ナタリー PowerPush - ヒトリエ
肉体性を獲得した“ネットシーン”の寵児
2000年代後半のボーカロイドシーンで強烈な支持を得てきたwowaka(Vo, G)を中心に、2012年から本格的な活動をスタートさせた4ピースバンド、ヒトリエ。今年1月に1stシングル「センスレス・ワンダー」を発表し、ロックバンドとしての際立った個性を示した彼らから、1stミニアルバム「イマジナリー・モノフィクション」が届けられた。聴く者を一瞬で惹きつけるフレーズ、卓越した演奏力、wowakaの独創的な世界観がひとつになった楽曲はこれから、さらに幅広いリスナーに浸透していくことになりそうだ。
今回ナタリーではメンバー全員にインタビュー。バンドの成り立ち、本作「イマジナリー・モノフィクション」の制作過程からシーンにおける立ち位置まで、たっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 インタビュー撮影 / 笹森健一
「身体を使った活動をしよう」と
──まずはヒトリエの成り立ちについて聞かせてください。wowakaさんがバンドを結成しようと決断したきっかけはなんだったんですか?
wowaka(Vo, G) きっかけというより、その時期の僕のモードの話なんですけどね。僕はもともとボーカロイドを使って楽曲を作り、インターネット上に発表するということをやっていて。その活動を2年くらい続けて、全国流通のアルバム(2011年5月発売「アンハッピーリフレイン」)を出す機会をいただいたんですね。そのあと、「自分は何をしたいと思ってるんだろう?」と考える時間が2カ月くらいあって……僕が音楽に本格的にのめり込んで、能動的に音楽をやるきっかけになったのはバンドだったんですよ。だから「次は自分でギターを弾いて、自分で歌うバンドをやろう」と思って、メンバーを探したっていう。
──ナンバーガールが好きだったそうですね。
wowaka 大好きですね。死ぬほど好きです。
イガラシ(B) 死ぬほどって(笑)。
wowaka うん、死んじゃうほど好き。あんなにカッコいいバンドはいないよ。
──でも、リアルタイムで聴いてたわけではなかったとか。
wowaka そうなんですよ。
イガラシ あ、そうなんだ?
シノダ(G, Cho) 俺はリアルタイムだけどね。ライブも行ったし。
wowaka うらやましい。僕はその頃、南の果てにいたからな(※wowakaは鹿児島出身)。
──ヒトリエを結成するまでバンドを組んだことはなかったんですか?
wowaka やってました。中高の頃は楽器に興味がありそうな友達とバンドを組んで、ちょっとだけオリジナル曲を作ったり。それは趣味の延長みたいなものだったから、高2の終わり頃に「大学受験のためにストップしよう」ってことになって。東京の大学に来てからも軽音サークルでバンドをやってたんですけど、オリジナルを作ったりライブをやったりっていう活動はそんなにしてなかったんです。で、そのうちにボーカロイドで曲を作り始めて。
──バンドとボーカロイドって、音楽を作る方法としては対極にあるような気がするんですけども。
wowaka ボーカロイドで曲を作るのも、すごく面白かったんですよね。1から全部作って、それを発表するっていう。でもアルバムを出したときに「やり切った」という感じがあって。あと、聴いてもらえる回数(動画サイトでの再生数)が増えるにつれて、自分と音楽が乖離していく感じが生まれてきたんです。肉体を伴っていかない感じというか……。それがイヤというわけではないんですけど、自分自身も音楽に付いていきたいと思うようになって、「身体を使った活動をしよう」と。そのときにこっちに振り切ったというか、「大変だろうけど、バンドをガッツリやってみよう」と思って。
理想のバンド像を求めて
──メンバーもネットシーンで知り合ったとか。
wowaka そうですね。(ネットのシーンにも)演奏したり、ライブをやるっていう文化があって、そこで知り合ったのが彼らなので。
──イガラシさん、ゆーまおさん、シノダさんもネットに作品をアップしてたんですか?
イガラシ 俺だけしてないですね。
ゆーまお(Dr) どうしてそういう活動をしてたかというと……めちゃくちゃ省いてしまうと、こういうことをやりたかったからなんです。
──リアルにバンドを組むために、まずはネットに作品をアップしてた?
ゆーまお バンドもやってたんですけどね、ずっと。そのあと、ボーカロイドにハマったんですよ。最初は偏見で見ていた文化なんだけど、実際にやってみると「こんなにも差がないんだ」と思って。DTMが普及してるシーンだから、そこに“生”で入っていけば、絶対に面白いことができると思ったし。ネットシーンの飲み会とかもガンガン行ってましたからね。wowakaさんとも3、4年前から知り合いだったし。
wowaka ここ(wowakaとゆーまお)が一番長いんですよ。お互い知ってて、飲み会でもちょくちょく会うっていう感じで。
ゆーまお ヒトリエ結成の前は、ひたすら人見知りを発揮していた2年間でしたね(笑)。距離はなかなか縮まらず。俺はもともとwowakaさんの曲を聴いていて……めちゃくちゃヘビロテしてたんです。その頃にはwowakaさん以外の人とも知り合って、ライブとかもやらせてもらってましたけど。
──シノダさんはどんな活動を?
