音楽ナタリー PowerPush - 澤野弘之

多忙極める作曲家が届ける 2曲+55曲の“好きな楽曲たち”

[nZk]楽曲と劇伴ボーカル曲を分かつもの

──これも澤野さんならではの特長だと思うんですけど、一般的なゲームの劇伴に比べて歌モノが多いですよね。サントラ盤には全部で11曲収録されています。

高橋監督が僕の過去の仕事をご存じだったっていうのもあるから「歌モノ作ってもいいですか?」って聞いたら「面白いと思うので入れてもらって大丈夫です」って言っていただけたので(笑)。アニメの劇伴を30曲書くときは3~5曲くらい歌モノなので……。

──90曲作るなら11曲だ、と(笑)。

そうですそうです(笑)。

──その歌モノのボーカリストには小林未郁さん、Cyuaさん、デヴィッド・ウィテカーさん、エイミー・ブラックシュレイガーさんと、[nZk]プロジェクト始動以前から澤野さんとご一緒している面々が顔をそろえています(参照:Aimerらゲストボーカル続々出演!澤野弘之4年ぶりワンマン)。

あっ、そこはまさに[nZk]プロジェクトを意識してのことです。[nZk]は普段ご一緒していない新しいボーカリストの方と新しいサウンドアプローチを目指すプロジェクトで、僕のもう1つのフィールドであるサントラでは小林さんやエイミーたちが“澤野のサントラのボーカリスト”として定着すればいいな、と思っているというか。サントラと[nZk]ではイメージを分けたいと思っているし、聴いてくださる方にもその2つの違いを楽しんでもらいたいんですよね。

曲に意味を持たせないため、作曲家にできること

──あとこのサントラ盤の最大の謎が曲名なんですけど。なぜ歌モノ以外のタイトルをまず読めないものに?

あれっ!? 僕、そのお話ってしたことなかったでしたっけ?

──実は音楽ナタリーが澤野さんにサントラのお話を伺うのは初めてなんですよ。

あっ、そうか!

──ただ確かに一昨年の「進撃の巨人」しかり、澤野さんのサントラ盤のトラックリストって意味不明な曲名が多いですよね。

一応ルールはあるんですよ。例えばCD3枚目の4曲目「N市L街A」なんかはメニュー表に「○○市街でのBGMを」ってあったのを参考にした上で、パズルみたいに別の言葉を組み合わせていたりとか。

──確かにDISC 3のタイトルは解読できそうですね。5曲目の「忘KEI却KOKU心」は、誰かが何かを“忘却”しそうになっていて、それを“警告=KEIKOKU”するシーンのBGMなのかな?とか。でもDISC 2は? 「z5m20i12r04a28」「z15f20i12e09l14d」ってなんですか?

任天堂WiiU用ゲームソフト「XenobladeX」サウンドトラックのレコーディング風景。

暗号です(笑)。皆さんのお役に立つのかはよくわからないんですけど説明すると、最初の「z5」とか「z15」っていうのは僕が改めて振り直したトラック番号。ゲームの制作スタッフからいただいたメニュー表には「M1」「M2」っていう感じで通し番号が振られていて、僕自身納品する音源にはその通し番号を付けていたんですけど、今回のサントラでは2曲を1曲に合体させているので。「メニュー表のM1とM2を合体させて作った曲が『z1』です」っていうふうに僕なりに整理した番号が最初の「z+数字」で、そのあとの数字は曲をレコーディングした日か、ミックスした日かの日付。残りのアルファベットはメニュー表にあった場面指定の単語ですね。例えば5曲目の「z15f20i12e09l14d」なら、アルファベットの「field」が隠れているから……。

──「2012年9月14日に作った楽曲番号15番、フィールドの場面でのBGM」だと。

そうですそうです。ただやっぱりタイトルはあくまで暗号で、今の話は「一応そうやって整理してるんですよ」っていう話でしかないんです。

──あまり聴き手に深読みされたくない?

タイトルには意味を持たせたくないんですよ。それには2つ理由があって、まず、劇中曲、しかも歌詞の付いていないインストゥルメンタルの曲って、リスナーの方は基本的に「あのシーンの曲だ」っていう意識で聴くはずですよね。しかも1曲が劇中のいくつかの場面、時間帯で使われることもあって。そういう曲に対して例えば僕が「夏」っていう意味のあるタイトルを付けてしまうと、みんな「あのシーンの曲」ではなく「夏の曲」として聴いてしまうかもしれないですから。あと意味のあるタイトルを付けなければ、リスナーの方に自由にイメージを膨らませてもらえるとも思ってるんですよ。

──それって「あのシーンの曲だ」っていう聴かれ方をしたいってお話と矛盾しません?

そこが僕のワガママなところというか(笑)。今回のサントラであれば「澤野弘之」の名前で出している以上、「XenobladeX」のファンの方にゲームの曲として聴いてもらうのはもちろん、僕の曲としても聴いてもらいたくて。で「scaPEGoat」の歌詞を日本語っぽくしなかったのもそういうことなんですけど、自分の曲ではメッセージ性とか意味よりも、音の響きの面白さを楽しんでもらいたいんです。だからタイトルは「わからなくはない」っていう感じでいい。あまり意味はなくていいんですよね。

SawanoHiroyuki[nZk] ニューシングル「X.U. | scaPEGoat」 / 2015年5月20日発売 / DefSTAR Records
期間生産限定盤 [CD+DVD] / 1620円 / DFCL-2133~4
通常盤 [CD] / 1350円 / DFCL-2132
澤野弘之(サワノヒロユキ)

澤野弘之

1980年生まれ、東京都出身の作曲家、編曲家。「医龍」シリーズや、「アルドノアゼロ」「進撃の巨人」「キルラキル」「機動戦士ガンダムUC」シリーズなど、ドラマ、アニメ、映画など映像作品のサウンドトラックを中心に、そのほか、アーティストへの楽曲提供、編曲を手がけるなど、精力的に音楽活動を展開している。2014年春からはボーカル楽曲に重点を置いた新プロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]を始動。その第1弾作品として、「機動戦士ガンダムUC」シリーズの楽曲も共作したAimerとの、SawanoHiroyuki[nZk]:Aimer名義のアルバム「UnChild」を発表し、オリコン週間アルバムランキングトップ10入りを果たす。また同年夏にはイツエの瑞葵(Vo)がmizuki名義で歌うSawanoHiroyuki[nZk]名義のシングルにして「アルドノア・ゼロ」第1期のエンディングテーマ「A/Z | aLIEz」を、2015年2月には同じくmizukiを迎えたSawanoHiroyuki[nZk]の新作「&Z」と、自身の手がけたアニメーションのサウンドトラックの中からボーカル曲のみをセレクトしたベストアルバム「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」をリリースしている。さらに春には、NHK連続テレビ小説「まれ」やWiiU用ゲーム「XenobladeX」のサウンドトラック、テレビアニメ「終わりのセラフ」の音楽プロデュースも担当。「終わりのセラフ」のオープニングテーマとエンディングテーマをパッケージしたシングル「X.U. | scaPEGoat」と「XenobladeX」を5月にリリースした。