ナタリー PowerPush - GREAT HUNTING 15周年記念オーディション「BAND ON THE RUN」

名門新人発掘部によるバンドオーディション徹底解剖

GREAT HUNTINGチーフプロデューサー 加茂啓太郎インタビュー

加茂啓太郎は、GREAT HUNTINGの発起人であり、現在チーフプロデューサーとして部署を牽引する人物。氣志團、ナンバーガール、相対性理論、Base Ball Bearなどを発掘した彼は「新人を見つけるには“運”と“勘”と“行動力“と“人脈”」と語る。今回はGREAT HUNTINGの歴史、これまでの新人発掘経験から培ったもの、自身が“バンド“に求めるもの、「BAND ON THE RUN」の意図などをたっぷりと明かしてもらった。

取材・文 / 成松哲 インタビュー撮影 / 高田梓

新人発掘部門のやらないことを

──そもそも「GREAT HUNTING」を立ち上げたきっかけってなんだったんですか?

15年前までディレクターをやっていたんですけど、会社から「お前は売ることよりも新人を見つけてくるほうが向いてるんじゃないか」って言われまして(笑)。それで新しい部門を立ち上げることになったんですけど、当時、ソニーミュージックにはすでにSD事業部(Sound Development / 新人開発・発掘セクション)があって、そこには30~40人いた。一方、僕たちの部門は僕と部下の女の子だけ。そんなの真っ向勝負をしたってSDに敵うわけがないじゃないですか。だからSDがやっていないことをやらなければいけなかった。それで立ち上げたのが「GREAT HUNTING」ブランドなんです。「SD事業部」っていわれてもたいていの人はよくわからないだろうし、「東芝EMI 新人発掘部」っていうのもなんか堅いし。「もうちょっとわかりやすくしたほうがいいんじゃないか」「ブランディングしたほうがいいんじゃないか」と思ったのがきっかけですね。

加茂啓太郎

──そして今回インタビューにご登場いただいていることからもわかるとおり、加茂さんは「GREAT HUNTING」ブランドの顔として積極的に露出するようにしている。当初から属人性の高い企画にしようと思っていたんですか?

顔が見えたほうがいいなとは思ってました。例えば洋楽だとインディーズバンドのライブをリック・ルービン(米国のレコードレーベル、Def Jam Recordingsのオーナーの1人)が観に来た、アラン・マッギー(英国のレーベル、Creation Recordsのオーナー)が観に来たみたいな話って、音楽業界の大きなトピックになるじゃないですか。「あのバンド、そんなに注目されてるのか」って。でも当時の国内のレコード会社の新人発掘部門には、インディーズバンドや音楽ファンから顔の見える人材はいなかった。ちょっと不遜な言い方になってしまうかもしれないんですけど、リック・ルービン的、アラン・マッギー的存在のいる新人発掘部門にしたかったんです。

──確かに「東芝EMI 新人発掘部」よりも「加茂啓太郎の『GREAT HUNTING』」のほうが話題を呼びやすいし、親近感も湧くとは思うし、事実そうなっているわけですけど、この「GREAT HUNTING」的手法って加茂さんご自身の負担やリスクも大きくなりますよね。

名前を出すことによって降りかかるいろんなことを面倒くさいと思ったことはないですね。SDがやってないことをやりたかったし、僕は常々新人を見つけるのに必要なのは“運”と“勘”と“行動力“と“人脈”だと思っているので。新人発掘の仕事自体をブランディングして、僕の名前を出したほうがその4つをより効率よく発揮できると思うんですよ。会社のいち部署としてではなく個人として動けるからフットワークを軽くできるし、そのぶんいいバンドや、その関係者に巡り会える確率も高くなるんじゃないかって。

「GREAT HUNTING」の由来はThe Rolling Stones(ウソ)

