マカロニえんぴつインタビュー|得意なことをのびのびやって、たどり着いた新境地

マカロニえんぴつの新作EP「いま抱きしめる 足りないだけを」がリリースされた。

EPにはテレビアニメ「アオのハコ」第2クールのオープニングテーマ「然らば」と、映画「山田くんとLv999の恋をする」の主題歌「NOW LOADING」という毛色の異なるラブソングを収録。マカロニえんぴつの楽曲はメンバーのはっとり(Vo, G)が中心となって作詞作曲を行っているが、3曲目「前世よ、しっかり」は長谷川大喜(Key, Cho)、4曲目「ロング・グッドバイ」は田辺由明(G, Cho)がそれぞれ作曲した。高野賢也(B, Cho)が作曲した「JUNKO」(昨年5月発売のEP「ぼくらの涙なら空に埋めよう」収録曲)も含め、「いい曲ばかりですよ」と太鼓判を押すはっとりは、3人の豊かな表現力を絶賛しながらも、焦りを覚えているという。

ここ1、2年は「苦手なことをやるよりは、得意なことをのびのびやる」というマインドで個々がクリエイティブな才能を開花させているマカロニえんぴつ。彼らがEP制作を経てたどり着いた新境地とは。音楽ナタリーではメンバーにEP完成までの舞台裏や、サポートドラマーとしてバンドを支える高浦“suzzy”充孝への思いについてじっくり語ってもらった。

取材・文 / 天野史彬撮影 / 山川哲矢

「然らば」に込めた衝動

──EP「いま抱きしめる 足りないだけを」は4曲入りの作品となります。1曲目の「然らば」は1月にテレビアニメ「アオのハコ」第2クールのオープニングテーマとして配信リリースされましたよね。「然らば」のようなエネルギッシュなロックチューンで2025年の幕開けを飾るところに、マカロニえんぴつらしさを感じました。

はっとり(Vo, G) 「然らば」は、「アオのハコ」の原作をガーッと集中して読んで、それから間隔を空けずに書いたんです。高校を舞台に、不器用な登場人物たちが、それでもまっすぐな気持ちを自分たちなりに傷付かないように、傷付けないようにしながら、接し合っている。なおかつ、そこにスポーツという要素もダンスという表現も絡んでくる。ひと口に“青春もの”とはくくれない。「アオのハコ」はそうやっていろいろなものが交差している作品なんですけど、そこに僕自身の恋愛での経験や、バンドで表現してきたこともスッと入り込める感覚があって。時間をかけずにシンプルに作ることができましたね。

マカロニえんぴつ

マカロニえんぴつ

──その衝動は楽曲から強く感じますし、歌詞は恋愛というテーマに縛られていない、人生という、より大きなモチーフを感じさせるものだと思いました。長谷川さん、高野さん、田辺さんは「然らば」と「アオのハコ」についてどう感じましたか?

長谷川大喜(Key, Cho) 自分が「アオのハコ」の登場人物くらいの年齢のときに持っていた勢いや情熱って、自分の中で今は落ち着いているものではあるし、その中には、ここに至るまでの間に捨てたものもあるんです。でも、「それをもう1回、呼び起こしてみよう」という気持ちでレコーディングに臨みました。あの頃、無知だからこそできていたこともあるんですよ。例えば、「ボーカルを邪魔してでも目立ってやろう」みたいな気持ちもあったし(笑)。あの頃の熱い気持ちを、「然らば」に反映させることができたと思います。今までの自分と向き合うきっかけになるレコーディングでした。

高野賢也(B, Cho) 僕が感じたのは、焦りというか。「アオのハコ」の主人公は高校の3年間というタイムリミットがあるからこそ部活も恋愛も焦るけど、大切なものを大事にしたいから冷静になろうとする。裏を返せば、落ち着いているように見えて、胸の内がすごく燃えている状態だと思うんです。そういうところは僕のレコーディングにも反映されたと思っていて、荒々しさを持ちながら、雑にはしない。勢いはあるけど、大切に弾く。青さもあるけど、大人っぽさもある。そういう部分をうまく表現することができたと思います。ベースラインを単体で聴くと、歪んでいるような、破裂しているような音になっていますけど、バンドアンサンブルで聴くといいバランスで熱量が出せている。それがこの曲全体の力強さにつながっているんじゃないかと思います。

田辺由明(G, Cho) 僕は「アオのハコ」は二面性がある作品だと思うんです。登場人物たちがスポーツをがんばりながら、恋愛もしている。それに近い二面性は、「然らば」にもあるような気がしますね。サウンドには、僕らがデビューから10年間、より高みを目指してがむしゃらにやってきた感じが出ていると思うし、それは「アオのハコ」のキャラクターたちがスポーツに打ち込む姿にも重なるけど、同時に、歌詞では恋が歌われているという。

小手先のテクニックを捨てて、カッコいいと思うことをやりたい

──確かに直情的なようで、多面的に受け取ることのできる楽曲という感じがします。最初にも少し言いましたが、新年年明け一発目、しかも、6月には横浜スタジアムでの初のスタジアムワンマンを控えているタイミングで(参照:マカロニえんぴつ、横浜スタジアム2DAYSワンマンライブ開催決定)、「然らば」のようなエネルギッシュな曲が生み出されているところがすごくいいなと思ったんですけど、今だからこそ、この曲が生まれた必然性はあると思いますか?

