ロックステディのリズムで衣装替えした「サニーサイドメロディー」
──さて、来年の30周年に向けて動き出しているEGO-WRAPPIN'ですが、ライブの定番曲である「サニーサイドメロディー」をロックステディにアレンジした7inchシングル「Sunny Side Steady」と、新曲2曲を収録したダブルサイダーの12inchシングルが同時リリースされます。まず「Sunny Side Steady」から話を伺えればと思います。
森 このアレンジで最初に演奏したのは、2022年の夏に浅草であった「第47回 千束通り納涼大会」ですね。大野大輔(ex. DETERMINATIONS、MACROBIOTICTS)さんをドラムに迎えて、“EGO-WRAPPIN'-CARIB ROOTS SET”という編成で全編カリブ音楽寄りのアレンジでライブをしたんです。そこで「サニーサイドメロディー」をロックステディでやってみたら思いのほか好評で。自分たちとしても、すごくしっくりきたんです。
中納 ロックステディって、どんな曲にもしっくりくるリズムちゃうかなと思って。心臓の脈拍と似てるのかな? 楽曲が小気味よくなるんですよね。
──「サニーサイドメロディー」は、ギターと歌のアコースティックデュオ編成をはじめ、今までいろんなスタイルで演奏されてきましたが、今回の「Sunny Side Steady」は楽曲が持っている陽な感じというか、朗らかな魅力が強調されていますね。また、現在のツアーバンドの演奏で記録されることで、バンドの充実ぶりがサウンドから伝わってきて、すごくいいなと思いました。
中納 今回は一発録りでレコーディングして、歌も演奏も全部一緒に録ったんです。自分で言うのもなんですけど、原曲がいいから、衣装替えしてまたよくなったというかね。
ダブは作品として実験的なところが面白い
──そしてカップリングには、現行UKレゲエの重要人物であるプロデューサー / エンジニア、プリンス・ファッティのダブミックスが収録されています。これは森さんの発案ですか?
森 そうです。コロナ禍でステイホームしていたとき、ネットで探しては、いろんなレコードを買って聴いていた時期があって、その頃にプリンス・ファッティを知ったんです。めちゃくちゃ音ええなって。カバーばっかりなんですけど、好きな曲もあったりして、それを入り口に興味を持って、彼が関わっているレコードを買うようになりました。しばらくしてスチャダラパーのSHINCOさんがDJのHatchuckくんを紹介してくれたんですけど、彼がプリンス・ファッティとつながっていたんです。それでHatchuckくんを通してダブミックスのオファーをさせてもらいました。
中納 プリンス・ファッティがプロデュースした、ラヴァーズロックシンガーのホリー・クックもいいんですよね。
──プリンス・ファッティのどんなところに魅力を感じますか?
森 しっかりとレゲエ愛が感じられるところですかね。僕は予定が合わずに行けなかったんですけど、今年の1月に来日してDJツアーをやったんですよね。普段のDJではいろんなジャンルをかけるみたいですけど、こないだ来日したときは、ほぼレゲエをかけていたと聞いて。
──僕は新宿で行われた来日公演に行ったんですけど、Horsemanという盟友のレゲエDJがトースティングして、80年代から90年代くらいのダンスホールレゲエっぽいスタイルでやってました。
森 そうだったみたいっすね! だから「この人、託せる」と思って。B面は最初バージョン(レゲエのシングルで言うところのA面曲のインストバージョン)にしようかと思ってたんですけど、プリンス・ファッティにダブをやってもらったらオモロイなと。単純に自分が聴きたかったっていう。ダブエンジニアっていろんなスタイルの人がおると思うんですけど、そもそもダブって正解がないじゃないですか。作品として実験的なところが面白い。
──今回の音源も、イギリスの人だからか、あまり日本語詞の意味とかに縛られずに、すごく自由にダブミックスしていて、そこも面白いなと思いました。
中納 ほとんど歌がないっていう(笑)。でも、それがいいなと思って。ボーカルの捉え方が面白いなと思います。
森 歌も響きの感覚で捉えていますよね。もったいぶるところがいいんですよね、歌詞を。単語の最後の字を言い切る前に飛ばしちゃって、うー!ってなる(笑)。
──そこの足りない部分を求める感じというか。歌詞やサウンドが、はかなく消えていく感覚も、ダブならではの気持ちよさだと思うし。
森 DJでダブバージョンをかけても、けっこうオモロいと思いますしね。「こういう人がおんねんで」っていうのを知ってもらえるきっかけになったらいいなと思って、今回ダブを収録しました。
ワングルーヴで突き抜けていくダンスミュージックは意外に奥が深い
──そして、新曲2曲を収録した12inchシングルも同時発売されます。新曲の音源をリリースするのは2021年の7inch「サイコアナルシス / The Hunter」以来となりますが、その合間にもライブでは新曲を何曲か発表していますよね。
森 ここからアルバムに向けて何枚かシングルを出していこうと思ってるんですけど、その第1弾という感じですね。今回のように先行して発表する、いわゆるリード曲と呼ばれるような曲がある一方で、アルバムの中で埋もれていく曲とかもありますやん? 聴き方の差ってどうしても生まれてくるから、リード曲とそれ以外の曲の差を近付けていきたいんですよね。だから今回のように、シングル曲としていろんなタイプの曲を発表できるのは、すごくいい機会なのかなと思ってます。
──12inchシングルはMOON SIDE、SUN SIDEからなるダブルサイダーとなります。MOON SIDEの「AQUA ROBE」は、昨年の野音公演で聴いたときに、90年代初頭のUKのダンスミュージックのような雰囲気を感じて。エゴは今そういうモードなのかなって思いました。
森 うーん。年代とかはあんまり意識してなかったですね。デモ音源を作るときにドラムを自分で叩いたんですけど、椅子に座って、そこから生まれるビートの気持ちよさみたいなものを探していたら、あのビートが生まれて。自分で叩ける範囲のダンスビートですね。ワングルーヴで突き抜けていくダンスミュージックって、意外に奥が深いんですよ。コード進行よりも、リフで突き進む感じ。そのあたりもダンスミュージックを演奏する楽しみ方というか。リズムの交わり方とか「あ、こういうことか! オモロいな」って、作りながら気付いていくことがあるんですよね。ワングルーヴで進んで行くリズムと印象に残るリフ。そういうトラックの上に歌が乗っている感じを聴きたいなというところからイメージを膨らませていきました。
──グラウンドビート的なリズムがループして、そこに同じベースラインが続いて、さらに印象的なギターのリフが入ってくる。それぞれの音の要素が、ある種の違和感を保ちながら重なり合って、混じり合っていく。それこそサンプリングミュージックが隆盛していた頃の肌触りと似ているなと思いました。
森 そういうののめっちゃ基本形みたいな感じやと思うんすよ、この曲。もっと音がグチャッと混ざり合う感じ。ホルガー・シューカイ(ドイツの伝説なロックバンドCanの元メンバー)のソロとか、めっちゃ編集しまくってトラックを作ってますよね。あそこまでやれたらすごいけど、自分ではそこまででけへんなと思って。宅録というか、自分で重ねられる範囲で音を重ねてデモを作っていって、大地くんにドラムを叩いてもらって、真船くんにベースを入れてもらいました。
──そういう制作方法は、以前からやられているんですか?
森 いや、よっちゃんとやってるときは、わりかし2人でセッションしながら、導いて、導かれてという感じです。
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歌詞のテーマは「サウナ」