私立恵比寿中学「indigo hour」メンバー&職員インタビュー|“永遠に中学生”が表現する“永遠の青春”

活動歴10年を超える20代の真山りか、安本彩花、星名美怜、小林歌穂、中山莉子、2021年以降に転入(加入)した10代の桜木心菜、小久保柚乃、風見和香、桜井えま、仲村悠菜という10人体制になっておよそ1年が経過した私立恵比寿中学。キャリアのある高学年5人とフレッシュな低学年5人という新たなバランスを獲得した私立恵比寿中学の現在進行形を示すオリジナルアルバム「indigo hour」が完成した。

アルバムリリースに先んじて昨年12月に配信されたリード曲「BLUE DIZZINESS」は、K-POPシーンでのリバイバルが話題を呼んだジャージークラブの要素が取り入れられており、メンバーの歌唱法やサウンドの質感の変化は、ファミリー(私立恵比寿中学ファンの呼称)に大きな驚きをもたらした。また「indigo hour」は「BLUE DIZZINESS」をはじめとする3曲が“リードトラック3部作”として制作されており、3曲すべての作詞を佐藤千亜妃が担当することにより、アルバムのテーマである“永遠の青春”が表現されている。この“永遠の青春”というテーマは、「永遠の中学生」をコンセプトに掲げて活動してきた私立恵比寿中学が、そのコンセプト自体を新しい解釈で捉え直したものだという。

全10曲36分というコンパクトなサイズの中に新たな挑戦が凝縮されたこのアルバムを、メンバーはどのように感じているのか。また私立恵比寿中学の職員(スタッフ)たちは現在の彼女たちをどう捉えているのか。この特集ではメンバー10人へのインタビューに加え、校長(スターダストプロモーション マネージャー 藤井ユーイチ氏)、かりそめ先生(SDR A&R 石崎裕士氏)、本作のキーマンと言えるSME Recordsの新ディレクター・川崎みるく氏にも話を聞いた。

取材・文・撮影 / 臼杵成晃

賛否両論?何もかもが新しい「ブルディジ」で表現される青春のモヤモヤ

──アルバムの話題に入る前に、まずは年始のライブについて聞かせてください。新年の“大学芸会”は現在の10人体制になってから1年間の集大成と言える充実した内容で(参照:私立恵比寿中学、15周年は高く飛ぶ!新春大学芸会で新曲続々パフォーマンス)、皆さんとしても大きな手応えがあったのではないでしょうか。桜井さんと仲村さんはライブデビューを飾った2022年末の大学芸会から1年ですね。

桜井えま はい。お披露目から1年が経ったし、2回目の大学芸会だし、楽しんでできるかなと思ってたんですけど……いざステージに出る直前になると、まだ不安や緊張がめちゃめちゃあって。それを感じたときに「ああ、まだ慣れ切ってはいないんだな」と思いました。

仲村悠菜 私もめちゃめちゃ緊張しましたけど、けっこう手応えも感じました。パフォーマンスを褒めてもらえることが多くて。これまでは「歌もダンスも目立って上手なわけじゃないけど……」と言われることが多かったんですけど、大学芸会ではがんばった歌をたくさん褒めてもらえて、自信につながりました。

桜井えま

桜井えま

仲村悠菜

仲村悠菜

──ニューアルバム「indigo hour」からの楽曲を発売に先駆けて初披露する場面も多数ありましたが、いずれもいい盛り上がりでしたし、新しい私立恵比寿中学を見せたったぞ!という実感もあるのでは?

星名美怜 先行配信された「BLUE DIZZINESS」はその前に数回ライブで歌っていたんですけど、まだ浸透していないというか、今までの私たちの曲と違いすぎるからか、受け入れられている実感があまりなかったんですよ。でも大学芸会では「BLUE DIZZINESS」の手前にソロダンスメドレーを置いたりとか、構成でうまく組み入れることができたので、「こういう曲もアリだよね」と思ってもらえるきっかけになったんじゃないかと思います。

──「BLUE DIZZINESS」は世界的な音楽シーンでのリバイバルが話題のジャージークラブの要素を取り入れたアレンジで、皆さんの歌い方にも変化があり、私立恵比寿中学が新しいアプローチに挑戦していることがてきめんに伝わる曲ですよね。長年のファンの間では賛否がある?

