音楽ナタリー PowerPush - 澤野弘之

多忙極める作曲家が届ける 2曲+55曲の“好きな楽曲たち”

「CD4枚組55曲」の真相

──ここからはシングルと同時発売される任天堂WiiU用ゲームソフト「XenobladeX」のサウンドトラック盤について聞かせてください。まず4枚組55曲っていうボリュームにビックリしました。

多いですよね(笑)。ただゲームのサントラを作るときには「このシーンにこういう曲がほしいです」っていう制作サイドの要望が一覧になったメニュー表っていうのをもらうんですけど、そこには90曲近く指定があって。実際にその数、曲を作ってるんですよ。

──じゃあ4枚組55曲入りとはいえ、サントラ盤では収録曲を厳選している、と。

いや。劇中曲って主題歌に比べると1曲1曲が短いじゃないですか。これは今回に限らず、サントラ盤をリリースするときによくやることではあるんですけど、その短い2つの曲を合体させて1曲にしたりしているんです。今回のサントラ盤では、たいていのインスト曲をそうしているので「XenobladeX」のために書いた曲はほとんど全部入ってます。

──確かに大胆にテンポチェンジしたり、転調したりする曲が多いな、っていう印象を受けました。

それはまさに2つの曲を合体させているからですね。ただ、最初にゲームのサントラの仕事をもらったときは「こんなに曲を作らないといけないの!?」ってビックリしました。

──一般的なテレビアニメの劇伴曲ってもっと少ないんですか?

物語が進むにつれて追加のオーダーをいただくことはありますけど、最初に作るのは30~40曲くらい。自分も子供の頃からゲームはやってるから、それだけの曲数が必要なこと、30分のアニメよりも場面は多いし、劇中の時間だってより多く流れるんだからそれだけBGMが必要なことを頭では理解していたんですけど、やっぱり驚きましたね。

ゲームサントラとアニメサントラの違いを探る

──ゲームのサントラと、アニメやドラマのサントラの作り方って違うものですか?

澤野弘之

曲作りに対する自分のスタンスはそんなに違いはなく、やっぱり好きなように作らせてもらってはいます。メニュー表をいただくとは言っても「森で敵が攻め込んでくるシーン」っていう感じで、そんなに詳細な指定があるわけではないので。ただゲームの場合、プレイヤーがその森に留まっているのであれば、その間ずっと森のBGMが鳴り続けていなきゃいけないから、曲の構造自体はアニメやドラマの劇中曲とは少し違う。ループさせて違和感のないものを作ることも意識してます。あと、ゲームのプレイヤーとアニメやドラマの視聴者では音楽との向き合い方がちょっと違いますから。

──向き合い方ですか?

当たり前なんですけど、ゲームってアニメやドラマと違って画面のこちら側の自分たちが、その画面の向こうの物語に対して主体的に関わることになるじゃないですか。だから劇中の音楽が与える影響がより大きい気がするんですよね。劇中のBGMがテンションを上げてくれて、いいプレイができるっていうことは僕自身少なくなかったし、あとゲームのほうが曲を聴くだけでその作品の記憶が蘇りやすい気がしますし。だから尺の短い、インストのループモノではあるんだけど、歌モノと同じように、というかそれ以上に聴く人の気分を高揚させたり、落ち着かせたりすることができるようにって思いを込めて作ろうと思いました。

90タイトルを作曲するからできること

──その90曲というか55曲なんですけど、ホントにバラエティ豊かですよね。エレクトリックなダンスチューンもあれば、ハードロックもあるし、オーケストラ曲もあるし、オーセンティックなファンクナンバーもあるし。

好きに作らせていただいた結果、そうなっちゃった感じですね(笑)。最初にいただいた紙資料とか、見せていただいたパイロット版の映像から「洋画のSF超大作みたいな世界観だな」っていう手がかりを得て。まずは「SFだからデジタルだろう」みたいな安直な発想で曲を書き始めたんですけど、90曲も書くとなると、そのアプローチばっかりでも飽きちゃいますから。ゲームの総監督をなさっている高橋(哲哉)さんが僕のこれまでの曲を聴いた上でオファーしてくれたそうなので「自分が面白いと思う曲をぶつければいいんだろうな」ということでこういうラインナップにしてみました。

──とはいえアニメの劇伴と同じ。55曲を通して聴くと「どれも1つのゲームのために書かれた曲なんだろうな」ってわかるというか、きちんと通底したものがあるように感じられます。

そうなってます? それはラッキーですね(笑)。

──あはははは(笑)。

ラッキーは半分冗談なんですけど、でもアニメの劇伴と同じ。「XenobladeX」という作品を無意識ながらも念頭に置いているから、全部同じ世界観の中に収まってくれているんだろうなっていう気はします。あとバカみたいに当たり前の話ではあるんですけど、全部1人の人間が書いた曲ですから。メロディラインだったりコード感だったりになんらかの共通点があるんでしょうね。

SawanoHiroyuki[nZk] ニューシングル「X.U. | scaPEGoat」 / 2015年5月20日発売 / DefSTAR Records
期間生産限定盤 [CD+DVD] / 1620円 / DFCL-2133~4
通常盤 [CD] / 1350円 / DFCL-2132
澤野弘之(サワノヒロユキ)

澤野弘之

1980年生まれ、東京都出身の作曲家、編曲家。「医龍」シリーズや、「アルドノアゼロ」「進撃の巨人」「キルラキル」「機動戦士ガンダムUC」シリーズなど、ドラマ、アニメ、映画など映像作品のサウンドトラックを中心に、そのほか、アーティストへの楽曲提供、編曲を手がけるなど、精力的に音楽活動を展開している。2014年春からはボーカル楽曲に重点を置いた新プロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]を始動。その第1弾作品として、「機動戦士ガンダムUC」シリーズの楽曲も共作したAimerとの、SawanoHiroyuki[nZk]:Aimer名義のアルバム「UnChild」を発表し、オリコン週間アルバムランキングトップ10入りを果たす。また同年夏にはイツエの瑞葵(Vo)がmizuki名義で歌うSawanoHiroyuki[nZk]名義のシングルにして「アルドノア・ゼロ」第1期のエンディングテーマ「A/Z | aLIEz」を、2015年2月には同じくmizukiを迎えたSawanoHiroyuki[nZk]の新作「&Z」と、自身の手がけたアニメーションのサウンドトラックの中からボーカル曲のみをセレクトしたベストアルバム「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」をリリースしている。さらに春には、NHK連続テレビ小説「まれ」やWiiU用ゲーム「XenobladeX」のサウンドトラック、テレビアニメ「終わりのセラフ」の音楽プロデュースも担当。「終わりのセラフ」のオープニングテーマとエンディングテーマをパッケージしたシングル「X.U. | scaPEGoat」と「XenobladeX」を5月にリリースした。