そらるのニューアルバム「ユメトキ」が2月12日にリリースされた。
「ユメトキ」は、そらるが全楽曲で自ら作詞をしたコンセプトアルバム。テレビアニメ「2.5次元の誘惑」第2クールのオープニング主題歌「ツギハギの翼」や、昨年の全国ツアー「SORARU LIVE TOUR 2024 -telescope-」に向けて書き下ろされた「オーロラ」など計12曲が収録される。作品全体のサウンドプロデュースを担当した堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)やAfter the Rainのパートナーでもある盟友・まふまふをはじめ、白神真志朗、Neru、星銀乃丈、是、ZEROKU、大歳祐介(yukkedoluce)、ゆーまお(ヒトリエ)、サツキといった豪華面々が作家として参加している。
この記事では、ライター・森朋之の全曲レビューを通して、そらるのクリエイティビティが存分に発揮された「ユメトキ」の魅力に迫る。
文 / 森朋之
1. 逃避郷
[作曲:まふまふ / 作詞:そらる]
そらる自身が全曲の作詞を担当するコンセプトアルバム「ユメトキ」。その1曲目を飾るのは、音楽ユニット・After the Rainのパートナーであり、盟友と呼ぶべきまふまふの作曲によるポップロックチューンだ。しっかりと抑制を効かせたAメロ、平熱のテンションのままドラマティックに展開していくサビなど、緻密に構築されたメロディラインがまず印象的。そらるのボーカルを知り尽くしたまふまふが、その声の魅力を引き出すことに注力しながら紡ぎ出した旋律と言えるだろう。子供のままではいられないことを実感しながらも、「終わることのない夢に逃げ込んだ」と歌っているのがこの曲のポイント。歌い手として彼らがたどってきた軌跡と重ねながら聴くリスナーも多いのではないだろうか。
2. ツギハギの翼
[作曲:白神真志朗 / 作詞:そらる]
テレビアニメ「2.5次元の誘惑」第2クールのオープニング主題歌。コスプレを熱烈に愛する高校生たちの青春を描いた本作のストーリーとリンクした「ツギハギ翼」の軸にあるのは、“怖くても、勇気を持って踏み出すことで世界は変わるはず”というさわやかでポジティブなメッセージだ。特に「君との物語紡ぎたい エピローグの先へ向かって」というラインは、全世代のリスナーの心を鼓舞するはず。ボカロ、歌い手、アニソンなど幅広いシーンで活躍する白神真志朗の手がけた、スピード感としなやかさに貫かれたメロディ / サウンドも、楽曲のテーマ性や世界観を増幅させている。ギターを弾いているのは、アルバム「ユメトキ」全体のサウンドプロデュースを担当した堀江晶太。
3. 不完全ワンダーランド
[作曲:サツキ / 作詞:そらる]
2019年に活動を開始し、代表曲「メズマライザー」が歴代最速で1000万再生を記録した気鋭のボカロP・サツキが作曲およびアレンジを担当。ドラムンベース的なテイストを取り入れたビート、厚みのあるシンセベース、鋭利なギターフレーズ、そして、さまざまなエフェクトやエディットを駆使しまくった音像のイメージは、まさに“不完全ワンダーランド”そのもの。さらにサイバーパンク的な雰囲気とカオスな現代社会を結び付けるようなリリック、すさまじい情報量のトラックを突き抜けるボーカル、思わず体を揺らしたくなるダンスミュージック的な機能も含めて、リスナーの志向や意識によっていくつもの顔を見せてくれる楽曲に仕上がっている。この中毒性はやばい。
4. レヴェノイド
[作曲:Neru / 作詞:そらる]
すべてがプログラミングされ、あらかじめ決定されたかような機械仕掛けの世界の中で、人の心に宿る感情とはいったい……? 「レヴェノイド」を繰り返し聴く中で筆者の脳裏に浮かんだのは、壮大にして深淵なストーリーだった。もちろん聴く人によって解釈や捉え方はいろいろあるだろうが、この曲に込められた情報量は長編の映画やRPGのようにとてつもなく多く、そこに現れる世界観はリピートするたびに深みを増していく。起伏に富んだメロディライン、緻密に構築されたトラックと生楽器の響きを融合させたサウンドメイクは2010年代のボカロ系ロックを牽引したNeruによるもの。音と言葉、歌が織りなす一大叙事詩と呼ぶべき、理想的な化学反応が実現している。
