私立恵比寿中学|いろいろあった10周年、集大成のその先へ

私立恵比寿中学の記念すべき“開校”10周年は、決して順風満帆とは言えないものだった。2018年末のライブ「クリスマス大学芸会2018」のリハーサル中に星名美怜がステージから転落。療養ののち春には活動を再開したが、通常通りのパフォーマンスはできず、10周年にちなんだ数々のライブを控える中で6人はフォーメーションの変更を余儀なくされた。また10月には安本彩花が心身の不調により活動を休止。開催中だったツアー「私立恵比寿中学ようこそ秋冬ホールツアー2019~世界のみなさんおめでとうアイドルって楽しい~」は途中から5人で続行することとなった。

3月に発売されたアルバム「MUSiC」(参照:私立恵比寿中学「MUSiC」インタビュー)に続き、12月18日には通算6枚目のオリジナルアルバム「playlist」がリリースされる。今作は川谷絵音(ゲスの極み乙女。、indigo la End、ichikoro、ジェニーハイ)とのコラボが話題となったシングル「トレンディガール」を除くすべてが録り下ろしの新曲。石崎ひゅーい、マカロニえんぴつ、iri、ポルカドットスティングレイほか多彩なアーティストとの初タッグで、エビ中の新たな一面が提示されている。今回の特集では休養中の安本を除く5人に話を聞き、この意欲作の裏側に迫った。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 中野修也

集大成のその先を

──今回のアルバムは全10曲という、エビ中の歴代作品と比べるとコンパクトなサイズですね。前作「MUSiC」ではいつになくシリアスな一面を見せつつも、最後はコント混じりの「元気しかない!」で締めてましたが、これまで必ず入っていた短いインタールードやお遊び的な要素はなく、ついに照れ隠しをやめたエビ中、という印象です。

柏木ひなた あはは(笑)、確かに。

──前作では制作前に綿密なコンセプトを記した資料を渡されたとおっしゃってましたが、今回も?

真山りか

真山りか はい。今は音楽を何で聴く時代? CDとかダウンロードとかいろんなやり方があるけど、今はサブスクで、自分のケータイで聴く時代。1曲1曲ダウンロードして聴くんじゃなくプレイリストで聴く時代だよね、ってところから“プレイリスト”というコンセプトがまずあって。10周年を迎えたタイミングで「MUSiC」という集大成を見せるようなアルバムを作って、次はエビ中のこれからを見せて行こう。これまで見せていないエビ中を見せて行こうというのが大きなテーマとしてありました。

──今の真山さんの説明で合ってますか?

中山莉子 はい。渡された資料と1文字も違わないです。

小林歌穂 1文字も?(笑)

──まだ見せていないエビ中を表現するために、皆さんそれぞれへの課題などもあったんですか?

星名美怜

星名美怜 いや、もう次から次へとハイッ! ハイッ! ハイッ!みたいな感じで、考える間もなくレコーディングしました。ちょうど秋ツアーの時期と重なっていたので、ライブ、レコーディング、ライブ、レコーディングみたいな。

真山 進研ゼミみたいだったよね(笑)。

星名 そう! 夏期講習! ホントに(笑)。

──「エビクラシー」(2017年5月発売の4thアルバム。参照:私立恵比寿中学 4thアルバム「エビクラシー」&ライブBlu-ray「エビ中のオーシャンズガイド」発売記念特集)は各メンバーがソロをとる曲が収められていました。「playlist」には資料にも特に書かれていませんでしたけど、各メンバーを1人ずつキーポイントに据えた曲がありますよね?

真山 気付きました? それは聴いてくださったファンの方だけがわかるようになっていて、私たち自身もキーになる曲だとか考えていなかったんです。エビ中マニアの人だけが気付いたらいいなあくらいの感じなんですよ。

──エビ中の歌い分けは、あらかじめ決め込まずに全員が全パートを歌い、レコーディング後に一番ハマる人をチョイスする形式を取っていましたよね。でもキーマンになる人がいるということは、そのあたりのやり方にも変化があった?

