音楽ナタリー PowerPush - ハンバート ハンバート× 細野晴臣

年賀状が縁で生まれた“カッコいいフォーク”

ハンバート ハンバート×細野晴臣 対談

細野晴臣から届いた年賀状に書かれていたのは

細野晴臣 新しいCDのタイトルが「FOLK」。でもフォークデュオじゃないよね?

左から佐藤良成、佐野遊穂、細野晴臣。

佐藤良成 ハハハ(笑)。自分たちでフォークデュオと名乗ったことは1度もないんですけど、そう思われているんじゃないですかねえ。

細野 そうだよね、ギターと歌というスタイルだもんね。それはフォークだよね(笑)。

佐藤 そう思いますか、やっぱり。

細野 いやあ、どうかなあ……そうかもね(笑)。でもそういうタイトルを付けたってことは、フォークに対しての思い入れがあるということで。

佐藤 そうなんです。

番組BGM:ハンバート ハンバート「生活の柄」

左から佐藤良成、佐野遊穂。

細野 この曲を聴くとはっぴいえんどの頃を思い出すな。山之口獏の詞ですよね。いいタイトル。フォークというよりもなんかもう吟遊詩人の世界だよね。ところでタイトルの話だけど、なぜ「FOLK」なの?

佐藤 いろいろあるんですが、まず1つのきっかけになったのが、2014年に細野さんからいただいた年賀状なんです。このようなことが書いてありまして。読んでいいですか?

細野 いいよ。

佐藤 「昨年はいろいろとお世話になった。今年も一生懸命勉強し、FOLK SONGに励もう」。

2014年の正月に細野晴臣からハンバート ハンバート宛に届いた年賀状。

細野 ちょっと見せて。馬の版画があるな。これって僕がいくつのときに作った年賀状だろう。昭和41年って書いてあるから高校生だね。

佐野遊穂 これは高校生のときに細野さんが作った年賀状なんですか?

細野 つまりこの文章って、送った1人ひとりに書いたわけじゃないんだよ。この年賀状は高校生のときに作ったそのまんまをコピーしたものだから。で、たまたまそこに書いてあった文章が2人の気持ちと通じちゃったのかな。

佐野 じゃあ、当たりですね。

細野 この頃、僕は“FOLK”をやってたんだね。

佐野 年賀状をいただく前の2013年に「デイジーワールドの集い」に出させてもらったんです。

細野 すごく覚えてるよ。しゃべりが面白かった。

佐藤 え、ホントですか? ありがとうございます。俺もそのときのこと覚えてる。すごくしょうもないことをしゃべったんだ。えっと、アレ、何しゃべったっけ……どんどん記憶が消えてく(笑)。

細野 今日はその調子でやって(笑)。

フォークはパーソナルな音楽だから解散しようがないよね

細野 僕の年賀状はさておき、ハンバート ハンバートは何年目なの?

佐野 デビュー15周年ですね。

細野 じゃあ2000年代になってからか。そう思うと新しいね。そうかそうか。

佐藤 でも最初はそんなにフォークっぽい感じでもなかったんです。ただ、人から見れば全部フォークだったかもな(笑)。

佐野遊穂

佐野 もうちょっと方向性が定まってなかったかも。「○○っぽい」って感じじゃなく、あれもやりたいこれもやりたいってなっていたから。

佐藤 俺はもともとフォーク少年で、中学の頃からボブ・ディランとかPeter, Paul and Maryとか好きになって。60年代ロックを入り口として次第に海外のフォークを聴くようになって、それから日本のフォークもいろいろ聴くようになった。そしてフォークギターを買ってもらって、友達とバンドをやるようになったのが高校生のとき。そのときにはフォークの曲をよくやってました。だからフォーク歴は20年ですかね。

細野 そこは僕も似てるね。高校生の頃に、ボブ・ディラン、Peter, Paul and Mary、The Kingston Trioなんかをやってましたから。仲間ですね。

佐藤 いやー、うれしいです。

細野 今はこんなになっちゃったけどね(笑)。

佐藤 ハハハ(笑)、こんなになっちゃって、いいじゃないですか。

番組BGM:ハンバート ハンバート「横顔しか知らない」

細野 うーん、謎の2人だな。すごく息が合ってるんだよね。バンドでも15年続けるのは大変なのに。

佐野 いつもことあるごとに思いますね。「あのバンドが解散しちゃったな」とか。細野さんはバンドを解散するのが趣味だって何かのインタビューに書いてあるのを見ました。

細野 そうね、3年ぐらいでやり尽しちゃうんだね。でもフォークは非常にパーソナルな音楽だからさ、解散しようがないというかね。

佐藤 だからなんですかね、こうやってダラダラ続いてしまってるのは。

細野 いやいやいや、それでこそフォークだと思うよ。みんなそうやってやってるじゃない。

ベートーベンの置物がシンセサイザーを鳴らした

細野 そういえば、(ボブ・)ディラン、観に行ったんでしょ?