はっとり 単純に、長くやっていれば型に収まってしまうのは自然なことなんですよね。小慣れていく、というか。「これをやったら何が起こるんだろう?」と思いながら何かに打ち込むことって、経験を積むことで減っていってしまうんです。「然らば」は、そういう自分への警鐘になったんじゃないか、とは思いますね。あと、いろいろやってきたからこそ、この曲のようなサウンドに回帰することができたとも言えます。バンドって、ドラムがうるさくて、ギターが歪んでいて、鍵盤の人はクラシック上がりで細かいフレーズを弾きたがる(笑)。それでいいんです。それが僕の中にあるシンプルなロック像で、そういうものをカッコいいと思う、自分の中にある純粋な部分だけを抽出して、ほかのことを何も考えずに作りたかった。それが、たまたまこのタイミングだったのかな。別に今年の頭に制作した曲ではないし、特別な節目に作ったわけでもないんですよ。でも、去年のツアーをやったからこそ感じた衝動だったのかな、と思います。もう1回、小手先のテクニックを捨てて、カッコいいと思うことをやりたいなって。

はっとり(Vo, G)

はっとり(Vo, G)

高野賢也(B, Cho)

高野賢也(B, Cho)

──なるほど。

はっとり それは歌にも出ているんです。あまり引き算ができていない歌い回しなんですよね。EPの4曲目に入っている「ロング・グッドバイ」の歌の表現に比べたら、押しが強いし、圧がある。鼻も詰まっちゃっている(笑)。でも、その歌い方が「然らば」には合っていたし、そう歌いたかったんです。圧のある歌い方をしたいときに、自然とそういう歌を録ることができた。それはすごく健康的なことだなと思っていて、僕は喜びを感じていますね。

──「健康的」というのは、昨年発表のEP「ぼくらの涙なら空に埋めよう」を聴いたときにも感じました。今、マカロニえんぴつはすごく風通しがいい状態で制作ができているのかなと。

はっとり そうですね。動かない関節を余計に動かそうとはしていないというか。柔軟に作れているし、弾けているなと思います。時には無理に関節を動かそうとして、苦手なことをやってみることも大事なんですよ。それで見えてくるものもあるから。でも、ここ1、2年のモードとしては、苦手なことをやるよりは得意なことをのびのびやろうよっていうモードなんですよね。

高浦“suzzy”充孝のドラムに刺激を受けて

──「然らば」は高浦“suzzy”充孝さんのドラムも素晴らしいですね。

はっとり うん、本当に。彼はセッションライブも熱心にやっているし、ほかのサポート活動も増えているみたいで。そこで得たノリをマカロニえんぴつに持ち込んでくれるので、自分たちとしても新鮮ですね。ノリも一辺倒じゃないし、「最近の高浦、こんな感じなんだ」って、彼のノリに合わせて僕らが演奏するのも楽しくて。そういう意味では、サポートではあるけど、時には高浦が先頭にいるときもあるんです。「然らば」は特にセッションモードの高浦が出ていると思いますね。マカロニえんぴつのツアーに全部ついて来てくれているのに、僕らが休みの日にも自分のセッションライブを入れたりしているんですよ。去年はライブが年間100本超えたと言っていて。

田辺 言ってたね!

田辺由明(G, Cho)

田辺由明(G, Cho)

長谷川大喜(Key, Cho)

長谷川大喜(Key, Cho)

はっとり すごいんですよ、本当にドラムが好きで、ライブが好きで。「然らば」の2番サビ前のフィルなんて、僕のデモではかなり奇天烈なフィルをぶち込んでいたんです。それは「みんなが好き勝手にやっているところが見えるようにしたいから、毎テイク好きなように叩いて」って、僕から要求したことではあるんですけど、結果的にドラムがかなり目立つ仕上がりになって。歌録りのときは、高浦のドラムに感化されて気持ちが上がりましたね。

──高野さんは、同じリズム隊として感じることはありますか?

高野 すごくあります。彼のドラムはクリックに支配されないリズムでありながらも、揺れない。そういう特異なことをしていると思うし、ドラムフィルは聴いているだけでベースラインが浮かんでくるくらい印象的なものが多いんですよね。今回のEPだと「前世よ、しっかり」と「ロング・グッドバイ」のレコーディングで高浦と一緒にブースに入って録ったんですけど、2人で「次あたり、いいの出そうだよね」と言いながらテイクを重ねていくと、やっているうちに、彼がその曲に対してどういうドラムを求めているかが見えてきて、それによって僕も曲に対して焦点が合っていった感覚がありました。

2025年3月12日更新