星名 いえ、そこはいつも通りで。自分がキーになる曲がどれなのかは知らなかったんですよ。「次、この曲だからがんばってきてね」って言われて「あれっ?」と思ったくらいで。

新たな出会い、新たな挑戦

──では1曲ずつ順に話を聞かせてください。オープニングの「ちがうの」は全員均等に見せ場がある感じで、誰かをキーに据えた曲ではないですね。すごくポップな耳触りなんだけど、実はすごく難解なメロディで。

柏木 難しいことをやるのがもう当たり前になってる(笑)。

星名 ポップだけどすごく切ない。

柏木 歌うときは「切なさを出したいんだけど、その中にあるちょっとした微笑みを出して」ってすごく言われました。

中山莉子

中山 語尾の置き方をすごく細かく言われました。

──作曲は初提供のビッケブランカさんで、作詞もビッケさんです。

真山 歌詞の解釈はメンバー間でもバラバラで。「これはどういうことなの?」と意見を出し合いました。

星名 振り付けはすごくかわいくて。「日記」(2018年1月リリースの配信シングル)と同じ菅尾なぎさ先生が振りを付けてくれたんですけど、こんなに女性らしいイメージの曲はエビ中には今までなかったかも。

──「SHAKE! SHAKE!」は楽曲提供のみならず演奏も含めてポルカドットスティングレイとのコラボレーションですね。

真山 めっちゃポルカです(笑)。

──この曲を聴いてまず「あれ、小林さんがやけに目立つな」と感じたんですよ。そこからアルバムを聴き進めるにつれて、なるほど1人ずつキーになる曲があるんだなと。ボーカリスト小林歌穂の真骨頂であり新機軸という印象が強いです。

小林歌穂

小林 たった今の自分自身の気持ちをポルカさんが書いてくださったというか……私は今までずっとフワッフワ生きてきて(笑)、ホントに楽しい面しか見てなかったけど、最近は楽しいと思っていたことの裏にはこんなことがあったとか、こんなことがあったはずだけど私は知らずに楽しく過ごしていたんだなと理解できたんですよ。それがわかってから、その温度差でしんどくなるというか……。

──シンプルな子供のままではいられなくなった、大人との狭間をゆらゆらしているような。

小林 そうなんです。来年20歳になるんですけど、全然準備間に合ってなくない!?みたいな。そんなとき、この曲の「私このまま何も知らないままで歩いてく」という歌詞を見て「知らなくてもいいんだ。もうスキップしてサヨナラしてやる!」って思ったんです(笑)。フワッとしてかわいらしい感じだけど、ラップでちょっと内に秘めたオラオラも出ていて。

──そう言えばこのアルバム、ラップが随所に盛り込まれていますよね。確かにオラついた巻き舌の箇所もありますけど。

小林 「わかったやつは返事しるるるろっ!」(笑)。ひなたちゃんのパート。

中山 私、ひなたちゃんのあとにレコーディングだったんですけど、ラップが終わったひなたちゃんが「スッキリしたー」みたいな顔で出てきて(笑)。そこにストレス全部ぶつけたみたいな感じだったから、私もそれを見習って歌いました。

柏木ひなた

柏木 仮歌もオラオラがすごかったんですよ。だからどうやって歌おうかと思ってたんですけど、ディレクターさんに「でも、ライブのときいつもこんな感じだよね」って言われて、まあ確かに言われてみればたまにやってるなって(笑)。なのであまり考えずに歌ってみたらこうなりました。

小林 私もオラついてみたけど、弟分みたいな感じしか出せなかった(笑)。

──オーディションではないけれど、みんなで試した結果、柏木さんが一番いいオラつき方だったと。

柏木 いつかライブで歌穂ちゃんにもやってもらいたいね(笑)。