ナタリー PowerPush - ヒトリエ

肉体性を獲得した“ネットシーン”の寵児

体感と付随した音楽を

──バンドが動き始めて2年ほど経ったわけですが、wowakaさんの曲を演奏するというのはどういう感じなんですか。まず、かなりテクニックが必要だと思うんですが……。

シノダ ……まあ、ダントツに難しいですよね。

wowaka 最初の頃よりさらに難しくなってるからね。

ゆーまお アレンジもいろいろ凝るようになってるし。

wowaka 昔はもっと雑だったんですけどね(笑)。宅録の作り方がベースになってるから、やっているうちにいろんなことが気になり始めるっていう。

──まず、wowakaさんがデモを作るんですか?

wowaka 今回のアルバムと前のシングル「センスレス・ワンダー」に関しては、そんなに細かいデモは作ってないです。ザックリしたリフだったり、ワンコーラス分のメロを持ってきて、バンドでやってみるっていう。スタジオで実際に音を出して、「そこはこうしよう」って感じで作ってましたね。そういう形でやれないとダメだろうなっていうのもあったし、自分の中で。

──4人でセッションしながら作ってみたい、と。

wowaka 単純にそういうやり方に興味があったし、そこで生まれる曲がどういうものか知りたかったんです。ずっと自分1人で音楽をやってきて、ちょっと飽きたというか、頭打ちっていう感じもあったんですよ。今やっていること(バンドで音を出しながら曲を作ること)自体にすごく意味があると思うし、体感と付随した音楽が作れている感覚もちゃんとあって。そういうストーリーが必要だと思ったんですよね、今は。

──そういう曲作りのスタイルを続けていれば、当然、バンド感も高まりますよね。プレイヤーとしても楽しいんじゃないですか?

シノダ 楽しいこともあれば、ムカつくこともあり……。

wowaka まあ、ギターはね(笑)。

ヒトリエ

シノダ 「そんなことやれるかよ!」っていう要求が来ることもありますからね。

イガラシ あと、圧倒的なボツの数ね。

シノダ 僕のフレーズ、ボツ率が高いんですよ。しかも言い方が容赦ないんですよね。「それはダサい」って。

wowaka 確かによく言ってる(笑)。

シノダ そうやって言ってもらえるのは、全然いいんですけどね。

──そういう率直なコミュニケーションって、バンドには不可欠ですからね。さっき「人見知り」っていうワードが出てましたけど、そこも改善されてきた?

wowaka どうなんですかね? 僕はもともとの人間の出来が、卑屈と遠慮のかたまりみたいな感じなんで。

イガラシ 卑屈と遠慮のかたまり(笑)。イヤなヤツじゃん。

wowaka そう、イヤなヤツなんだよ(笑)。でも、メンバーに対してはそういう感じじゃなくて。それもこの1、2年かけてやってきたことなんですけど。

ゆーまお 距離感は考えますけどね。「これを言うと、どうなるかな?」ってこともけっこうあるし。どうしても譲れない項目が出てきたときは言うんですけど、俺の言い方とかまとめ方がよくないせいか、必ず衝突するし。

イガラシ 衝突するね(笑)。

ゆーまお 「あれ、怒っちゃったかな?」って。

──話を聞いてると、すごくバンドらしい関係だなって思いますけどね。言ってみれば、一緒に音楽をやるために集まったメンバーじゃないですか。「中学からの同級生です」とかではなくて。

wowaka まったく別のベクトルですよね。こういう文脈の中で集まった4人がいて、そこで築いた関係があって。なおかつ各々が持っているモノがあって、それに対して「魅力的だな」と思ったからこそ組んだバンドなので。そこでカッコいい音楽が生まれるはずだって信じてるし……そこは胸を張って言っていいのかなって思いますね。

制作期間の中で自然に起きた“十八番”からの変化

──「イマジナリー・モノフィクション」の制作はどんなふうに進められたんですか?

wowaka 去年の10月から12月にかけて録ってたんですけど……。

ゆーまお もっと前からやってたんじゃない?