──ただ立ち上げた当初は「GREAT HUNTING」の名前も、加茂さんの名前もインディーズシーンに浸透はしていなかったわけですよね。

だから最初はWEBと雑誌でデモテープを募集していました。ただまだインターネットの高速回線が普及し始める前後の時期だったから、特に雑誌広告がメインでしたね。「bounce」に「デモテープと書いてゴミと読む」みたいな広告を打ってみたりして(笑)。当時は今以上にアホでしたから「明日のスターはキミだ!」みたいなものじゃなくて、とにかく挑発的なことをやったほうが面白いかなって思ってました。

──だって「GREAT HUNTING」っていうブランド名自体、ライオンが人を喰うシーンを流したり、未開民族のウソっぱちの生活習慣を描いたりしていたフェイクドキュメンタリー映画が元ネタですよね(笑)。

そうですそうです(笑)。表向きの名前の由来はストーンズなんですけどね。「GREAT HUNTING」を立ち上げて間もない頃、SMA(ソニーミュージック・アーティスツ)の原田(公一 / 代表取締役会長)さんから、The Rolling Stonesがミック・テイラーの後任ギタリストを探すオーディションを「グレートハンティング」って呼んでいたという話を聞いて。しかも原田さんから「名前の由来はストーンズなんですよね?」って聞かれたから思わず「そうなんです」って答えちゃったので(笑)。ただ、そんな調子ではあったんだけど「ミュージック・マガジン」の広告を見て木下理樹(ART-SCHOOL、killingBoy)がデモテープを送ってきたり、立ち上げた当初からそういう出会いはありましたね。

積極的にフィールドワークを展開

──ちゃんと「デモテープと書いてゴミと読む」というキャッチフレーズが刺さるべき人に刺さっていた。

はい。当時、東芝EMIはロックレーベルっていう印象が強かったっていうのも理由の1つだとは思うんですけど「まるでデモテープが集まらなかった」「集まったテープが全部ダメだった」みたいなことはなかったかな。

──最初からいいデモテープが集まるだろうっていう勝算はありました?

ないですね。むしろデモテープを募集するよりも、音楽業界の関係者に会ったり、ライブを観に行ったり、フィールドワークをするほうが重要だろうと思っていましたし。

──それはなぜ?

まずSD部門との差別化を図りたかった。当時ライブハウスに遊びに行っても、レコード会社のSDの人間に会うことって滅多になかったから、だったら我々は足で稼ごうっていう理由がまずあって、これはちょっと後付けっぽくもなるんですけど経験則ですね。学生時代から知り合いに紹介してもらったバンドが思いのほかよかったり、あるバンドを目当てにライブを観に行ったら、ソイツらの前に出てたバンドのほうがよかったりっていう経験が何度となくあったし、「GREAT HUNTING」を始めてからもそういう出会いをたくさんしてきましたし。だからいろんなライブを観るし、いろんな人に会うようにしようとは思っていました。

GREAT HUNTING 15周年記念オーディション「BAND ON THE RUN」
<応募条件>
12月14日に東京・原宿アストロホールで行われるライブ審査に参加可能であること。バンドであれば、音楽性、編成、年齢は問いません。
<審査員>
亀田誠治 / 木村豊 / 島田大介
<審査スケジュール>
2014年12月1日:応募締切(12月1日必着)
2014年12月8日:ファイナリスト発表
2014年12月14日:東京・原宿アストロホールにて最終ライブ審査
2015年2~4月:レコーディング、ビジュアル&ビデオ作成
加茂啓太郎(カモケイタロウ)

ユニバーサルミュージックの新人発掘セクション・GREAT HUNTINGのチーフプロデューサー。1960年生まれ、東京都出身。1983年に東芝EMI(現ユニバーサルミュージック)に入社。主に邦楽ディレクターを務め、1998年から新人発掘・育成を担当して現在に至る。発掘に関わった主なアーティストはウルフルズ、SUPER BUTTER DOG、ART-SCHOOL、氣志團、フジファブリック、Base Ball Bearなど。2013年8月に著書「ミュージシャンになろう!」を刊行した。


2014年11月14日更新