5. 滂沱に咲く
[作曲:ゆーまお(ヒトリエ) / 作詞:そらる]
濃密なグルーヴを生み出すベースライン、シリアスな心象を映し出すようなギターフレーズ、タイトに楽曲を支えながら、歌に寄り添うように響くドラム。ゆーまお(Dr)が作曲とアレンジを手がけ、さらに演奏陣にシノダ(G)、イガラシ(B)が参加した「滂沱に咲く」は、“そらる×ヒトリエ”のコラボレーションによるロックナンバーだ。ライブ感のあるオルタナサウンドの中でそらるは、あふれんばかりの悲しさを内包したボーカルを力強く響かせている。“滂沱”とは、“とめどなく涙が流れ落ちるさま / 雨が降りしきるさま”のこと。日本語の美しさを実感できる、私情と詩情を見事に融合させた歌詞にも注目だ。
6. 虹の三叉路
[作曲:ZEROKU / 作詞:そらる]
雨が降りしきる音で始まる「虹の三叉路」は、アルバム「ユメトキ」の中でも最もファンタジックなムードをまとった楽曲だ。最初に聴こえてくるのは、かわいらしいサウンドと「夢中でページを捲る 君と歩むストーリー」というフレーズ。大切な“君”との関係性をリリカルに描いたあとは、壮大なサウンドスケープに移行し、そこから一気に生々しいバンドサウンドへと変貌する。さらに「明日雨が上がったら虹を渡ろう」というサビによって心地よい解放感を演出し、その後も意外性にあふれた展開が待っている。20歳の若手クリエイター・ZEROKUのポップでありながらぶっ飛んだ作曲のセンス、そして、そらるの想像力豊かな歌詞の世界による刺激的な“セッション”を楽しんでほしい。
7. 泡沫の備忘録
[作曲:堀江晶太 / 作詞:そらる]
さわやかに広がっていくギターフレーズ、心地よく進んでいく四つ打ちのビートで始まるミディアムチューン。切なさと淡さを併せ持ったメロディライン、音数を抑え、ボーカルの響きを際立たせるアレンジメントなど、堀江晶太のクリエイティブが鮮やかに発揮されている。「いくつも夜を超えて君に辿り着いたんだ」というラインで幕を開ける歌詞も印象的。どんなに“君”を思っていても、幸せな時間は永遠には続かない。触ればなくなってしまうはかなさに包まれながらも“僕”は、何度でも“君”を迎えに行く──。そんな心象を映し出す「泡沫の備忘録」は、本作の中でもっともロマンティズムあふれる楽曲と言えるだろう。
8. ユメマドイ
[作曲:是 / 作詞:そらる]
ゆったりとした浮遊感にあふれた旋律、タイトなリズムとグルーヴィなベースライン、そして、クラシカルな弦楽器の響き。楽曲が流れている間、まさに夢の中にいるような感覚に包まれるポップチューンを手がけたのは、ボカロPとして確固たる評価を得ている是だ。全体的にドリーミーな世界観を描いているのだが、その根底にあるのは「いつだって待ちぼうけ ひとりきりの世界で」という寂しさ。きっといつか“君”と出会い、この世界から連れ出してくれるはず。あまりにもはかない希望をつづった歌詞は、聴く人それぞれの状況や心境と重なり、刹那的な共感を呼び起こすことになりそうだ。物語を紡ぐように始まり、少しずつ高揚していく歌声も素晴らしい。
9. アンチポップドール
[作曲:星銀乃丈 / 作詞:そらる]
「アイドルマスター」、幾田りら、DIALOGUE+などに楽曲提供している若手クリエイター・星銀乃丈の作曲による「アンチポップドール」は、きらびやかさとシックな手触りを共存させたポップソング。ファンク的なテイストを交えたベースを軸にしたサウンドの中でステップを踏むようなメロディが広がり、バイオリンの響きがクラシカルな雰囲気を演出。カラフルな要素を取り入れながら、シティポップの進化型と称すべき楽曲に昇華させている。「最低dancing 愛してらんないね」というパンチラインを軸にしたリリックも魅力的。欲望が渦巻く夜の街を舞台に、“このままずっと踊っていたい”という本能に身を委ねる。そらるのイマジネーションが発揮された歌の世界にどっぷりと浸ってほしい。
10. 空腹の怪物
[作曲:大歳祐介(yukkedoluce) / 作詞:そらる]
