マカロニえんぴつ「たましいの居場所」インタビュー|結成10周年、ロックバンドが見せる夢 (2/3)

“嘘”のおかげで今のマカロニえんぴつがいる

──「僕らは夢の中」の作詞について、はっとりさんから「音楽のことを自由に書いてくれ」という要望を受け、食べものをモチーフにした長谷川さん、ご自身の性格のことを書かれた高野さん、ギターへの思いをつづった田辺さん。歌詞には本当にそれぞれの味のある言葉と声が1曲の中に刻まれていますよね。どのようなことを考えて書きましたか?

長谷川 僕は、加入当時はお酒が得意じゃなかったけど、打ち上げを重ねたり、リハ終わりにみんなでコンビニで買ったビールを飲んだりするうちに、苦手だったビールが好きになったりして。そうやって10年の中で成長があったなという思いを込めました。「母さんのカレーが一番だ」っていう歌詞は、ツアーでいろんな場所に行ったり、いろんなものを知ったりしたけど、自分の中で変わらないものがあるっていうことを書けたらなと。

長谷川大喜(Key, Cho)

長谷川大喜(Key, Cho)

はっとり 温かい歌詞だよね。

高野 僕はやっぱり、陰キャなので。そういうとっかかりで書き始めたんですけど。

一同 (笑)。

高野 そもそも、人と慣れ親しむのにすごく時間がかかるんですよね。初めてはっとりに「バンドやってる?」と声をかけてもらったときも、すでにやっていたのに「やってない」って、初対面なのに咄嗟に嘘をついて(笑)。人に声をかけられたことがうれしかったし、バンドに誘ってもらえているのがわかっていたから、ここで「やってる」と答えちゃうと、関係性が終わっちゃう気がして。

はっとり 浮気するときに「彼女いない」って言うやつと一緒だよ(笑)。でも、賢也は最初から話しかけやすかったけどね。ロック科だったから怖い感じの人も多かったけど、賢也は優しい顔をしていたから、初対面でベースがどれくらい弾けるか知らなかったけど、声をかけましたね。

高野賢也(B, Cho)

高野賢也(B, Cho)

ロックバンドは希望を見せるもの

──田辺さんはご自身の憧れについて書かれていますね。

田辺 そうですね。よくエゴサしていると「マカロニえんぴつのギター、フライングVで草」みたいなことを書かれているのを見るんですけど(笑)。

田辺由明(G, Cho)(撮影:酒井ダイスケ)

田辺由明(G, Cho)(撮影:酒井ダイスケ)

一同 (笑)。

田辺 それを見るたびに、「お前ら、俺のルーツも知らないくせに、何言ってんだ!」と言いたくなるんですけど(笑)。俺には大事にしているものがあって、それを掲げてずっとやってきているんだって。これが自分らしさだから、これでいいだろ!って思うんです。

はっとり よっちゃんはマイケル・シェンカーになりたいんだもんね。音はシェンカーだけど、弾いているときの雰囲気はVan Halenっぽい。笑顔で弾く感じがVan Halenに似てるよね。

田辺由明(G, Cho)

田辺由明(G, Cho)

──曲の冒頭ははっとりさんによる歌詞と歌唱ですが、「なんか一個光るモンがあればいい」という言葉は、実際にお父様に言われたんですか?

はっとり 俺の本名は“瑠之介”(りゅうのすけ)なんですけど、“瑠”という漢字にはそういう意味合いがあるらしくて。「宝石みたいな、光るものが1個あれば儲けもんだ」っていう思いで付けてくれたらしいんです。光っているかどうかはわからないけど、今は磨いてくれる人が周りにたくさんいるから、幸せだなと思います。親父自身も音楽をかじっていたからか、俺が音楽をやっていることに対していろいろ思うことがあるみたいで、けっこう言ってくるんですよね(笑)。ハードロックも親父に教えてもらったし、俺は親父がいたから音楽をやっている部分もあるので、「うざいなあ」と思いつつ、親父の説教やアドバイスはちゃんと聞いてきたんです。親父は今が一番うれしそうにライブに来てくれるんで、よかったなと思います。

はっとり(Vo, G)

はっとり(Vo, G)

──この曲に「僕らは夢の中」というタイトルが付けられているのがいいですよね。「夢の中」というのがまさに、ロックバンドの居場所なんだろうなと思うんです。

はっとり andymoriの「ユートピア」という曲があるんですけど、「バンドを組んでいるんだ」という歌詞で始まる大好きな曲で。「ユートピア」っていうタイトルがすごくいいなと思うんです。俺が言う「夢」も、小山田(壮平)さんが「ユートピア」と名付けたことに近い意味なんじゃないかな。やっぱり、ロックバンドって浮世離れしたものだと思うんですよね。ロックバンドは希望を見せるものだし、夢を叶えていく存在であるべき。だからこそ、マカロニえんぴつというロックバンドも報われてよかったなと思えるし。