佐藤 行きました。最高でした。あの人のライブはお手本みたいなものなので、「こういうふうにアレンジしているのか」とか、「こういう感じで演奏しているのか」とか、「誰がバンドリーダーなのか」とか全部気になっちゃって。そういう見方をしていると楽しくて仕方ないです。

細野 ステージにベートーベンの置物があったって本当なの?

佐藤 置いてありました。

細野 おっきいの?

佐藤 たぶんここにあるのと同じぐらいの大きさだったと思います。

細野晴臣のプライベートスタジオに置かれたベートーベンの胸像。

細野 なんでなんだろ?

佐藤 なんなんでしょうね。

細野 ここに置いてあるベートーベンさんはおじいちゃんのものだったの。ピアノの調律師をやっていたんだけど、ずっと見張ってたんだね、調律の現場で。

佐藤 え、これを調律する際に持ち歩いてたんですか?

細野 じゃなくて(笑)。調律する自分の部屋に置いてあったの。僕は子供の頃から見てたんだけど、怖くて怖くて。

佐野 そうですよね、怖いですよね、これ。

細野 睨みが利いてる、っていうかね。ここに置いておくとなんかいいんだ。

佐藤 そっか、仕事をしているところを後ろから見られているわけですね。「おい、ちゃんとやってるか?」みたいな感じで。

細野 1度ね、何にもしてないのにこのスタジオのシンセサイザーが勝手に鳴り出したことがあったの。絶対にこれはベートーベンが何かやってるんだと思って。

佐藤 へー、なんのプログラミングもしてないのに?

細野 そう。延々と聴いたことのない音楽がこのスタジオに流れて。それ録ってあるけどね。

佐藤 すごい! じゃあ、いずれ出せますね。

細野 いつか発表しようかなと思ってる。ベートーベン作曲の現代音楽(笑)。

ハンバート ハンバート ニューアルバム「FOLK」2016年6月8日発売 / SPACE SHOWER MUSIC
初回限定盤 [CD+DVD] 3240円 / DDCB-94011
通常盤 [CD] 2484円 / DDCB-14043
CD収録曲(カッコ内はオリジナルアーティスト)
  1. 横顔しか知らない
  2. N.O.(電気グルーヴ)
  3. 長いこと待っていたんだ
  4. プカプカ(西岡恭蔵)
  5. 夜明け
  6. 生活の柄(高田渡)
  7. 国語
  8. 待ちあわせ
  9. 結婚しようよ(吉田拓郎)
  10. おなじ話
  11. さよなら人類(たま)
  12. ちいさな冒険者
初回限定盤 DVD収録内容
2015年9月19日 東京・日比谷野外大音楽堂ライブ「二人でいくんだ、どこまでも」
  1. いついつまでも
  2. バビロン
  3. コックと作家
  4. さようなら君の街
  5. ロマンスの神様
  6. おかえりなさい
  7. まぶしい人
  8. ぼくのお日さま
  9. おなじ話
  10. アルプス一万尺
  11. ホンマツテントウ虫
  12. アセロラ体操のうた
  13. おいらの船
InterFM「Daisy Holiday!」

細野晴臣がDJを務める、古きよき音楽から最新の音楽までを紹介するラジオプログラム。
毎週日曜 25:00~25:30 オンエア

ハンバート ハンバート
ハンバート ハンバート

1998年に結成の佐藤良成(G, Violin, Vo)と佐野遊穂(Vo, Harmonica)による男女デュオ。2001年にアルバム「for hundreds of children」でCDデビュー。2005年のシングル「おなじ話」が各地のFM局でパワープレイに起用されたのをきっかけに、活動を全国に広げ年間 100本近いライブを行う。海外の伝統音楽ミュージシャンたちとも多数共演。テレビや映画、CMなどへの楽曲提供も多く、2010年からオンエアされた「ニチレイアセロラ」のCMソング「アセロラ体操のうた」が話題になった。2016年6月には、デビュー15周年記念作品として弾き語りアルバム「FOLK」を発表した。フォーク、カントリー、アイリッシュ、日本の童謡などの音楽をルーツとした懐かしく切ない楽曲と、繊細なツインボーカルで支持を集めている。

細野晴臣(ホソノハルオミ)
細野晴臣

1947年生まれ、東京出身の音楽家。エイプリル・フールのベーシストとしてデビューし、1970年に大瀧詠一、松本隆、鈴木茂とはっぴいえんどを結成する。1973年よりソロ活動を開始。同時に林立夫、松任谷正隆らとティン・パン・アレーを始動させ、荒井由実などさまざなアーティストのプロデュースも行う。1978年に高橋幸宏、坂本龍一とイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成し、松田聖子や山下久美子らへの楽曲提供を手掛けプロデューサー / レーベル主宰者としても活躍する。YMO「散開」後は、ワールドミュージック、アンビエントミュージックを探求しつつ、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。2016年には、沖田修一監督映画「モヒカン故郷に帰る」の主題歌として新曲「MOHICAN」を書き下した。