シノダ 宅録でゲームの曲をアレンジして、ネットに上げたり。全然再生数が伸びなかったし、悶々とした日々を過ごしてました(笑)。その一方で(wowakaをチラッと見て)伸びてる人もいて、それに対してもムカついてて。
wowaka ハハハハハ(笑)。まあ、その感じはとてもよくわかりますけどね。始めたばかりの頃はなかなか聴いてもらえないというか、多くても1000再生くらいなので。僕も悶々としてましたよ。
シノダ あと、この2人(ゆーまお、イガラシ)がやってたバンドも好きで、ライブも観てたんですよね。それとは別に人生の半分くらいインターネットをやってるような人間でもあるから、ボカロシーンのイベントにもよく行ってて。そこからつながりが生まれたんですけど、あるときこの2人がwowakaさんとバンドを始めたっていうニュースが入ってきたんですよ。「ライブを観たい」と思ってたら、急に「入らない?」って言われて。いきなり階段飛ばしてきたなーって(笑)。最初はSkypeでやり取りしてたんですよ。「あの有名なwowakaさんだ!」って思いながら。
wowaka Skype越しでも距離感を測ってましたけどね。
シノダ 人見知りマックスの状態で(笑)。
──wowakaさんがメンバーを探し始めたとき、もっとも重視していたのはどういう部分ですか? やっぱり演奏の技術……?
wowaka 技術よりも「魅力的かどうか」ってことですね。カッコいいなと思う人を誘っていたというか……。それこそナンバガが好きだから、「個々がちゃんと立った上で、バンドとして強烈なアイデンティティがある」っていうのがカッコいいなって。
──単に自分の曲を生演奏するだけではなく、理想のバンド像があった、と。
wowaka そうですね。昔からメンバーの表情が見えるような音が好きっていうのもあったし。そういう自分の憧れの像と噛み合う人に声をかけてた、というのはあると思います。
- ヒトリエ メジャー1stミニアルバム「イマジナリー・モノフィクション」 / 2014年2月19日発売 / 1890円 / 非日常レコーズ / SVWC-7986
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収録曲
- アイマイ・アンドミー
- 生きたがりの娘
- アンチテーゼ・ジャンクガール
- 踊るマネキン、唄う阿呆
- (W)HERE
- ever ever ever
- 浮遊と沈没と
- ヒトリエ メジャー1st シングル「センスレス・ワンダー」 / 2014年1月22日発売 / 非日常レコーズ
- ヒトリエ メジャー1stシングル「センスレス・ワンダー」初回限定盤[CD+DVD] / 2100円 / SVWC-7977~8
- ヒトリエ メジャー1stシングル「センスレス・ワンダー」通常盤[CD] / 1260円 / SVWC-7979
収録曲
- センスレス・ワンダー
- さらってほしいの
- darasta
初回限定盤DVD収録内容
MV「ルームシック・ガールズエスケープ」
- SisterJudy
- モンタージュガール
- アレとコレと、女の子
- るらるら
- サブリミナル・ワンステップ
- カラノワレモノ
- 泡色の街
- ヒトリエ メジャー1stシングル「センスレス・ワンダー」通常盤[CD] / 1260円 / SVWC-7979
ヒトリエ
wowaka(Vo, G)、シノダ(G, Cho)、イガラシ(B)、ゆーまお(Dr)の4人からなるバンド。ボーカロイド楽曲でサウンドクリエイターとして高い評価を集めていたwowakaが中心となり、ネットシーンで交流のあったシノダ、イガラシ、ゆーまおに声をかけ、2012年より活動をスタートさせた。同年12月には「ルームシック・ガールズエスケープ」、2013年4月には「non-fiction four e.p.」と立て続けに自主制作盤を発表し、同年4、5月に初のワンマンライブを行った。同年11月に開催されたワンマンライブ「hitori-escape:11.4 -非日常渋谷篇-」にて、ソニー・ミュージックグループ傘下に自主レーベル「非日常レコーズ」を立ち上げることを宣言。2014年1月にメジャーデビューシングル「センスレス・ワンダー」を発表した。同年2月にレーベル第2弾作品となるミニアルバム「イマジナリー・モノフィクション」をリリース。4月には東名阪3都市を回るワンマンツアー「マネキン・イン・ザ・パーク」を行う。