真山りか あると思いますね、やっぱり。

真山りか

真山りか

──では一旦ここで、賛否両論あるという「ブルディジ問題」について掘り下げておきましょうか。

小林歌穂 ブルディジ問題(笑)。

真山 きっと賛否の声があるだろうなというのはわかっていました。去年の夏に出した「Summer Glitter」から音楽制作チームが変わって、ディレクターが女性になったんです。

──ねごと、IVE、SiM、BLUE ENCOUNT、ゴスペラーズなど幅広いアーティストに携わってきた川崎みるくさんが参加されたと聞きました。

真山 これまでの私たちの、年齢も性別も問わないおもちゃ箱みたいなところから、みるくさんが初めて携わってくださった「Summer Glitter」で明らかに質が変わった。いろんな意見があるだろうなとわかりつつも、今の10人体制になって年齢の幅が広がった中でひとつになることの難しさ、私たちがそれぞれ抱えていた悩みが、思春期のモヤモヤに例えて表現されているような感覚が「BLUE DIZZINESS」にはあって。悩みを抱えながらパフォーマンスすることによって、楽曲の持ち味を体現できているんじゃないかというある種の自信が今はあります。

──皆さん自身も「今までの私立恵比寿中学とは違う」と感じます? 何が違うんでしょう。

星名 音楽の雰囲気も違うし、衣装も違うし……。

安本彩花 見せ方も違うよね。

安本彩花

安本彩花

真山 今までの私たちの曲と言えば「熱く歌い上げる曲」というか、めちゃめちゃ感情が乗りやすい曲というイメージが聴いてくださる皆さんの中にもあったんじゃないかと思うんですよ。「BLUE DIZZINESS」ではあえて全員が温度感の低いところで合わせて気だるい雰囲気で歌っているので、いい意味で声の芯がない。1曲通してまるで1人の人が歌っているような感じがあって。

一同 うんうんうん。

──顕著にわかる変化としては、巻き舌のような曖昧な発音がありますよね。

安本 発音! 難しかったー! 私たち、ずっと「ハキハキしゃべれ」って言われて育ってきたから(笑)。

星名 そうそう(笑)。あとレコーディングのときの声量を「Summer Glitter」からかなり抑えてるんですよ。地声でおりゃー!みたいな今までのレコーディングとは全然違ったから「これでいいのかな……?」という不安もありました。

中山莉子 私なんかライブではもうパワーで押し通してるんで(笑)、どうすればいいかホントにわからなかった。

──そこはどうやって解決したんですか?

中山 ディレクションしてくださる方とかボイトレの先生からは「落ち着いて」って。

一同 アハハハハハハ!

中山 いちいち「落ち着いてー」「肩の力抜いてー」とか言われながら、リラックスして歌いました。

中山莉子

中山莉子

──特に長年活動してきた高学年メンバーは今までとの違いに戸惑う部分も多いかもしれないですけど、低学年メンバーにとってはリスナーとして聴き馴染みのあるサウンドだったりもするのでは?

桜木心菜 はい。私はすごく聴き馴染みのある曲だなと感じていて、すごく好きな曲調です。ただ「個性がなくなっちゃうんじゃないかな?」という不安はやっぱりあって。でも、莉子ちゃんの「Break it now」(声マネで)を聴いたら全然そんなことなかった(笑)。ちゃんと個性も出てくるから「BLUE DIZZINESS」はすごく好きです。

──そうなんですよね。押し殺しても漏れ出る個性が10人分ちゃんと出ていて、これは意識して出しているのか、それとも漏れ出ちゃっているのかと……。

安本 よかった(笑)。ちゃんと漏れ出ちゃってた。

「永遠に中学生」=「永遠の青春」……青春とはなんだ?

──「Summer Glitter」や「BLUE DIZZINESS」を経てのフルアルバムということで、新しい側面が多く見られるアルバムになるだろうと予測はしていましたが、10曲36分というコンパクトな中に新しい要素が多く詰め込まれていますよね。ディレクターが変わったことは音楽面での大きい変化につながっていると思いますが、現在の10人体制でメンバー自身が打ち出していきたい“新しい私立恵比寿中学”と、このアルバムで表現されている“新しい私立恵比寿中学”にズレはないですか?

安本 みるくさんとお話ししたときに、「私立恵比寿中学って私、青春だと思うの」と言ってくださって、「一緒!!」と思ったんですよ(笑)。アルバムも「永遠の青春」をテーマに考えているとおっしゃっていて、中身を深く掘り下げていくと、やっていることは一緒なんだなって。

星名 みるくさんが参加したのは「Summer Glitter」からだから、まだ半年ちょっとなんですけど、私たちのことをめちゃくちゃ研究してくださってるんだなって感じます。みるくさんの得意分野と私たちの得意分野をどう合わせていけば今後の私たちにとっていいものになるのか、この先までのビジョンをハッキリと提示してくださっていて。ミュージックビデオの撮影でも監督さんに細かいところまで指示してくださったり、それこそアクセサリーとか本当に細かいとこまで考えてくださっているんですよ。すごくハッキリしたビジョンを持っている方だから、私たちも納得しやすいし、お互い困ったときに意見のすり合わせもしやすい。リード曲を3部作にしたのも、楽しいこと、落ち込むこと、でもまたどうせ巡って……。

真山 どうせ(笑)。

星名 どうせまた楽しい日が来るっていう。みるくさんが「人生って私立恵比寿中学と一緒だよね」と言ってくださったことがあって。私たちも、いいことがたくさんあったと思ったらドン底まで落ちたこともあるし、でもなんだかんだで巡って動き続けてる。それを加味して「BLUE DIZZINESS」「CRYSTAL DROP」「TWINKLE WINK」という3部作の流れを作ってくださっているから、表面的な“私立恵比寿中学っぽさ”だけじゃなく、過去の歴史を積み重ねたうえでの新しい一面が出せたアルバムだなって。すごく愛情を感じます。

──みるくさんはこのアルバムで「永遠に中学生」というこれまでのグループコンセプトを「永遠の青春」と置き換えて表現したとおっしゃっています。ちなみに皆さんが考える“青春”ってどんなものでしょう?