wowaka そうか。制作の最後のほうになると、その場のテンションとか判断で作っていくことが増えてきたんですよね。

ゆーまお 音数が減ったよね。

イガラシ “速くて忙しい曲”に疲れてきた(笑)。けっこう長い期間レコーディングしてたせいもあると思いますけどね。最初と最後ではかなり違ってきてたというか。

ゆーまお 違ってたね。

シノダ 最後のほうは悲惨でしたからね。「レコーディングが決まってるのに曲がない。どうする?」ということもあって。とにかく曲を作らなくちゃいけないっていう……。

ゆーまお 前回のシングルを含めて作ってましたからね。このアルバムの3曲目までみたいな感じは“十八番(おはこ)”なんですよ。

──派手な曲展開、緻密なアレンジ、起伏に富んだメロディが揃ってる曲ですよね。

ゆーまお そういうものはガンガン作れるんですけど、「もっと染みる曲とか、わかりやすい曲があってもいいだろ」っていう共通したモードもあって。

シノダ 4曲目からバチッと雰囲気が変わりますからね。

イガラシ そうだね。最後の2曲は、本当に制作の最後にできた曲だし。

ゆーまお けっこうストレートになったよね。

イガラシ うん。

──wowakaさんは、そういうバンドの変化についてどう感じてるんですか?

wowaka 3~4カ月の制作期間の中で自然に起きたことだから、そこは大事にしたいなと思ってました。その上で自分の中にある基準というか、美意識のバランス、アルバムとしてのまとまり、作品性みたいなものを考えて、「これで成立している」と判断したから、この7曲にまとめたわけで。変化をたどりながらも「ヒトリエはこういうバンドです」ってわかりやすく示せたんじゃないかなって、今となっては思いますけどね。作ってるときは必死だから、あまり俯瞰で見られないんですよ。全部終わって「あ、面白いアルバムになったな」と思えたのはよかったですね。

ヒトリエ メジャー1stミニアルバム「イマジナリー・モノフィクション」 / 2014年2月19日発売 / 1890円 / 非日常レコーズ / SVWC-7986
収録曲
  1. アイマイ・アンドミー
  2. 生きたがりの娘
  3. アンチテーゼ・ジャンクガール
  4. 踊るマネキン、唄う阿呆
  5. (W)HERE
  6. ever ever ever
  7. 浮遊と沈没と
ヒトリエ メジャー1st シングル「センスレス・ワンダー」 / 2014年1月22日発売 / 非日常レコーズ
ヒトリエ メジャー1stシングル「センスレス・ワンダー」初回限定盤[CD+DVD] / 2100円 / SVWC-7977~8
ヒトリエ メジャー1stシングル「センスレス・ワンダー」通常盤[CD] / 1260円 / SVWC-7979
収録曲
  1. センスレス・ワンダー
  2. さらってほしいの
  3. darasta
初回限定盤DVD収録内容

MV「ルームシック・ガールズエスケープ」

  1. SisterJudy
  2. モンタージュガール
  3. アレとコレと、女の子
  4. るらるら
  5. サブリミナル・ワンステップ
  6. カラノワレモノ
  7. 泡色の街
ヒトリエ

wowaka(Vo, G)、シノダ(G, Cho)、イガラシ(B)、ゆーまお(Dr)の4人からなるバンド。ボーカロイド楽曲でサウンドクリエイターとして高い評価を集めていたwowakaが中心となり、ネットシーンで交流のあったシノダ、イガラシ、ゆーまおに声をかけ、2012年より活動をスタートさせた。同年12月には「ルームシック・ガールズエスケープ」、2013年4月には「non-fiction four e.p.」と立て続けに自主制作盤を発表し、同年4、5月に初のワンマンライブを行った。同年11月に開催されたワンマンライブ「hitori-escape:11.4 -非日常渋谷篇-」にて、ソニー・ミュージックグループ傘下に自主レーベル「非日常レコーズ」を立ち上げることを宣言。2014年1月にメジャーデビューシングル「センスレス・ワンダー」を発表した。同年2月にレーベル第2弾作品となるミニアルバム「イマジナリー・モノフィクション」をリリース。4月には東名阪3都市を回るワンマンツアー「マネキン・イン・ザ・パーク」を行う。