神田沙也加がカバーして話題を集めた「林檎売りの泡沫少女」で知られる大歳祐介が作曲、堀江晶太が編曲を手がけたアッパーチューン。「ラララ」というシンガロング必至のコーラスで始まり、ギターとベースの華麗なフレーズから疾走感あふれるバンドサウンドが炸裂する。4拍子と3拍子を交えたリズムのアレンジ、細かいメロディとロングトーンを交差させるボーカルライン、ファンタジックなエフェクトなどさまざまな技巧やギミックが施され、何度聴いても新たな発見がある。歌詞の軸になっているのは「人の悲しみを貪る怪物」、そしてその先にいた「君」。ダークファンタジー的な世界を設定しながら現実とリンクさせる、作詞家・そらるのセンスが光る。
11. オーロラ
[作曲:堀江晶太 / 作詞:そらる]
夜空を彩る自然の芸術、オーロラ。神秘的な美しさを備えたこの現象をモチーフにした「オーロラ」は、壮大さと華やかさを同時に放つロックナンバーだ。火花を散らすようなギターフレーズと荘厳なストリングスの音色で始まり、吹雪の中、高みを目指して進む姿が描き出される。さらに「なぜ歩くのだろう どこへ続くのだろう」というラインをきっかけに楽曲全体がスケールアップ。メロディとサウンドが互いを高め合いながら、リスナーを圧倒的なカタルシスへと導いてくれる。最後に響くのは「次はどこへ行こう 君と」というフレーズ。そらるとファンの関係と重ねることで、この楽曲の持つ意味、そこに込めた思いがはっきりと浮かび上がってくるはずだ。
12. ユメトキ
[作曲:堀江晶太 / 作詞:そらる]
アルバム「ユメトキ」の最後に収められたのは、堀江晶太の作曲によるタイトル曲。あまりにも切なく、あまりにも美しい旋律がゆったりと流れ、楽曲の後半に向けて濃密なエモーションを放つ珠玉のバラードだ。歌詞の中でつづられているのは、“君”がいなくなってしまった世界で生きる“僕”の心象風景。特に「たった一つ道標は 二人を結ぐもの」という一節は、歌によって多くの人々を惹きつけ、つながってきたそらる自身の生き様とリンクしているようで、激しく心を揺さぶられる。「ユメトキ」の真ん中にあるのも当然、彼のボーカルのすごさ。すべてのフレーズを手渡すように歌い、そのまま宇宙レベルのスケール感へとつなげる歌の表現力は、やはり唯一無二だ。
才気あふれるクリエイターたちの楽曲、堀江晶太によるサウンドプロデュース、そして、そらるが紡いだ歌詞。歌い手・そらるの表現をさらに高いフェーズに引き上げる大充実のアルバムだと思う。
公演情報
そらる「ユメトキ」リリースパーティ
- 2025年4月6日(日)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
そらる「SORARU LIVE TOUR 2025 -ユメユイ-」
- 2025年5月2日(金)東京都 東京ガーデンシアター
- 2025年5月3日(土・祝)東京都 東京ガーデンシアター
- 2025年5月6日(火・振休)愛知県 PORTBASE
- 2025年5月11日(日)大阪府 Zepp Namba(OSAKA)
プロフィール
そらる
ボーカリスト / エンジニア。2008年に動画共有サイトにて音楽活動を始める。2012年6月に1stアルバム「そらあい」を、2015年には15曲入りのフルアルバム「夕溜まりのしおり」をリリース。また2016年にまふまふとともにAfter the Rain名義での活動を開始し、4月に同名義初のアルバム「クロクレストストーリー」を発表した。2019年7月にアルバム「ワンダー」をリリース。2023年には活動15周年を記念したライブツアー「SORARU LIVE TOUR 2023 クリスタリアルスカイ -ORCHESTRA-」を行い、翌2024年の全国ツアー「SORARU LIVE TOUR 2024 -telescope-」ではファイナルをソロ初となる東京・日本武道館で実施した。2025年2月には自身がすベての作詞を手がけたニューアルバム「ユメトキ」をリリース。5月からはライブツアー「SORARU LIVE TOUR 2025」を開催する。