──はい。

はっとり 最近、歌詞の書き方が昔と変わってきたなと思っていて。普遍的なものを歌うようになってきている気がするんです。これは、夢を“見せる”立場になっている自覚があるからかなと。前は、歌詞を書くときは言葉を“借りる”イメージだったんですよね。でも、最近は言葉を“使う”ようになってきた。だからこそ責任も感じる。これは、ロックバンドを、夢を、背負っているからこそだと思うんですよ。今、ロックバンドがチャートの上位に入ることが珍しくなっていますよね。そんな中でマカロニえんぴつやSaucy Dogがチャートに入っていることって、誇れることだと俺は思うんです。きっかけがTikTokであろうと、YouTubeであろうと、映画であろうと、聴かれる、買ってもらえる、再生される、売れる……ロックバンドがそういう状態にあることは、ドリームだし、素晴らしいことだと思う。だからこそ、「売れないぜ、しんどいぜ」なんてことを俺たちが歌にすべきじゃないんですよね。「売れてるぜ。カッコいいだろ」という姿を歌にしないと。夢を見たり見せたりしていたいなと思うんです。

マカロニえんぴつ

マカロニえんぴつ

はっとり的“たましい”の捉え方

──より普遍的なものを歌うようになったというのは、EPの1曲目「たましいの居場所」や2曲目「星が泳ぐ」を聴いていてもすごく感じます。歌詞の中に「たましい」という言葉が出てきているところが、この2曲には共通しているんですけど、今、マカロニえんぴつが発するものとして「たましい」という言葉が出てきている理由はどういったところにあると思いますか?

はっとり 「たましい」って、ひらがなにした途端、こんなにかわいい響きになるんだと思ったんですよね。漢字で書くと重みがあるけど、ひらがなで書くと軽い。もしかしたら、「たましい」ってみんなが思っているよりも軽やかなものなのかもしれない。例えば日本刀を“武士の魂”なんて言ったりしますけど、ああいう感じで、腰に据えて持ち歩くもの。ともすれば、失くしたり欠けたりしてしまう……「たましい」ってそういうものなのかもなって。ハート、つまり心臓って動いているか止まっているかじゃないですか。でも「たましい」は、落としたり、どこかに行ったり、抜け出たりするときもあるんだけど、その“軽さ”ゆえにコロコロ変わっていくこともできる。ただでさえ現代人は疲れているから、それなら、もっとふわっと、綿毛のように飛んでいけるようなものがいい。そんな“軽さ”に惹かれたのもあって、「たましい」という言葉が今の自分にしっくりきたんだと思います。

──今のお話を聞いて、今作のジャケットがタンポポであることの意味がすごくつながりました。

はっとり タンポポの綿毛がふわっと飛んでいくところが、たましいがほぐれていくみたいでいいですよね。ほぐれた綿毛たちが、それぞれの場所に飛んでいく。どこに行くかは明言されはしないけど、この先に1つひとつ、彼らの生活があるんでしょうね。人間の生活もそういうものだし、歌もそういうものですよね。1人が歌ったものを誰かが聴いて、その誰かが歌ってくれて、どんどんつながっていく。まさにマカロニえんぴつは、戦略的な売れ方をしたわけじゃなくて、みんなが歌をつないでくれたバンドなので。この先も綿毛が飛んでいくように歌をつないでいってくれたらうれしい。そういう希望もここにはありますね。

──あと、最後に1つ。「星が泳ぐ」はアニメ「サマータイムレンダ」のオープニングテーマで、歌詞もアニメの世界観にかなり寄り添っているということですが、その中で、「意味がないか こんな歌には」という1節が唐突に挟まれるところに、はっとりさんらしさを感じたんです。

はっとり 抗ってもどうにもならないときってありますからね。「サマータイムレンダ」の主人公・(網代)慎平の気持ちを想像してみても思うんですけども、どうしてもあと1歩及ばなかったり、がんばっても無意味だったりすることって往々にしてある。でも意味がないからってがんばらなかったら、もっと無意味な結果が待っているんですよ。意味がないのは知っているけど、走る。意味がないのは知っていても、叫ぶ。その結果として、自分の中だけであっても、意味が残ればいいんだと思う。1度あきらめても、そのあとに言い残したことを言っていたりする……確かにこの1文は、はっとりっぽさが出ているかもしれないですね。