ」と洋楽っぽさというミスマッチ感については、ある意味意識的にやっていることなんです。劇伴やテーマソングを作るとき、あくまで無意識的にしか作品を意識しないのには「作品を意識しすぎたくない」っていう理由もあって。「終わりのセラフ」に限らず普段から劇伴やオープニング、エンディングを作るときには、アニメを観ている人に「えっ、この場面でこの曲を当てるの?」ってビックリしたり、「でも似合ってるじゃん」って面白がったりしてもらいたいですから。あと、楽曲に対してちゃんと責任をとりたいっていう気持ちもあって。

──責任?

「自分がいいと思ったから」っていう作り方をしていれば、もしも「『X.U.』って『終わりのセラフ』に全然似合ってなくね?」って言われてもその批判を引き受けられるし、耐えられもするんです。「自分はいいと思って作っているんだから」って。ちょっとクサいし、カッコよすぎる話なんですけど(笑)。

SawanoHiroyuki[nZk] ニューシングル「X.U. | scaPEGoat」 / 2015年5月20日発売 / DefSTAR Records
期間生産限定盤 [CD+DVD] / 1620円 / DFCL-2133~4
通常盤 [CD] / 1350円 / DFCL-2132
澤野弘之(サワノヒロユキ)

澤野弘之

1980年生まれ、東京都出身の作曲家、編曲家。「医龍」シリーズや、「アルドノアゼロ」「進撃の巨人」「キルラキル」「機動戦士ガンダムUC」シリーズなど、ドラマ、アニメ、映画など映像作品のサウンドトラックを中心に、そのほか、アーティストへの楽曲提供、編曲を手がけるなど、精力的に音楽活動を展開している。2014年春からはボーカル楽曲に重点を置いた新プロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]を始動。その第1弾作品として、「機動戦士ガンダムUC」シリーズの楽曲も共作したAimerとの、SawanoHiroyuki[nZk]:Aimer名義のアルバム「UnChild」を発表し、オリコン週間アルバムランキングトップ10入りを果たす。また同年夏にはイツエの瑞葵(Vo)がmizuki名義で歌うSawanoHiroyuki[nZk]名義のシングルにして「アルドノア・ゼロ」第1期のエンディングテーマ「A/Z | aLIEz」を、2015年2月には同じくmizukiを迎えたSawanoHiroyuki[nZk]の新作「&Z」と、自身の手がけたアニメーションのサウンドトラックの中からボーカル曲のみをセレクトしたベストアルバム「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」をリリースしている。さらに春には、NHK連続テレビ小説「まれ」やWiiU用ゲーム「XenobladeX」のサウンドトラック、テレビアニメ「終わりのセラフ」の音楽プロデュースも担当。「終わりのセラフ」のオープニングテーマとエンディングテーマをパッケージしたシングル「X.U. | scaPEGoat」と「XenobladeX」を5月にリリースした。