風見和香 青春ってなんだ!?

小久保柚乃 なんだろうね?

風見和香

風見和香

小久保柚乃

小久保柚乃

風見 うーん……挫折とか、苦しんでもがいた先にある幸せをつかむのは青春なのかなと思います。学生=青春みたいなイメージはあるけど、きっと何歳になっても青春はどこにでもあって、誰にでもつかめるものなのかなって。……よくわかんないなあ。

小久保 青春って過ぎてから感じるものだと思うんです。学校帰りにイオンとかに行ってて、それは部活が嫌だったからなんですけど……。

小林 そうなんだ(笑)。

小林歌穂

小林歌穂

小久保 その頃のことを今思い出すと「青春だったな」って感じます。

──青春真っ盛りの人に「青春とは?」とたずねてもきっとわからないですよね。

真山 そうなんですよ。改めて「私立恵比寿中学らしさとはなんだろう?」って、アルバム制作に入るうえでいっぱい考えたんですね。ずっとがむしゃらにやってきて……最近、いろんなところで「がむしゃらだよね」って言われるんです。私はまだ振り返ることもできていないというか、「あれが青春だった」と考えたこともなかった。私たちが音楽制作やライブなどいろんなことにがむしゃらに取り組んでいるのをトータルに見てもらうこと、私立恵比寿中学を通して感じてもらうものが「永遠の青春」なんじゃないかなって私は理解しました。

私立恵比寿中学×梅田サイファー、本格的フロウで「出席番号の歌」をアップデート

──では具体的にアルバム収録曲について話を伺っていきますが、新しい一面という意味では1曲目の「Knock You Out!」からブッかましてますよね。ラップはラップでも、梅田サイファーのKennyDoesさん書き下ろしによるかなり腰の入った本格的なフロウで、そのフロウにも十人十色の色があります。

星名 私のパートの「自分のブランド/自分がブランド」のところ、リズムを取るのが本当に難しいんですけど、これはKennyさんのクセらしいんですよ。どうがんばってもハマらなくて、レコーディングはすごく時間がかかりました。そしたらKennyさんが「じゃあ俺が仮歌をやるから。これを聴きながらのほうが絶対やりやすいよ」ってその場で仮歌を録ってくださって。この人は本当にファミリーなんだなって思いました(笑)。なんだろう、いい人だった。

星名美怜

星名美怜

桜木 シンプルにいい人。

──「フリースタイルダンジョン」(テレビ朝日系)の収録に私立恵比寿中学Tシャツで出演するほどのファミリーなんですよね(笑)。そんなKennyさんがラップで書いた、新しい自己紹介ソングという。

星名 最近のみんなの事情とか、ファミリーじゃないと知らないようなことまで歌詞になってるんですよ。ね、悠菜。

仲村 「睡眠12時間」ってスタコミュ(スターダストプラネット所属アイドルの配信が楽しめるサービス)でしか話してないんですよ。どこか別で話したかな?と思い返してみたんだけど、やっぱり言ってなくて。

星名 えまと悠菜はほかのメンバーと比べてまだ情報が少ないから、相当調べてくださったんだろうなって。

安本 レコーディングが終わったあとにKennyさんと雑談してたら、「やっぱり自分がファンだからこそキャラクターだとかに合うフロウを考えられるから、これはもう俺にしか書けない」と言ってくれて「熱~っ!」ってなりました(笑)。

──フロウが本当に十人十色でバランスもよく、歌詞も含めて1人ひとりの個性がしっかり出てますよね。桜木さんの「きー」だけ高い声で韻を踏むやんちゃなフロウはキャラを把握していないと出てこない。

桜木 難しかったですー! だけどKennyさんに「ここはR-指定リスペクトでやって」と言われて、頭にR-指定さんを思い浮かべながら「きー!」と言ってたら、いい感じだったみたいで。

桜木心菜

桜木心菜

──この曲は長年歌い続けてきた「エビ中出席番号の歌」の大幅アップデートとも言えますよね。「BLUE DIZZINESS」ではグループ名を「EBC」とグラフィカルなロゴで表現してみたり、昨年のシングル「kyo-do?」(参照:私立恵比寿中学「kyo-do?」インタビュー)ではTikTokを積極的に利用してダンスを広めたり、そしてこの自己紹介ソングのアップデートからも「より広く新しいところへ届けよう」という意思を感じます。

星名 そうですね。そこはけっこう意識していると思います。

2024年3月5日更新